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情報収集の旅へ
177.海だ魚だ食堂だ!
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まずは魔物素材を換金してから、武器屋と防具屋に行った。俺ってば武器はアーティファクトだし、安全なところにいるばかりだから鎧も無傷。その代わり、ルイやヴァンはちょいちょい傷だらけなんだよね。
「この鎧は急ぎかい?」
「いや、しばらく滞在する予定だ。ただ……近々、塔に行きたいんであまりゆっくりじゃないほうが助かるんだが」
「塔に? 近いとはいえ街の外だし必要だよな。ちょっと、急ぎの修理が立て込んでるから、2人分で7日くらいみてもらえるかな」
「おやっさん、全然構わないよ! むしろ早い。ありがとね」
2人は受取日の相談をしていて、俺は自分の革鎧を見下ろしていた。使用感はあれど魔物傷は一切ない革鎧……なんとなく申し訳ないような気もしてくる。
「そこのあんちゃん、それも調整してあげるよ」
「え?」
「それ、随分いい魔物の革を使ってる。けど、私が見たところ少し身体に合ってないところがある」
「そ……そうですか? 俺は変な感じしないけど」
ルイがついでに依頼しとけというから俺のも預けることにした。おじさんにいろいろメジャーで計測されるし、戸惑いしかない。
ここでもバングルのタグが活躍した。ていうか、宿でも使ったんだけど、これと紐付けすることで取り間違えが起こらないようになってるんだって。宿でも部屋の鍵として使えるんだよな……大きい街すごい。
「ところで──」
ルイがいつもの俺の設定を説明してくれて、防具屋でも情報の聞き込みをしてくれる。
「ああ! それで塔に行きたいってんだね!」
「うんうん。今のそこの当主は少し変わり者だって聞いたけど、会えると思う?」
「大丈夫だと思うがなぁ。一時期はよく酒場に顔を出してたみたいだが」
「それ、なんて酒場?」
俺が口を挟むことなく話は進んでいく。なんか、ごめん……全部やらせてて。俺の目的のための旅なのに、いつも2人がなんとかしてくれちゃってる。
安心したのは塔の主人は『変わり者』といっても、街の人によくわからないことを聞いてくるような人ってことで、人を避けるような偏屈な人ではないってことだ。人嫌いだった場合、どう歩み寄ったらいいのかわからなかったから本当によかった。いくらカーツさんが金属塊をくれても近づけないんじゃしょうがないもんね。
そんなことを聞いたあと、防具屋を出た。
「俺の鎧も預けるなんて思ってなかったよ」
「あそこはこの街で一番腕がいいからな。なにか気になったんだろうな。それに、立て込んでるって言ってた割に、7日ほどで3人分仕上げてくれるなら早いほうだ」
「おやっさん自体は特に不思議現象の情報は持ってなかったけど、酒場教えてもらったのはよかったねー」
今も塔の主人が酒場に来てるのかはわからないけど、もしかしたら会えるかもしれないんだもんな。そしたら、いきなり訪ねていくよりはいいかもしれない。
「まだ明るいから酒場は開いてないかもだね」
「とりあえず、イクミが行きたがってた入江に行くか」
「行きたい!」
どうやら聞いた酒場も入江の近くらしくて、時間つぶしも兼ねて入江に行くことになった。
少し歩いていけば、潮風がかなり感じられて、水路が見えてくる。
「この水路は海水?」
「ああ。これは街の中で潮位を観察するためのものらしい」
「だから海っぽい匂いが強いんだね」
この街はムル村やマギッドの町と比べても、断然石造りが多い。道も石畳だし。と、辺りを見回しながら歩いて、見えた海。俺は走り出しそうなのを我慢したよね……。
浜辺と違って、人工の入江になっているからか、寄せては返す波って感じじゃなかったけど、たぱたぱと海面が揺れている。
「海だよ、海!」
「そりゃあねぇ」
「砂浜とかないのがちょっと寂しいけど」
それでもなんとなく気分が上がっちゃうよね。俺は山派ではあるけど、自然全般が好きなんだ。こっちに迷い込んじゃってからは周りは山ばかりだったから、海を見られたこと自体が嬉しいんだ。
入江にはヴァンが言ったみたいに、小舟が何艘か停められている。日本で言う小型漁船ってとこかも。大海原に出ていかないとなると、漁師さんも厳ついわけじゃないのかなぁ。俺の勝手なイメージだと、海の男はさ……こう、日焼けしてねじりハチマキでムキっとしてるか、漫画なんかだと荒くれ海賊なんだけど。
「なぁに、ひとりでブツブツ言ってんの?」
「あ……いや……こっちの漁ってどんなかなーって」
