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情報収集の旅へ

180.海のこととか色々。

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 海守りの塔の主人には全然会えないし、見かけたら声をかけてと伝えた食堂や酒場のマスターたちも一度も来ていないと言っていた。まあね、まだまだ街での聞き込みも終わってないからいいんだけどさ。
 
「なんかさ、聞いても塔は行ったかみたいな返事が返ってくること多くて、先にそっち行けるなら行きたいって感じだよね……」
「まあ、しょうがないじゃん? オレたちの鎧なんかの修理が終わってないんだから」
「明日には防具屋にできてるか確認に行くから焦るな」
 
 焦ってるってほどじゃないとはいえ、聞き込みするとあまりにも塔の話が返ってくるから、なんとなく言っただけなんだよな。若者は不思議話も好きな人いたけど、情報は眉唾みたいなのしかなくてさぁ。

 でも面白い話もあったよ。海の魔物系の話なんだけど、なんかご当地七不思議みたいな感じで興味深いよね。大型海洋魔物ってやっぱり鯨とか鯱みたいなやつが魔物化したんだろうなって思う。ただでさえ大きい鯨が魔物化したらどうなるんだろうね。陸の動物でさえあんなにでかくなるっていうのに……。

 そういうでかい海洋魔物が入らないために、浅瀬が続いたような土地じゃなきゃ、こういった海の街は作れないってことだもんな。本来なら船が出せて交易とか遠洋漁業ができるのが海のいいところなのに……もったいない。

 今も俺たちは、酒場近くの海辺で舟を修理していた日焼けの眩しい爽やかな若者に話を聞いている。

「そういえばさ、小さめの魚魔物……魔魚? はくるの?」
「あー、いるよいるよ! 旅人だとあまりその話は聞かないだろうね」
「え、オレもその話聞いてみたい」
「うちは舟を持ってるから、海のことには敏感なんだよ。追い込み漁なんかもやるけど、魔物が混ざると商品にならなくなっちゃうんだ。だから、感知したらすぐ退治のための討伐隊が結成される。魔力結界はどうやら網目みたいになってるらしくてさ、大きいと弾かれるんだけど、そのかわり小さめだと結界すり抜けてくるんだよな。小さめでもかなり強くてなー。だから冒険者じゃなくても海の男は腕っ節がいいんだぜ」

 ちなみにやっつけたソイツを食べるのは討伐隊の特権らしい。つまり……美味しいんだろうなって思ったよね。羨ましいな、俺も食べてみたかった……そこまで考えて、魔物を食べるとかやだなって考えてたのがすごくすごく前のことで驚いたよね。すっかり食材として見てる自分に笑う。

「そういえば、海の魔物と戦っちゃだめじゃなかったの?」
「ああ、それはね、外海の魔物だけだ。死人が出るだけだからね。この入江から外海までに3つの結界があるんだぜ? 魔物が中に入るのも大変だけど、俺らも舟で外に出るのは無理ってわけ」
「入ってきたやつを倒すのは街を守るためにも必要ってことか」

 で、そんな話を聞いていたら、全部の結界に関係してるのが海守りの塔なんだそうだ。めちゃめちゃ大事な施設じゃんね。
 だからこの街の人は領主より塔の主人を大事にするらしい。昔からの血筋ってことも関係してるみたいだけどね。

「オレたち、塔の主人に会いたいんだよね。話を聞きたくてさ」
「見かけたら話してはおくけど、しばらく見てないな」
「まだしばらく滞在するし、最終的には約束できなくても訪ねるつもりだから、機会があったらでいいよ」

 俺たちは若者にお礼を言って別れた。
 そういえば、俺は領主とやらのことは全然わからないんだけど、そういう偉い人ってどこにいるんだろう。

「え? 領主?」
「うん。一応国があって、領に分かれてるってことなんでしょ?」
「オレはあんま興味なくてわかんないな。ルイ?」
「ああ、渓谷あたりは手付かずの辺境と思っていい。領主はこの街にはときどき視察に来ているってことだな。ここに住んでいるわけじゃない」

 もっと便の良いところに居を構えて政務? をしてるってことか。

「ま、国を取りまとめてる人は大神殿のある都にいるし、領主なんかも普段はそっちに近いところにいるんでしょ。予想だけどさ」

 そっか……大神殿は創世神様の神託があるかもしれないんだもんな。そしたらそこにすぐ行けるほうがいいってことか。あと、よくよく聞いたら国の代表は国王とかって感じよりは、大統領とか総理大臣に近いこともわかった。

「選ばれて代表になるのか……」
「ある意味神託でな」
「なるほど。創世神様に選ばれたら誰も文句言えないもんね」
「領主なんかは世襲が多いが、創世神に認められようと横暴なことやるやつはいないからか、特に一般人から抗議があることもないな」

 それっていいな。私利私欲に目が眩んだら創世神様から見放されるのか。そして、それが国の代表を決めるときにバレると……? うっわ、怖い。そりゃ真面目にやるしかないね。

「領主なんてしたいもんかねぇ? オレなら絶対面倒くさくってやだよ。好きなことしてたいもん」
「ヴァン、価値観は人それぞれなんだよ。俺は飽き性だから長い目で見て計画していく仕事は向いてないけど、そういうのが好きでみんなが平和に暮らせるように才能を使いたい人だっているんだろうしさ」
「まあねぇ……でもやっぱりオレは村がいいな。なんかやるにも全員で協力するのがいいよ」

 村は税金もなくて国の手が入らない代わりに、全部自分たちでやってるもんね。でもあそこはその方式で上手くやれる善良な人だけがいるからできてるんだよな。あと、いい感じにこじんまり──っていっても畑とかすごいけど──してるからか。

 酒場が開店したら、場所を酒場の中に移した。
 入江付近だけでも大きい酒場が3ヶ所あって、門側とか宿の近くも合わせるとかなりの数がある。でも塔の主人が比較的よく来るのはお酒やご飯が美味しいところみたいだね。

「いらっしゃい。今日も前と同じの?」
「覚えてるの!?」
「だって来たの少し前でしょ? さすがに覚えてる──」
「酒場なんて酔っ払いの客がいっぱいいそうなのに、すごい記憶力……才能だ……」
「いや、むしろ、酔うほど飲まない変わった客だから覚えてたんだよ。ははは」

 ここは塔の主人が多く目撃されている酒場だ。街中にあるからか、入江のそばより少し洒落た感じの造りをしている。客は酔っ払えばどこもたいして変わらないんだけどね。

 そして店員さんに同じのを出してもらった。俺のはワインとベリージュースを半々に混ぜたやつだ。酸味が強くてルイは好きじゃないらしいんだけど、俺は結構気に入った。こういうフルーツをたくさん使えるのも『街』だからなんだと思う。

「なんか、毎晩どこかの酒場に顔を出してて、だめな人間になった気分」
「なんでだめなのさ」
「いや、俺のあっち基準の偏見だよ。晩酌はあってもなかなか毎日居酒屋で酒を飲む大人はいなかったから」
「晩酌をどこでするかの違いじゃないのか?」
「そうなんだけどねぇ……だから俺の偏見ってこと」

 海外じゃ水の代わりにお酒を飲むような国もあるんだよな……。だけど俺は日本人だからさ。つーか、父親の影響なんだよな。あの人は酒弱くて、平日は一切飲まない人だったし、「週末でもないのに飲むなんて」ってよく言ってたんだ。こんなときに思い出すとか、父親とは反りが合わないって思いつつも、俺にめちゃくちゃ影響与えてるよなぁ……。
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