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情報収集の旅へ

159.自信がつきそうでつかないジレンマ

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 野営を挟んで、どんどん歩いていけば、空気がもわもわとしてくる。なんか急に下界に来たぞって感じだ。登山しててもあるんだよな、こういうの。

「もうすぐ山も終わり?」
「あとちょっとかなあ。しばらく森は続くけど急なアップダウンはなくなるね」

 俺は山を降りたら草原とか、うまくしたら道でもあるんじゃないかって期待してたけど甘かったね。

「森は続くのかぁ」
「イクミ、森があるのはラッキーなんだよ? なーんもないところを考えてみなよ。体力の消耗半端ないから」
「あー、日差し? それはちょっとわかるな」

 ムル村は霧のおかげでいつも日差しは柔らかかったし、気温も過ごしやすかった。でもきっと、こっちじゃそうはいかないだろう。ただね……俺は日本のアスファルトやコンクリートに囲まれた輻射熱地獄を知っている。あれからしたらずいぶん楽なんじゃないかなって思うんだよね。

「イクミ」
「ん?」
「魔物来るよ、構えて」

 言われて気持ちを切り替える。弓矢を構えるまでの反射神経は、ここに来るまでにめっちゃあがった。遠くに何かが動いているのが見えるけど、まだ俺にはいまひとつ目視しきれてない。
 魔力で把握できない俺は、動いているからと矢を放つのは怖いんだ。それが人だったらどうしようとか考えちゃうからさ。

「イクミのペースでいいよ、いつでも放てるようにしててくれれば」
「……」

 俺は徐々にこちらに来ている魔物と思しきものをじっと狙っているけど、2人もなぜか動かない。やっと俺の目に「魔物だ」と認識できて、より一層弓に集中して呼吸を合わせる。

 ──シュッ

 まるで直線に飛んでいっているようなくらい、まっすぐに魔物の眉間に矢が吸い込まれていった。咆哮をあげ……られずに魔物が倒れる。

「え?」
「うっわぁ、キレイに行ったねぇ」
「やるな」

 何が起こったのか一番わかってないのは俺だ。
 え? 俺の1射で倒したの?

「これ、食べられるやつだよ、イクミ早く!」
「あ……うん」

 確かに村の周りで遭遇したやつよりは小型だ。でもやっぱそれなりに大きな魔物なわけで……。俺だけで倒した実感がまだない。

「どうした?」
「ヴァン、魔法使ってた?」
「使ってなかったな」
「俺しか攻撃してない?」
「ああ」

 ルイが俺の頭をふわりと撫でて、魔物の解体を始めた。今さらだけど、かなり遅れて倒した喜びが湧いてきてニヤニヤとしてしまう。
 確かに魔物はやや小型化して弱くなってる……のかもしれない。でも、そんなことはどうでもいいんだ。俺でもできるんだなって思えたから。

「この調子でどんどんやってねぇ」
「ちゃんとフォローしてくれるなら」
「当たり前だろ」

 あとからわかったけど、これはヴァンが俺に自信をつけさせようと、比較的小さな魔物を探知して仕留めさせてくれたみたい。
 でも最初の1射で終わるとは思ってなかったらしい。そりゃ、小さいっていっても小動物とは比べ物にならない大きさではあるしなぁ……俺もびっくりしたもん。

 その次からは3人で協力して倒すような大きめのも出てきたけど、俺は前よりは自信を持つことができたから、本当に2人ってすごい。

「今日は森の中で野営して、明日は森が終わると思っていいよ」
「そうなんだ」
「もうだいぶ町に近い」

 いや、俺は2人の言う「近い」がそこまででもないことを知ってるから、もう期待はしていない。期待しないでおいて早く着いたら嬉しいしさ。
 森があるところでの野営のほうが薪の確保とか、皮をかけたり肉を干したりする木があるから楽なんだって。一応柱にできるようなものもマジックバッグに入れてきているらしいけど、自然の中でなんとかできるならそうしたいってことみたい。

 俺が作る料理だってだいぶワンパターン化してきてるっていうのに、2人はすごく嬉しそうに食べてくれる。

「え、全然飽きないよ? 朝と夜で調理法も違うし美味しいもん」
「ああ。うまい」

 薬草パウダーもかなりケチってるのになぁ。普段どれだけ……と何度目かになることを考えてた。

 翌朝から歩き始めればすぐ森の出口が見えてくる。うへぇ……草が多いな。背丈に近いくらいの草が続いてそうな感じというか。あっちでも、よくこういうところに分け入ってたから俺は知ってる……草についてた虫がこっちの服につくんだよな。

「うわ……やだなぁ」
「見てて」

 ヴァンが不思議な手の動きをさせると、まるで昔流行ったミステリーサークルみたいに草が折れずに曲がって道ができていく。

「なにそれ、すごい」
「勢いよく草を刈っちゃうと、仮に人がいたとき刈っちゃうじゃん? だからね」
「怖いこと言わないでよ」
「悪人なら刈ってもいいんだがな」

 えええ……いや、まあ、そうか? いや、違くね?
 ルイだけなら適当に自分の前の草を切りながら雑に進んでいくらしい。でも今は俺がいて、3人だからってヴァンが安全な道を作ってくれたんだ。相変わらずの至れり尽くせり。

「魔物は出るからね。弓は手に持ってたほうがいいかも」
「うん」

 でも魔物の探知は2人に任せようっと。こんな丈の草が続いてたら俺にはわからないもん。
 少し心していたけど、やっぱり村の近くより魔物が少ないみたいで襲われることはなかった。襲われることはなかった……というか、ヴァンが襲いに行ってたから。

 食料がーって言ってたから、狩りにいったんだろうなってのはわかったけど、急に草むらの中に消えるのはやめてほしい。ルイがついていてくれたからいいけど、俺はどうしたらいいんだよってなったもん。
 待ってたら獲物引きずってきたけど、俺はドン引きだよ。

「せめて、指示出してから動いてよ……」
「だって逃したくなかったし」
「イクミ、待ってればいいだけだから気にするな」
「でもさぁ……」

 俺は気になるんだよ。ただでさえ2人に付き合ってもらっちゃってるって気持ちがあるから、少しでも戦えるようになってるなら役に立ちたいの。俺にできることって今まで料理くらいだったじゃん……だから。

「イクミ」

 ルイが俺の頭を撫でるんじゃなくて、肩を組んできた。え……珍しいって思って、ルイを見上げた。

「お前はよくやってるし、役立たずじゃない。それに俺たちはイクミと一緒にいて楽しいんだ。村のみんなもそうだった。イクミがいるだけで空気が明るくなる。それは誰にでもできることじゃない。俺たちは助けられてるんだ」
「ルイ……」

 なんで……ルイにはわかっちゃうんだろう。でも俺からしたら、こんなことを言わせちゃってることも、気を使わせてるみたいでさ。
 これって全部俺に自信がないのが原因なんだよな……。ずっと言われてるのに直らない。

「よーし! じゃあ、オレ、イクミにどんどん指示出すから! 無理とか言わずについてきてよね」
「え、あ、うん」

 一際明るい声でヴァンが言って、それと同時に圧がかかった……。ひえって思うけど、でも、まくしたてられる方が考えないで済むんだよな。本当はそれじゃだめなんだという気もするけど。
 
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