霧の向こう ~ 水の低きに就くが如し ~

隅枝 輝羽

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204.植物いろいろ

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 この森は魔物も強いし、その魔物の個性も偏ってるし、変だってことで俺の中では結論を出したけど、なにも悪いことばかりじゃない。
 森の中で良いこととしては、魔物肉以外に新鮮な薬草とか食べられる植物も採れるってことと、食べられないけど花が意外と多く咲いてるってこと。

 あの食べられるツタはあまりにたくさん採れるから、実は一部酢漬けにしてるんだ。シャクシャクして酸っぱくて、甘みのないピクルスって感じ。ヴァンは「なんで今まで誰もこれを教えてくれなかったの?」って言ってお気に入りに加えていた。

 ゴボウもどきは魔物肉との相性がいいんだよな。ただ炒めるだけでも、ゴボウもどきの香りで肉が一層美味しく感じられるの。具に肉を使ったスープに入れるのもいいし、これで味噌か醤油があればいいのにって何度思ったことか。

 あと花ね。今までももちろん小さな花は見てきたけど、あっちでいうタンポポとかナズナとかみたいな感じだったんだよね……。雑草ぽい花っていうの?
 でも、この森では、えっと、あれだ、ラン? あんな感じの少し華やかなのを見かけるんだよね。さすがに胡蝶蘭みたいなのじゃないけど。
 
 木の枝に巻きついてたりぶら下がってたり、普通に地面に生えてるのもあるけど、ほんと今までに比べてきれいな花が多いって感じたよ。
 まあ……それ以外にも、ベタベタする植物とか臭い植物もあるから油断できないんだけどね。ラフレシアとかショクダイオオコンニャクとかって腐った肉のニオイってテレビで言ってたけど、そんな感じなんじゃないかな。
 
「臭いのは勘弁してほしいねぇ。オレ鼻が死ぬかと思ったもん」
「あれ、俺たちが目の前通ったらポンって開花してニオイ撒き散らかしてたね」
「あんなのトラップすぎるよ! オレにもわからないっての」
 
 だからといって、花は咲いただけだから悪気(?)はないんだろう。俺たちが臭いと感じるだけで、生存戦略としてあのニオイが大事だったんだろうし。

 この花は、花粉だか胞子だか知らないけど、そういうのを運んでもらうために、動物とか魔物が近くを通った振動で開花するような進化を遂げたのかもね。
 
 でも、なんかあれだ。俺としては植物園の温室に来たみたいなワクワクがあるんだよ……真面目に旅しろって怒られるかもだけどさ。
 
「だが……変な植物がたくさんあって興味深いな」
「あ、ルイもそう思う?」
「渓谷付近とはまるで雰囲気が違うし、街の辺りとも違うからな。こんなに変わるものなのかという驚きがある」
「うんうん! わかる! なんだ、ルイも植物よく見てるじゃん。前に俺が木の種類が変わったから山から下ってきた話したとき、変な目で見てくるからまるっきり興味ないのかと思ってたよ」
 
 ヴァンは食べられないなら興味ないって感じだし、ルイも植物には興味ないと思ってたのに、そんなことなくてちょっと感動してたたみかけるように話しちゃった。

 聞いてみたら、別に種類を見分けるとか植物の地域性とかまでの興味はないけど、何も考えずにただきれいだなって思って見るだけなら嫌いじゃないんだって。
 そっか。確かにあのとき、夜光花の開花時期とか知ってたもんな。渓谷周辺だと夜光花はかなり好きな部類だったみたい。えー、なんか可愛い。
 
「俺が住んでた国はマギッドの町から海辺の街の中間辺りに近い気候かなー。春は花がたくさん咲いて、夏はすっごく暑くて、秋は食べ物が美味しいし過ごしやすくて、冬は雪が降るんだ」
「だから、四季がはっきりしてると言ってたのか」
「うん。でも四季を通じて花は何かしら咲いてるし、温室で育てた花が流通してるから、そういう意味では季節感ないね。家で母親が育ててた地植え植物はさすがに季節感あったけどさ」
 
