上 下
189 / 202
情報収集の旅へ

189.エルフのお話

しおりを挟む
 トゥーイさんが長命なのに村長でなかったのは、それもまたエルフだからなんだそうだ。あの村は人間の祖が関係しているから村長は代々人間なんだって。伝統っていうか決まりみたいなものなのかなって思う。
 
「あそこが自分にとって大事な場所ってことには変わりないからね。それにエルフの自分が間に入ることで、ララトゥ草もサディの薬も霧蜘蛛の布も、ここで上手く仲介できるんだ。ここのやつらがどんなにもっと仕入れたいと思ってもエルフと揉めたくはないらしくてね」
 
 俺に向かってウインクをしてくるトゥーイさんはお茶目な雰囲気がある。さっきもエルフはあまり人里に住み着かないって聞いたけど、そういう事情もあってエルフは貴重なものを持っていることが多いって認識みたい。機嫌を損ねて売ってくれなくなると困るんだろうね。

 エルフについての話を聞いていてわかったのは、エルフだからってみんなが華奢で美形とかでもなく、人間と同じでいろんな体格や見た目をしているってこと。特性としてはやっぱり植物との相性は抜群ってことと、エハヴィルドにいる4種族の中では一番長命ってところかな。魔力は比較的多めみたいだけど、もちろん少ない人もいるらしい。

 この世界は俺の知ってるファンタジーとはやっぱり少し違うんだよな……。ていうか、この世界じゃ種族ってそんなに関係ないのかもしれない。それぞれの特性はあるとしても、個人の特徴のほうが強いっていうか。ヴァンだって獣人なのに魔導士だし、そういうことなんだよね。
 
「ま、それはそれとして。まずはこれをあげよう」
「これは?」
 
 トゥーイさんに渡されたのは透かし彫にされたような……貝? 木? なんか白くてキラキラしてきれいな札だ。
 
「渡すかどうかは会ってみて判断しようと思っていたけど、イクミなら悪用はしないだろう。これは、この人間は自分が保証するって印だな。仮にエルフの村に入るようなことがある場合に使ってくれ」
「ええっ! そんなの簡単に渡しちゃだめです!」
「ふふっ。そういうところだよ、いい空気。だから渡すんだ」

 なんだよ……意味がわからない。なんでみんなこんなに良くしてくれるんだよ。おかしいじゃん、俺は怪しさ満点の異世界人なんだよ?

「イクミ、預かっておけ。役に立つときがあるかもしれない」
「でも……」
「君が手がかりを探している途中で、エルフの村に入らなきゃならなくなったとしたら、どうにもならなくなるだろう? 自分が着いていくわけにもいかないから」
「こんな貴重なもの怖くて持ってられないよ」
「しょうがないな、ルイ預かってくれ」

 俺が手を伸ばさないからトゥーイさんがルイに渡して、ルイはマジックバッグにしまっちゃうし、どうしよ……。
 ありがたいよ? 確かにありがたいんだけど、俺はそれに見合うことをトゥーイさんにしてないし、代わりにあげられるものもないんだ。

「トゥーイさん、俺にできること何かありますか?」
「ん? 別にないよ」

 困ったなと思って、ルイを見れば頷かれた。そうじゃない。助け舟が欲しかったんだってば。
 どうしようもなくて、俺といえば料理かなってことで、薬草を使った料理の話とかを一応伝えてみた。トゥーイさんも薬草を料理に使ったことはなかったみたいで感心はしてくれた。でもどうやらトゥーイさんは自分であまり料理をしない人みたいなんだ。

「いやー、薬草茶は作るんだけどな。でもやるときは思い出してみるよ」
「うう、役立たずでごめんなさい。それにしても……ここは通路にも中庭にも薬草がたくさんですね」
「自分で使う分くらいはみんな育てるもんだよ。うちは他より育てている量が少し多いけど。ただね、自分のところじゃ簡易的な薬しか作れる設備がないけどね」
「あー、村の作業場もなんかいろんな器具とか魔法陣とかあったなぁ」

 煮出すとか魔力を使った単純な抽出なんかは、特別な設備がなくてもできるけど、サディさんの薬みたいなのはやっぱり設備が必要なんだって。
 ここの街でも薬屋さんはあって、それなりに高品質なものが売っている。この街の薬が高品質なのも、ムル村のララトゥ草をトゥーイさんが街に出してるおかげらしいからね。

「さてと。ルイとイクミはまだ時間あるのかな?」
「ああ。聞き込みは明日も続けるから急ぎではないし。ヴァンの様子は見に行くが……時間はまだ大丈夫だ」
「じゃあ、とりあえずは──」

 そうしてトゥーイさんの話をいろいろと聞いた。でも、別に俺が帰るための直接的な手がかりはないけどね。ただ、魔力を帯びていないなんだかよくわからない物が発見されることは昔からあるらしいんだ。それって異世界からの物の可能性はあるんじゃないかなって思う。

 といっても、トゥーイさんも異世界人を今まで見たことはなかったらしいし、長く生きていても遭遇することはないくらい珍しいのか、それとも……迷い込んで死んでしまうことが多いのか。正直、後者な気もするけど考えたくないな。

「ふむ。イクミの世界、というか別世界と通じてしまうということはあり得そうだけど、帰る手がかりは見つかってないってことだな」
「そうですね。あっちからこっちへは時々あるのかもって感じだけど、反対はどうなんだろう……」
「穴が開くなら双方向じゃないのか?」
「俺にはわかんない。一方通行ってこともなくはないかなーって」
「仮にこちらからイクミの世界に行ってしまったとして、やはり帰れないとなったら、もうそこで情報はなくなるか。うーむ」

 そこなんだよなぁ。しかも、時間も歪められちゃうとしたら、遠い過去とかだと情報は残ってないだろうし。少なくとも、俺の知ってるニュースじゃ魔法の使える人とか獣人とかは地球に現れたことないもんな。イエティとかビッグフットは獣人というには獣すぎるし……。

「しかし……仮に、時空に穴が開いてイクミの世界と繋がるとしたら、それは高度な空魔法じゃないか?」
「そうなんですか?」
「俺は上級魔法はよくわからないな。ヴァンがいればな」
「いや。別の世界に繋ぐなんて聞いたことはないんだけどね」
「でも、そうですね……。空魔法は時間停止とか空間の、マジックバッグに使われるやつですもんね。なるほど」

 あっちからこっちへは偶然開いちゃったひずみに迷い込む感じだけど、それは実はこっちの魔法とか魔力が関係してるってこと?
 それにしても、時間停止やらマジックバッグみたいな魔導具は作れても、異世界へ転移って話はメジャーじゃないわけだ。つまり、魔導士でもそう簡単にできることじゃないってことだよな。あーもう! わからなくなってきた!

 ひとまず、あーだこーだと話していたけど、どれも妄想みたいな推測の域をでない話ばかりで、どうしようもないから俺とルイは一度宿に戻ることにした。ヴァンも一緒にいたほうがいいかもしれないもんね。

「ルイ、ヴァンは元気になったかな?」
「さあな……。もしかしたら外出してるかもしれないし」
「そうなの?」
「必要ならな」

 事情のわからない俺には、ルイの言葉が意味するところを汲み取ることはできなかった。
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...