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無理矢理嫁がされた俺に何を求めるって? 【後】
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嫁いで約一年……。今もアロイス殿下は日を開けずに通ってくる。
さらに言えば、フィーリア妃殿下と俺はかなり仲が良くなった。俺が我儘で始めた勉強の確認のためにフィーリア妃殿下の手伝いをしたら、それが認められて妃殿下同士として執務にあたっているという経緯で……。でも存在意義を悩んでいたときよりは少しだけ前向きになれたから、フィーリア妃殿下には感謝してるんだよな。
「本当にエイデン様は控えめでらっしゃるのね。堅苦しく呼ばなくてもいいと言っているのに」
「だめです。フィーリア妃殿下は正妃で、俺とは違います」
「わたくし、男性の信頼できるお友達ができるなんて思ってなかったのよ?」
友達なんて烏滸がましいと思ったけど、否定するのもフィーリア妃殿下の気分を害してしまいそうで口を噤んでしまった。
なんでこの人は俺に良くしてくれるんだろう。アロイス殿下を独り占めしたいとは思ってないのか? やっぱり夜が激しすぎるから俺と分担できて助かる方なのか?
「エイデン!」
「あら、アロイス」
アロイス殿下が俺の名前を呼びながらドアを開けるから心臓がきゅっと縮こまる。さすがにフィーリア妃殿下の執務室を開けながら言う言葉じゃないだろ。
「フィーリア、いつもありがとう。エイデンを連れて行っていいかな」
「もちろん予定は把握してますわ。どうぞ行ってらして」
「え……あの……」
「感謝する」
俺の手を引いて連れ出すアロイス殿下に、少しだけ腹が立ってくる。フィーリア妃殿下にあの態度はなんなんだ。殿下の正妃はフィーリア妃殿下だろ?
「ちょ、どこに……」
俺は馬車に押し込められて、アロイス殿下とどこかに向かっている。何も聞いてないのに、従者や護衛も揃ってるし、荷物を積んだ馬車まであるってどういうことだよ。
夕方に到着したのは王家の別荘だった。海に面した別荘は、ちょうど夕陽の沈む様子を見ることができた。
「うっわ……きれい……」
小麦畑の続く地平線に沈む夕陽は見ていたけど、海の夕陽を見るのは初めてだったから、思わず声が出てしまった。
「今日はエイデンのために、料理も特別なものを用意させたから」
「はぁ……」
なんなんだよと思ったのも束の間、海の幸をふんだんに使った料理はとても美味しくて、イラッとしていたのも忘れていた。時々視線を感じてアロイス殿下を見ると、目があって気まずかったけどな。
食事を終えて寝室に入ると、あの初夜のときの花が部屋やベッドに飾られている。
「今日は私が最初の準備もするからね」
「いえ、結構ですけど……」
俺の言葉は聞こえなかったフリをされて、浴室に連れ込まれた。本当に! なんなんだよ! ヤるだけなら王宮でも変わらないのに意味がわからない。
想像通り、淡々とした準備になんかならなくて、浴室で一回抜かれた。俺が中でイケるようになってからは、アロイス殿下は前も弄るようになって、本当にしつこいんだ……。
身体を拭くのもそこそこに、ベッドに運ばれるとバスローブの内側に手を入れて、俺の乳首をカリカリと引っかきながら何度も何度もキスをされた。
「え……本当に意味がわからないんですけど、なんなんです?」
「婚姻して一年の記念日、だからと」
「へ? ……ああ、まあ、そうですね」
「「……」」
記念日を祝うなんてそんな情緒がアロイス殿下にあったことに驚きだ。穴目当てでも大事にしているアピールなのか?
