霧の向こう ~ 水の低きに就くが如し ~

隅枝 輝羽

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情報収集の旅へ

185.俺の世界の知識

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 コックピットもずいぶん損傷が激しいけど、よく見てみれば計器にアルファベットが読み取れた。やっぱり本当にフライト19の機体なのか。
 
「いろいろ聞きたいことがたくさんある! ルイとやら、イクミが気づいてないことで他にわかることは?」
「もうないな。俺はイクミの世界の文字はわからない」
「それもそうか。イクミ、君はいつまでここにいる?」
「へ?」
「ずっといてほしいが、無理だろう? その代わり、いる間は話を聞かせてほしい。ほんとはずっといてくれたら嬉しいが……なぁ?」

 う……ごめんなさい。もし元の世界に帰れないってなっても、ここに腰を落ち着けることはないよ。そのときは村長とサディさんのところに帰るだろうし。
 俺の知ってる俺の世界の話なんてたかが知れてると思うけど、話せることは話してもいい。幸いなことに、俺には銃とか爆弾とかの作り方はわからないし、物騒なものは本気で知らないからね。

「あ!」
「ん? どうした?」
「ここ。フライト19の部隊長の名前チャールズ・タイラード中尉だって」
「チャーウ!」

 キリソンさんが雑誌をのぞきこんできた。とはいえ、タイラード中尉の写真なんてないから文字だけなんだけどさ。キリソンさんは少し眉間にシワを寄せてじっとしていた。

「チャーウを助けられなかったんだ……」
「あ、の……キリソンさんが看取ってくれて、俺は嬉しく思います。国も時代も全然違う人だけど、同じ世界から迷い込んだ人間としてお礼を言わせてください」

 俺がそう伝えると、キリソンさんに抱きつかれた。鼻をすする音が聞こえて、少しだけ身体が震えている。助けられなかったことずっと忘れられなかったんだな。

 そして、俺はタイラード中尉のことを考えた。
 全員失踪したからといって、時空が歪んでいたら全員が同じところに出たとは限らないんだよな。部隊長として、責任を負っているタイラード中尉はどんな思いだったんだろう。飛行機が海に落ちたら魔物がいる上に誰も助けに来てくれないし、もしかしたら仲間が海の藻屑となるのを目の当たりにしたかもしれない。だから言葉はわからなくても、助けてくれて良くしてくれる人に出会えた安心感は半端なかったんじゃないかな。

 そう。俺は本当にとんでもなく幸運だっただけなんだ……。たまたまルイが立ち寄る場所の近くに転移しちゃって、魔物に殺られることもなくルイに保護されて。通訳の魔導具を借りることのできる環境で、生活まで保証された。一生分の幸運を使い果たしたって言われてもしょうがないくらいだよな。

「すまない……ちょっと極まってしまった」
「いえ。そうなりますよね」
「オレたちすごい現場に居合わせてる?」
「かもな」

 それからの数日間は、キリソンさんやネイヴさんに俺の世界の知識を話すばかりだった。もちろん、俺は就職もしたことなけりゃ、大学だって半年もいけなかったし、そんなに知ってることはないんだけどさ。
 でも、魔法のない世界で、どういうシステムで社会がなりたっていたかはざっくりとは話せるからね。化学や物理も中学高校レベルの話なら少しはできるし。

「イクミの世界では魔力がない代わりにデンキというエネルギーを使っているというのはわかった。あのヒコーキも?」
「電気だけじゃないですけどね。コックピット……人が乗っていた部分には、そういったものを測定して目に見えるようにした計器が並んでるんです。電気以外にも磁力で位置を把握したり、燃料の量を見るものもあるけど」
「金属の鳥を飛ばせるのもすごいが、それに人が乗って、さらに燃料? 重くなるだけじゃないのか?」
「んー、燃料を燃やして噴射する力を利用してるし、機体が浮力を活かしやすい形で下向きの力より上と前への力が大きんだと……詳しくなくてすいません」
「こういうのが作れたらワイバーンがいなくても海を超えられそうなのにな」

 キリソンさんは飛行機を作る気満々なのかな。有名な飛行兄弟を考えると、木製の飛行機から作っていったほうがいいかもって思うけど、だからといって俺は詳しくないから説明できない。
 人力だと……テレビでやってた鳥人間コンテストだって、飛んで数百メートルだもんな。それにこっちだと海に落ちることが万が一にもあったら大変なことになっちゃう。

「デンキって雷のやつだったよねぇ?」
「あ、うん。でも雷はパワーがありすぎるから、発電所、変電所とかを経て電圧とかを一定にして各家庭に届けてるんだ」
「でもイクミは光をデンキに変えるやつよくぶら下げてるじゃん」
「ソーラーバッテリー?」
「どうなってるの、あれ」

 ひぃ……俺に解説なんかできるわけないじゃん。

「ごめん、仕組みは全然わからない。便利だから買っただけだもん」
「わからなくても使えるってところがいいよねぇ」
「イクミ、私もそれを見てみたい」
「見ます? ルイ、俺の荷物出していい?」
「今出す」

 俺はルイにマジックバッグからソーラーバッテリーを出してもらって、みんなの前に置いた。室内だから発電はされていない。チャージされるところを一応見せたほうがいいのかな。

「ヴァン、光出せる?」
「いいよー」

 ヴァンの光魔法で部屋の中はかなり明るくなった。それと共に、俺のソーラーバッテリーのインジケーターがチカチカと光りだす。でもほぼ満タンだから、こうなって発電中なのがわかるんだよってのを見せただけ。

「ヴァンありがとう。消していいよ。……こんな感じでまずはバッテリーに電気を貯めます。で、この充電されたバッテリーにコードを繋いで……」

 俺が次にしたのはLEDライトへの充電。これもインジケーターが点滅する。

「貯めた電気のうちの少しをこっちに移すってイメージですかね。そうすると、これが使えるようになります」

 ツマミを回すとライトが点く。それを見たキリソンさんとネイヴさんが「おおおっ」と声を上げた。魔石が中に入っているのかってきかれたけど、似たようなもんだと言っておいた。魔石は魔力をチャージできるんだから、説明合ってるよな?

「ヴァンは魔法を組み合わせて雷を作ったと?」
「あのときは3、4種類組み合わせたとか言ってたよね?」
「お試しだけどねぇ。水、氷と土と風ね。あと術式で範囲指定とか強さとかもろもろ調整」
「うーむ、私にできるかな……」
「え? キリソンさんて魔導士なの?」

 びっくりして俺は思わず口に出しちゃったんだけど、ヴァンはしれっとした表情だった。あれ……驚いたの俺だけ?

「イクミは感知できないからしょうがないよねぇ。キリソンさんもネイヴさんも魔力相当多いよ」
「うちは直系男子は魔力が多いんだよ。海守りを続けないとならないからさ」
「なるほど……考えたらそうか。結界管理してるんだもんね」

 役に立つかはわからないけどと言って、ヴァンは成功した雷の出し方をキリソンさんたちに説明していた。あのとき俺の話した雷発生のメカニズムまでちゃんと覚えてて、説明に付け加えてるのはさすがヴァンとしか言いようがない。


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 実在した人物名は少し変えております。
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