霧の向こう ~ 水の低きに就くが如し ~

隅枝 輝羽

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情報収集の旅へ

199.海守りの塔との別れ

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 結局、海守りの塔には7日くらい滞在してしまった。予定ではもう少し早く出るつもりだったんだけどね。
 
 あの竜族のおとぎ話も、もう少し掘り下げたんだ。もし竜族が異世界に行くことができたんなら魔力が関係するんだろうし、今のこの世界でどうにかできるのは、偶然の歪を待つか魔導具でたくさん貯める……みたいななにかそういう魔力の使い方をするとかって話も出た。確かに村では結界の維持にみんなで協力してたもんな……でも、それを使って時空を歪める回路なんて聞いたことないらしいし、かなり難しそうなんだけどね。
 
「イクミ、ルイ、ヴァン。どうか気を付けて。君たちがここに来てくれて楽しかったよ。ね、父さん」
「別れがつらい……イクミ」
「キリソンさん……」
「いや、でもイクミの幸運を祈らなきゃな。創世神と守護者に毎日祈ろうじゃないか」
 
 次の行き先は予定通り、大神殿のある都だ。もちろん途中にある村や町にも寄るつもりだけど、一応なるべく最短になるように行こうって話になっている。守護者とか大昔の情報を得るなら大神殿じゃないかってところからなんだけどね。
 
「ルイ、いい?」
「ああ。イクミの好きにしろ」
 
 俺はルイから月刊NUを受け取ると、キリソンさんに差し出した。
 
「これを……キリソンさんにあげます。文字は読めないだろうけど写真も多いし、アベンジャーの元の姿も写ってるし、この世界で一番持ち主にふさわしいと思うから」
「し、しかし」
「タイラード中尉のこと、ずっと思っていてくれたキリソンさんにもらってほしいんです」
「わかった。ありがとう。ネイヴと共に大事にすると誓う。子々孫々まで受け継がなくては……」
「そ、そこまで?」
 
 角もよれよれになってる読み倒した雑誌──しかも、1ページちぎったし──にそう言われちゃうと、あげたこっちが申し訳なくなるよ。なのに、キリソンさんは宝物のように雑誌をぎゅっと抱えている。
 
 俺はなんだかんだいい人ばかりに出会ってるんだよな。あ、違うか。マギッドのスリとか、海辺の街でもちょっと怖い人に絡まれたとか、悪いことがないわけじゃない。きっと、ルイたちがスルーした治安の悪い村とかに行っていたら、もっとそういう目にあったのかもしれないし。
 結局、いい人がいろいろ世話を焼いてくれて、そういう人と仲良くなるからそっちの印象が強いんだな。
 
 そう考えれば、人がそこそこ余裕を持って生活できるってことが、人に優しくできるか否かに関わってきてるのかもしれない。貧困や差別はされた側はどうしたって卑屈になったり、対抗心みたいなものを生んだりしやすいっていうか。この世界は地球よりは自給自足しやすいっちゃしやすいからなぁ。それで比較的優しい人が多いのかも。創世神様や守護者との距離も近いし。
 
「オレたちも知らないこといっぱい聞けて面白かったよ! ね、イクミ?」
「うん。あっちにつながるかもしれないってのもわかったし……。も、もし、また誰かが迷い込んできちゃったら、助けてあげてくれたら嬉しいです」
「もちろん! あ、それならば、通訳の魔導具をひとつ用意しておきたいな。手に入るだろうか……」
「あまり見ない物だよね」
 
 キリソンさん、いい人すぎる。確かに言葉が通じないのは大変だからね。でも、この先あるかわからないことに、さっそくどうしようかって考えてくれてるの優しすぎだろ。
 
「久しぶりに街にいって、魔導屋なんかで探してもらえるか聞いてみるか。イクミの流行はやらしたっていう食べ物も食べてみたいしな」
「そうだね。それは食べてみたい。っと、話がそれて引き止めちゃったね」
「いえ、全然。本当にお世話になりました」 
 
 キリソンさんたちならいつか魔力飛行機を作っちゃうかもしれない。それはちょっと気になるところだよね。
 そんなことを考えながら、俺たちは海守りの塔をあとにした。下の門のところで挨拶をしたあとも、少し歩いたところで、塔の上から花火みたいな火玉が打ち上がるのが見えたんだ。やばい、泣きそう。
 
「思ったより長く滞在しちゃったからイクミは情が湧いちゃったんでしょ」
「うん……」
「そういうのって疲れそうだねぇ。イクミのいいところだから直さないでいいと思うけどさ。オレはねぇ、離れたところから大事に思うってだけでもいいと思う」
「ヴァンとかルイはそういうの切り替えできる?」
「出会いと別れは普通のことだからな」
 
 確かにルイは村と街を行ったり来たりだし、それが当たり前なんだろうな。それに魔物が出る世界なら命の危険もあるんだろうし。
 思えば日本じゃあまり周りの人と絡まなかったし、そこまで情が移るような交流もなかったかもしれない。さすがに幼馴染とか中学までの友達なんかは切っても切れないくらいの仲だったけど、高校以降はそこまでの人ってできてないんだよな。まあ、こうやって寝食をともにするような付き合いが、あっちじゃなかっただけなんだけどさ。
 
「さて、地図からすると、方向はこっちだね」
「おわっ! それが地図に魔力流したときのやつ!?」
「そそ。欠片使ってる高い地図だからね」

 ヴァンが地図を開いて見せてくれる。ただ地形が描いてあるだけの安い地図もあるけど、今回2人が奮発して買ってくれたのは魔導具の地図だ。魔力を流すと自分たちのいる大まかな地点が楔形に光るっていうやばいやつ。少し歩くと進行方向に楔形のの細いほうが向いた。コンパス付きの地図みたいなもんかな……もっと便利だけど。

「すごい!」
「詳細地図じゃないけど、海辺の街から大神殿エリアのものにしたし、だいたい合ってるでしょ」

 出発前にキリソンさんたちに聞いた情報から、ひとまず大神殿方向の途中にある町に向かうことにした。距離はそこそこあるみたいだし、短縮ルートで行くなら海辺の街の周りより少し強い魔物がでる森を抜けなきゃならないそうだ。森は通る人がまずいないから危険かもしれないけど詳しくはわからないって言われたからなぁ。といっても、俺はルイとヴァンがいるからさほど心配はしていない。
 
「森を迂回したいってイクミが言わなくて良かったよ」
「いや、別に迂回したっていいんだぞ?」
「んんー、でも2人がついてるし、俺だって村から街まで歩いて来られたんだから、大丈夫なんじゃないかなって」
「偉い偉い! 時間は貴重だからね。いい選択だとオレは思うなー」
「イクミの安全のほうが大事じゃないか?」

 ヴァンは少しでも早くいろんな情報を集めたほうがいいよねって気持ちで動いてくれてて、ルイは行ったことのない土地で何が起こるかわからないってことを心配してくれてるのか。

「確かにオレだって初めて行くところだから慎重に行くよ。イクミのことはオレたちがちゃんと守ればいいんだし」
「そのつもりだが」
「お……俺だって頑張るんだけど」

 ヴァンはそんなのわかってるよってケラケラ笑っている。そっか……俺がわざわざ言わなくても、信じてもらえるくらいにはなってるんだな。
 魔物は今だって怖いけど、2人がいてくれるし、弓ちゃんも協力してくれるから落ち着いて狙えるようになったもんな。ひとりだったら無理だけど、ルイとヴァンがいればきっと大丈夫!
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