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情報収集の旅へ
205.あの花は……?
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ホント植物もおもしろいよなぁ。俺みたいに生物系──詳しくは生命工学──の学部に入ったやつなら、動物も植物もどっちも好きだっていう人間が多いと思う。まあ、大学1年目なんて必修がかなり多いけど、それでも理系だから専門科目も始まってたし。そういう意味ではやっぱり勉強を続けたかったっていう気持ちもないわけじゃないんだよな。
こっちに来てより強く思ったのは、興味がある分野を深く勉強できるのって幸せなことだってこと。俺って好奇心が強くて何でもちょこっとやってすぐ飽きる感じではあったけど、それでも、知りたいって思ったら、すぐチャレンジできたあの環境は恵まれてたよなぁ。続かない習い事も、親は一応やらせてくれたし……なんか申し訳なくなってくるね。
「さっきのさぁ……もともとはヘビだったんだろう魔物、オレきらい……」
「ヴァンも嫌いなのいるんだね」
「当たり前でしょ。なんていうか、にょろーってしてるのがやだよね」
「俺は毒蛇じゃなきゃ嫌いじゃないよ。あ、魔物はそもそも全部好きじゃないけど」
嫌いっていいながらもヴァンは容赦なくやっつけていくんだけどね。俺が幼虫に出会って動けなくなるのとは全然違う。ああ、でも、ちょっと過剰に攻撃してるようにも見えるからやっぱり嫌なんだろうなとは思うかな。
ヘビ魔物はあれだよ、まるでゲームのヤマタノオロチみたいな見た目でさ。まあ、頭は1つだったし、森が潰れるほどでかいってわけでもなかったけど。ただ、ヤツが通った跡っていうの? そこは草木がなぎ倒されててちょっと怖かったね。
「けど、アレは食えるから」
「肉になっちゃってたら別にいいよ……食べる」
「そういうとこ、ヴァンだよね。でもにょろーは幼虫も同じじゃない? 気持ち悪いよ?」
「んー。ちょっと違う」
そりゃそうか。俺も毒蛇じゃないなら嫌いじゃないって言ったばっかりだったや。魔物じゃなくても毒をもった生物は怖いよね。この森にはそういうのいそうな気配めちゃくちゃするしさ。ヤドクガエルみたいなのも……出てきそうだもん。気をつけないと。
そうやって歩いていると、ふんわりといい香りが鼻をかすめる。
「え? これって……どこから」
「イクミ?」
「なんか、バラみたいな香りしない?」
「花?」
「あ、うん。俺の国ではバラって呼んでた花。でもさすがにこんなところで……」
きょろきょろと辺りを見回すけど、よくわからない。あまりにも記憶にある香りと似ていたからびっくりしたんだけどな。でも、俺があまりにも気にしているからか、ヴァンがこっちからするよって教えてくれた。
「道から外れちゃう?」
「そうでもない。いいよ、気にしないで」
ヴァンとルイが問題ないって言ってくれたから、香りの出処だけ知りたくて辿っていくことにした。
そして、そんなに歩かなくてもすぐに見えてきたそれは……。
「バラだ……こっちにもあるの? え、ほんとに?」
花が咲いている位置まではまだ距離があるけど、見ればわかるよね。大振りな花をつけたバラ……といっても花びらはこっちの観賞用ほど多くない感じだけど。バラの原種と品種改良された観賞用の間くらいとでもいうか、それでもかなりの存在感だ。色は緑色に近いクリーム色と花びらの先端のほうがピンクになっている感じに見えるな。枝が横に伸びていってるような感じなのもあっちのツルバラと似ている。でもバラってこういう気候のところに自生するイメージじゃないんだけど。
「初めて見るな」
「オレも。それに香りが強いねぇ」
「ちょっと近づいて見てきていい?」
「魔物の気配はないから、大丈夫じゃないか?」
「うん。ま、オレたちも行くけどねぇ」
2人が魔物の気配がないっていうなら安心して花を観察できそうだし、俺はこの植物があっちから来たやつなのか知りたくて、少し小走りにバラに駆け寄った……はずだった。
ていうのも、バラの近くでいきなり足元がなくなった感覚で、とぷんと沼のようなところに落ちたんだ。
完全に沈む前に2人が焦った声で俺の名前を呼ぶのが聞こえた。
──やば。目の前に沼があったなんて……。泥を吸い込まないようにして、下手に動かないで2人が引き上げてくれるのを待てば……。
そう考えた瞬間、足首に何かが巻きついた。チクチクとトゲみたいなのが刺さりながら俺の脚を上ってくる。もう片方の足で蹴ろうとしたけど、沼の抵抗感と変な焦りで上手くできなくて、俺は下へと引きずり込まれていた。
──助け……
引きずり込まれた先で、何かに包まれたというか囚われた感覚があった。苦しい。
一瞬意識が途切れてハッと気がつくと、俺はまるで脳みその中に閉じ込められたかのようだった。何かが頭に浮かんではそれがずっとグルグルと終わりなく続いていくようで、でも何かのキッカケで違うことが頭に浮かぶと今度はそれに囚われる。まるで夢を見ているときみたいな……いや、夢なのか? これ。
目を開けているはずなのに──開けてるよな? 違うのかもわからない──見えている世界は歪んで、景色がグニャリと溶けていく。現実なのか夢の中なのかわからないものが見えている……これを考えているこの俺も本当の俺なのか?