「エイデンは恥ずかしがり屋で素直になれないだろうからと、場所や雰囲気を変えてみた……」
「はぁ?」
「そろそろ、甘えてくれてもいいと思う」
「何を……」
「つまり、その……普通にイチャラブえっちしたいんだが」
俺の脳みそがフリーズしている。理解が及ばないんだけど、どうしたらいいんだこれ。
「失礼を承知で言わせてもらいますけど……俺たちってそういう関係じゃないですよね? 俺って妊娠しない使い勝手のいい性欲処理の穴ですし、どうイチャラブしろと?」
混乱しすぎて思ったことがそのまま口をついて出てしまった。そしたら、アロイス殿下がものすごく真っ白い顔になって黙りこくっちゃったんだけど、どうしよう……俺、死刑かな。
「ちょ……っと、気持ちを落ち着けてくる」
アロイス殿下がバルコニーに出てしまって、俺は冷や汗が止まらない。やばいやばいやばい。いくら混乱したからといって、イチャラブとやらを演じれば良かったのでは、と思えてくる。
そんな俺にすすっと寄ってきたのは、アロイス殿下付のメイドだ。
「僭越ですが……その……。エイデン妃殿下とアロイス殿下は両思いだとお聞きしておりましたが……」
「え、なにそれ!」
「アロイス殿下は、エイデン妃殿下とやっと婚姻できると一年前大喜びでしたので」
「待って待って、意味がわからない」
私の口からはこれ以上はと黙ろうとするメイドから無理矢理聞き出したことはこういうことだった。つまり、俺がたった一回子どもの頃に父について王宮に来たのを見初めた王太子(当時は彼も王太子じゃなかったが)が、俺を迎え入れるために国王と交渉。フィーリア妃殿下を正妃として後継ぎさえ作ればそれが許されるということになったって……なんじゃそりゃ。
本当の心は俺にあると、フィーリア妃殿下も最初からご存知で、でも彼女は自身の役目を全うすることや国を支えること第一としていたから話は拗れなかったんだと。むしろ、フィーリア妃殿下はそんなに想える人がいて素敵ねと応援していたとか、想定の範囲外すぎて言葉が出ない。
でも、アロイス殿下が俺を好きだとか、俺も知らなければうちの親も知らない。だから、みんな泣く泣く犠牲になってくれと送り出したんだぞ?
「私どもはみんなアロイス殿下の想いが通じているものと……」
「はぁぁぁぁぁ……わかった。ちょっと下がってて」
脱力するわー。
バルコニーで手すりに顔をつけている殿下をどうしてくれよう。
俺はバンと勢い良くガラス戸を開けて殿下に声をかける。
「あのさぁ、殿下言葉が足りないんだよ! 俺は一度も告白されたこともないし、殿下のこともほとんど知らないまま命令で嫁がされたんだけど!」
言葉遣いなんてもう知らないね。さっき散々やばいこと言っちゃったし、今はちょっと……本音で語り合わないとだめな時間だと思う。
ビクリと肩を震わせるとアロイス殿下がゆっくりと振り返る。
「殿下は王家からの打診は弱小貴族にとってどんな影響があるかわからない頭じゃないだろ。俺は決して逆らえないと思って過ごしてたんだぞ」
「あんな、運命の出会いをしたから、エイデンもそう思ってると……」
「んなわけ……。俺が王宮に行ったのなんて10歳くらいじゃんか。殿下は14、5だったんだろうけど、俺みたいな田舎の子どもにそんな惚れた腫れたがあるわけないだろうが」
「……」
言葉を咎められないのをいいことに俺は言いたいことを言いまくる。
「でも……あんなに肌を重ねたし」
「いやだから、逆らえないだろっての。行為中に好きだとか愛してるとかも言われたことない……つか、言われても行為中の戯れと思ったかもだけどさ」
「エイデンは私を好きではなかった……」
「まあ……都合いい穴の役目だと思ってたんで」
「そんなわけっ」
大声を上げかけたアロイス殿下はぎゅっと唇を噛んでしまった。白くなったり赤くなったりで心配になる。
「唇、噛むなよ。切れるだろ」
触れてやれば力が緩んで、俺の指にキスをしてきた。
「優しい……エイデン」
縋るような眼差しで俺を見るアロイス殿下は、いつもの堂々とした自信あふれる姿じゃない。弱々しくてどう接したらいいのかわからなくなる。
「フィーリア妃殿下も知ってるって?」
