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ハルロス視点
2.ぎゃー! 箱が!
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あの惨状の屋根裏を丸ニ日間で、すっかりきれいに片付けた俺を誰か褒めてほしい。たかが屋根裏だろと思うなかれ。研究者の部屋なんて足の踏み場もないほど書物などが溢れているものだ。俺だって書物を読むという目的がなければ見なかったフリをしていたところだし。
ただ、まだ屋根裏を片付けただけで、書物の分類が待っている。日記だけでも相当な量があったし、おそらく他の書物も触手の研究のための関連書物なのだろう……ペットの飼い方みたいなのとかそういうのもたぶん、うん。
日記を開き出したら止まらないとわかっているので、まずは日記でない書物の分類から始める。本当はとても日記が読みたい。でも自分の性格を考えて必死に我慢……と、分類をしていると魔導書を発見した。
なんでこんなものが、と読んでみると……どうやら書棚の保存の魔術陣と似たような効果のページへの書き込みがすごい。
「まさか、あの魔導札、ひぃ爺さんが作ったとか? どんだけ多才なんだよ……」
自分は植物や動物のスケッチをする才能はそこそこあると思うけど、魔導インクを使いこなす魔力操作の才能はないと思う。札に描く図の模写はある程度できるだろうけど、俺ではそこに効果を乗せることはできないんじゃないかな。
「つまりこの箱の中身も、ひぃ爺さんの大事なものを保管した当時のままってことか」
最初に発見したとき振っちゃったけど中身は大丈夫だろうか?
ものすごく開けたい衝動に駆られている。でも開けて後悔するのもいやだなと悩む。魔導札の予備でもあれば開けられるんだけどな……。
そうして書物を大雑把な分類で分けて、背表紙を見やすくして、やっとやっと、曽祖父の日記に手をつけることができた。最初のページだけ開いては日付順に並べていく。流れ作業的にやっていかないと思わず中身を読みふけってしまいそうだ。
「よし、これで大体並べ終えたよね。あぁ……時間がかかった……」
さすがに空腹感を覚えたから、家の裏から湧き水を汲んできて、それから庭の果物をもいでくる。あとは簡単な干し肉とか。調理とか面倒だしやってられない。その時間を読書や観察や研究に充てたい。これだから心配されちゃうんだよな……自宅でもそうだったし、年にニ度ほどここに来る物売りの人にも。
さすがに書物を開きながら食べ物を食べたりはしない。そんなことをするくらいなら食べないほうがいい。汚したら困るからね。ここにある書物は宝物だから自分で書いた落書きとはレベルが違うのだ。
「へぇ、ひぃ爺さんと触手の出会いは偶然だったのか……つか、すごいな、普通偶然そんなのに出会うものなのか?」
日記には曽祖父が食料の狩りに行ったら、それを狙って出てきた触手に出会ったことや、何故か触手に懐かれて家まで着いてきたことなどが書いてあった。なんでそれで怯えないんだ? おおらかすぎだろ……。
そんな曽祖父だから触手がついてきたんだろうか? でも研究者としたらありがたいことなんだろうな。俺だって曽祖父のこんな記録を読んでいて、安全だってわかっているからか、ちょっと見てみたいと思うもんな。
日記というには記録の多いそれは、最初の方は計測記録とか生態についてなどのわかったことで占められていた。餌は綺麗な水と新鮮な肉を好むが、肉は少量でいいとか、どうやら動物と植物の間のような生物で、日光を浴びることも大切なようだとか、見たことのない俺にはどう考えても不思議生物としか思えないことが書いてある。
