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情報収集の旅へ

183.キリソンさんの話

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 昼間はキリソンさんは閉じこもっていて、俺たちは朝と夜に話している。昼間は少し離れたところに足を伸ばして魔物を仕留めに行ったり、1回街に戻ったりしてた。
 料理を作ってあげた――というか、自分たちの軽食的に作ったのを見られた――ら更に気に入られたのはちょっとラッキーだったかもしれない。塔への出入りがかなり自由になったんだよね。ていうか、俺ってこっち来てから料理ばっかだな!

 そういえば……魔力の話なんかは、ヴァンからいろいろ習ってるしそんなに新しいこともないだろうって思ってたのに、珍しい魔力が失われる病気とかの話があってさ。それはヴァンが食いついてた。
 
「え! じゃあ、生まれたときからほとんど魔力がない人の場合と、後天的に魔力がなくなる場合があるってこと?」
「そうなんだよ。さらに言えば……取り込む機能に問題が生じるのが原因のときと、体内に留めておくことができないのが原因のときがあって、これは、先天的なときも後天的なときも両方に見られる」
「オレは師匠から、病気になると身体から魔力が抜けていくって話しか聞いたことがなかったよ……」
「その場合は、後天的で、さらに身体に魔力を留めておくことができなくなったということだ」
 
 ルイと俺は楽しそうなヴァンを見ていた。ルイなんてあまり興味なさそうな顔をしてるけど、あれでちゃんと聞いてるし覚えてるんだよね。
 俺としては魔力の話も聞いてみたらかなり面白かった。まだ出会ったことないけど、俺みたいに魔力がめっちゃ少ない人がいるってことだもんな。とはいえ、俺の魔力は少しずつ溜まってきてるはずだけど。
 
「かなり昔は、魔力がなくなるのは創世神から見放されたからだとされたときがあったらしくてね。差別なんかもあったようだ」
「え……ひどい」
「でも今はそんな話聞かないってことは、そうじゃないってわかったってことだよね?」
「と、聞いてはいるが実際はどうだろう。そもそも魔力がなくなる病気のやつらが表に出てくること自体が珍しいから。……私も塔からほとんど出ないけど」

 病気で差別はどこでもあるのか……なんか悲しいな。この世界ってさ、魔力と魔法があって、ある意味自然と共存しやすい世界じゃん。だから、もっとこう、みんなが協力しているような平和な感じを期待してたんだよね。村なんてそうだったしさ。世界的に見たら貧困とかはこっちのほうがマシなんだとは思う。でもやっぱり、難しいよな……どうしてもマイノリティってそうなりやすいっていうかさ。

 魔力の話は俺の求める不思議現象とは少し違うけど、でも魔力が当たり前の世界の人からしたらそんな病気は十分不思議現象なわけで……。
 俺は魔力が少なくても倒れないけど、もともとたくさん魔力がある人が、病気のせいで魔力が空に近くなるとしたらしんどそうだもんな。この謎の病気も解明できたらいいけどな。

「ところで、魔力は関係ないんだがこれを見てくれるか」
「これは?」
「お前たちに貰った鉱物を金属板にしたんだ」

 鉱物の塊がいつの間にか加工されていた。なんか武器でも作りたいのかなとか思ったけど、これに色をつけるにはとか言うんだよ。

「キリソンさん、金属はその金属の色合いしかオレ知らないよ。魔物の革なら染料があるけど金属でしょ? 溶かしたときに別の金属を混ぜたら変わるのかな」
「俺もあまりそういうのは詳しくないな。確か、海を渡った大陸にはそんな技術をもった種族がいたんじゃ?」
「うーん……そういうんじゃないんだ。こう、金属は変えずに色をね?」

 カーツさんの金属は黒っぽい。これに色を付けたいっていうのがよくわからないんだよな。

「んー? キリソンさんは塗装したいってことなの?」
「イクミ、何それ」
「えっとつまり……金属の上に色の塗膜層をつくるってことなんだけど。えっとぉえっとぉ、金属って革や布みたいに色が染み込まないでしょ? だから表面に色の層を重ねるの。乾いたら剥がれないようなやつで。そんな塗料が存在するのかはわからないけど」
「それだあああーっ!」
「ひゃ!」

 キリソンさんの大声に耳がおかしくなるかと思った。俺の肩を掴んで揺さぶってくるのをどうにかしてぇ。
 それはどうしたらできるかとか言われたけど、さすがに俺にはわからないよ。だってペンキとかって有機溶剤系っぽいじゃん? そんなのここにあるのかな。

「ちょっと落ち着いてくれ。イクミの首が……」
「すまないすまない! 今まで、その色の層についてを考えていたんだが、同じように思いついてくれる人がいなくてね」

 キリソンさんの仕事が何なのかよくわからなくなってきたなぁ。金属の塗装技術を確立して鎧とかをカラフルにする事業を始めようとかそんな感じなのかな。
 でもメインの役割は海魔物の脅威から街を守ることなんだよね?

 ──カランカラン

「おっと、客か?」

 キリソンさんは走って部屋を出ていった。

「お客さんも来るんだねぇ」
「大事な役割もあるみたいだし、来るんじゃない? 確かに少し変わった人だったけど、悪い人じゃないし」
「研究者気質なのは確かだな。内容はよくわからないが」

 そんなことを話していたら、キリソンさんが若い男性を伴って戻ってきた。どことなくキリソンさんに似ているような……?

「息子が帰ってきただけだった」
「……だけってなんだよ」
「「はじめまして」」
「お客様が滞在してるとか珍しすぎて驚くんだけど。あ、ネイヴ・イーゼだ」
「ヴァンだよ。こっちはイクミとルイ」

 不思議現象の調査のために来たという、いつもの理由を伝えれば、息子さんにはすぐ納得された。ネイヴさんはこの塔から街を挟んで反対側に行っていたらしい。

「結界関係のことはもう何年も僕が主でやっててね。父からは口伝の受け継ぎとかされてるけど、僕はまだ覚えきれてないんだ」
「口伝って大変そうですね」
「まあね。でも子どもの頃からだし、この家系に生まれたからそんなもんって思ってるけど。父は夢中になってる別のことがあるしさ」

 少し話が逸れちゃったけど、また俺たちは金属板の周りに集まった。キリソンさんは、金属を薄くしたら軽くなるけど形を維持できないとか、一枚板で立体を作るのは無理が……とかブツブツ独り言が止まらない。

「ね。こんな感じでさ」
「何を作りたいんですかね?」
「いや……作りたいというよりは、再現したいんだと思う。失われた技術をね」
「失われた?」
「もしかしたら言葉の使い方が間違ってたかもな。失われた、もしくは未知のっていうか」

 失われた技術といって思い出すのは、ムル村へ行くときに見たでかい結界石みたいなやつ。アレは竜族の遺産みたいなもんなんだよね? あんな風な半永久的に使える、効果も半端ないやつが再現できたらすごいよな。

「こんだけ父が話してるんだから、君らももう見たんだろ?」
「何がですか?」
「見てない?」

 俺もだけど、ヴァンやルイですらわけがわからないって表情を浮かべている。

「父さん、アレ見せてないの?」
「見せてなかったが、この子なら構わんね」

 キリソンさんは俺と肩を組んで、今まで入ることのなかった塔の奥に続く扉まで歩く。俺がメインみたいだけど、ルイとヴァンが着いてきても問題ないみたいで良かったよ。

 そして、ずいぶん厳重に守られている部屋の中に入った。

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