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情報収集の旅へ

169.ヴァンにプレゼントを貰った

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 町で過ごす最後の夜。
 とりあえず、毎日俺が床でもいいってヴァンに言っては断られていて、案の定今日も断られた。
 
「だいたいさ、もう今さらなんだから寝る場所なんて変えなくてもいいでしょ?」
「だってさぁ……」
 
 ヴァンはそんなに気にするのはおかしいって言うんだ。ルイみたいにじゃあベッド使わせてもらうなって感じでいいのにって。
 
「イクミを床に寝させられないと言うわけじゃなくてさ、やりたいこともあったし、オレは床が結構落ち着くわけ。そりゃベッドが空いてて使えって言われたら使うけど」
「俺も床に布団は落ち着く方なんだけど……」
「猫に譲ってくれてもいいでしょ?」
「あーー、うーーん……?」
 
 また押し切られた気はするけど、本当に気を使ってベッドを譲られてるんじゃないならいいのかな。
 ルイはたまにちらっと俺とヴァンを見るけど、明日の出発に備えてか武器をひとつずつチェックしている。さすが余念がないなぁ……見習わないとだめだよね。
 
「さぁさぁ、イクミ。ちょっと短剣を貸してごらん?」
「短剣?」
 
 ほとんど活用されていない俺の短剣を鞘ごとヴァンに渡した。ヴァンと組手をしたときは棒切れを使ったしね。短剣の柄にはルイにもらった護符にもなるっていう飾りが揺れている。
 
「うんうん。相性悪くなさそう」
 
 ヴァンが飾り紐の金属部分のすぐ下あたりに何かを当てている。
 
「ちょ……ちょっと、何してるの? 壊さないでよ?」
「そんなことしないって。少し魔石を足すだけ! 護符の効果は崩さないよ」
 
 ヴァンは細かい作業をする工具みたいな一式をバッグから取り出すと、飾り紐に加工を始めた。ルイにもらった大事なやつだから、少しヒヤヒヤしながら見ていたけど、ヴァンの手は迷いがない。
 
「うん、いい感じじゃないかなー」
「できたの……?」
「できたよ。護符の効果も少し増加したね。ほら!」
 
 ヴァンに短剣を差し出されて受け取ると、ルイにもらった飾り紐にきれいな赤い石がプラスされていた。
 
「きれいな赤い石……ん? これ、赤い石じゃないのか」
 
 真っ赤に見えた石はとところどころ透明な部分があるようだ。
 
「んん? ストロベリールチル?」
 
 金運の石として有名なルチルクォーツの赤いやつ、あれに似てるなと思って灯りに透かしてみた。なんにしてもきれいなことには変わりなくて、石の中の赤いキラキラを見つめていたらヴァンに声をかけられた。
 
「どう? 気に入った?」
「うん。すごくきれいだね。魔石なの?」
「魔石だよ」
 
 ヴァンは「覚えてる?」と粉を見せてきた。これはジェムパウダーだったっけ……。ここに来てすぐくらいのときに質がいいのが手に入ったってめちゃめちゃ喜んでたやつだろ? ……てことはヴァンが作った合成魔石なのか。
 
 ──材料わかる?
 
 急にかなり声を落としてヴァンが囁いてくるからびっくりした。材料って……。
 
「んー……俺に魔石の材料なんて当てられると思う?」
「もう! これは遅れたけど誕生日の贈り物なんだよ? イクミの喜ぶものに決まってるじゃん」
「え……そうなの? ありがとう」
 
 魔石の中のいろんな方向を向いている赤いすじが、光の加減でキラキラと輝いてその不思議さに吸い込まれそうだ。そっか、この赤ってルイの赤に似てる。似て……る?
 
 目の前で揺れている魔石……と、その向こうに見えるルイを凝視していると、ヴァンがくすっと笑った。
 
 ──わかった?
 ──まさか?
 ──欲しそうにしてたからねぇ
 
 からかわれると思って欲しいって言えなかったのに、すでに見破られてた上に、プレゼント用に加工されてた……。
 
 ──これなら持ってても怪しくないからね
 
 いや、まあ、確かにあの捨てるはずの毛先をそのまま持っていたら怪しいだろうけど、気づかいが逆に恥ずかしいじゃないか。でも持ち歩けるようにしてくれたのは素直に嬉しい。
 
「イクミ? 何貰ったんだ?」
「え……あ……赤い、魔石」
「ふぅん、魔石か」
「そそ。ルイの護符の効果を高めるやつあげたんだー」
「よかったな、イクミ」
 
 ルイは、素材にされてるなんてこれっぽちも考えてなさそうにそう言いながら、明日の準備を続けている。
 
 ええー……どうしよう、嬉しい。
 気づいてなかったときでも石がきれいでにやにやしそうだったのに、知ってしまったら顔の緩むのが止められない。
 
「ヴァン……ありがとう」
「気に入ってくれたみたいで良かったよ」
 
 思いっきり何度も頷いて少し首が痛くなりそうになった。でもそのくらい、このプレゼントは嬉しい。

 今、俺の弓にも短剣にも飾り紐がついていて、両方ともめちゃめちゃ大事な宝物になった。村の子どもたちの応援の想いの飾り紐と、ルイとヴァンが俺をお祝いしてくれた護符の飾り紐……どっちも俺をばっちり支えてくれそうだ。
 
 あとでこっそり聞いたら、こういう魔石材料でないものを封じ込めるのはかなり技術がいるらしい。しかも、赤い石に見えるくらいあんなにたくさん入れたのはヴァンも初めてだったんだって。
 
 ここに着いて、質のいいジェムパウダーが手に入ったから、毎日夜中に実験しながら作ってたって言うんだもん……驚いちゃったよ。だから床を確保してたみたいなんだよねぇ。
 
「誕生日の人が喜ぶものか、甘いものでお祝いするって言ってたからね。これしかないかなって。我ながらいいアイデアだったよね!」
 
 俺は枕元に短剣を置いて、飾り紐をずっと見ていた。LEDライトで照らすと封入された赤のキラキラをいつでも見ることができる。布団に潜り込んでグフグフしちゃいそうなのを必死に堪えながら、眠くなるまで見てたんだよね。興奮しすぎたのは言うまでもないんだけど、こんなのしょうがないと思うんだ。
 
 翌朝、最後の煮込みを堪能して、女将さんとはハグまでしてしまった。すっかり仲良しになってしまったからなんとなく寂しいな。煮込みは最初とは段違いに美味しくて、改良版1号からさらに進化してる。
 すでに評判が広まっているのか、宿に泊まっている人以外も食べに来たいって言ってきてるらしい。
 
「役に立ったみたいでよかったです」
「かなり味がお祖母ちゃんの思い出に近づいてきた気がするから、本当に感謝してるよ。うちの親戚のところには是非行ってみてね。たぶん、古い出来事も口伝で残していると思うから」
「ありがとうございます。すごく助かります」
 
 この町じゃ手がかりは見つけられなかったけど、海辺の街に行ったらまず立ち寄ってみようという場所もできたし。目的地があるっていいよな。
 
 俺たちは防具なんかも久々にしっかり身に着けて宿を出た。
 
「さすがに、少し寂しくも感じるなぁ。村を出るときよりは全然軽い感じではあるけど」
「イクミには初めての町だったもんね。そのうち慣れるよ」
 
 ここは町の中央に近いから、俺たちは町を出る門のほうへ歩いていた。そこそこ朝早いと思うのに、市場なんかもあって活気があるのがなんかいい。
 
「あ! イクミたち!」
 
 
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