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ハルロス視点
1.触手……? そんなの本当にいるのか?
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あらすじかタグは目を通しておいてください。
地雷の多い方は注意。
*****************************
「ゴホッゴホッ」
口元を布で覆っているのにひどいホコリで咳が止まらない。
俺は足を踏み入れたことのなかった屋根裏を覗き込んでいた。
「うわ……これはひどい……」
普段生活している一階とニ階は数年かけてなんとか人が生活していると呼べるくらいまでに片付け終わったところだった。といっても、正直に言うと片付けが終わったとは言い難い。なにしろ曽祖父の研究書物が溢れていたから。
地震があった時、上からドサドサと物が落ちる音がするまで屋根裏の存在には全然気づいてなかったくらいで、むしろ屋根裏は意図的に隠されていたような気もする。
◇◇◇
ここは元々曽祖父が若い頃使っていた研究所だった。曽祖父はある日突然、研究をやめて街に出て結婚して曾祖母の実家がやっていた道具屋を継いだという。それで祖父や父はその道具屋を守っているのだが、俺は道具屋で触れていた書物の方に興味を持ち始めた。
俺に甘い祖父が商品の紙やペンを与えてくれて植物や動物などのスケッチを始め、生き物に夢中になっていく俺に祖父や父は特に店を継げとも言わず、「ハルロスは絵が上手だね」と好きにさせてくれた。俺は人と話すのもそこまで得意でなかったし、幸い、弟が店を継ぐ気満々だったからっていうのもあった。
そして祖父が亡くなる前、どうやらキャナス山の中腹に曽祖父が使っていた研究所があるらしいという話を聞いた。祖父も曾祖母からなんとなく聞いただけで行ったこともなければ詳しくも知らないという研究所。曽祖父が話題に出したがらなかったからと、曾祖母も聞くことをしなかったというその研究所に俺が興味を持つのに時間はかからなかった。
というのも、俺は動植物が好きな割に世話が苦手だったので、大自然の中に自生しているものを見るなら世話はいらない! 最高! と思ってしまったからだ。
詳しい場所もよくわからなかったから、研究所を探しに行く準備もかなり必要で、ここにたどり着くまでには何度も行ったり来たりしたものだった。やっと見つけた研究所はもはや廃墟になりかけていたんだよな。でも、書物だけは保護の魔術陣の施された収納棚に収められていて劣化などもなかった。
掃除を始めても、書物に手を伸ばすと寝食を忘れて読みふけってしまって全然進まないくらいには俺にとって宝の山で、曽祖父が何故ここを捨てたのかさっぱりわからなかった。
そんな片付けがメインの生活。研究所の裏手には綺麗な湧き水が流れていて水には困らなかった。食料調達が上手くいかなくて足りなくなるのは困る……なんて思っていたけど、山奥で小動物も人を怖がらないせいか、なんとか罠で捕獲できている状態。草はそこらじゅうに生えているしなんとかなる。
が、まあお察しの通り、片付けをしているか書物を読んでいるかみたいな生活で食生活は酷いものだった。
「クマが酷い……前より痩せたかな……」
湧き水の小川に映った自分は酷く貧相に見えた。元々書物を読むとかスケッチをするようなことが好きだったから、ガタイが良いとは言えなかった俺だけど、研究所に来るために少しは身体を作ったはずだった。でもここに着いてからは室内に籠もりきりで面倒を見てくれる家族もいないときて、街にいたときより痩せこけてしまっている。
それでも俺を惹きつけて止まない曽祖父の書物。俺は死なない程度に食事をしながら片付けをした。
◇◇◇
「こんな隠し部屋みたいにして、ひぃ爺さんは何をしまっていたんだろう?」
屋根裏の床に散らばるのは書物が多いが、箱やらなんやらも散らかっている。下に収納できなかったあまり使わないものをこっちに入れていたのだろうかと思い、一冊の書物を手に取って開いてみた。
「え!」
これは曽祖父の日記のような記録だった。一階ニ階にあった他者の著した書物や曽祖父がきちんと書き上げた書物ではない記録。ここに来てそのようなものを見たのは始めてだ。
しかも、内容は『触手』についてだった。
「しょ……触手? そんなの存在するのか? ひぃ爺さんの妄想……とか」
そんなことを思いつつも、未知の生物への探究心というか妄想日記でもいいから先が読みたいという気持ちに支配され、片付けもそこそこに手についた一冊をその場で読み出してしまった。
