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情報収集の旅へ
157.魔力コントロールの練習でもやるか
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「ええー!? なにこれぇ」
「……」
いや、ある意味成功なんだよ……でも違うんだ。俺が求めてたのはそれじゃない。
俺の手から先、シェラカップまでの範囲からふわーっと白いものが立ち上って消えただけ。うん……加湿器だね。雨だからそんなのいらない。
「魔力の無駄遣いじゃんか……」
「まあまあ。これはこれで、うん、イクミのイメージ通りではあったんでしょ?」
「それがまた微妙に悔しい……」
俺の微々たる魔力が文字通り霧となって消えただけ。むぅと口を尖らせていたら、ヴァンが背中をバシバシ叩いてきた。
「何言ってんの。変換能力が上がってるんだよ! すごいよ」
「でもまたしばらくできないもん」
「……イクミ、焦るな」
刃を見ていたルイが俺に声をかけてきた。研ぎながらも様子を見ててくれたのかな。ルイの前の武器類は2つに分けられていて、終わったものとこれからのものってことみたい。俺が見てもどっちがどっちかわからないんだけどね。
「ううー、肉でも食べようかな……苦しいけど」
「イクミ」
「無理するな、でしょ? わかってるよ……」
どうしようもなくて、とりあえず魔力を手の外に少し出してみては戻す、みたいな練習だけすることにした。変換するともっと魔力が減っちゃうからね。
「イクミイクミ。魔力の粘度を変えてみて」
「は?」
「なんていうか、イクミの魔力って透明感っていうか本当にさらっさらの水みたいだよね? それをこう……なんていうかさ」
水ね……弓のせいってのもあるよな。確かに俺はそういうイメージで扱ってるもん。粘度ねぇ……餡かけみたいのとか? 水飴もいいかなぁ……うん、水飴可愛いかも。
「やってみる」
食材店に売っているプラケースに入った透明の水飴を思いだして、想像でいじくり回す。こう……スプーンですくって、くるくるって巻きつける感じー?
「おおおっ!」
「できてる?」
「めっちゃできてる! つか、それ……粘度どころか固形じゃん!」
「いやいや、俺には見えないって……」
「俺にもわからん」
俺とルイは、宙を見てケラケラ笑ってるヴァンをなんとも言えない感じで眺める。とりあえず、できてるっぽいからいいんだけどさ。ヴァンに言われてやってみたけど、これが何に役立つのかはさっぱりわからない。
「面白いよ、イクミ! そんなの村の人でもできない人多いと思う」
「別に出し物じゃないんだけど……」
「やだなぁ、別にからかってないし。こういう魔力コントロールは大事なんだ。モノや誰かに対して魔法を使うときとかはこうやって魔力を絡みつかせるほうがいいしね」
なるほど? いや、俺には今ひとつよくわかってないけどね。ルイは武器の手入れを止めてこちらを見ている。でもヴァンみたいに感じ取れるわけでもないから、俺の手の辺りを眉間にしわを寄せて睨んでるように見えちゃう。
「コレのほうがいいの?」
「いや、さっきのでもいいんだけどさ。さらさらをコントロールするよりはやりやすいでしょ?」
「まあ、言われてみれば……」
俺がよくわからないなりに、手に出しているであろう水飴状の魔力をくねくねさせていると、ヴァンはゲラゲラ笑いだした。俺の妄想はちゃんと形になってるっぽい。
「じゃあ、魔力量が回復したらまたここから水の微粒子に変換して振動させるってことだね……がんばろ」
「ヴァン、俺にも見えるようにならないのか?」
「こればかりは素質とかも関わるからルイには難しいかもね」
「ちっ……」
「なにその反応! ひどくない!?」
確かにルイが俺の目の前で、あからさまな舌打ちなんてしたことなかったからびっくりだよ。思わずルイを見たら、目があってルイは咳払いしてたけど……。
水飴みたいにした魔力は珍しいってヴァンも言ってたし、ルイも見たかったんだろうなぁ。ヴァンがゲラゲラ笑ってたから、きっと一緒に楽しみたかったのかも……悪いことしたかな……。
「ルイ、ルイ……俺もやってる本人なのにわからないんだ。ヴァンには何が見えてるんだろうね」
