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4.カラーはまだ外れない
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野良猫を保護してからの村瀬の生活は少しだけ人間らしくなった。今までよりは残業を減らす努力をしたし、公園で発泡酒を飲むのはやめて……家で飲むようにした。カリカリだけでは味気なかろう、薬もあるしと、魚の切り身を買ってきて初めて台所を使ってみた。相変わらず自分は大したものは食べはしなかったのだが、なんとなく猫にはそうしてあげたかったのだ。塩分は強いと良くないらしいと刺身用のちょっと良いものを買ってしまって村瀬は苦笑する。何事にもやる気のなかった村瀬はそんなことすら新鮮で、自分の変化に少しばかり驚いてもいた。
「お前は本当におとなしいな。いや、怪我してるからか……。明日また病院行くからその時は首のやつが外れるといいな?」
野良猫はどうやら村瀬のいない昼間もおとなしくしているらしく、帰宅したら家が荒れているなんてこともなかった。二日目まではトイレを使った形跡がわからず、慌ててネット検索して続くようならまた先生に電話してみようかと思ったがその後からはトイレもちゃんと使えているようだった。
「やっぱり最初は怪我のせいで痛かったりツラかったりしたんだろうな……私だって腰を痛めたときはトイレに行くのもしんどかったからわからんでもないけど。まあ、ちゃんと回復しているようで良かったよ。それにしてもネットにはお前を探しているような書き込みは見つからないぞ?」
数日いろいろなSNSで検索を続けてみたが迷い猫の書き込みはなかった。明らかに人馴れしていそうなのにと不思議に思うが、見つからないものはしょうがない。とりあえずはまたあの先生に聞いてみようと思う村瀬であった。
野良猫は村瀬をじっと見ていたり疲れて帰ってきたときに擦り寄ってきたりとしっかり村瀬を認識していた。特に村瀬の胡座の上が気に入ったのか乗ってきてゴロゴロと喉を鳴らしてくつろいでいる。そんな猫の様子に、仕事で荒んだ気持ちになっていた村瀬もふっと気が緩むのを感じていた。猫を撫でながら発泡酒を飲んで、ちょっと愚痴る。それは今までの公園での発泡酒よりずっとずっと村瀬の心を掬い上げてくれていた。
翌日、少し遅くなってしまうかもしれないと動物病院に一報いれた村瀬は走って家に向かっていた。カバンを置いて、猫をケージに入れて動物病院に連れて行かなくては……とちょっと焦る。果たしてあの野良はケージに入ってくれるのだろうか。そこに時間がかかってしまったらもっと先生に迷惑をかけてしまうからなんとかしないといけないななどと考えていたのだが……。逃げることも嫌がることもなく野良はケージに入ってくれた。
「ほんっとうに、お前はいい子だな。今日はもう店が開いてないから明日また良い魚を買ってやるからな」
村瀬がそう言うと、わかっているのかいないのか猫は小さく「うにゃ」と鳴いた。ケージを揺らさないように慎重に、でも素早く歩く。動物病院は歩いて行ける範囲ではあるもののすぐそこという距離でもない。タクシーを拾うこともちらりと頭をよぎったが猫を連れていることを説明するのも面倒くさかったし、近距離は嫌がられるという固定観念がそうさせなかった。これは染み付いた「自分が我慢すればいいのだ」という遠慮精神とでもいうのか……。
動物病院の前に到着すると電話をかける。待っていたのか先生はすぐ応答してくれ、入り口を開けに出てきてくれた。
「村瀬さん、待ってましたよ。猫ちゃん、どうかなー? さ、中へどうぞ」
「本当に遅くなってしまって申し訳……」
「それは本当に気にしなくていいんで。私が動物たちの心配をするのはもう習性とでもいいますか」
「えっと、では、ありがとうございます……ですね」
「その方が嬉しいです。さて、猫ちゃん、傷を見せてねー。おいで」
先生はとても優しい眼差しで猫に声をかけ、ケージからそっと猫を出す。相変わらずされるがままの猫は保定も必要ないくらいおとなしい。
「あれ? まだ数日なのに随分傷が綺麗になってるな……村瀬さん、これならあと少しでカラー外してもいいかな。もう少ししていてほしいんですけどね」
