霧の向こう ~ 水の低きに就くが如し ~

隅枝 輝羽

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198.復活!

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 めちゃくちゃ落ち込んだ俺は、一晩寝たらなんとか復活することができた。とりあえずは、協力してくれてるみんなに感謝してやれることはやるしかない。みんなの本気度に俺が合わせる、みたいな逆転現象になってしまっているけどさ。
 
「イクミ、元気になった?」
「おはよう、ヴァン。昨日はごめんね。ちょっといろんなこと考え過ぎちゃった」
「しょうがないと思うよ。今、ルイがいないから言えるけど……いろんなこと素直に考えられないでしょ、イクミ」
「う、ん……」
「お兄ちゃんから言えるのはさ、いっぱい悩んで納得して結論を出しなってこと。それまでは行ったり来たり気持ちが揺れたっていいんだよ? 真剣に悩んでる証拠なんだからね。帰れるってわかっても帰らなくてもいいし、可能性がないに等しくても帰れるまで方法を探すのもありなんだ」
 
 本当に……ヴァンはいきなりお兄ちゃんになるんだよな。たったの4歳くらいしか変わらないはずだし、いつもはおちゃらけてるから変な感じがする。
 それに俺が帰りたい帰りたくない帰れない帰らなきゃをぐるぐるしてるのも気づいてたんだね。
 
「俺……優柔不断で、みんなが支えてくれて頑張ってくれてるのに……俺がこんなで軽蔑されるかもって」
「何言ってんの。オレは軽蔑なんかしないよ。イクミの人生がかかってるんだから悩んで当然でしょ? しかも、誰も経験してないようなことが起こってるんだからさ。オレなんか魔導士として師匠がいたけど、そういうのもないんだから手探りはつらいよね」
 
 昨日みたいにもやもやズキズキがひどくないからか、ヴァンには少し素直に話すことができた。こんなとき柔軟性抜群お兄ちゃんムーブのヴァンはすごく頼りになるな。それに俺の恋心も知ってるからより葛藤がわかるのかもしれない。
 
 よしよしと俺を撫でたヴァンは、俺にキリソンさんたちと異世界の話とかできそうか確認してきた。きついなら前もって話しておいてくれるって。さすがにもうそこまでしなくても大丈夫そうな感じ。
 
「今日は平気だと思う。キリソンさんたちもいろいろ聞きたいことあるだろうし。ていうか、俺の世界の常識とかを話すのは全然大丈夫だよ。むしろ仕組みがわからなくて説明できないのは申し訳ないけどさ」
「そうだよね。光と音の速さの話とか普通にしてたもんね。じゃあ、普通どおりにするよ?」
「うん。ありがとう」
 
 そんなことを話していたら、ルイが朝の自己トレーニングを終えて戻ってきた。俺が普通にヴァンと話しているのを見て、少し目元が笑う。やっぱ心配かけてたよなぁ、ごめんなさい。
 2人とも踏み込んでこなすぎず、でも絶対見守っててくれる。何度もそれを実感してるのに、頼りきれなくて申し訳ない。
 
 どうやらキリソンさんもネイヴさんもそれなりに気にしていたみたいで、俺の表情を見て顔を見合わせていた。ほんと、誰も悪くないのに俺のせいで振り回したよなぁ。
 その日からはあまりへこんだりせずに、竜族の話をしたり俺の世界の話をしたりした。キリソンさんやネイヴさんが気になる科学知識について聞いてきて、俺の知ってることを伝えることもしたんだ。さすがに飛行機の作り方はわからないけどさ。
 
「あ、紙飛行機なら折れるけど……紙が高級品なんだっけ」
「なんだそれは。見てみたいが、魔物の皮紙じゃ無理なのか?」
「薄さによるかなぁ。あまり重いと飛ばないんですよ」
「なるほど、一応持ってくるからそれを見せてくれ」
 
 キリソンさんは何枚か魔物の皮を持ってきた。本なんかに使われる比較的薄めの色の白い皮なんだって。それでもかなり厚みがある。ちょっと曲げてみたけど、やっぱりこれで折るのは無理そう。
 
「俺の雑誌の余計なページでもちぎって使おうか……」
「そんなっ! もったいない!」
「え、1ページだけですよ」
「父さん、あの本はイクミのなんだからこっちが口出すことじゃないよ」
 
 一応、変な広告のページを選んで、真四角になるように折り線をつけて切り取ると、昔よく作った遠くまで飛ぶタイプの紙飛行機を折る。ずっと折ってなくても手が覚えてるもんだよな。
 すっすっと紙を折っていく俺の手元に全員の視線が集中していて、ちょっとおもしろい。翼の先を上向きに折れば完成!
 
「できた!」
「それが紙ヒコーキ?」
「そ。こうやってね、えいっ」
 
 俺が投げる動作をすると、手を離れた紙飛行機はすーっと真っ直ぐに飛んで広間の端まで飛んだ。
 
「「おおおっ」」
 
 キリソンさんとネイヴさんが驚きの声をあげて、ヴァンは紙飛行機を楽しそうに追いかけていった。やばい、反応が小学生男子だぞ。……いや、実は俺も久しぶりに折って投げて楽しかったんだけど。
 
「これ、すごいねぇ。羽ばたいてないのに端までいったよ」
「本物の飛行機ほど精密じゃないけどさ、空気抵抗とかそういうのの参考にはなるかなーって。あ、布で落下傘とかも作ろうか」
「ラッカサン……」
 
 ネイヴさんに布と裁縫道具を用意してもらって、重りは土魔法で作ってもらったビーズみたいなのを使った。これを小さく丸めて空中に放り上げると、ぱっと広がってふわふわと落下してくる。
 
「これも面白いー!」
「ふむ。これは予想がつくな」
「今ネイヴさんに用意してもらった布だとこんな感じだけど、織りの密度が高い布ならもっとしっかり空気を捉えられますよ」
「つまり、細い糸で布を作るのか。面白い」
 
 遊びみたいなことをしながら、みんなでワイワイと浮力から空気抵抗の話をするのは楽しかった。ヴァンなんて紙飛行機が気に入っちゃって、何度も飛ばして遊んでるんだもん。自分で飛ばして追いかけて、飛ばして追いかけてってしてて、キリソンさんが苦笑している。
 
「ヴァン、それはキリソンさんに折ってあげたんだよ」
「面白いんだからしょうがないじゃん」
「もう。キリソンさん、すいません。でも、こんな感じで、落ちる力より浮く力と進む力が勝ればいいんです。あの墜落した飛行機は動力があって、それがあれば落ちないってことで……。まあ、エンジントラブルとかそういうのは気をつけないといけないんだけど」
「少しだけイクミの言っていたことがわかったよ。燃料だとかそいういうのはこっちじゃ難しいかもしれないが、魔力を使えないものかな……」
 
 キリソンさんはぶつぶつと呟きながら1人の世界に入っていってしまった。それを見ていたネイヴさんはもう慣れっこみたいで、放置して落下傘は何に使われるのかなんかを聞いてきた。俺が知ってるのは昼間に遊んだ落下傘花火なんだけど、パラシュートと考えれば、飛行機の非常用とか、形を変えればパラグライダーとかかな。燃料を必要としないパラグライダーはネイヴさんの興味を掻き立てたみたい。
 
 そんな話をしている俺たちをルイが優しい目で見ていた。
 
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