上 下
165 / 202
情報収集の旅へ

165.花の収穫手伝っちゃった!

しおりを挟む
「人には遅刻すんなって言っといて、何こんなとこで話してんですかね?」
「おー、すまんね」
「君たちもまだいるとか……物好きだね」
 
 ここで俺がいきなり手伝いたいとか言い出したら、全員が困るんだろうなぁ……。でも気になるんだよねって思っていたら、ルイが俺の肩をポンと叩いた。あー、バレてる。
 
「お……俺にも収穫体験させてもらえないですか?」
「体験って」
「俺、畑とか好きで……大事な花をだめにされるかもって思うなら、何か交換で参加費っていうか条件教えてもらえたら……」
「いや、まあ、収穫の手が増えるのは助かるけどなぁ」
「イクミって……まあ、オレも手伝ったげるけどさ」
 
 おじさんに話を聞いてみれば、花はまず茎ごと収穫、一年草だからその後は根っこごと掘り返して畑の一角へ積むってことだ。それなら俺にも少しはできると思う。ルイは少しばかり複雑な表情だったけど、そこまで繊細な作業じゃなくて安心してそうだ……ごめんね、俺に巻き込まれて。
 
 収穫した花は、花びらの色や茎の太さでさらに倉庫で仕分けされている感じみたい。そのあと、倉庫の奥に続く工場みたいなところで加工されるんだろう。
 
 畑の主人であるおじさんに端っこの方で指示を受けていると、あの男性が風魔法を使って刈り取っていた。
 
「おおお、魔法すごい」
「魔法は普通だろう? あの子は上手だけどね」
「おじさん、イクミはね、魔力量がめっちゃ少ないの。だからオレたちでいう普通ができないんだよ」
「それでよく手伝いたいって言ったもんだ! ははは!」
 
 そりゃ、スピードなんかじゃ負けるだろうけどね。
 畑仕事がそこまで得意じゃないと思ってるルイだって、刈って集めるだけなら俺より早い。
 
 俺は手作業だからこそ丁寧に……サディさんの薬草畑を思い出しながら作業してる。実は薬草のときは収穫の仕方で品質に影響があったんだよね。だから、なるべく切り口がきれいになるように短剣で刈っていく。あと、倉庫で仕分けるのはわかってるから最初から分けて刈り取ったものを積んでいった。
 
「へぇ、あんちゃん魔法はできなくても上手だね。茎の線維が潰れてないし色分けのセンスもある。それに植物の扱いが丁寧だ……ていうか、魔法刈りより質がいいな」
「手作業収穫は慣れてるんです」
「畑の大きさからして全部を手作業するわけにはいかないが、高品質用に手作業を併用するのはいいかもなぁ」
 
 おじさんは俺の刈り取った花を見てかなり褒めてくれている。そう評価されればさすがに俺も嬉しくなっちゃうじゃん? 照れるけどおじさんと話していたらあの人が来た。
 
「君……本当に魔力少ないの?」
「あ、うん。子供以下……かな。あはは……」
「それでも、冒険者なんだ」
「ひとりじゃ何もできないから助けてもらってるんです。本当に感謝しかないっていうか」
「イクミはね、魔力が少ないから必死で鍛錬して、武器も何種類か使えるようになったんだ。オレらなんかよりたくさん努力したんだよ。だからオレは旅を手伝いたいって思うようになったんだ」
 
 どうやら、ヴァンは俺がこの男性を気にかけてるのがわかってるみたいで、すかさずフォローを入れてくれる。
 
「植物のことも詳しいわけ?」
「毎日畑の手伝いしてたから」
「……」
 
 彼は俺を見て黙りこくってしまった。まあ、うざがられるだろうからしつこく話しかけるのはやめておこう。
 
 午前中だけ畑の手伝いをして、仕分けも少し手伝ったかな。ルイは収穫以外はできる気がしないって見ていたけど、オレとヴァンで色分けとさらに茎の太さ分けをやったんだよね。
 これはオレとヴァンの連携が上手くいって、ちゃっちゃとできたから楽しかったな。
 
「あんちゃんたちのおかげで今日の作業がかなり早く終わったよ。ありがとなぁ」
「いえ……無理言って参加させてもらってすいません。俺、久しぶりに畑の作業できて楽しかったし懐かしかったです」
「さすがに染料にするところまではお邪魔しないから安心して! 秘密も多いだろうからね。じゃあイクミ、行こうか」
 
 畑の人たちにお礼を言って3人で中央部に戻ってきた。
 俺は村で1年畑に行っていたからか、土や植物に触れてなんかすごく癒やされたーって感じがあったんだよね。
 
「まったく……イクミってばいきなり何やってんの」
「だって色々気になったからさぁ」
 
 ヴァンの口調は責める感じではなくて、呆れてるというか諦めてるというか? でも笑ってるからいいよね。
 
「俺さ、花びらだけ使うのかと思ってたよ!」
「その辺はオレたちも知らなかった。普通、そこまで聞かないもん。素材と魔力が関わるからきっと何か特殊な方法があるんだね」
「風魔法で刈り取れるのは助かったな……」
 
 ルイが安心したようにつぶやくから笑っちゃった。確かに薬草は丁寧に作業しなきゃならないやつだし、野菜も根菜だったり葉物だったりと混在してたから、村での収穫は魔法使えなかったもんなぁ。村あげてのブドウの収穫のときも手作業だったし……そう考えれば1種類の花しかないのって楽なほうなのか。
 
 とりあえず、俺たちは話しながら武器屋に行った。そう……数少ないルイの顔見知りのひとりだ。武器や防具の店の人や魔物の素材の売買所の人なんかがルイがそこそこ知ってる人。
 宿だって毎回泊まるだろうにって思ったら、最初の手続き以外ほとんど話さないから、女将さんがああいう人だって知らなかったんだって。まあ、ルイは必要なこと以外は話さないだろうからねぇ。
 
「オヤジ、いるか?」
「おー、ルイ。珍しい季節に……ん? 連れか?」
「「こんにちは」」
 
 俺とヴァンの言葉がぴったり重なって吹いてしまった。
 ルイが俺の設定上のプロフィールを話してくれて、それを聞きながら武器屋のオヤジさんは物珍しそうに顎髭を撫でていた。
 
「また随分めんどくさい家に生まれちまったんだね」
「いや、まあ……面白いですよ……?」
「そりゃあね、家業ってのはなかなか切り捨てられないもんさなぁ。でも冒険者できる実力があるのにそれを続けてるってこたぁ、やっぱりそれが好きなんだろうね」
 
 オヤジさんはひとりで話しながら、うんうんと頷いている。自分も昔は武器屋なんぞ継がずに冒険者になって町を出ると思っていたのに、いつの間にか継いでいて、気がつけば自分の息子に任せられるくらいになっていたよなんて笑うんだ。
 
 そんなオヤジさんの話もたくさん聞きながら、世間話のようにふわりと世界の不思議現象なんかの聞き込みをする。わかってはいたけどヒントになりそうなことなんて全然引っかからない。
 
 雪山には海の魔物に負けず劣らずのやばい魔物がいて、そいつを倒すと神殿が復活するらしいなんて、異世界七不思議みたいなのも聞けたから面白いといえば面白かったんだけどさ。
 でもね、雪山ではないけど、そっち方面から……というか、神殿遺跡から俺たちは来たんだからね。あまり信憑性の高い話ではなかったかな。
 
 いやいや、想定内想定内……。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。 ※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。 ※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

処理中です...