「さあ? オレたちも知らないよ。ねぇ、ルイ」
「ああ」
魚は食べても漁は知らなくて当たり前か。しばらく滞在してたら見かけることもあるかな……。
「俺、漁のこと考えたら少しお腹空いてきちゃった」
「今日は早めの夕飯にするか」
「魚料理がいい!」
「オレは最近の店わからないなぁ。ルイはおすすめの店ある?」
「そうだな、俺がよく行くのは──」
ルイは魚料理好きそうだから、ルイがよく行くところなら美味しい気がする。滞在中に開拓するのもいいかもだけど、初めて行くところはルイの行きつけにしよう。
そのお店は海からかなり近いところにあった。ま、ここはどの店も海に近いけど、俺たちの宿のあるような高台じゃなくて、入江の真ん前みたいなとこね。しかも、ぱっと見開いてるのか閉まってるのかわからなくて、俺ひとりなら絶対に入らないだろって感じ。
「食堂ってより酒場に近いから、こんな店構えなんだ」
「でも塔の主人が来るとこじゃないんだね」
「ああ。防具屋の言っていた店ではないな」
本格的な酒場は夜にならないと店が開かなくて、ここは食堂でもあるから日中から開いてるそうだ。ドアを開けて入ると……。
「いらっしゃい!」
「3人いい?」
「もちろん。まだ客が少ないから好きなとこ座っていいぞ」
確かに店内はまだ満席ではない。けど、お兄さんが言うほど少なくもないと思うんだけどな。俺たちは店の奥の方に4人がけテーブルが空いてるのを見つけてそこに座った。
「確かに薄暗くて酒場っぽいね」
「食堂みたいにワインだけじゃなくて、いろいろな酒も置いてるんだ」
「だから、酒場寄りってこと?」
「お、君は来るの初めてなのか? うちはもともと酒場で、料理が美味いって言われて日中も開けるようになったんだ」
お、なんかマギッドの宿を思い出すな。そんな経緯なら料理に期待しちゃうよね。それで、お兄さんにおすすめを聞いて、ルイの好きなやつといくつか頼んだ。
黍粉を使ったトルティーヤみたいなのもあるみたい。ルイは頼んだことなかったみたいなんだけど、俺はそれも欲しくてお願いしたんだ。もちろん定番のカロイモもね。カロイモのいいところは安くて沢山食べられる主食ってところだ。大飯食らいのヴァンがいるから欠かせないよ。
「料理が出てくるのが待ちきれないね」
「オレも楽しみー!」
ルイとヴァンは強いお酒も頼んでた。俺はお兄さんに聞いたワインを使った飲み物──聞いた感じあっちで言うサングリアみたいなやつかな──をお願いした。果実と果汁が入ってるから少しアルコール度数弱くなりそうと思ってね。
「この鎧は急ぎかい?」
「いや、しばらく滞在する予定だ。ただ……近々、塔に行きたいんであまりゆっくりじゃないほうが助かるんだが」
「塔に? 近いとはいえ街の外だし必要だよな。ちょっと、急ぎの修理が立て込んでるから、2人分で7日くらいみてもらえるかな」
「おやっさん、全然構わないよ! むしろ早い。ありがとね」
2人は受取日の相談をしていて、俺は自分の革鎧を見下ろしていた。使用感はあれど魔物傷は一切ない革鎧……なんとなく申し訳ないような気もしてくる。
「そこのあんちゃん、それも調整してあげるよ」
「え?」
「それ、随分いい魔物の革を使ってる。けど、私が見たところ少し身体に合ってないところがある」
「そ……そうですか? 俺は変な感じしないけど」
ルイがついでに依頼しとけというから俺のも預けることにした。おじさんにいろいろメジャーで計測されるし、戸惑いしかない。
ここでもバングルのタグが活躍した。ていうか、宿でも使ったんだけど、これと紐付けすることで取り間違えが起こらないようになってるんだって。宿でも部屋の鍵として使えるんだよな……大きい街すごい。
「ところで──」
ルイがいつもの俺の設定を説明してくれて、防具屋でも情報の聞き込みをしてくれる。
「ああ! それで塔に行きたいってんだね!」
「うんうん。今のそこの当主は少し変わり者だって聞いたけど、会えると思う?」
「大丈夫だと思うがなぁ。一時期はよく酒場に顔を出してたみたいだが」
「それ、なんて酒場?」
俺が口を挟むことなく話は進んでいく。なんか、ごめん……全部やらせてて。俺の目的のための旅なのに、いつも2人がなんとかしてくれちゃってる。
安心したのは塔の主人は『変わり者』といっても、街の人によくわからないことを聞いてくるような人ってことで、人を避けるような偏屈な人ではないってことだ。人嫌いだった場合、どう歩み寄ったらいいのかわからなかったから本当によかった。いくらカーツさんが金属塊をくれても近づけないんじゃしょうがないもんね。
そんなことを聞いたあと、防具屋を出た。
「俺の鎧も預けるなんて思ってなかったよ」