日記によると、触手の見た目は多肉植物のようだけど動物で知能があると書かれていた。害獣や魔獣と違って人間に襲いかかってくることは殆どなく、仮にあったとしても自身を傷つけられるとか子どもを守る場合などであるとのことだった。
「やたら詳細に毎日記録しているみたいだけど、俺はこんな生物の話なんて聞いたこともないけどな……」
俺は屋根裏に座り込んで日記を読み始めてしまったため咳と鼻水が激しくなってしまい、一旦近場にある数冊を持って下に降りて読むことにした。
「あ、これかなりバラバラだな……やっぱ片付けないとだめか」
パラパラと中身に目を通してみたけど三冊の日記はかなり日付が飛んでいた。どうせ読むならやっぱり古い方から順に読みたい。育成日記みたいなものなら尚更だ。
研究所を捨てて街に出た曽祖父が屋根裏に隠した日記なのだから、読むのはほんの少しだけ罪悪感があるが、もう時効だろうと勝手に言い訳を作り上げて――いや、単に俺の好奇心が上回っただけだ――屋根裏を片付けつつ日記を全て読もうと決めた。
一階ニ階にあった書物とは違って、屋根裏には魔術陣が施された収納棚はなかったので日記は一部劣化していたりインクがかすれていたりするものもある。
「ああ、もう! 大事な記録のところじゃないといいんだけど……」
俺は掃除が嫌いだが、日記が読みたい一心で一階ニ階の掃除のときより必死で掃除と片付けをした。
本の他に散らかっていたのは空き箱やら古い鉱石絵の具やら。あと見つけたのは魔導札が貼ってある宝箱のような箱だ。結構重い割に軽く揺すってみるが音はほとんどしない。こんなのが貼ってある箱だからヤバいものかもしれないと、とりあえずは階下に持って降りるだけにした。
「まずはこの魔導札の効果から調べないと……これも日記に出てくる?」
魔導札について書かれているものを探したいけど、それをするにもとりあえずは屋根裏の掃除と整理だ。
日記のようなものはまとめて一階に積み上げ、日記でない書物はまた別のところに積んでいく。まずは大雑把に分けて、そのあと日付順や書物の種類別にわけようという作戦。とはいえ、俺は触手の記録が読みたくてしょうがない。
つまりどうしたかというと、またしても寝食を忘れて片付けをしてしまった。掃除で寝食を忘れるなんて俺っぽくないけど、目的は日記や書物を読むことだからしょうがないとも言えるかな。
地雷の多い方は注意。
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「ゴホッゴホッ」
口元を布で覆っているのにひどいホコリで咳が止まらない。
俺は足を踏み入れたことのなかった屋根裏を覗き込んでいた。
「うわ……これはひどい……」
普段生活している一階とニ階は数年かけてなんとか人が生活していると呼べるくらいまでに片付け終わったところだった。といっても、正直に言うと片付けが終わったとは言い難い。なにしろ曽祖父の研究書物が溢れていたから。
地震があった時、上からドサドサと物が落ちる音がするまで屋根裏の存在には全然気づいてなかったくらいで、むしろ屋根裏は意図的に隠されていたような気もする。
◇◇◇
ここは元々曽祖父が若い頃使っていた研究所だった。曽祖父はある日突然、研究をやめて街に出て結婚して曾祖母の実家がやっていた道具屋を継いだという。それで祖父や父はその道具屋を守っているのだが、俺は道具屋で触れていた書物の方に興味を持ち始めた。
俺に甘い祖父が商品の紙やペンを与えてくれて植物や動物などのスケッチを始め、生き物に夢中になっていく俺に祖父や父は特に店を継げとも言わず、「ハルロスは絵が上手だね」と好きにさせてくれた。俺は人と話すのもそこまで得意でなかったし、幸い、弟が店を継ぐ気満々だったからっていうのもあった。
そして祖父が亡くなる前、どうやらキャナス山の中腹に曽祖父が使っていた研究所があるらしいという話を聞いた。祖父も曾祖母からなんとなく聞いただけで行ったこともなければ詳しくも知らないという研究所。曽祖父が話題に出したがらなかったからと、曾祖母も聞くことをしなかったというその研究所に俺が興味を持つのに時間はかからなかった。
というのも、俺は動植物が好きな割に世話が苦手だったので、大自然の中に自生しているものを見るなら世話はいらない! 最高! と思ってしまったからだ。
詳しい場所もよくわからなかったから、研究所を探しに行く準備もかなり必要で、ここにたどり着くまでには何度も行ったり来たりしたものだった。やっと見つけた研究所はもはや廃墟になりかけていたんだよな。でも、書物だけは保護の魔術陣の施された収納棚に収められていて劣化などもなかった。
