上 下
157 / 202
情報収集の旅へ

157.魔力コントロールの練習でもやるか

しおりを挟む
「ええー!? なにこれぇ」
「……」
 
 いや、ある意味成功なんだよ……でも違うんだ。俺が求めてたのはそれじゃない。

 俺の手から先、シェラカップまでの範囲からふわーっと白いものが立ち上って消えただけ。うん……加湿器だね。雨だからそんなのいらない。
 
「魔力の無駄遣いじゃんか……」
「まあまあ。これはこれで、うん、イクミのイメージ通りではあったんでしょ?」
「それがまた微妙に悔しい……」
 
 俺の微々たる魔力が文字通り霧となって消えただけ。むぅと口を尖らせていたら、ヴァンが背中をバシバシ叩いてきた。
 
「何言ってんの。変換能力が上がってるんだよ! すごいよ」
「でもまたしばらくできないもん」
「……イクミ、焦るな」

 刃を見ていたルイが俺に声をかけてきた。研ぎながらも様子を見ててくれたのかな。ルイの前の武器類は2つに分けられていて、終わったものとこれからのものってことみたい。俺が見てもどっちがどっちかわからないんだけどね。

「ううー、肉でも食べようかな……苦しいけど」
「イクミ」
「無理するな、でしょ? わかってるよ……」

 どうしようもなくて、とりあえず魔力を手の外に少し出してみては戻す、みたいな練習だけすることにした。変換するともっと魔力が減っちゃうからね。

「イクミイクミ。魔力の粘度を変えてみて」
「は?」
「なんていうか、イクミの魔力って透明感っていうか本当にさらっさらの水みたいだよね? それをこう……なんていうかさ」

 水ね……弓のせいってのもあるよな。確かに俺はそういうイメージで扱ってるもん。粘度ねぇ……餡かけみたいのとか? 水飴もいいかなぁ……うん、水飴可愛いかも。

「やってみる」

 食材店に売っているプラケースに入った透明の水飴を思いだして、想像でいじくり回す。こう……スプーンですくって、くるくるって巻きつける感じー?

「おおおっ!」
「できてる?」
「めっちゃできてる! つか、それ……粘度どころか固形じゃん!」
「いやいや、俺には見えないって……」
「俺にもわからん」

 俺とルイは、宙を見てケラケラ笑ってるヴァンをなんとも言えない感じで眺める。とりあえず、できてるっぽいからいいんだけどさ。ヴァンに言われてやってみたけど、これが何に役立つのかはさっぱりわからない。

「面白いよ、イクミ! そんなの村の人でもできない人多いと思う」
「別に出し物じゃないんだけど……」
「やだなぁ、別にからかってないし。こういう魔力コントロールは大事なんだ。モノや誰かに対して魔法を使うときとかはこうやって魔力を絡みつかせるほうがいいしね」

 なるほど? いや、俺には今ひとつよくわかってないけどね。ルイは武器の手入れを止めてこちらを見ている。でもヴァンみたいに感じ取れるわけでもないから、俺の手の辺りを眉間にしわを寄せて睨んでるように見えちゃう。

「コレのほうがいいの?」
「いや、さっきのでもいいんだけどさ。さらさらをコントロールするよりはやりやすいでしょ?」
「まあ、言われてみれば……」

 俺がよくわからないなりに、手に出しているであろう水飴状の魔力をくねくねさせていると、ヴァンはゲラゲラ笑いだした。俺の妄想はちゃんと形になってるっぽい。

「じゃあ、魔力量が回復したらまたここから水の微粒子に変換して振動させるってことだね……がんばろ」
「ヴァン、俺にも見えるようにならないのか?」
「こればかりは素質とかも関わるからルイには難しいかもね」
「ちっ……」
「なにその反応! ひどくない!?」

 確かにルイが俺の目の前で、あからさまな舌打ちなんてしたことなかったからびっくりだよ。思わずルイを見たら、目があってルイは咳払いしてたけど……。

 水飴みたいにした魔力は珍しいってヴァンも言ってたし、ルイも見たかったんだろうなぁ。ヴァンがゲラゲラ笑ってたから、きっと一緒に楽しみたかったのかも……悪いことしたかな……。

「ルイ、ルイ……俺もやってる本人なのにわからないんだ。ヴァンには何が見えてるんだろうね」
「ああ……ヴァンは本当に魔力系の実力があるからな。見た目と違って」
「見た目と違ってって! なんとなくそれはわかるけど、ヴァンがまた拗ねちゃうよ……。んー、俺はしばらくこの練習を続けてみる」

 ふっとルイの眼差しが優しくなって、油断してた俺は顔が熱くなった。村にいたときからだけど、こういうなんでもない瞬間に「好き」って感じちゃうんだよな。ホントにどうしよう……日に日に好きになっていってしまってる気がするんだけど。うう、苦しい。

 面白がりつつも指示を出してくるヴァンの言うとおりに、俺はしばらく魔力をコントロールする練習を続けた。思い通りにできるようになったら、魔力を無駄にすることが減るからってヴァンが言ってたからさ。

「あ、あっちの方、少し明るくなってきてるかな」
「そうだな」
「小降りにはなってくるだろうけど、もう1泊ここで過ごしてから出よう。イクミもきっとそのほうが楽だよ」
「うん……任せる」

 俺にだって、今から歩きだしてもすぐ夕方になっちゃうのはわかるからなぁ。暗いぬかるんだ道を歩くのはかなり大変そう。土砂崩れとかもあるかもしれないし、やっぱ明るくなってからだよな。

「雨が降ったら、イクミの世界の水を弾くやつとかも使ってみたらどうだ?」
「ううん。持ってきた雨具は耐水加工のしっかりしたやつじゃないし、テントは立体になってて扱いにくいから出さないほうがいいと思う。大丈夫、もう最初から体温調節の魔導具はつけておくし」
「オレたちはイクミに合わせるから無理はしないでよね」
「ありがと……二人とも」

 崖の下で雨がだんだんと弱くなっていくのを見ていた。雲の隙間からほんのりオレンジの光が筋になって差し込む様子は、ずっと雨でなんとなくどんよりしていた気持ちを少しだけ明るくしてくれる。

「雨が上がるねぇ」
「良かった……」
「明日しっかり歩けるようにしとくんだぞ」
「うん! 大丈夫だよ」

 弓を持った感じでもわかるんだ。この子も俺のために頑張ろうとしてるってね。だからありがとうねって撫でていた。

 今夜は雨が止んでるだろうから、魔物が出るかもしれないし見張りも頑張るつもり。昨日いっぱい寝させてもらったから、今の俺は元気いっぱいだ。弓ちゃんもやる気満々ぽいし、動物でも魔物でも現れたら仕留めてやる!
 といっても、探すのはヴァンの探知頼りだけどさ。……いいんだよ、できることを頑張ればいいって2人とも言ってくれてるんだから。

 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...