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情報収集の旅へ

166.めっちゃ美味しい肉に出会った!

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 武器屋のあとは俺の予想通り防具屋だった。ここでも特にヒントになりそうな話は聞けなかったんだよね。でも優しそうな防具屋の夫婦は、その見た目の柔らかさとは違ってかなり強いらしい。ルイが言うんだからきっとそうなんだろう。
 
「あはー! オレ、防具屋とかほとんど来たことなかったや」
「武器屋、防具屋、万屋は旅の基本だろうが」
「オレの基本は武器屋と魔導屋なの。攻撃を受けなきゃ防具だってヘタらないんだからさぁ」
「ねぇ、当たらなければどうということもない……みたいな考えやめよ? 怖いよ」
「だって、このオレがしょっちゅう攻撃食らうと思う?」
 
 すごい自信だね……。確かに、ちょっと苦戦した魔物だって、防戦で手一杯だとしてもほとんど攻撃食らってなかったけどさ。でも攻撃を受けないわけじゃないじゃん。
 
 ちなみにルイは、攻撃を防ぐよりその間合いに入って斬ったほうが早いと思ったら、攻撃受けつつ突っ込むから少し心配になるんだよね。よほどじゃないとサディさんの薬も飲んでくれないし。
 
「とりあえず、今日は外の料理屋で夕食探してみよっか」
「楽しみー!」
 
 そこまで大きな町ではないとは言っていたけど、小さな店なんかはぼちぼちある。俺の想像した異世界風の町とはまた少し違うんだけど、石というか土魔法の造りの家が並んでいる様子は日本とはまるで違う。
 村は家自体が少なかったし、建ってる家も壁や屋根に苔や植物が生えてたりしてたから、こうやってきれいな石造りの建物が立ち並んでいるのは物珍しく感じるんだよな。
 
「あ、なんか……ものすごくいい匂いする」
「ここにしてみるか?」
「うん!」
 
 まだそんな暗くなってないのに、覗いてみれば店はかなり賑わっている。もしかして人気のお店なのかなと思って、ルイに聞いてみたけど知らないって。
 
「あれ……君たち……」
「あ! 花畑の」
「もしかして食べに来たの? 珍しくナイライが出たらしいから、ボクも急いで来たんだ」
「ナイライ? 俺は匂いに釣られて」
「知らないで来たんだ……。鼻がいいのか運がいいのか」
 
 聞けばナイライってのはこの辺にたまに出る魔物で、この辺りにしては大型の美味しい魔物なんだそうだ。名物にできるほどしょっちゅう出ないけど、絶品で町の人はみんな大好きなんだって。
 
「それでこんな早い時間から賑わってたのかぁ」
「たぶん……仕事中断して来てる人もいるよ」
「そんなに? ……え、楽しみになってきた」
 
 俺がそわそわしてると、彼が席を詰めて座らせてくれた。でも無理やり座ったからぎゅうぎゅうで、ルイは立ってるって言って俺の斜め後ろにいる。
 
「ボクはビタ。さっきは名乗りもしなくてごめんね」
「いや、オレたちも名乗ってないし気にしなくていいよ。オレはヴァンだよ」
「俺はイクミ」
「……ルイ、だ」
 
 自己紹介がてら少し話せば、少し年上かと思ったビタは俺と同い年。俺の顔をまじまじと見るくらい驚いてはいたけどね……こっちの人からしたらどうせ俺は童顔チビだよ、くそ。
 
 俺たちは注文もビタに任せて期待しながら料理を待つ。もう、なんていうか、この世界に来てからは嗅いだことがないようないい匂いでお腹がぐうぐう鳴っている。恥ずかしいけど、こんなの止められるはずがないよ……なにこれ、スパイスとか使ってるのかな。
 
「特別な味付けなのかな……楽しみすぎてやばい」
「俺はこの町によく来てるが、ナイライなんて知らなかったな」
「そんなにしょっちゅう現れないんだ。だから、ボクたちだって捕れたって聞いたら騒いじゃうんだよね」
 