掃除を始めても、書物に手を伸ばすと寝食を忘れて読みふけってしまって全然進まないくらいには俺にとって宝の山で、曽祖父が何故ここを捨てたのかさっぱりわからなかった。
そんな片付けがメインの生活。研究所の裏手には綺麗な湧き水が流れていて水には困らなかった。食料調達が上手くいかなくて足りなくなるのは困る……なんて思っていたけど、山奥で小動物も人を怖がらないせいか、なんとか罠で捕獲できている状態。草はそこらじゅうに生えているしなんとかなる。
が、まあお察しの通り、片付けをしているか書物を読んでいるかみたいな生活で食生活は酷いものだった。
「クマが酷い……前より痩せたかな……」
湧き水の小川に映った自分は酷く貧相に見えた。元々書物を読むとかスケッチをするようなことが好きだったから、ガタイが良いとは言えなかった俺だけど、研究所に来るために少しは身体を作ったはずだった。でもここに着いてからは室内に籠もりきりで面倒を見てくれる家族もいないときて、街にいたときより痩せこけてしまっている。
それでも俺を惹きつけて止まない曽祖父の書物。俺は死なない程度に食事をしながら片付けをした。
◇◇◇
「こんな隠し部屋みたいにして、ひぃ爺さんは何をしまっていたんだろう?」
屋根裏の床に散らばるのは書物が多いが、箱やらなんやらも散らかっている。下に収納できなかったあまり使わないものをこっちに入れていたのだろうかと思い、一冊の書物を手に取って開いてみた。
「え!」
これは曽祖父の日記のような記録だった。一階ニ階にあった他者の著した書物や曽祖父がきちんと書き上げた書物ではない記録。ここに来てそのようなものを見たのは始めてだ。
しかも、内容は『触手』についてだった。
「しょ……触手? そんなの存在するのか? ひぃ爺さんの妄想……とか」
そんなことを思いつつも、未知の生物への探究心というか妄想日記でもいいから先が読みたいという気持ちに支配され、片付けもそこそこに手についた一冊をその場で読み出してしまった。
日記によると、触手の見た目は多肉植物のようだけど動物で知能があると書かれていた。害獣や魔獣と違って人間に襲いかかってくることは殆どなく、仮にあったとしても自身を傷つけられるとか子どもを守る場合などであるとのことだった。
「やたら詳細に毎日記録しているみたいだけど、俺はこんな生物の話なんて聞いたこともないけどな……」
俺は屋根裏に座り込んで日記を読み始めてしまったため咳と鼻水が激しくなってしまい、一旦近場にある数冊を持って下に降りて読むことにした。
「あ、これかなりバラバラだな……やっぱ片付けないとだめか」
パラパラと中身に目を通してみたけど三冊の日記はかなり日付が飛んでいた。どうせ読むならやっぱり古い方から順に読みたい。育成日記みたいなものなら尚更だ。
研究所を捨てて街に出た曽祖父が屋根裏に隠した日記なのだから、読むのはほんの少しだけ罪悪感があるが、もう時効だろうと勝手に言い訳を作り上げて――いや、単に俺の好奇心が上回っただけだ――屋根裏を片付けつつ日記を全て読もうと決めた。
一階ニ階にあった書物とは違って、屋根裏には魔術陣が施された収納棚はなかったので日記は一部劣化していたりインクがかすれていたりするものもある。
「ああ、もう! 大事な記録のところじゃないといいんだけど……」
俺は掃除が嫌いだが、日記が読みたい一心で一階ニ階の掃除のときより必死で掃除と片付けをした。
本の他に散らかっていたのは空き箱やら古い鉱石絵の具やら。あと見つけたのは魔導札が貼ってある宝箱のような箱だ。結構重い割に軽く揺すってみるが音はほとんどしない。こんなのが貼ってある箱だからヤバいものかもしれないと、とりあえずは階下に持って降りるだけにした。
「まずはこの魔導札の効果から調べないと……これも日記に出てくる?」
魔導札について書かれているものを探したいけど、それをするにもとりあえずは屋根裏の掃除と整理だ。
日記のようなものはまとめて一階に積み上げ、日記でない書物はまた別のところに積んでいく。まずは大雑把に分けて、そのあと日付順や書物の種類別にわけようという作戦。とはいえ、俺は触手の記録が読みたくてしょうがない。
つまりどうしたかというと、またしても寝食を忘れて片付けをしてしまった。掃除で寝食を忘れるなんて俺っぽくないけど、目的は日記や書物を読むことだからしょうがないとも言えるかな。
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