ぎゅううっと自分が小さくなったり、かと思えば引き伸ばされて大きくなったりしているような感覚。それとともに時間まで歪められてるみたいな……わけがわからない。エンドレスに同じ場面を繰り返しているような感じもする。
そして、身体が勝手に硬直したり弛緩したりを繰り返す……自分の意識で動かしているんじゃないのに、肘や膝がピンと伸びて棒になったかのように曲げられなくなったり、下腹を中心とした腹筋がぎゅうっと収縮して身体が丸まったり。かと思えば、一気に脱力して一切の力が入らないような状態になる。
その間隔がだんだんと狭くなって、俺の身体は意識とは別にビクンビクンと痙攣する。
──痛い苦しい……。
痙攣で筋肉がずっと動いているからか身体が熱い。止めたいのに止められなくて、体力が消耗していく。
自分の意思で身体が動かないのが気持ち悪くて……。俺の身体はマネキンになっちゃって、その中に魂が閉じ込められちゃったんじゃないかなっていう気持ち悪さ。そして、その『気持ち悪い』という思いが頭の中を支配していく……。
途中まで考えていたことが、ぴょんとある時点に戻って何度も繰り返されるような感じで、他のことを考えさせてくれない。
──気持ち悪い、気持ち悪い……ツライ、痛い、ツライ……。誰か、誰か、誰でもいいから助けて。ルイ、ルイ、ルイ……
「ル……イ、ルイ……助けて……ルイ……ルイ、ルイ……」
自分が何を口走っているかなんて理解できない。
勝手に涙が溢れて目尻から流れ落ちていく感覚だけある。それと、繰り返される身体の硬直と弛緩でとにかく苦しい。
「……」
俺は完全に自分の世界の中だけにいた。
周囲がザワザワしているような気もするけど、それを認識することもできないんだ。
こっちに来てより強く思ったのは、興味がある分野を深く勉強できるのって幸せなことだってこと。俺って好奇心が強くて何でもちょこっとやってすぐ飽きる感じではあったけど、それでも、知りたいって思ったら、すぐチャレンジできたあの環境は恵まれてたよなぁ。続かない習い事も、親は一応やらせてくれたし……なんか申し訳なくなってくるね。
「さっきのさぁ……もともとはヘビだったんだろう魔物、オレきらい……」
「ヴァンも嫌いなのいるんだね」
「当たり前でしょ。なんていうか、にょろーってしてるのがやだよね」
「俺は毒蛇じゃなきゃ嫌いじゃないよ。あ、魔物はそもそも全部好きじゃないけど」
嫌いっていいながらもヴァンは容赦なくやっつけていくんだけどね。俺が幼虫に出会って動けなくなるのとは全然違う。ああ、でも、ちょっと過剰に攻撃してるようにも見えるからやっぱり嫌なんだろうなとは思うかな。
ヘビ魔物はあれだよ、まるでゲームのヤマタノオロチみたいな見た目でさ。まあ、頭は1つだったし、森が潰れるほどでかいってわけでもなかったけど。ただ、ヤツが通った跡っていうの? そこは草木がなぎ倒されててちょっと怖かったね。
「けど、アレは食えるから」
「肉になっちゃってたら別にいいよ……食べる」
「そういうとこ、ヴァンだよね。でもにょろーは幼虫も同じじゃない? 気持ち悪いよ?」
「んー。ちょっと違う」
そりゃそうか。俺も毒蛇じゃないなら嫌いじゃないって言ったばっかりだったや。魔物じゃなくても毒をもった生物は怖いよね。この森にはそういうのいそうな気配めちゃくちゃするしさ。ヤドクガエルみたいなのも……出てきそうだもん。気をつけないと。
そうやって歩いていると、ふんわりといい香りが鼻をかすめる。
「え? これって……どこから」
「イクミ?」
「なんか、バラみたいな香りしない?」
「花?」
「あ、うん。俺の国ではバラって呼んでた花。でもさすがにこんなところで……」
きょろきょろと辺りを見回すけど、よくわからない。あまりにも記憶にある香りと似ていたからびっくりしたんだけどな。でも、俺があまりにも気にしているからか、ヴァンがこっちからするよって教えてくれた。
「道から外れちゃう?」
「そうでもない。いいよ、気にしないで」
ヴァンとルイが問題ないって言ってくれたから、香りの出処だけ知りたくて辿っていくことにした。
