上 下
192 / 202
情報収集の旅へ

192.料理を堪能〜

しおりを挟む
 もちろんあっちの世界の料理なんかとは違う。食前酒ってよりガッツリワインだし、軽い食事──アミューズやオードブルみたいな──もない。でも、ワインは俺ですら香りの違いを感じた。なんというか濃厚、なのかなって思わせる感じ。
 
 村のワインは作りたてワインが多かったし、酒場でもワインにはジュースを混ぜてもらってたから、重い感じのするワイン自体が初めてだ。といってもこれは白ワイン。テレビなんかで俺の仕入れてたイメージって白は辛口でエグみが少なくて、赤はタンニンの渋みとかなんとか……。意味はあまりわかってなかったけど、これは思い描いていたイメージと違う。
 
「飲んだことない感じ……」
「口に合うか?」
「うん。美味しい。お腹が空いてくるよ」
 
 そして、まず出てきたのはスープだ。黄金色で透き通っていてコンソメスープかなって思ったのに、それともなんか違う。あっさりしてるんだけど……身体に染みわたる感じがする。でも何を使ってるのか想像つかないや。
 
 そのあと魚料理が目の前に並ぶ。庶民向けの店と違うのはやっぱりまずは見た目だ。なんていうか、繊細だよね。野菜の切り方にしても、盛り付けにしても、目で楽しませる工夫があるように見える。お皿からして違うから、それだけでも高級感マシマシだ。
 
「おお……」
 
 口に入れれば、その複雑な味わいに声が漏れる。食堂なんかの食事はシンプルとシンプルを組み合わせていかに美味しくするか、みたいなところがあったけど、これは明らかに違う。
 
 こっちにもいるじゃん! こういう味付けする人!
 俺の料理がやたらなんやかんや言われるけど、俺おかしくなかったよ。良かった。
 
「な? イクミの料理みたいだろ?」
「やめてよ。本職の人に怒られるから」
 
 魚にバターを乳化させたみたいなソースがかかっているけど、これは何と何で乳化させたんだろう。すごくまろやかでコクがあって美味しい。味は酸っぱくないけど爽やかな香りが感じられる。そのソースが臭みのない鮭みたいなピンク色の身の魚によく合ってて、こんなの俺も作ってみたいなぁって思った。
 
 マナーとかはそこまでうるさくないのか、俺の食べ方でも特に注意されないから助かるよ。ナイフとフォークは最初から並べられてなくて、出てくる食事と一緒にテーブルに置かれた。これがこっち流ってことかな。
 
 魚を食べ終わる直前くらいにパンが出てきて、思わず声を上げそうになった。
 パンだよ! パン!
 俺の知ってるカンパーニュみたいなやつがスライスされてるの。
 
「イクミはこれも知ってるんだろ?」
「うん。俺の知ってるパンとほとんど同じみたい。小麦の味がする……懐かしい」
「俺は初めてだな。前はカロイモだった」
「オレもルイと一緒」
 
 少しちぎって味を確かめたあと、お皿に残ったソースをパンで拭って食べた。あまりにパンの味が久しぶりすぎて、少しうるうるきたのは内緒。
 
 そして、肉料理と赤ワインが出てくる。これも一口飲んでみて違いがはっきりわかるワインだった。タンニンって渋味じゃないの? なんかすっごい深みがあるし、いろんな香りが混じっててびっくりした。でもこれが上質な魔物肉にとんでもなく合う。
 
「なんでグリルなのにこんなに柔らかいの? ワインを使ったソースだと思うのに、俺が作ったのと別物……」
「いやいや、何言ってんだ? イクミは村の料理とか味付けの概念を変えただろ。ルイもヴァンもイクミの料理の虜じゃねぇか」
「そんなわけ……」
「そうだよ! そんなわけないじゃん! オレはイクミの料理だけ・・が好きなんじゃないからね。イクミは可愛い弟なんだよ」
 
 ええー……そういう問題じゃないってば。こんなすごい料理と俺の料理を比べないでってことなのに、ヴァンは何を胸張って言ってんだ。
 限られた素材──といっても、庶民料理より贅沢素材だけど──でこんな料理を作っちゃうんだから、やっぱり本職ってすごいねって話なんだよ。
 
 それに、このグリルは香辛料が使われていると思う。あのナイライみたいな肉じゃなければ、ね。トウガラシともコショウとも違うけどピリッとして爽やかな香りがして、この魔物肉とすごく合ってる。
 
 添えてある野菜もきれいな色で、黄色い人参みたいな見た目だ。ほっくりしてて甘みもあるし、俺好みの味。これって村で育てられないのかな……絶対みんな好きだよ。自然な甘みで子どももたくさん食べると思う。
 
「美味しくて涙が出そうだよ」
「イクミがそんなこと言ってるのに、うちらはうめーって食ってるだけなの笑えるな」
「それはイクミの味覚が鋭いからなんじゃない?」
「だな」
 
 またしても過大評価だと思う。なんでこんなことになってるんだろ。少しばかり納得いかないんだよなぁ……。
 
 肉料理のソースも、もちろんパンでこそげ取って美味しくいただいた。でも、パンも高級品なんだよね。昔のルイとヴァンは連れてきてもらったときに、そこを節約されてカロイモだったみたいだし。なのに、俺、こんなにパンを食べちゃっていいのかなって少しだけ心配……食べるけど。
 
 次に出てきたのは驚愕のデザートだった。
 
「え……え……やば」
「これは村の女、子どもには言えない」
「知ってる人もいるけど、村から出られない人もいるから話題にしないんだ」
「言えないよねぇ」
 
 そりゃね、日本のデザートとは違って甘さ控えめではあるけど、甘いものが出てくるってだけでびっくりだよ。
 
「これは……イモを使ったプディングなのかな」
「オレにはわかんない。美味しければいいもん」
「そうそう。どうせ作れないしな!」
 
 高級店なのに、こんなふうにワイワイ話しながら食べてても文句言われないのすごいな。他の客が俺たちのことを問題視しないから許されてるんだろうけど。
 
「でも、ヴァンはこの量で足りるの? 俺は十分だけど」
「足りないけど、高級店でお腹いっぱい食べようとするほど非常識じゃないよ」
「そもそも決まったのしか出てこないし、おかわりなんて自分が許さないよ?」
「トゥーイに逆らうわけないじゃん……こわ」
 
 ヴァンがやたら怯えてるのを初めて見るかも。でも村長にはさん付けだったし、師匠さんのことは尊敬してたな。ヴァンの基準なんて俺にはわからないけど。
 
 食後、少しだけその場で話をしてから、トゥーイさんがお店の人とやり取りをして退店した。
 帰り際、担当のギャルソンが俺にだけ「料理詳しいんですね。お楽しみいただけましたか」と聞いてきた。口は挟んでこなかったけど、ちゃんと聞かれていたらしい。そのへんのマナーも高級店って感じ。
 俺は当然「涙が出そうなくらい最高でした!」って答えたよね。
 
「みんな、連れてきてくれてありがとう」
「トゥーイのとこにも来るだろうから、会えたら一緒に行こうぜってうちらが着いたときからトゥーイに話してたんだ」
「そそ。この街じゃトゥーイを通すほうがなにかと融通がきくんだよな」
「お前らは使いすぎだ」
 
 そう言いながらもトゥーイさんは笑顔だ。面倒見がいいんだろうな。まあ……年齢的にみんなのおじいちゃんでもあるだろうから、そうなっちゃうのかもしれないね。
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。 ※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。 ※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

処理中です...