「ああ……ヴァンは本当に魔力系の実力があるからな。見た目と違って」
「見た目と違ってって! なんとなくそれはわかるけど、ヴァンがまた拗ねちゃうよ……。んー、俺はしばらくこの練習を続けてみる」
ふっとルイの眼差しが優しくなって、油断してた俺は顔が熱くなった。村にいたときからだけど、こういうなんでもない瞬間に「好き」って感じちゃうんだよな。ホントにどうしよう……日に日に好きになっていってしまってる気がするんだけど。うう、苦しい。
面白がりつつも指示を出してくるヴァンの言うとおりに、俺はしばらく魔力をコントロールする練習を続けた。思い通りにできるようになったら、魔力を無駄にすることが減るからってヴァンが言ってたからさ。
「あ、あっちの方、少し明るくなってきてるかな」
「そうだな」
「小降りにはなってくるだろうけど、もう1泊ここで過ごしてから出よう。イクミもきっとそのほうが楽だよ」
「うん……任せる」
俺にだって、今から歩きだしてもすぐ夕方になっちゃうのはわかるからなぁ。暗いぬかるんだ道を歩くのはかなり大変そう。土砂崩れとかもあるかもしれないし、やっぱ明るくなってからだよな。
「雨が降ったら、イクミの世界の水を弾くやつとかも使ってみたらどうだ?」
「ううん。持ってきた雨具は耐水加工のしっかりしたやつじゃないし、テントは立体になってて扱いにくいから出さないほうがいいと思う。大丈夫、もう最初から体温調節の魔導具はつけておくし」
「オレたちはイクミに合わせるから無理はしないでよね」
「ありがと……二人とも」
崖の下で雨がだんだんと弱くなっていくのを見ていた。雲の隙間からほんのりオレンジの光が筋になって差し込む様子は、ずっと雨でなんとなくどんよりしていた気持ちを少しだけ明るくしてくれる。
「雨が上がるねぇ」
「良かった……」
「明日しっかり歩けるようにしとくんだぞ」
「うん! 大丈夫だよ」
弓を持った感じでもわかるんだ。この子も俺のために頑張ろうとしてるってね。だからありがとうねって撫でていた。
今夜は雨が止んでるだろうから、魔物が出るかもしれないし見張りも頑張るつもり。昨日いっぱい寝させてもらったから、今の俺は元気いっぱいだ。弓ちゃんもやる気満々ぽいし、動物でも魔物でも現れたら仕留めてやる!
といっても、探すのはヴァンの探知頼りだけどさ。……いいんだよ、できることを頑張ればいいって2人とも言ってくれてるんだから。
「……」
いや、ある意味成功なんだよ……でも違うんだ。俺が求めてたのはそれじゃない。
俺の手から先、シェラカップまでの範囲からふわーっと白いものが立ち上って消えただけ。うん……加湿器だね。雨だからそんなのいらない。
「魔力の無駄遣いじゃんか……」
「まあまあ。これはこれで、うん、イクミのイメージ通りではあったんでしょ?」
「それがまた微妙に悔しい……」
俺の微々たる魔力が文字通り霧となって消えただけ。むぅと口を尖らせていたら、ヴァンが背中をバシバシ叩いてきた。
「何言ってんの。変換能力が上がってるんだよ! すごいよ」
「でもまたしばらくできないもん」
「……イクミ、焦るな」
刃を見ていたルイが俺に声をかけてきた。研ぎながらも様子を見ててくれたのかな。ルイの前の武器類は2つに分けられていて、終わったものとこれからのものってことみたい。俺が見てもどっちがどっちかわからないんだけどね。
「ううー、肉でも食べようかな……苦しいけど」
「イクミ」
「無理するな、でしょ? わかってるよ……」
どうしようもなくて、とりあえず魔力を手の外に少し出してみては戻す、みたいな練習だけすることにした。変換するともっと魔力が減っちゃうからね。
「イクミイクミ。魔力の粘度を変えてみて」
「は?」
「なんていうか、イクミの魔力って透明感っていうか本当にさらっさらの水みたいだよね? それをこう……なんていうかさ」
水ね……弓のせいってのもあるよな。確かに俺はそういうイメージで扱ってるもん。粘度ねぇ……餡かけみたいのとか? 水飴もいいかなぁ……うん、水飴可愛いかも。
「やってみる」
食材店に売っているプラケースに入った透明の水飴を思いだして、想像でいじくり回す。こう……スプーンですくって、くるくるって巻きつける感じー?