そして、そんなに歩かなくてもすぐに見えてきたそれは……。
「バラだ……こっちにもあるの? え、ほんとに?」
花が咲いている位置まではまだ距離があるけど、見ればわかるよね。大振りな花をつけたバラ……といっても花びらはこっちの観賞用ほど多くない感じだけど。バラの原種と品種改良された観賞用の間くらいとでもいうか、それでもかなりの存在感だ。色は緑色に近いクリーム色と花びらの先端のほうがピンクになっている感じに見えるな。枝が横に伸びていってるような感じなのもあっちのツルバラと似ている。でもバラってこういう気候のところに自生するイメージじゃないんだけど。
「初めて見るな」
「オレも。それに香りが強いねぇ」
「ちょっと近づいて見てきていい?」
「魔物の気配はないから、大丈夫じゃないか?」
「うん。ま、オレたちも行くけどねぇ」
2人が魔物の気配がないっていうなら安心して花を観察できそうだし、俺はこの植物があっちから来たやつなのか知りたくて、少し小走りにバラに駆け寄った……はずだった。
ていうのも、バラの近くでいきなり足元がなくなった感覚で、とぷんと沼のようなところに落ちたんだ。
完全に沈む前に2人が焦った声で俺の名前を呼ぶのが聞こえた。
──やば。目の前に沼があったなんて……。泥を吸い込まないようにして、下手に動かないで2人が引き上げてくれるのを待てば……。
そう考えた瞬間、足首に何かが巻きついた。チクチクとトゲみたいなのが刺さりながら俺の脚を上ってくる。もう片方の足で蹴ろうとしたけど、沼の抵抗感と変な焦りで上手くできなくて、俺は下へと引きずり込まれていた。
──助け……
引きずり込まれた先で、何かに包まれたというか囚われた感覚があった。苦しい。
一瞬意識が途切れてハッと気がつくと、俺はまるで脳みその中に閉じ込められたかのようだった。何かが頭に浮かんではそれがずっとグルグルと終わりなく続いていくようで、でも何かのキッカケで違うことが頭に浮かぶと今度はそれに囚われる。まるで夢を見ているときみたいな……いや、夢なのか? これ。
目を開けているはずなのに──開けてるよな? 違うのかもわからない──見えている世界は歪んで、景色がグニャリと溶けていく。現実なのか夢の中なのかわからないものが見えている……これを考えているこの俺も本当の俺なのか?
ぎゅううっと自分が小さくなったり、かと思えば引き伸ばされて大きくなったりしているような感覚。それとともに時間まで歪められてるみたいな……わけがわからない。エンドレスに同じ場面を繰り返しているような感じもする。
そして、身体が勝手に硬直したり弛緩したりを繰り返す……自分の意識で動かしているんじゃないのに、肘や膝がピンと伸びて棒になったかのように曲げられなくなったり、下腹を中心とした腹筋がぎゅうっと収縮して身体が丸まったり。かと思えば、一気に脱力して一切の力が入らないような状態になる。
その間隔がだんだんと狭くなって、俺の身体は意識とは別にビクンビクンと痙攣する。
──痛い苦しい……。
痙攣で筋肉がずっと動いているからか身体が熱い。止めたいのに止められなくて、体力が消耗していく。
自分の意思で身体が動かないのが気持ち悪くて……。俺の身体はマネキンになっちゃって、その中に魂が閉じ込められちゃったんじゃないかなっていう気持ち悪さ。そして、その『気持ち悪い』という思いが頭の中を支配していく……。
途中まで考えていたことが、ぴょんとある時点に戻って何度も繰り返されるような感じで、他のことを考えさせてくれない。
──気持ち悪い、気持ち悪い……ツライ、痛い、ツライ……。誰か、誰か、誰でもいいから助けて。ルイ、ルイ、ルイ……
「ル……イ、ルイ……助けて……ルイ……ルイ、ルイ……」
自分が何を口走っているかなんて理解できない。
勝手に涙が溢れて目尻から流れ落ちていく感覚だけある。それと、繰り返される身体の硬直と弛緩でとにかく苦しい。
「……」
俺は完全に自分の世界の中だけにいた。
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