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情報収集の旅へ

186.続きをしなくちゃね

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「そろそろ一旦街に戻ったほうがいいかもねぇ」
「そういえば、ずいぶん長居しちゃったね」
「街で残ってる聞き込みをして、本格的に発つ前にまたここに来ればいいんじゃないか?」
「ここ以上の異世界関係の情報が、街で出てくることはなさそうだけど、誰がどんな情報持ってるかわからないもんね」
 
 タグの保管期間のこともあるし、一度は戻るほうがいいか……。
 キリソンさんが昼間に会ってくれなかったときは、街に顔を出したり再申請だけしたりして戻ってきてたけど、墜落した飛行機を見せてもらってからはずっと滞在させてもらってたもんな。
 
 てことで、一旦街に戻るとキリソンさんたちには伝えた。またここには顔を出すと言ったからか、街に戻るときに「気をつけてな」って言われただけ。気をつけるってのは、むやみに異世界人と言わないようにってことだ。
 ルイとヴァンにも言われたけど、キリソンさんたちにも人は選んだほうがいいって注意されたんだよね。

 俺としては、異世界から来たってだけで、魔力もなけりゃ戦うこともできない日本人なんか、知られたところでなんにもならないっていまだに思っちゃうけど。でも……マギッドの町でスリに狙われたみたいに、断片的な情報で狙ってくることは考えられなくもないか。

「さてぇ、あと残りサクサク聞いていこ」
「えっと……あそこの角で区切ってたから、じゃあ次はあのエリアかな」
「宿は金を渡して部屋をキープしといて正解だったな」
「満室だってねー。なんか団体でも来たのかな」

 詳しくはよくわからないけど、一昨日あたりに急に海辺の街に人が増えたんだって。ヴァンは商人集団かもねって言ってた。中には戦えない商人もいるから、魔物から身を守るために商人が集まって移動することがあるんだって。

 商人だと品物は仕入れないとだめだもんね。戦えないから他の土地に行けない……じゃ済まないんだもんな。護衛は頼むとしても、自分が行かなきゃ話にならない。そんな商人たちが1グループ1人の護衛を頼んで、それが数グループ集まれば腕の確かな人が何人か集まる。節約しつつ身の安全のためにってできたのが、商人集団なんだって。

 って言っても、俺なんて腕の確かな人が2人も無料でついてるけどね。まあ、その前に俺もある程度戦えるようにさせられたけど。

「そういう人たちの中に情報ないかな」
「商人はいろんなところに行ってるだろうし、情報には敏感だろうけど……」
「けど?」
「自分の儲けに繋がらないと教えてくれないかも」

 シビアだな。さすがにいつまでも俺の料理が通用するとも思えないし。でも……聞けばただで教えてもらえるなんて甘えだもんなぁ。ギブアンドテイクは忘れちゃいけないけど、商人が納得できる情報なんて俺にはわかんないや。

「まあ、機会と利害が一致したらってとこか」
「そんな感じぃ。あ、この街の魔導屋もオレが一応当たっとくね」
「ありがとう。俺にできることがあったら言ってね」

 俺たちが数日ぶりに聞き込みしつつ街を歩いていたら、意外と話しかけてくれる人が多かった。といっても、情報を持ってきてくれたってわけじゃなくて、「最近酒場に来てないね」みたいなやつ。飲み屋のオヤジのノリみたいな?
 酒場とか食堂の店員さんには、塔の主人に無事会えたことを前に戻ったときに伝えてあるから、それを聞かれることはないんだよね。

「じゃあ、オレちょっと行ってくるから。2人は適当に宿に戻ってね」
「うん、わかった」

 俺たちは魔導屋には行けないから、ヴァンに任せることにする。ここは魔導屋も何か所かあるみたいなんだよね。俺だってちょっと見てみたいのに、なんで秘密結社みたいなんだよ……。

「イクミ、入江の端に行ってみるか?」
「端?」
「聞いた話だと、少し浜になっているらし――」
「行く」

 思わず食い気味に即答しちゃったよ……。
 ふっとルイの雰囲気が柔らかくなって、促されて一緒に歩く。入江は小舟が繋がれていて港っぽさがあったけど、ぐるっと歩いて建物をすり抜けて行くとだんだん足場が悪くなってきた。

「こっちって来ていいもの?」
「ああ。ちゃんと聞いたから大丈夫だ」

 ゴツゴツとした岩場を下りると、砂浜というよりは玉砂利の浜に近い。でも波のザザーザザーという音と共に、石同士が擦れるような音もわずかに聞こえてくるのが心地いい。

「ルイ! 浜辺すごいね!」
「俺もこういう海をじっくり見るのは初めてだ」
「そうなの? 俺は海って聞いたらまずこんな感じを思い浮かべるよ。もっと細かい砂でできた浜でさ、砂が白いと海が緑っぽく見えるんだ」
「俺はここ以外の海を見たことがないからな……」

 ルイと話しながら波打ち際を歩く。別に何かをするとかじゃないんだけど、寄せては返す波に合わせて歩くのは童心に戻ったみたいで楽しい。

「イクミ、こっちとイクミの世界がたまに繋がるらしい、ということがわかっただけでもまずは良かったな」
「どうしたの、急に」
「みんなで話しているときは言えなかったから」
「そっか。うん……ありがと?」

 良かったなと言われても、なんかどうにもしっくりくる返事が見つからなかった。帰る手段が見つかったわけでもないし、仮に帰る手段が見つかったとして、今の俺は大喜びで帰れないっていうか。じゃあ残るのかって言われても答えられないんだけどさ。
 こっちとあっちを行き来できる方法ってないかな……ないよな……都合よすぎだもん。

「きれいな貝殻みっけ! ほら、色がきれいじゃない?」
「ああ、そういうの使ったアクセサリーとか売ってたな」
「俺の世界でも海の近くの土産物屋とか行くと、貝殻集めたやつとか売ってるよ。アクセサリーじゃなくても形がきれいに残ってると、女の子たちがお皿に入れて飾ったり、他のハンドクラフトの材料にしたりするみたいなんだ」

 へぇと言ったルイも俺に釣られて下を見ている。なんかこういうところ可愛いんだよな。ルイはいつも俺に合わせてくれるんだ。それがどんだけ俺を安心させてるか知らないんだろうけどね。

「イクミ、こういうのも」
「ん? わ、きれいな石だね。翡翠みたい」
「ヒスイ?」
「俺の世界の宝石。これと同じような感じの緑の石なんだけど、育てる宝石とか言われててさ……身につけて磨くとツヤツヤになってくんだって」

 ルイが手に乗せて見せてくれた小さな丸っこい石は、濡れているからか緑色が深くてすごくきれいだ。俺がほえぇってのぞき込んでいたら、「やる」って言って渡された。ルイが拾ったからルイのだよって言ったけど、きれいな石だから贈り物だとか言われちゃった。

「俺もルイに贈り物の石探す!」

 できれば同じような石があったらいいな。2人でそれぞれ育てるの、ちょっと良くない? 

「ピンとくるのがないな……」
「薄暗くなってきたぞ」
「うんー……もうちょっとだけ……」

 結局、俺はルイにもらったのと同程度の石は拾えなくて、白と緑の混じり合ったような石を拾ってルイにあげた。

「へへっ。今日の思い出ね」

 俺がにやにやする口元を抑えられずにルイを見れば、ルイも石をぎゅっと握って目元でふっと笑ってくれた。好き……。
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