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ハルロス視点
3.孵化した触手
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最初のほうはあれだけ毎日記録していたのに、なんでここだけ一冊まるまる抜けているみたいに記録がないのかとか謎なことはあるけど、どうやら卵は温めなくても勝手に孵化してしまうらしい。なんにしても、曽祖父は卵を生きたまま保管するために時間を固定する魔導札の研究までしたんだろう。
つまり、この卵はもうすぐ孵化するっていうのか? 触手が実際に見られるかもしれない興奮で心臓がバクバクしてくる。食事や睡眠が少なかった身体に負担がかかったようで、俺はクラリとしてしまった。
「待って待って、今孵化されても俺に育てられるかわかんない……非常にまずい」
曽祖父の日記を読み漁り続ける。せめて死なせないように頑張らないと、あの世で曽祖父にあわせる顔がない。とはいえ、日記にも注意事項のようなことは特に書いてない。むしろ、楽しそうな曽祖父の記録ばかりだ。
「うーん……なんとかなるのかな。餌は綺麗な水と新鮮な肉だったか。ひぃ爺さんもここの裏の湧き水使っていたようだし、この辺なら罠で小動物ならすぐ捕獲できるし……」
それにどうやら触手は動くらしいし。曽祖父にくっついて来るってことは、勝手に餌を取りに行くってことも考えられる。まだ曽祖父の日記をすべて読んだ訳じゃないけど、最初の方に世話の記録がないなら後の方に出てくるとは思えない。と、途中までパラパラと日付順に見ていたけど、途中すっぽりと抜けている期間が何回かあることに気がついた。
「あれ? なんでこんなに抜けてるところがあるんだ? 屋根裏の日記は全部持ってきたはずなのに」
曽祖父が「ある期間」だけ記録をつけないなんてことがあるだろうか……。これだけ几帳面なんだからそれはありえないと思う。体調不良で書けなかったとか? それはあるかもしれない。もしくは人に知られたくない事実が書かれているとか? だとしたら処分したとか。
「読めないと思うと読みたくなるな。ひぃ爺さんってばさぁ」
もし街の家のどこかにあったら悲しすぎるけど、触手の卵を封印して、ここに置きっぱなしにしたくらいだから可能性は低いか。そう考えてから、片付けたつもりの屋根裏をもう少し調べてみようとも思った。
「とりあえず……俺も観察しながら記録をつけるようにして、ひぃ爺さんの記録と違うところがないかを探していくしかないよな。というか、勝手に孵化するって言ってもどのくらいで孵るんだ?」
白い卵を両手で大事に持ってみるけど今ひとつわからない。卵はほぼ真円に近く、どっちが上とか下とかもわからなかった。うーむと唸ってそっと箱に戻す。
孵化したときに触手が逃げちゃっても困るから、蓋はしておいたほうがいいだろうか。それとも、開けておかないとびっくりして暴れちゃうとかだったらどうしようか。
悩んだ末、俺は蓋をして物音がしたらすぐわかるように自分の側に置くことにした。
なんだかんだで楽しみにしちゃってる自分がいる。俺だって研究者の端くれなんだからしょうがない。ワクワクする胸を押さえるけど、箱に躓いたりクラクラしたりするくらいには寝不足な俺は、箱を抱えたまま硬いベッドに横になってそのまま眠ってしまった。
「っ!」
早朝、箱がガサガサと音を立てていて目が覚めた。孵化早すぎじゃないか? いや、すぐって書いてあったけれども。俺はそーっと箱の蓋を開けてみる。
そこには破れた卵の殻と緑のワサワサした小さいやつがいた。
「おっと。想像したより全然怖くないというか」
なんというか、多肉植物? 確かに動いているけど気持ち悪さはないし、動いてなかったら植物と思うくらいには普通だ。曽祖父の描いた絵での形しかわからなかったから、自分で『触手』というイメージからもう少し気持ち悪い姿を想像していたのだ。
「しかも生まれたてだからか小さくて可愛いな……」