「ひぃ爺さんのスケッチのおかげで想像はしやすいけど、見たこともない生物だからなぁ……。でも、このフォルムのやつが懐いてついてくるのを許すって……改めてひぃ爺さんの胆力やばい」
俺は会ったこともない曽祖父に少しばかり尊敬の念を抱く。研究者ってのはやっぱりどこか人とズレてることが多いから、その辺はなんとなく想像できちゃうんだよ。俺は若干ビビリだけど、それでも研究対象に夢中になって怪我をしたことが何度かある。自分の身のことより研究に夢中になってしまうんだ。
「うーん、日記を読めば読むほど触手が可愛く思えてくるな。これはひぃ爺さんがだんだん触手に愛着を持ってしまって、日記の中身が変わってきたからかな? どう考えてもこれは研究日記じゃなくて大好きなペットの毎日の観察日記だもん……」
ペットの観察日記だとしても、未知の生物の記録は俺を夢中にさせるのに十分な魅力を持っていた。血が繋がっているせいなのか、曽祖父の思いに同化してしまって、触手の記録をただの興味だけでなく読み込んでいる俺がいる。数年分ある日記はまだまだ読み終わらない。
なんとなく宝箱のことが気になりつつも日記を読みまくっていたある日、俺はその宝箱に足を引っ掛けて転んでしまった。徹夜のしすぎだ……。脛を打ち付けてのたうち回ったあと、箱を見てみれば魔導札が破れていて青褪める。
「あああああ!!」
急いで見てみるが魔導札は完全にちぎれてしまっていた。これでは時間を止める効果はもうないだろう。やってしまった……。
恐る恐る蓋を開けてみれば、そこには布を緩衝材にして覆われた綺麗な乳白色の玉が入っていた。
「宝石? 割れてなくてよかった。随分大切そうに保管しているのに、ここに放置して街に出たのか……」
少し不思議に思ってその玉に手を伸ばす。持った瞬間、俺はビックリして落としそうになってしまった。ひんやりもしてなければ硬くもなかったのだ。いや、正確に言うと、硬度はある……けど、不思議な弾力も感じるというか。
「な……んだ、これ。石じゃないのか? ……まさか」
俺は急いで日記を漁りだす。日記の日付がかなり開いているときがあって、触手の卵に関する記録を発見した。乳白色のこぶしくらいの大きさの卵。これだ。
俺が今まで見たことも聞いたこともなかった生物の卵が今ここにある。曽祖父はこれを残すために魔導札を貼って屋根裏に隠したのか? 街に持っていったら、何かあったときに奪われたり事件に巻き込まれたりを恐れて置いていったとか……有り得る。
「ひぃ爺さん、ごめん。開いちゃった……どうしよう」
俺は一旦蓋を閉じる。普通、孵化させるには抱卵するものだけど、魚類系なら温める必要なないんだよな……なんて思いながら卵の記録を読み続けた。
ただ、まだ屋根裏を片付けただけで、書物の分類が待っている。日記だけでも相当な量があったし、おそらく他の書物も触手の研究のための関連書物なのだろう……ペットの飼い方みたいなのとかそういうのもたぶん、うん。
日記を開き出したら止まらないとわかっているので、まずは日記でない書物の分類から始める。本当はとても日記が読みたい。でも自分の性格を考えて必死に我慢……と、分類をしていると魔導書を発見した。
なんでこんなものが、と読んでみると……どうやら書棚の保存の魔術陣と似たような効果のページへの書き込みがすごい。
「まさか、あの魔導札、ひぃ爺さんが作ったとか? どんだけ多才なんだよ……」
自分は植物や動物のスケッチをする才能はそこそこあると思うけど、魔導インクを使いこなす魔力操作の才能はないと思う。札に描く図の模写はある程度できるだろうけど、俺ではそこに効果を乗せることはできないんじゃないかな。
「つまりこの箱の中身も、ひぃ爺さんの大事なものを保管した当時のままってことか」
最初に発見したとき振っちゃったけど中身は大丈夫だろうか?
