霧の向こう ~ 水の低きに就くが如し ~

隅枝 輝羽

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情報収集の旅へ

160.町だ!!!

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 俺のしょぼくれのせいで、それからは振り回された……。でもこれは自分の撒いた種だからしょうがない。かなりヴァンからの無茶振りも入っていたけど、必死でついていく。少しばかりルイが呆れた目をしていたような気もしないでもない。
 
「いやー、イクミ、頑張るねぇ」
「俺が……頼んだから」
「無理してそうなら俺がストップかけるからな」
「やだなぁ、オレだってちゃんと見てるよ?」
 
 ヴァンは、なんか余計な魔物も倒しに行ってる感じはするんだよな……。でも俺には正しい道なんてわからないし、こっちだと言われたら行くしかないじゃん?
 
「んふふー。肉結構集まったね。あと、コレ見て。この角いい値で売れるよ」
「そうなんだ……」
「さて、このあとは町までガッツリ行こう」

 そのセリフ通り、今度は歩くスピードが増した気がする。でもちゃんと俺がついていけるスピードなんだよね。だんだんと草の感じも変わってきてるし、歩きやすくなってきてる。

 ◇◇◇

「町だ……」

 野営を挟んで歩き続けていると、先の方に村のときみたいな防壁がばーっと続いているのが見える。村を出て何泊も野営しながらやっと、中継地点の町に着いたんだ……って何かこみ上げるものがあった。
 徒歩で旅をするのも初めてだったし、それが異世界だったし、結構緊張してたみたい。

「入るときはルイが代表で手続きしてくれるけど離れないでね。たまに変な人が紛れてるときあるからさ」
「わ……わかった」
「海辺の街とは違って人が少ないから怯えなくていい」
 
 ルイが補足してくれても、なんとなく怖くなってビクビクと辺りを見回すと、「まだ門は先なのに」とヴァンに笑われた。
 
 門に着くと、確かに人はほとんどいなかった。ルイが、出ていく人は朝だし、来る人はバラけるからって言ってたな。門での手続きは何かをルイが記載して、それぞれ手を当てさせられた。俺はルイとヴァンに言われるがままだ。だって……村と違って、守衛さんが俺にちゃんと話しかけてこないと言ってることがわからない……。
 
「OooOoOOoooOo」
「いや……今回は仕入れとかじゃないんだ。旅の共みたいなもんで……あ?」
 
 守衛さんとルイは顔見知りみたいだ。なんか揉めてる? と思ってヴァンに聞いてみたら、ひとりじゃないルイが珍しくてからかわれてるみたいなもんだよって教えてくれた。
 
「ああ、こいつがイクミ。代々古代のこととか世界の不思議を研究している家系で、そんな書物ばかりに囲まれていたから共通語が不自由なんだ。だから魔導具がないと通じにくい」
「!?!?!?」
 
 え、なにその説明……俺ってそんな人なの?

 ──それなりに違和感ない設定をルイが作ったんだよ。合わせなって!
 
 後ろからヴァンにヒソヒソと話しかけられた。あ、そ……そうだよな。
 
「よ、ろしくお願いします。イクミです」
「ようこそ、マギッドへ。それにしても変わったことやってる家系なんすね。言葉、不便だろうに……でもすごい魔導具すね」
「あはは……い、家の物を使わせてもらってる、だけで……」
 
 なんかボロが出そうで怖いよ。ていうか、やっぱり異世界から来たとかは言わないほうがいいもんなの?
 
「ねぇねぇ、宿空いてそう?」
「ooOOOo」
 
 俺がしどろもどろなのを察してか、ヴァンが割り込んで宿のことを聞いてくれた。
 ああ、緊張した……やっぱり俺ってちょっと人見知りだよな。うー……ていうか、俺の受け答え守衛さんに失礼じゃなかったかな? かえって怪しまれてたらどうしよう……。

「宿大丈夫そうだよー。さっさと行って借りよ」
「そうだな。イクミもゆっくり休みたいだろう」

 守衛さんにお辞儀をしたら変な顔で見られた。お辞儀、しない感じ? やっちゃった……。

「そんなの気にしなくて平気だよ。いろんなクセの人がいるんだから。自分はこう! って堂々としてなよ」
「でもせっかくルイが俺の設定作ってくれたんだよ?」
「いや、だからでしょ。世間から離れてた研究学者一族なんだから、変なことしても大丈夫だよ」
「ヴァン……イクミを」
「からかってないでしょお!? なんでだよ!」

 この2人はどこに行ってもこんな感じなのかな……。ううん、ありがたい。なんかちょっと力抜けた。俺がニヤニヤしながら2人を見てたのに気づかれて、今度は俺をぐりぐりしてくるヴァン。

 そして、この町に1軒だけという宿に着いた。

「だから、うちは1人部屋か2人部屋しかないんですよ」
「俺、床に寝るんでもいいんで、3人同じ部屋にして下さい……お願いします」
「いやいや、イクミ、別に1人部屋と2人部屋でいいでしょ?」
「3人がいい……」
「悪い。料金は2部屋借りた料金払うから2人部屋に3人で入らせてくれ」

 ルイが交渉してくれて、3人1部屋になった。宿の人は変なモノを見るような顔で俺を見ている。自分から部屋を狭く使おうとするのが理解不能ってことだろう。俺、この町に来てから変な顔をされすぎだ。

「イクミがあんなにワガママ言うなんて珍しいよねぇ」
「だって……せっかく3人で旅してるのに。宿でみんなで夜ゆっくりするとか修学旅行みたいじゃん」
「シューガク?」

 修学旅行は通じなかったけど、いつもは野営で交代しながら見張りだから3人で話しながらゆっくりしたいんだ、という俺の気持ちはわかってもらえたみたい。
 部屋で装備を外してラフな格好になると、やっと息がつける感じがする。2つのベッドの間にあの魔物の毛皮を敷いて、そこに俺が座ろうとしたらヴァンに「イクミはベッド」って怒られた。俺、床で寝るのなんて日本で普通だから気にしないのにな。

 この町でも一応は聞き込みをするからしばらく滞在するらしい。聞き込みだけじゃなくて、町を見て回るのも楽しみだ。

「聞き込みをするときも、さっきのイクミの設定が役に立つね。ルイってば、いつ考えたの?」
「いや……すっかりそのこと忘れてて、さっき咄嗟に」
「うそぉ……」

 ルイって少し不器用そうなのに意外と……いや、失礼か。
 えっと、俺は『古代と世界の不思議を研究している』んだよな。いろんな昔の言語が混ざっちゃった理解不能な言葉を話す……から、通訳の魔導具が必須という設定。

「異世界って言葉は使わないほうがいいの?」
「いや、それを研究してるっていうのは大丈夫だろう。ただ、俺にはイクミが異世界から来たと広まってしまったとき、ムルの人と違ってどんな反応になるか予想がつかない」
「オレも最初は信用できる人だけにしといたほうがいいんじゃないかなーとは思うよ。珍しいってことはいいことばかりじゃないからねぇ」
「そっか。村じゃ普通に受け入れられてたから、考え方がバグってた。そうだよね……見世物になるのはやだもんな」

 今日はこのあと魔物素材を少し売って、宿の人がやってる食堂で食事をする。さらっと町を見て回って、聞き込みは明日ってことだ。
 そこまで期待はしてないけど、何か小さい手がかりでもあればラッキーなんだけどな。
  
 
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