「そりゃ、エイデンを認めてくれる人じゃなきゃ無理だし」
「それも失礼な話だと思うけど、王家だとそうもいかないってことなのか……俺の悩みまくった一年をどうしてくれる」
「なに不自由なく過ごさせていると思ってた」
「それは、俺に聞いたのかよ。あんなに政務やら戦略やらで有能なのにポンコツになるなっての」
アロイス殿下は俺の言葉に沈黙してしまった。独りよがりをやっと自覚したようで、項垂れている。
「私は……エイデンに嫌われてもしょうがないことを繰り返していたと……」
「言葉が足りなさすぎる……ってのは、必要以上に萎縮して何も言わなかった俺にも言えるけど」
しばらくの沈黙が俺と殿下の間に続く。
「ひっくしゅ!」
「エイデン! 風邪を引く! 部屋の中に」
大慌てで俺をベッドに連れて行って布団に押し込めるアロイス殿下を見れば、確かにただの穴として見ているわけじゃないのは伝わってくる。
「ぶはっ」
「エイデン?」
「アロイス殿下、まずは告白からやり直してくれませんかね?」
「だが……」
「なるほど、俺には告白する価値もない、と」
ビクリとした殿下はベッドサイドに片膝をついて跪くと、俺の手を取って甲にキスをする。その姿は誓いを立てる騎士のようだ。
「エイデン……何年も前から君だけを愛している。私が何か間違えたら今日のように叱って正しい道を示してくれ。これからも私の妃でいてほしい」
俺から去ることなんてできないのに、ちゃんと許可を取ろうとしてくるなんて可愛いところもあるじゃん。この美丈夫が俺に愛を乞うているというのは、まだ少しばかり違和感だけど、俺が受け入れれば一年を取り戻すのはそんなに大変ではないだろう。
「この言葉遣いが許されるんですかね?」
「私と二人のときなら。それが素のエイデンなんだろう?」
俺が頷けば、アロイス殿下が目を細める。
「私はそのほうが嬉しい」
「じゃあ、もう俺も遠慮はしない。ところで……」
俺の手を握ったままのアロイス殿下の手を逆に引っ張って引き寄せる。
「ヤるんだろ? アロイス」
「だ……だが、今までの分誠意を見せないと……」
「うるさいよ、俺がいいって言ってんの。イチャラブ? すんだろ?」
アロイスは顔を赤くして俺に抱きついてきた。
俺のことにだけポンコツになるどうしようもないこの夫を、これから先どのくらい俺が愛せるかわからないけど、俺も頑張ってみるさ。俺の名前は決して表には出ないけど、アロイスやフィーリア妃殿下、それに使用人たちまでどうやら俺を大切に思ってくれてるみたいだしな。
そうして、俺とフィーリア妃殿下が支えたアロイスが国王になって、愛情深き賢王と呼ばれるようになるのはもう少し先の話だ。
──END──
さらに言えば、フィーリア妃殿下と俺はかなり仲が良くなった。俺が我儘で始めた勉強の確認のためにフィーリア妃殿下の手伝いをしたら、それが認められて妃殿下同士として執務にあたっているという経緯で……。でも存在意義を悩んでいたときよりは少しだけ前向きになれたから、フィーリア妃殿下には感謝してるんだよな。
「本当にエイデン様は控えめでらっしゃるのね。堅苦しく呼ばなくてもいいと言っているのに」
「だめです。フィーリア妃殿下は正妃で、俺とは違います」
「わたくし、男性の信頼できるお友達ができるなんて思ってなかったのよ?」
友達なんて烏滸がましいと思ったけど、否定するのもフィーリア妃殿下の気分を害してしまいそうで口を噤んでしまった。
なんでこの人は俺に良くしてくれるんだろう。アロイス殿下を独り占めしたいとは思ってないのか? やっぱり夜が激しすぎるから俺と分担できて助かる方なのか?
「エイデン!」
「あら、アロイス」
アロイス殿下が俺の名前を呼びながらドアを開けるから心臓がきゅっと縮こまる。さすがにフィーリア妃殿下の執務室を開けながら言う言葉じゃないだろ。
「フィーリア、いつもありがとう。エイデンを連れて行っていいかな」
「もちろん予定は把握してますわ。どうぞ行ってらして」
「え……あの……」
「感謝する」
俺の手を引いて連れ出すアロイス殿下に、少しだけ腹が立ってくる。フィーリア妃殿下にあの態度はなんなんだ。殿下の正妃はフィーリア妃殿下だろ?