 ちょっとした休憩時間に雑談をするのが楽しみのひとつ。
 さすがにこの森はみんなが緊張してて、ずっと歩き続けるのが少ししんどいってことになったんだ。だから、ヴァンの疲れ具合と俺の疲労度とかで3人集まって小休憩を取っている。
 
「ヴァン、街で買った干しザナ出して! 俺、それでお茶いれる」
「ザナのお茶? なにそれ」
「薬草茶に混ぜてみようと思ってて」
「薬草茶かぁ……うー、でも、オレもそれほしい」
「じゃあ3人分いれる」
 
 こんなとき役に立つのは、俺のキャンプ道具の組み立て式ロケットストーブ。さすがに魔法でかまどを作るほどじゃないからね。湿度があるけど、薪はヴァンに頼めば乾燥した木を用意してくれるし楽ちん。火種は俺でも魔法で出せるもんねー。
 
 サディさんブレンドの薬草茶を適量と、干しザナを刻んで一緒に布袋に入れたらあとは煮込むだけ。リンゴに似た甘酸っぱい香りと薬草茶の漢方っぽい匂いが混ざる。
 
「薬草茶だけのときよりはマシかも……」
「ヴァンは匂いが嫌だったの?」
「うん。味も少し苦いじゃん。トゥーイのお茶みたいに爽やかなだけならごくごくいけるのにさ」
「慣れれば美味うまいし、回復力があがって健康にいいぞ」
 
 ヴァンは俺のいれたザナ薬草茶をハフハフしながら飲んでいた。ザナを細かく刻んだから味と香りがしっかり出たのがよかったみたい。でも、これならヴァンも飲めるっていうならやってあげたいよね。干しザナはたくさん買ってもらったし。
 
 最初は早く森を抜けようなんて言ってたのに、今はこんな感じだ。けどさ、休憩は大事だよね。よく知らない土地だからなおさらっていうか。

 ま、今回の原因は俺。だってさぁ、結構ぬかるみも多くて歩きにくいし体力が削れるんだ。俺は2人みたいに常に身体強化が使えるわけじゃないし、っていうか今はあの魔物出たときのために身体強化用の魔力は温存してるしさ。

 お茶を飲みつつ、干し肉を少しかじって補給をしたところで、ヴァンがぴょんと立ち上がる。
 
「確かに回復するね。っと、さて、そろそろ歩くの再開しよ」
「わかった。それにしても、薬草茶使いすぎかなぁ?」
「いや、1回に使う量が少ないから全然問題ないぞ。イクミに出してやってる袋……あれだけじゃないからな」
「え、そうなの?」
 
 俺の使いかけの薬草茶の袋──結構でかい──がルイのマジックバッグ内にあと4つあるっていうのを初めて知った。サディさん、持たせすぎだよ。自宅用の分を全部出してくれたんじゃないだろうか。もう、そういうとこ……。
 貴重な薬だってあんなにたくさん持たせてくれたくせにさぁ……思い出したらサディさんに会いたくなってきちゃったじゃん。ううー、だめだめ。気分を切り替えて歩かなきゃな。
 
 そう思って歩きだせば、すぐ足元に集中してくる。つまり、それだけ歩きにくいってこと。滑りやすいし、草が厄介でね……上から垂れ下がってきてるし、下は下でわさわさだしさ。

 こういうところで弓矢を構えるのも大変なんだよな。でも、そういうときは少しでも立ちやすいところを探して、しっかり狙うようにしてる。冷静にならないといくら弓ちゃんがサポートしてくれても外しちゃうから。

 そういうときも、俺がいい位置を見つけるまではルイがそばにいてくれるんだ。で、大丈夫なの見届けてからヴァンの加勢に行くの。優しくて気づかってくれて、ほんとすごい人だよな……。
 
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