「あそこはこの街で一番腕がいいからな。なにか気になったんだろうな。それに、立て込んでるって言ってた割に、7日ほどで3人分仕上げてくれるなら早いほうだ」
「おやっさん自体は特に不思議現象の情報は持ってなかったけど、酒場教えてもらったのはよかったねー」
今も塔の主人が酒場に来てるのかはわからないけど、もしかしたら会えるかもしれないんだもんな。そしたら、いきなり訪ねていくよりはいいかもしれない。
「まだ明るいから酒場は開いてないかもだね」
「とりあえず、イクミが行きたがってた入江に行くか」
「行きたい!」
どうやら聞いた酒場も入江の近くらしくて、時間つぶしも兼ねて入江に行くことになった。
少し歩いていけば、潮風がかなり感じられて、水路が見えてくる。
「この水路は海水?」
「ああ。これは街の中で潮位を観察するためのものらしい」
「だから海っぽい匂いが強いんだね」
この街はムル村やマギッドの町と比べても、断然石造りが多い。道も石畳だし。と、辺りを見回しながら歩いて、見えた海。俺は走り出しそうなのを我慢したよね……。
浜辺と違って、人工の入江になっているからか、寄せては返す波って感じじゃなかったけど、たぱたぱと海面が揺れている。
「海だよ、海!」
「そりゃあねぇ」
「砂浜とかないのがちょっと寂しいけど」
それでもなんとなく気分が上がっちゃうよね。俺は山派ではあるけど、自然全般が好きなんだ。こっちに迷い込んじゃってからは周りは山ばかりだったから、海を見られたこと自体が嬉しいんだ。
入江にはヴァンが言ったみたいに、小舟が何艘か停められている。日本で言う小型漁船ってとこかも。大海原に出ていかないとなると、漁師さんも厳ついわけじゃないのかなぁ。俺の勝手なイメージだと、海の男はさ……こう、日焼けしてねじりハチマキでムキっとしてるか、漫画なんかだと荒くれ海賊なんだけど。
「なぁに、ひとりでブツブツ言ってんの?」
「あ……いや……こっちの漁ってどんなかなーって」
「さあ? オレたちも知らないよ。ねぇ、ルイ」
「ああ」
魚は食べても漁は知らなくて当たり前か。しばらく滞在してたら見かけることもあるかな……。
「俺、漁のこと考えたら少しお腹空いてきちゃった」
「今日は早めの夕飯にするか」
「魚料理がいい!」
「オレは最近の店わからないなぁ。ルイはおすすめの店ある?」
「そうだな、俺がよく行くのは──」
ルイは魚料理好きそうだから、ルイがよく行くところなら美味しい気がする。滞在中に開拓するのもいいかもだけど、初めて行くところはルイの行きつけにしよう。
そのお店は海からかなり近いところにあった。ま、ここはどの店も海に近いけど、俺たちの宿のあるような高台じゃなくて、入江の真ん前みたいなとこね。しかも、ぱっと見開いてるのか閉まってるのかわからなくて、俺ひとりなら絶対に入らないだろって感じ。
「食堂ってより酒場に近いから、こんな店構えなんだ」
「でも塔の主人が来るとこじゃないんだね」
「ああ。防具屋の言っていた店ではないな」
本格的な酒場は夜にならないと店が開かなくて、ここは食堂でもあるから日中から開いてるそうだ。ドアを開けて入ると……。
「いらっしゃい!」
「3人いい?」
「もちろん。まだ客が少ないから好きなとこ座っていいぞ」
確かに店内はまだ満席ではない。けど、お兄さんが言うほど少なくもないと思うんだけどな。俺たちは店の奥の方に4人がけテーブルが空いてるのを見つけてそこに座った。
「確かに薄暗くて酒場っぽいね」
「食堂みたいにワインだけじゃなくて、いろいろな酒も置いてるんだ」
「だから、酒場寄りってこと?」
「お、君は来るの初めてなのか? うちはもともと酒場で、料理が美味いって言われて日中も開けるようになったんだ」
お、なんかマギッドの宿を思い出すな。そんな経緯なら料理に期待しちゃうよね。それで、お兄さんにおすすめを聞いて、ルイの好きなやつといくつか頼んだ。
黍粉を使ったトルティーヤみたいなのもあるみたい。ルイは頼んだことなかったみたいなんだけど、俺はそれも欲しくてお願いしたんだ。もちろん定番のカロイモもね。カロイモのいいところは安くて沢山食べられる主食ってところだ。大飯食らいのヴァンがいるから欠かせないよ。
「料理が出てくるのが待ちきれないね」
「オレも楽しみー!」
ルイとヴァンは強いお酒も頼んでた。俺はお兄さんに聞いたワインを使った飲み物──聞いた感じあっちで言うサングリアみたいなやつかな──をお願いした。果実と果汁が入ってるから少しアルコール度数弱くなりそうと思ってね。
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