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マカル視点

17.婿取り

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 九体が協力しているからか、かなり防壁の積み上げ速度が早い。こんなことできるなんて知らなかったんだが。さすがにチビたちはまだ力仕事はできないから、室内にいてもらっている。

「今日は俺に甘えたい日なのか?」

 俺の子は気分屋だ。ハルロスに一日中ベッタリなときもあれば、俺の頭から降りないときもある。今日は俺の頭に居座るつもりのようだ。

「お前の影響で、他の子も随分甘えてくるようになったけどな」
「あはは。可愛いよねぇ。俺、マカルの子も欲しいって頼んで良かった」
「いきなりああいう作戦はやめろ……。つーか、チビたちにも名前をつけなきゃだな……」
「うん……苦手……」

 同じ音を二回繰り返す名前も、どんな音でもいいわけじゃないからだんだん厳しくなってきている。でもなんとかやるしかない。次にミミが発情したらまた増えるわけだからな。

 どうやらミミも防壁作りに一生懸命らしく──そりゃハルロスや子どもたちの安全や未来がかかっているもんな──発情期はなかなかこない。

「立て続けはつらいから、少し安心したよ。ひぃ爺さんの記録からすると年単位で間があくこともあるらしいし」
「そうなのか。確かにそのほうが、チビの年齢も開くからいいかもな」
「マカルは魔力契約書作れそう?」
「まだだけど、魔導札の簡単なのなら作れるようになってきた」

 どうやらハルロスは魔力を扱うのはあまり得意ではないらしい。文字を書くのも絵を描くのもあんなに上手いのにな。本人は気にしているっぽいけど、俺からしたらなんでも一人で完璧にできちまうよりか可愛くてたまらない。

「すごい……時間停止も作れるようになる?」
「それも目標のひとつだ。卵、保管しときたいだろ?」
「うん。ありがとう、マカル! 大好き!」

 ◇◇◇

 1年以上の時間はかかったけど、俺はちゃんと効力のある魔力契約書を作り上げることに成功した。その頃には防壁も完成していて、自然の森のまま切り離された俺たちの世界ができていた。出入り口がひとつというのも、俺とハルロスからしたら好都合。

 野生動物もそれなりにいる状態で囲まれているから、乱獲さえしなければ生態系もそこそこ維持できそうだ。こんな広い範囲でよく作ったよな。獲物の捕獲とか、そのへんは触手たちに任せたほうが上手くいきそうだから、相談しながらやっていこう。

 契約書も作れたし、俺は試しに一人スカウトしてみることにした。なかなか街に卸しに来られなかったけど、やっといろんな準備ができたからな。俺の直感で選んだけど、薬にも興味を持っている男だし、素直で誠実で条件に当てはまる。

「わ……私なんかでいいんですか? 初従業員なのに!?」
「むしろ、あの薬だからこそ人物を厳選する必要があるんでね。給金はそれなりに出すし、休みも俺たちと違って従業員には出す。研究所の貴重な書物も読み放題だ。ただ、デメリットもそれなりにある。まず、世間と切り離された山の中腹に住み込みになって、ほぼ帰れないと思ってほしいし、機密があるから魔力契約を結んでもらう。つまり、給金の使いどころがあまりないのと、学んだことを活かして自分で事業をするのは無理ってことだ。そういう意味ではかなり制限があるから断ってもらっても構わない。今ここで即答しなくていいから、三日後によく考えた上で返事をしてくれ」

 俺はちゃんとデメリットも説明する。契約とは信用だ。このへんはしっかりやらないとな。ここをクリアしてもらって触手たちといい関係が築けるなら、そこで初めて婿候補だ。
 最初から婿候補であるわけじゃないから、その話はあえてしなくてもいいだろう。これは従業員とは別の話だから信用に関わる問題ではない、はずだ。

 結論から言うと、この男は契約に応じた。しかも、来てみればなかなかに肝が据わっていて、触手たちを見ても俺みたいに叫ぶこともなかったのは嬉しい誤算だ。
 むしろ触手よりハルロスの美しさに腰を抜かしそうになっていたくらいで、それでも俺の伴侶であり薬の開発者と紹介したら、ちゃんと礼儀正しく接してくれている。ハルロスに色目を使う気配もないし、さすが俺の見込んだ男だ。

「いいやつが来てくれて助かってる」
「ほんとにねぇ。あんなにすぐに触手たちと仲良くしてくれるなんてびっくりした。触手たちの名前っていうか識別はなかなか難しいみたいだけど。あはは」

 もともと薬に興味のあったやつだから作り方を覚えるのも早くて、ハルロスと二人にしても大丈夫なくらい真面目なやつだ。ハルロスと性格が似ているというか、休日はほぼ一日中書物を読んでいる。触手とも遊んでくれて、とても仲良くしてくれててありがたい。
 本当に当たりだった。是非とも婿になってもらいたいもんだ。

 この男と番いたいかこっそり触手たちに聞いたら、案の定希望した子がいた。あとはあの男が受け入れるかどうか、だが。

「は、え? 触手と……って、ええ!?」
「驚くのも無理はない。でもな、ここにいる触手たちはみんなハルロスの子なんだ……あー、一体だけ俺の子が混ざってるけどな。詳しい生態についてはハルロスから聞いてもらいたいんだが、人間の雄と番って子孫を残さなきゃいけないんだ。君を見込んで、婿になってもらいたい。が、これも意思は尊重するし、断っても解雇にはしないから安心してくれ。今までみたいに働いてもらえたら助かる」

 そりゃあ驚くだろうし、俺がどうしてもケツを許せないように人によっては嫌悪感もあるよな。だから、よく考えてもらってでいいんだ。そう思って、いろいろ説明したけど、目をつぶって眉間をぐりぐりしながら目の前の男が答える。

「う、うーん……ちなみにどの子ですかね?」
「え、あ、ネネだな」
「あー。なるほど……。わかりました、一応前向きに検討します。もう少しネネと仲を深めてもいいですか?」

 意外な答えにこっちが驚いた。でも聞けば、ネネはこの男にかなり懐いていて、いろいろ手助けしてくれたり蜜玉をくれたりしているんだそうだ。それで、他の触手よりもネネには好感を持っていたし、ネネだけはすぐ識別できるっていうんだから、ネネもやるじゃないか。

 まだ先のことかもしれないが、仮に彼らが交合するとなったら俺たちに見られるのは嫌だろうと、急いで広めの部屋を作ってやった。アレの最中は触手に任せておけば、身体の心配はいらないから部屋さえあればいいしな。

「あ……の、ネネを受け入れることにしました……」
「本当か! ありがとう! ネネも喜ぶ」
「でも、その、私に産めますかね……それが不安で」
「大丈夫だよ。俺も最初は怖かったけど、触手は優しいし絶対痛いことはしないから……ていうか、アッチの刺激は強いよ。気持ち良すぎてね。でも、大丈夫。俺は何度も産卵してるし。子ども、可愛いよ?」

 男はネネを受け入れてくれて、見事、二週間後に五つの卵を産んでくれた。他の触手に教えられて部屋に行くと、相当快楽責めにされたのか、男は魂が抜けたような蕩けた顔になっているし、ハルロスのときと同様に美しく健康的になっている。

 美しくなると言っても、見た目がガラリと変わるわけじゃなくて、持って生まれた素材を、いい方に振り切ったらこうなるだろうなって感じなんだけどな。ハルロスは元が良かったんだろう……それこそ曽祖父もこういうことをしてたわけだし。

 男も復活してから自分の顔や身体を見て驚いていたな。それは見ていて少し面白かった。
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