ものすごく開けたい衝動に駆られている。でも開けて後悔するのもいやだなと悩む。魔導札の予備でもあれば開けられるんだけどな……。
そうして書物を大雑把な分類で分けて、背表紙を見やすくして、やっとやっと、曽祖父の日記に手をつけることができた。最初のページだけ開いては日付順に並べていく。流れ作業的にやっていかないと思わず中身を読みふけってしまいそうだ。
「よし、これで大体並べ終えたよね。あぁ……時間がかかった……」
さすがに空腹感を覚えたから、家の裏から湧き水を汲んできて、それから庭の果物をもいでくる。あとは簡単な干し肉とか。調理とか面倒だしやってられない。その時間を読書や観察や研究に充てたい。これだから心配されちゃうんだよな……自宅でもそうだったし、年にニ度ほどここに来る物売りの人にも。
さすがに書物を開きながら食べ物を食べたりはしない。そんなことをするくらいなら食べないほうがいい。汚したら困るからね。ここにある書物は宝物だから自分で書いた落書きとはレベルが違うのだ。
「へぇ、ひぃ爺さんと触手の出会いは偶然だったのか……つか、すごいな、普通偶然そんなのに出会うものなのか?」
日記には曽祖父が食料の狩りに行ったら、それを狙って出てきた触手に出会ったことや、何故か触手に懐かれて家まで着いてきたことなどが書いてあった。なんでそれで怯えないんだ? おおらかすぎだろ……。
そんな曽祖父だから触手がついてきたんだろうか? でも研究者としたらありがたいことなんだろうな。俺だって曽祖父のこんな記録を読んでいて、安全だってわかっているからか、ちょっと見てみたいと思うもんな。
日記というには記録の多いそれは、最初の方は計測記録とか生態についてなどのわかったことで占められていた。餌は綺麗な水と新鮮な肉を好むが、肉は少量でいいとか、どうやら動物と植物の間のような生物で、日光を浴びることも大切なようだとか、見たことのない俺にはどう考えても不思議生物としか思えないことが書いてある。
「ひぃ爺さんのスケッチのおかげで想像はしやすいけど、見たこともない生物だからなぁ……。でも、このフォルムのやつが懐いてついてくるのを許すって……改めてひぃ爺さんの胆力やばい」
俺は会ったこともない曽祖父に少しばかり尊敬の念を抱く。研究者ってのはやっぱりどこか人とズレてることが多いから、その辺はなんとなく想像できちゃうんだよ。俺は若干ビビリだけど、それでも研究対象に夢中になって怪我をしたことが何度かある。自分の身のことより研究に夢中になってしまうんだ。
「うーん、日記を読めば読むほど触手が可愛く思えてくるな。これはひぃ爺さんがだんだん触手に愛着を持ってしまって、日記の中身が変わってきたからかな? どう考えてもこれは研究日記じゃなくて大好きなペットの毎日の観察日記だもん……」
ペットの観察日記だとしても、未知の生物の記録は俺を夢中にさせるのに十分な魅力を持っていた。血が繋がっているせいなのか、曽祖父の思いに同化してしまって、触手の記録をただの興味だけでなく読み込んでいる俺がいる。数年分ある日記はまだまだ読み終わらない。
なんとなく宝箱のことが気になりつつも日記を読みまくっていたある日、俺はその宝箱に足を引っ掛けて転んでしまった。徹夜のしすぎだ……。脛を打ち付けてのたうち回ったあと、箱を見てみれば魔導札が破れていて青褪める。
「あああああ!!」
急いで見てみるが魔導札は完全にちぎれてしまっていた。これでは時間を止める効果はもうないだろう。やってしまった……。
恐る恐る蓋を開けてみれば、そこには布を緩衝材にして覆われた綺麗な乳白色の玉が入っていた。
「宝石? 割れてなくてよかった。随分大切そうに保管しているのに、ここに放置して街に出たのか……」
少し不思議に思ってその玉に手を伸ばす。持った瞬間、俺はビックリして落としそうになってしまった。ひんやりもしてなければ硬くもなかったのだ。いや、正確に言うと、硬度はある……けど、不思議な弾力も感じるというか。
「な……んだ、これ。石じゃないのか? ……まさか」
俺は急いで日記を漁りだす。日記の日付がかなり開いているときがあって、触手の卵に関する記録を発見した。乳白色のこぶしくらいの大きさの卵。これだ。
俺が今まで見たことも聞いたこともなかった生物の卵が今ここにある。曽祖父はこれを残すために魔導札を貼って屋根裏に隠したのか? 街に持っていったら、何かあったときに奪われたり事件に巻き込まれたりを恐れて置いていったとか……有り得る。
「ひぃ爺さん、ごめん。開いちゃった……どうしよう」
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