「おおおっ!」
「できてる?」
「めっちゃできてる! つか、それ……粘度どころか固形じゃん!」
「いやいや、俺には見えないって……」
「俺にもわからん」
俺とルイは、宙を見てケラケラ笑ってるヴァンをなんとも言えない感じで眺める。とりあえず、できてるっぽいからいいんだけどさ。ヴァンに言われてやってみたけど、これが何に役立つのかはさっぱりわからない。
「面白いよ、イクミ! そんなの村の人でもできない人多いと思う」
「別に出し物じゃないんだけど……」
「やだなぁ、別にからかってないし。こういう魔力コントロールは大事なんだ。モノや誰かに対して魔法を使うときとかはこうやって魔力を絡みつかせるほうがいいしね」
なるほど? いや、俺には今ひとつよくわかってないけどね。ルイは武器の手入れを止めてこちらを見ている。でもヴァンみたいに感じ取れるわけでもないから、俺の手の辺りを眉間にしわを寄せて睨んでるように見えちゃう。
「コレのほうがいいの?」
「いや、さっきのでもいいんだけどさ。さらさらをコントロールするよりはやりやすいでしょ?」
「まあ、言われてみれば……」
俺がよくわからないなりに、手に出しているであろう水飴状の魔力をくねくねさせていると、ヴァンはゲラゲラ笑いだした。俺の妄想はちゃんと形になってるっぽい。
「じゃあ、魔力量が回復したらまたここから水の微粒子に変換して振動させるってことだね……がんばろ」
「ヴァン、俺にも見えるようにならないのか?」
「こればかりは素質とかも関わるからルイには難しいかもね」
「ちっ……」
「なにその反応! ひどくない!?」
確かにルイが俺の目の前で、あからさまな舌打ちなんてしたことなかったからびっくりだよ。思わずルイを見たら、目があってルイは咳払いしてたけど……。
水飴みたいにした魔力は珍しいってヴァンも言ってたし、ルイも見たかったんだろうなぁ。ヴァンがゲラゲラ笑ってたから、きっと一緒に楽しみたかったのかも……悪いことしたかな……。
「ルイ、ルイ……俺もやってる本人なのにわからないんだ。ヴァンには何が見えてるんだろうね」
「ああ……ヴァンは本当に魔力系の実力があるからな。見た目と違って」
「見た目と違ってって! なんとなくそれはわかるけど、ヴァンがまた拗ねちゃうよ……。んー、俺はしばらくこの練習を続けてみる」
ふっとルイの眼差しが優しくなって、油断してた俺は顔が熱くなった。村にいたときからだけど、こういうなんでもない瞬間に「好き」って感じちゃうんだよな。ホントにどうしよう……日に日に好きになっていってしまってる気がするんだけど。うう、苦しい。
面白がりつつも指示を出してくるヴァンの言うとおりに、俺はしばらく魔力をコントロールする練習を続けた。思い通りにできるようになったら、魔力を無駄にすることが減るからってヴァンが言ってたからさ。
「あ、あっちの方、少し明るくなってきてるかな」
「そうだな」
「小降りにはなってくるだろうけど、もう1泊ここで過ごしてから出よう。イクミもきっとそのほうが楽だよ」
「うん……任せる」
俺にだって、今から歩きだしてもすぐ夕方になっちゃうのはわかるからなぁ。暗いぬかるんだ道を歩くのはかなり大変そう。土砂崩れとかもあるかもしれないし、やっぱ明るくなってからだよな。
「雨が降ったら、イクミの世界の水を弾くやつとかも使ってみたらどうだ?」
「ううん。持ってきた雨具は耐水加工のしっかりしたやつじゃないし、テントは立体になってて扱いにくいから出さないほうがいいと思う。大丈夫、もう最初から体温調節の魔導具はつけておくし」
「オレたちはイクミに合わせるから無理はしないでよね」
「ありがと……二人とも」
崖の下で雨がだんだんと弱くなっていくのを見ていた。雲の隙間からほんのりオレンジの光が筋になって差し込む様子は、ずっと雨でなんとなくどんよりしていた気持ちを少しだけ明るくしてくれる。
「雨が上がるねぇ」
「良かった……」
「明日しっかり歩けるようにしとくんだぞ」
「うん! 大丈夫だよ」
弓を持った感じでもわかるんだ。この子も俺のために頑張ろうとしてるってね。だからありがとうねって撫でていた。
今夜は雨が止んでるだろうから、魔物が出るかもしれないし見張りも頑張るつもり。昨日いっぱい寝させてもらったから、今の俺は元気いっぱいだ。弓ちゃんもやる気満々ぽいし、動物でも魔物でも現れたら仕留めてやる!
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