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情報収集の旅へ

176.海辺の街

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 途中、また山があったり大きめの川があったりしながら野営しつつ旅を続けて、とうとう見えた海辺の街。
 
 大きなゆったり流れる川を見たとき、そろそろなんだなってのはなんとなくわかってたんだ。だけど、やっぱり目の前に防壁が見えてくると感動しちゃうよね。しかもムル村やマギッドの町なんかと規模が違いすぎる。
 
「やっと……」
「あは。イクミ、泣きそうじゃん。別にここがゴールじゃないんだよ?」
「わかってるよ! でもさぁ」
 
 いやね、思ったよりカーツさんのところを出てから長くてさ。ムル村を出てマギッドの町に着くまで以上にかかったんだ。歩くスピードは海辺の街に向かってるときのほうが速かったから、距離はこっちのほうがあったはず。
 そんなこともあって、ちょっとこう……ね?
 
 防壁に近づけば近づくほどわかる海辺の街の大きさ。村の防壁なんて目じゃないくらい立派で、正直ちょっとびびるくらい。思わず「お城?」って呟いて、笑われちゃったもん……。
 
「こんなにすごいとは思ってなかった」
「主要都市ってのはこんな感じなんだよ。ま、税金もそれなりにかかるんだけどね」
「やっぱ高いんだ……3人で長期になっても平気?」
「金のことなら問題ない。1人で来るときよりかなり魔物を狩ってるしな」

 そうか……そういう事情もあってヴァンは魔物に突撃しまくってたんだな。もちろん食料のこともあったんだろうけど、魔物素材ってそんなに高値で売れるってことか。
 俺からしたら、魔物素材はきったない毛皮とか角とかにしか見えない。でも、渓谷周辺の魔物は強いしでかいし、やっぱ貴重なのかなとも思う。

 今回も街に入るための手続きはルイがやってくれる。マギッドの町のときみたいに軽く終わるのかと思ったけど、規模が違うからかそんなことなかった。

「イクミ、こっちに」
「まずはこの記録の魔導具に手を置いて」
「これってマギッドで手を当てた玉みたいなやつ?」
「似たようなもんだ」

 ああいった記録用の魔導具は形はそれぞれだけど、機能はだいたい同じらしい。手を当てた人の生体情報を読み取るんだって。それこそ外見から魔力の波長とかまでっていうんだからすごい。

「ま……魔力取られた……」
「あー、そうか。オレたちからしたら微々たるもんだったから忘れてたよ」
「イクミ、体調は大丈夫か?」
「大丈夫。でも4分の1くらい持ってかれた感じした」

 ちょっと予告無しで吸い取られるのはないよなぁ。魔力が極端に少ない人はほとんどいないのかもしれないけどさ。ていうか、これって俺に魔力が宿らなかった場合どうなったんだろう。

「イクミ、手首を」
「え?」
「ほら、係の人にタグをつけてもらって?」

 よくわからないままに左手を差し出すと、手首に金属製のバングルみたいなのをはめられた。ヴァンはタグって呼んでるけど……魔導具なんだよな?
 いろいろ聞きたい気持ちはあるけど、とりあえずは質問とかはせずに言われるがままに手続きをしてもらって、街の中に無事に入ることができた。

「ねぇ、これって?」
「これは管理タグだ。街の住人ではないって証でもある」
「町と違ってここって大きいでしょ? 外部から来る人が多いんだよ。つまり、人の把握が大変なの。このタグにさっき読み取った情報が記録されてて何かあったとき照合できるんだよ」

 なにそれ、めっちゃハイテクじゃん。ペットなんかにつけるICチップが頭に浮かんだんだけど、性能的には圧倒的にこっち……。

 でも!
 そんなことより、防壁の中に入ったからこそわかるほんのりとした潮の香りにそわそわしちゃう。広さがかなりあるのか、潮騒は聞こえないし海も見えてないんだけどね。

「俺、海見たい! 海、海!」
「まずは宿を決めよう。見に行くのはそのあとだ」
「中央部にしようよ。普段ならいいけど端の宿は不便だよ」
「そうだな……」

 さすがに街は大きいからか、宿が何軒もあるみたいだ。ルイとヴァンが俺を挟んで話している。俺が1歩下がろうとすると、2人も合わせてゆっくりになって、下がらせてくれない。

 挟まれて話されるの気になるんだよなぁ。あと、なんか、周りの視線がね。悪意じゃなくてさ……その、女の子のね。
 わかるよ? ルイはカッコイイし、ヴァンだって黙ってたら美形だと思うもん。そこに平凡な俺が挟まれてるわけ。つらい! 居たたまれない!

 結局どうしてもズレたいなら俺たちの前に来いとか言われて、どうにもならなくて宿屋まで挟まれて連行された。体感20分くらいかな、店なんかの並んでいる坂道を上っていく。

「ここでいいか?」
「オレは賛成」
「任せる」

 宿ではルイが4人部屋を借りていた……。町で俺がわがまま言ったからだよなぁ。お金のことを少し心配したけど、気にするなって言われちゃったし申し訳ない。申し訳ないとは思うものの、ルイの気づかいが嬉しい。

 部屋はシンプルだけど広さもあって清潔感がある。それに今まで見なかったガラスのはまった窓を初めて見た。あっちの世界みたいな透明のガラスじゃなくて、気泡の入った少し濁ったガラスなんだけどね。それでも外の光を通す窓ってのが、高級感あるように見えちゃう。

「イクミ、開けてご覧。ここは高台だからさ」
「窓? わかった」

 留金を外して窓を開けると……。

「わっ! わあぁ」

 遠くに海が見える! それに、異国情緒漂う街並みも。
 窓を開けたことでよりはっきりとわかる潮の香りは、別に海の近くの生まれじゃない俺にも妙に懐かしく感じられた。

「あそこが入江なの?」
「ああ。元々の地形を活かして、さらに魔物が入ってこられないように人の手が入ってる」
「魚食べたいな……」
「そうだな、俺もだ」

 ヴァンの声が聞こえなくて振り返ったら、俺の方をニヨニヨ見てた。た、確かにルイとくっつきすぎだったけど、窓がそんなに大きくないんだからしょうがないじゃんか。

 それにしても……。
 不思議な海だ。街並み的にはあっちでいう地中海とかそんな感じなんだけど、海としては日本海の荒波みたいな雰囲気っていうか。色……なのかなぁ。今日は微妙に空がどんよりしてるからなのかも。
 
「入江を作って何してるの? 海に入っちゃいけないんだよね?」
「外海には出られないけど、作った入江の中だけは舟を出してるよ。魚を獲ったり、塩を作るためにきれいな海水を汲み上げたりしてるからその管理でね」
「あっ、そうなんだね」

 てっきり封鎖されて入れないのかと思ってた。じゃあ、少しだけ海で遊べるのかな……遊びたいとかじゃないけどさ。早く入江に行ってみたくてソワソワしてきちゃうな。

「イクミ、落ち着いてよ。観光したいのはわかるけど、まずは換金」
「それと修理に出したいものがあれば先に出しとかないとな」
「イクミは攻撃食らってないし、ルイの武器防具くらいじゃない? あ、でもオレの脛当てと革鎧はちょっと見てもらおうかな……」
「そうしろ。ヴァンは防具屋にもっと行くべきだ」

 えっとぉ……口を挟めない感じになってきちゃったな。まあ、俺は2人に合わせるよ。海は逃げないもんね。
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