「そうなんですね。やっぱりちょっと嫌そうにしているときがあるから外れたらいいなとは思ったんですけど。先生が言うならもう少し我慢してもらうしかないですね」
村瀬と先生の会話を聞いているのか、猫は耳を倒してふて寝のような格好になってしまった。それを見て、二人は顔を見合わせて笑ってしまったのだった。
「お前は本当におとなしいな。いや、怪我してるからか……。明日また病院行くからその時は首のやつが外れるといいな?」
野良猫はどうやら村瀬のいない昼間もおとなしくしているらしく、帰宅したら家が荒れているなんてこともなかった。二日目まではトイレを使った形跡がわからず、慌ててネット検索して続くようならまた先生に電話してみようかと思ったがその後からはトイレもちゃんと使えているようだった。
「やっぱり最初は怪我のせいで痛かったりツラかったりしたんだろうな……私だって腰を痛めたときはトイレに行くのもしんどかったからわからんでもないけど。まあ、ちゃんと回復しているようで良かったよ。それにしてもネットにはお前を探しているような書き込みは見つからないぞ?」
数日いろいろなSNSで検索を続けてみたが迷い猫の書き込みはなかった。明らかに人馴れしていそうなのにと不思議に思うが、見つからないものはしょうがない。とりあえずはまたあの先生に聞いてみようと思う村瀬であった。
野良猫は村瀬をじっと見ていたり疲れて帰ってきたときに擦り寄ってきたりとしっかり村瀬を認識していた。特に村瀬の胡座の上が気に入ったのか乗ってきてゴロゴロと喉を鳴らしてくつろいでいる。そんな猫の様子に、仕事で荒んだ気持ちになっていた村瀬もふっと気が緩むのを感じていた。猫を撫でながら発泡酒を飲んで、ちょっと愚痴る。それは今までの公園での発泡酒よりずっとずっと村瀬の心を掬い上げてくれていた。
翌日、少し遅くなってしまうかもしれないと動物病院に一報いれた村瀬は走って家に向かっていた。カバンを置いて、猫をケージに入れて動物病院に連れて行かなくては……とちょっと焦る。果たしてあの野良はケージに入ってくれるのだろうか。そこに時間がかかってしまったらもっと先生に迷惑をかけてしまうからなんとかしないといけないななどと考えていたのだが……。逃げることも嫌がることもなく野良はケージに入ってくれた。
「ほんっとうに、お前はいい子だな。今日はもう店が開いてないから明日また良い魚を買ってやるからな」
村瀬がそう言うと、わかっているのかいないのか猫は小さく「うにゃ」と鳴いた。ケージを揺らさないように慎重に、でも素早く歩く。動物病院は歩いて行ける範囲ではあるもののすぐそこという距離でもない。タクシーを拾うこともちらりと頭をよぎったが猫を連れていることを説明するのも面倒くさかったし、近距離は嫌がられるという固定観念がそうさせなかった。これは染み付いた「自分が我慢すればいいのだ」という遠慮精神とでもいうのか……。
動物病院の前に到着すると電話をかける。待っていたのか先生はすぐ応答してくれ、入り口を開けに出てきてくれた。
「村瀬さん、待ってましたよ。猫ちゃん、どうかなー? さ、中へどうぞ」
「本当に遅くなってしまって申し訳……」
「それは本当に気にしなくていいんで。私が動物たちの心配をするのはもう習性とでもいいますか」
「えっと、では、ありがとうございます……ですね」
「その方が嬉しいです。さて、猫ちゃん、傷を見せてねー。おいで」
先生はとても優しい眼差しで猫に声をかけ、ケージからそっと猫を出す。相変わらずされるがままの猫は保定も必要ないくらいおとなしい。
「あれ? まだ数日なのに随分傷が綺麗になってるな……村瀬さん、これならあと少しでカラー外してもいいかな。もう少ししていてほしいんですけどね」
「そうなんですね。やっぱりちょっと嫌そうにしているときがあるから外れたらいいなとは思ったんですけど。先生が言うならもう少し我慢してもらうしかないですね」
村瀬と先生の会話を聞いているのか、猫は耳を倒してふて寝のような格好になってしまった。それを見て、二人は顔を見合わせて笑ってしまったのだった。
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