片手に余裕で乗るくらいの触手は俺が持ち上げると全体をワサワサと震わせると動きを止めて、まるで息を潜めているようだった。
「あ、綺麗な水! 飲むのかなコイツ」
俺は触手を持ったまま湧き水の流れるところまで歩いていく。俺もちょうど起きたばかりで喉が乾いていたからちょうどいい。
「触手ちゃん、湧き水だよ。って、どうやって飲ませるんだっけ」
とりあえず左手で触手を持ったまま、右手で水を掬って自分の口を濯いでから水を飲む。そして右手に残った水を少しだけ触手にかけてみた。
ザワッと震えたかと思ったら触手の先端を俺に伸ばすようにぴこぴこと動かしている。なんか可愛い。これはもっと欲しいってことかな……。
少しずつ水を掬ってはポタポタと真上から垂らしてやると、どうやらちゃんと飲んでいるらしく俺の手は濡れなかった。俺の方へ伸ばしてぴこぴこしなくなったので水をかけるのを止めてみたけど、それで良かったみたいで喋らなくても意思疎通がちょっとできるってのを実感した。
「この大きさなら可愛いと思えるな。ひぃ爺さんが出会ったっていうのは記録からするとかなりデカそうだったから、しょっぱなソレだったらやっぱりちょっと怖いと思うんだけど」
ちょんちょんと触手をつつくと、俺の指に一本の細い触手が巻き付いてきた。やめろってことかな。
「触手ちゃん、新鮮な肉は今すぐにはないんだ。罠を仕掛けてみるからここで待っててな」
俺は触手を持ったまま家に入ると、テーブルの上に置いて声をかけてから外に罠をかけに行った。この辺の小動物なら人間をそこまで警戒してないから、全然引っかからないってことはないと思うんだけど。と、何箇所かに罠を隠してセットして家に戻ると、テーブルの上で大人しく触手は待っていた。でも息を潜めているとかじゃなくて触手の細い先端をゆらゆらさせている。
「俺が待ってろって言ったから待ってたのか? 可愛いな」
曽祖父の日記で既にちょっと愛着も湧いていたのもあって、俺はすぐ慣れてしまった。どうやら触手の方も俺を敵とか危険な動物とは認識しなかったみたいで、俺が椅子に座ったら寄ってきた。
「触手って元々人懐っこいって訳じゃないんだよな? 俺がひぃ爺さんと血が繋がってるから、好かれやすいとかあるのかもしれないけど」
そんな感じで俺と触手の生活が始まった。
つまり、この卵はもうすぐ孵化するっていうのか? 触手が実際に見られるかもしれない興奮で心臓がバクバクしてくる。食事や睡眠が少なかった身体に負担がかかったようで、俺はクラリとしてしまった。
「待って待って、今孵化されても俺に育てられるかわかんない……非常にまずい」
曽祖父の日記を読み漁り続ける。せめて死なせないように頑張らないと、あの世で曽祖父にあわせる顔がない。とはいえ、日記にも注意事項のようなことは特に書いてない。むしろ、楽しそうな曽祖父の記録ばかりだ。
「うーん……なんとかなるのかな。餌は綺麗な水と新鮮な肉だったか。ひぃ爺さんもここの裏の湧き水使っていたようだし、この辺なら罠で小動物ならすぐ捕獲できるし……」
それにどうやら触手は動くらしいし。曽祖父にくっついて来るってことは、勝手に餌を取りに行くってことも考えられる。まだ曽祖父の日記をすべて読んだ訳じゃないけど、最初の方に世話の記録がないなら後の方に出てくるとは思えない。と、途中までパラパラと日付順に見ていたけど、途中すっぽりと抜けている期間が何回かあることに気がついた。
「あれ? なんでこんなに抜けてるところがあるんだ? 屋根裏の日記は全部持ってきたはずなのに」
曽祖父が「ある期間」だけ記録をつけないなんてことがあるだろうか……。これだけ几帳面なんだからそれはありえないと思う。体調不良で書けなかったとか? それはあるかもしれない。もしくは人に知られたくない事実が書かれているとか? だとしたら処分したとか。
「読めないと思うと読みたくなるな。ひぃ爺さんってばさぁ」
もし街の家のどこかにあったら悲しすぎるけど、触手の卵を封印して、ここに置きっぱなしにしたくらいだから可能性は低いか。そう考えてから、片付けたつもりの屋根裏をもう少し調べてみようとも思った。