「ちょ、どこに……」
俺は馬車に押し込められて、アロイス殿下とどこかに向かっている。何も聞いてないのに、従者や護衛も揃ってるし、荷物を積んだ馬車まであるってどういうことだよ。
夕方に到着したのは王家の別荘だった。海に面した別荘は、ちょうど夕陽の沈む様子を見ることができた。
「うっわ……きれい……」
小麦畑の続く地平線に沈む夕陽は見ていたけど、海の夕陽を見るのは初めてだったから、思わず声が出てしまった。
「今日はエイデンのために、料理も特別なものを用意させたから」
「はぁ……」
なんなんだよと思ったのも束の間、海の幸をふんだんに使った料理はとても美味しくて、イラッとしていたのも忘れていた。時々視線を感じてアロイス殿下を見ると、目があって気まずかったけどな。
食事を終えて寝室に入ると、あの初夜のときの花が部屋やベッドに飾られている。
「今日は私が最初の準備もするからね」
「いえ、結構ですけど……」
俺の言葉は聞こえなかったフリをされて、浴室に連れ込まれた。本当に! なんなんだよ! ヤるだけなら王宮でも変わらないのに意味がわからない。
想像通り、淡々とした準備になんかならなくて、浴室で一回抜かれた。俺が中でイケるようになってからは、アロイス殿下は前も弄るようになって、本当にしつこいんだ……。
身体を拭くのもそこそこに、ベッドに運ばれるとバスローブの内側に手を入れて、俺の乳首をカリカリと引っかきながら何度も何度もキスをされた。
「え……本当に意味がわからないんですけど、なんなんです?」
「婚姻して一年の記念日、だからと」
「へ? ……ああ、まあ、そうですね」
「「……」」
記念日を祝うなんてそんな情緒がアロイス殿下にあったことに驚きだ。穴目当てでも大事にしているアピールなのか?
「エイデンは恥ずかしがり屋で素直になれないだろうからと、場所や雰囲気を変えてみた……」
「はぁ?」
「そろそろ、甘えてくれてもいいと思う」
「何を……」
「つまり、その……普通にイチャラブえっちしたいんだが」
俺の脳みそがフリーズしている。理解が及ばないんだけど、どうしたらいいんだこれ。
「失礼を承知で言わせてもらいますけど……俺たちってそういう関係じゃないですよね? 俺って妊娠しない使い勝手のいい性欲処理の穴ですし、どうイチャラブしろと?」
混乱しすぎて思ったことがそのまま口をついて出てしまった。そしたら、アロイス殿下がものすごく真っ白い顔になって黙りこくっちゃったんだけど、どうしよう……俺、死刑かな。
「ちょ……っと、気持ちを落ち着けてくる」
アロイス殿下がバルコニーに出てしまって、俺は冷や汗が止まらない。やばいやばいやばい。いくら混乱したからといって、イチャラブとやらを演じれば良かったのでは、と思えてくる。
そんな俺にすすっと寄ってきたのは、アロイス殿下付のメイドだ。
「僭越ですが……その……。エイデン妃殿下とアロイス殿下は両思いだとお聞きしておりましたが……」
「え、なにそれ!」
「アロイス殿下は、エイデン妃殿下とやっと婚姻できると一年前大喜びでしたので」
「待って待って、意味がわからない」
私の口からはこれ以上はと黙ろうとするメイドから無理矢理聞き出したことはこういうことだった。つまり、俺がたった一回子どもの頃に父について王宮に来たのを見初めた王太子(当時は彼も王太子じゃなかったが)が、俺を迎え入れるために国王と交渉。フィーリア妃殿下を正妃として後継ぎさえ作ればそれが許されるということになったって……なんじゃそりゃ。
本当の心は俺にあると、フィーリア妃殿下も最初からご存知で、でも彼女は自身の役目を全うすることや国を支えること第一としていたから話は拗れなかったんだと。むしろ、フィーリア妃殿下はそんなに想える人がいて素敵ねと応援していたとか、想定の範囲外すぎて言葉が出ない。
でも、アロイス殿下が俺を好きだとか、俺も知らなければうちの親も知らない。だから、みんな泣く泣く犠牲になってくれと送り出したんだぞ?
