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情報収集の旅へ

194.海辺の街でも最終段階

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 翌日は村の2人を門で見送って、聞き込みの続きをした。結果は相変わらずだけど、ひと通りこの街での情報収集は進めないとね。
 街の人の認識は、昔からのことなら海守りの塔で聞くのが早いんじゃないかってのでほぼ一致している。
 冒険者ギルドみたいなところで話を聞いたときは、海系の話だけじゃないのも聞けて面白かったし、冒険者さんが昔住んでたところの言い伝えなんてものも聞けた。でも異世界関係かと言われると……うーん。

 それからも地道に毎日聞き込みを続けて、たまに息抜きにトゥーイさんとこで薬草茶を飲んだり話したりして、やっと今日、この街での聞き込みが終わったとこ。

「かなり時間かかったね」
「この街は大きい方だからね。他に『街』ってついててもここより小さいところもたくさんあるらしいよ」
「ああ。村長もそんなことを言ってたな。あと俺が知ってるところででかいのは大神殿のある都か」
「オレも行ったことはないけど、大神殿って特殊なんだよね?」
「これも村長からの情報だが──」

 ちゃんとルイは出発前に村長から情報を聞き出していて、さすがだなーって思った。村にいるときから、本当に1歩どころかかなり先まで考えて用意してくれてるんだもん。

 この街を出たら、もう1回海守りの塔に戻る予定。その後はとりあえず大神殿方面に行きつつ、小さい村や町に立ち寄ることになるだろうって。

「着くのは冬とかになる感じ?」
「いや、すでに秋口だしもっとかな。だけど安心して? ムルと違って雪降らないから旅続けられるし」
「そうなの!?」
「ああ。村と比べると、ここも相当温暖だぞ」
「でも、夏にしては猛暑じゃないよね?」

 2人はまたよくわからないことを言い出した、みたいな顔をしている。

「あー……こっちは夏も死にそうな暑さにならない感じ?」
「死にそうな?」
「いや、今もそれなりに暑いだろ?」

 違うんだ……でもきっと伝わらない。日本のここ数年の夏を説明できる気がしない。
 確かにムル村は冬は厳しくて夏は過ごしやすかったし、あそこを北とすると、ここはかなり南下してきたってイメージだ。この世界も神話から想定するに、きっと丸い球体みたいな世界でいいんだろう。と、すれば、赤道にあたるような地点にある土地はもっと暑いかもしれないよな。

「それにね、イクミ。死にそうに暑いなら体温調節の魔導具を使いなよ」
「へ……」
「オレらは魔力でコントロールするけどさ」
「あ、あー、そういうことか」

 寒いときの魔導具って印象がつよかったけど、どっちにも効果あるに決まってるか。こっちの世界の人はよほどな環境じゃない限り、それなりに快適に暮らせるんだな……ずるい。日本の夏なめんな! 梅雨明けに修学旅行で京都に行かされたとき、衣替え前で制服やばかったんだぞ。あれは虐待と言ってもいいだろ……。

「イクミの世界って、生活しやすいのかしにくいのかわかんないね」
「それは俺でも思うよ……」
「でも魔物なんかいないし安全に暮らせて、便利なものもたくさんあるんだろ」
「それはそうだね。俺の国は、だけど」

 とりあえず、寒いときだけじゃなくて暑いときでも、あの魔導具は活躍するってことだ。ヴァンにチャージしてもらって常に使うんでもいいのかもしれない。そう思って体温調節の魔導具を見ていたら、ヴァンがひょいとのぞき込んできた。

「マギッドで調整してから使ってないの?」
「天気の悪かったときは、お腹痛くなったの思い出して早めに使ったよ。でもそういうときくらいしか使ってなかったや」
「もう。遠慮しないで使ってよ。オレだって調整しながら改良してみてるんだからさぁ」

 だって俺はむしろチャージの手間をかけちゃうかなって思ってたんだ。こ、これからはちゃんと使うよ。

「明日は世話になったところに挨拶して、明後日に手続きしてここを出よう」
「長くいたからなんか寂しいな」
「イクミ、いつもそれ言ってるじゃん」
「だってさぁ」

 この部屋なんてずっと借りてて使わせてもらってたし、食堂や酒場にもしょっちゅう顔を出してたからさ。トゥーイさんとのお別れもつらいし。うーん、俺がすぐ懐くのがいけないのかな。ムル村を出るときみたいに泣きはしないけど……。

「それもイクミのいいところだろ」
「確かに。可愛いよねぇ」
「また子ども扱い……」
「まあまあ。あ、塔に行ったら、イクミはまたひと通り習った武器の扱いは復習ね」
「はーい」

 俺が頷くと、ヴァンは「素直だねぇ」とニコニコしていた。だって、聞き込みが続いて鍛錬が疎かになってる自覚はあるからね。ときどきルイの早朝走り込みに着いていったり、筋力トレーニングを一緒にすることはあったけど、毎日じゃなかったし。それを考えるとルイってすごいな。

「俺だって、せっかく覚えたことを無駄にしたいわけじゃないんだよ?」
「うんうん、そう思ってくれてるだけで上出来」

 ◇

 今日は挨拶してまわって、食材なんかを仕入れる日。またしても食材に関してはヴァンが張り切っている。ムル村を出るときもかなりカロイモとか詰めてきてたもんなぁ。

「あ! オレ、あれも買っていきたいな」
「なに?」
「黍粉っていうんだっけ? あのイクミが魚包んでたやつの、ほら」
「あー。ヴァン気に入ったの?」
「美味しかったからね。パンってやつよりオレは好き」

 ヴァンからしたら、パンはふかふかしすぎて食べてる感じがないんだって。その点、黍粉のトルティーヤもどきは噛みごたえがあって、ほんのり甘みもあって、イモより珍しいからって。

「粉だから日持ちはしそうだけど。買い物に関してはルイに相談してよね」
「悪くなるものじゃないならいいんじゃないか? イクミも食材が多くある方が楽しいだろ?」
「イクミが楽しいからとか言っちゃって、ルイだって食べたいってことじゃん」

 確かに俺にもそう聞こえたな。でも、ここまで旅をしてきて、だんだんと食事の味付けとかに悩むようになってきてたから、違う食材はあればあるほど嬉しいけどさ。

「バッグとかお金の余裕はどうなの?」
「スペースはかなりある。金もそこまで心配はいらない」
「じゃあ、俺は2人に任せる」
「やったぁ! オレねぇ、村であまり食べられないようなやつ買いたい」
「足が早いのはやめろよ?」

 まるで遠足前の子どもだな。料理するのは俺なんだけど、ヴァンは献立とかは気にせず適当に買いそうだ。長居する気はないけど塔にもまた寄るんだし、少し考えて買ってほしいね。

 買い物をしたあと、ルイのお気に入りの食堂に行って挨拶しつつ、ヴァンはあのアジアンエスニックみたいな料理を注文していた。少し前に「これ、ヴァン好きそうだし食べてみて」って勧めたら、めちゃくちゃ気に入ったみたいでほとんど1人で平らげてたんだよね。旅立つ前に食い納めってとこかな。

「これが食べられなくなるのだけは本当に残念……」

 うーん……。

「ルイ、柑橘と魚醤買える?」
「調味料か。ここ出たら行ってみるか」
「高くなければ少し買えるといいな。生魚は無理だけど、イモ団子を似たような味付けにはできるかもだからさ」

 ほっぺたにたくさん詰め込んでもぐもぐしているヴァンを見ながら、俺とルイは買い物の相談をしていた。
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