 ガヤガヤした店内ではすでに肉にかぶりついている人も多い。見た感じは他の魔物肉とそこまで変わらなさそうなんだけど、とにかくさっきから匂いがやばいんだよな。
 
「おまちどう! 待たせてすまないね。おかわりはできないからね!」
「やったぁ!!」
 
 大皿に乗った骨付き肉が4本。大きいからテーブルに皿が置かれたときゴトンとすごい音がした。あと、ワインのような酒も置かれる。
 
「ほら、初めてなんでしょ? 食べて」
 
 ビタが勧めてきたのもあって、俺は骨を握って肉をかじった。
 
「ふぁ! にゃにほえ!!」
 
 ヴァンも目を見開いているし、ルイもいつもみたいに無言でガツガツ食べてる。
 肉はグリルしただけに見えるのに、柔らかくて肉汁もたっぷり溢れてくる。そして、なんといってもスパイシーな独特の風味。日本を離れてからこういう刺激的な味は自分の持ってきたコショウ、トウガラシやニンニク以外で初めてだ。
 なんだろう……ピリピリするようなしびれるような、それでいて口に残らない感じ。肉の脂もこのスパイシーな味でしつこい感じが全然ないんだ。
 
「うっま! やばい! これはすごい。どんな味付け? 調味料知りたい!」
「イクミの料理魂に火がついたねぇ」
「ええ……君、料理までするの?」
 
 ビタがものすごく驚いた顔をしていた。そして、ビタが教えてくれたのは、このナイライの肉は素焼きでこうなるんだってこと。切って焼くだけでこんなスパイシーな味に? ってものすごく驚いた。
 
「普段は塩味がせいぜいだから、ナイライが出たらもう大騒ぎだよ。絶対仕留める! って町中で一致団結するね。とはいえ、この町じゃそんなに戦える人は多くないんだけどさ」
「いや……これは……そうなるよねぇ。えー……まじか。こんな味の肉があるんだ……」
 
 ビタにナイライの話を聞きながら、俺はこれを活かした料理が何か作れないかななんて考えてた。とはいっても、そんなに現れるわけじゃないって言ってたし、村で言うムシャーフとかミュードみたいなもんなのかな。
 
「あ、あの……さ。ボク、君の話を聞いてみたいんだ……」
「え、俺?」
「うん……。だって魔力が極端に少ないんだろ? なのに冒険者だし、でも毎日畑仕事してたって言うし、言葉もそんなにできなさそうなのに」
「イクミは努力家だからな」
「ボクは、畑仕事なんてってずっと思ってた。でも働かなきゃいけないし、そしたらボクが強くなる時間なんてないよねって思ってて。こうやってナイライが出たって聞いても仕留められたのを食べるしかできないんだ。生まれた環境のせいでって……」
 
 ビタは苦しそうに話し始める。
 なんか話が長くなりそうで、店に迷惑になりそうだったからとりあえずルイに会計してもらって外に出た。俺たちが畑を手伝ったからか、ビタの今日の仕事はもう終わってるみたいで、時間がありそうだったから中央広場のベンチみたいなところに移動する。
 
「環境……か。それはイクミに言っちゃだめな言葉だね」
「……うん。話を聞くまでは戦う才能を伸ばせるいい環境にいたんだと思ってた。ズルいなって目で見てたんだ……ごめん」
「いや、そんなの見てわかるもんじゃないししょうがないよ。俺は別に責める気ないけど?」
「あ、りがとう……。で、でね……どうやって強くなったのか聞いてもいい?」
 
 まいったなぁ……俺は自分自身じゃ強くなった気があまりしてないんだよ。でも前に2人にも言われたけど、村以外には俺なんかより戦えない人がたくさんいるってことだったし、ビタからしたら俺も強いんだよな?
 
「俺はね、まずは基礎トレを毎日。畑仕事の前とか後とかに鍛錬だったよ。最初なんてぶっ倒れてばっかりで、子どもたちにも応援されるくらい弱かった」
「ほ……ほんとに?」
 
 ビタが縋るような目で見られて、俺は何か力になりたいなって思った。
 
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