「とりあえず……俺も観察しながら記録をつけるようにして、ひぃ爺さんの記録と違うところがないかを探していくしかないよな。というか、勝手に孵化するって言ってもどのくらいで孵るんだ?」
白い卵を両手で大事に持ってみるけど今ひとつわからない。卵はほぼ真円に近く、どっちが上とか下とかもわからなかった。うーむと唸ってそっと箱に戻す。
孵化したときに触手が逃げちゃっても困るから、蓋はしておいたほうがいいだろうか。それとも、開けておかないとびっくりして暴れちゃうとかだったらどうしようか。
悩んだ末、俺は蓋をして物音がしたらすぐわかるように自分の側に置くことにした。
なんだかんだで楽しみにしちゃってる自分がいる。俺だって研究者の端くれなんだからしょうがない。ワクワクする胸を押さえるけど、箱に躓いたりクラクラしたりするくらいには寝不足な俺は、箱を抱えたまま硬いベッドに横になってそのまま眠ってしまった。
「っ!」
早朝、箱がガサガサと音を立てていて目が覚めた。孵化早すぎじゃないか? いや、すぐって書いてあったけれども。俺はそーっと箱の蓋を開けてみる。
そこには破れた卵の殻と緑のワサワサした小さいやつがいた。
「おっと。想像したより全然怖くないというか」
なんというか、多肉植物? 確かに動いているけど気持ち悪さはないし、動いてなかったら植物と思うくらいには普通だ。曽祖父の描いた絵での形しかわからなかったから、自分で『触手』というイメージからもう少し気持ち悪い姿を想像していたのだ。
「しかも生まれたてだからか小さくて可愛いな……」
片手に余裕で乗るくらいの触手は俺が持ち上げると全体をワサワサと震わせると動きを止めて、まるで息を潜めているようだった。
「あ、綺麗な水! 飲むのかなコイツ」
俺は触手を持ったまま湧き水の流れるところまで歩いていく。俺もちょうど起きたばかりで喉が乾いていたからちょうどいい。
「触手ちゃん、湧き水だよ。って、どうやって飲ませるんだっけ」
とりあえず左手で触手を持ったまま、右手で水を掬って自分の口を濯いでから水を飲む。そして右手に残った水を少しだけ触手にかけてみた。
ザワッと震えたかと思ったら触手の先端を俺に伸ばすようにぴこぴこと動かしている。なんか可愛い。これはもっと欲しいってことかな……。
少しずつ水を掬ってはポタポタと真上から垂らしてやると、どうやらちゃんと飲んでいるらしく俺の手は濡れなかった。俺の方へ伸ばしてぴこぴこしなくなったので水をかけるのを止めてみたけど、それで良かったみたいで喋らなくても意思疎通がちょっとできるってのを実感した。
「この大きさなら可愛いと思えるな。ひぃ爺さんが出会ったっていうのは記録からするとかなりデカそうだったから、しょっぱなソレだったらやっぱりちょっと怖いと思うんだけど」
ちょんちょんと触手をつつくと、俺の指に一本の細い触手が巻き付いてきた。やめろってことかな。
「触手ちゃん、新鮮な肉は今すぐにはないんだ。罠を仕掛けてみるからここで待っててな」
俺は触手を持ったまま家に入ると、テーブルの上に置いて声をかけてから外に罠をかけに行った。この辺の小動物なら人間をそこまで警戒してないから、全然引っかからないってことはないと思うんだけど。と、何箇所かに罠を隠してセットして家に戻ると、テーブルの上で大人しく触手は待っていた。でも息を潜めているとかじゃなくて触手の細い先端をゆらゆらさせている。
「俺が待ってろって言ったから待ってたのか? 可愛いな」
曽祖父の日記で既にちょっと愛着も湧いていたのもあって、俺はすぐ慣れてしまった。どうやら触手の方も俺を敵とか危険な動物とは認識しなかったみたいで、俺が椅子に座ったら寄ってきた。
「触手って元々人懐っこいって訳じゃないんだよな? 俺がひぃ爺さんと血が繋がってるから、好かれやすいとかあるのかもしれないけど」
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