「私どもはみんなアロイス殿下の想いが通じているものと……」
「はぁぁぁぁぁ……わかった。ちょっと下がってて」
脱力するわー。
バルコニーで手すりに顔をつけている殿下をどうしてくれよう。
俺はバンと勢い良くガラス戸を開けて殿下に声をかける。
「あのさぁ、殿下言葉が足りないんだよ! 俺は一度も告白されたこともないし、殿下のこともほとんど知らないまま命令で嫁がされたんだけど!」
言葉遣いなんてもう知らないね。さっき散々やばいこと言っちゃったし、今はちょっと……本音で語り合わないとだめな時間だと思う。
ビクリと肩を震わせるとアロイス殿下がゆっくりと振り返る。
「殿下は王家からの打診は弱小貴族にとってどんな影響があるかわからない頭じゃないだろ。俺は決して逆らえないと思って過ごしてたんだぞ」
「あんな、運命の出会いをしたから、エイデンもそう思ってると……」
「んなわけ……。俺が王宮に行ったのなんて10歳くらいじゃんか。殿下は14、5だったんだろうけど、俺みたいな田舎の子どもにそんな惚れた腫れたがあるわけないだろうが」
「……」
言葉を咎められないのをいいことに俺は言いたいことを言いまくる。
「でも……あんなに肌を重ねたし」
「いやだから、逆らえないだろっての。行為中に好きだとか愛してるとかも言われたことない……つか、言われても行為中の戯れと思ったかもだけどさ」
「エイデンは私を好きではなかった……」
「まあ……都合いい穴の役目だと思ってたんで」
「そんなわけっ」
大声を上げかけたアロイス殿下はぎゅっと唇を噛んでしまった。白くなったり赤くなったりで心配になる。
「唇、噛むなよ。切れるだろ」
触れてやれば力が緩んで、俺の指にキスをしてきた。
「優しい……エイデン」
縋るような眼差しで俺を見るアロイス殿下は、いつもの堂々とした自信あふれる姿じゃない。弱々しくてどう接したらいいのかわからなくなる。
「フィーリア妃殿下も知ってるって?」
「そりゃ、エイデンを認めてくれる人じゃなきゃ無理だし」
「それも失礼な話だと思うけど、王家だとそうもいかないってことなのか……俺の悩みまくった一年をどうしてくれる」
「なに不自由なく過ごさせていると思ってた」
「それは、俺に聞いたのかよ。あんなに政務やら戦略やらで有能なのにポンコツになるなっての」
アロイス殿下は俺の言葉に沈黙してしまった。独りよがりをやっと自覚したようで、項垂れている。
「私は……エイデンに嫌われてもしょうがないことを繰り返していたと……」
「言葉が足りなさすぎる……ってのは、必要以上に萎縮して何も言わなかった俺にも言えるけど」
しばらくの沈黙が俺と殿下の間に続く。
「ひっくしゅ!」
「エイデン! 風邪を引く! 部屋の中に」
大慌てで俺をベッドに連れて行って布団に押し込めるアロイス殿下を見れば、確かにただの穴として見ているわけじゃないのは伝わってくる。
「ぶはっ」
「エイデン?」
「アロイス殿下、まずは告白からやり直してくれませんかね?」
「だが……」
「なるほど、俺には告白する価値もない、と」
ビクリとした殿下はベッドサイドに片膝をついて跪くと、俺の手を取って甲にキスをする。その姿は誓いを立てる騎士のようだ。
「エイデン……何年も前から君だけを愛している。私が何か間違えたら今日のように叱って正しい道を示してくれ。これからも私の妃でいてほしい」
俺から去ることなんてできないのに、ちゃんと許可を取ろうとしてくるなんて可愛いところもあるじゃん。この美丈夫が俺に愛を乞うているというのは、まだ少しばかり違和感だけど、俺が受け入れれば一年を取り戻すのはそんなに大変ではないだろう。
「この言葉遣いが許されるんですかね?」
「私と二人のときなら。それが素のエイデンなんだろう?」
俺が頷けば、アロイス殿下が目を細める。
「私はそのほうが嬉しい」
「じゃあ、もう俺も遠慮はしない。ところで……」
俺の手を握ったままのアロイス殿下の手を逆に引っ張って引き寄せる。
「ヤるんだろ? アロイス」
「だ……だが、今までの分誠意を見せないと……」
「うるさいよ、俺がいいって言ってんの。イチャラブ? すんだろ?」
アロイスは顔を赤くして俺に抱きついてきた。
俺のことにだけポンコツになるどうしようもないこの夫を、これから先どのくらい俺が愛せるかわからないけど、俺も頑張ってみるさ。俺の名前は決して表には出ないけど、アロイスやフィーリア妃殿下、それに使用人たちまでどうやら俺を大切に思ってくれてるみたいだしな。
そうして、俺とフィーリア妃殿下が支えたアロイスが国王になって、愛情深き賢王と呼ばれるようになるのはもう少し先の話だ。
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