霧の向こう ~ 水の低きに就くが如し ~

隅枝 輝羽

文字の大きさ
上 下
157 / 226
情報収集の旅へ

157.魔力コントロールの練習でもやるか

しおりを挟む
「ええー!? なにこれぇ」
「……」
 
 いや、ある意味成功なんだよ……でも違うんだ。俺が求めてたのはそれじゃない。

 俺の手から先、シェラカップまでの範囲からふわーっと白いものが立ち上って消えただけ。うん……加湿器だね。雨だからそんなのいらない。
 
「魔力の無駄遣いじゃんか……」
「まあまあ。これはこれで、うん、イクミのイメージ通りではあったんでしょ?」
「それがまた微妙に悔しい……」
 
 俺の微々たる魔力が文字通り霧となって消えただけ。むぅと口を尖らせていたら、ヴァンが背中をバシバシ叩いてきた。
 
「何言ってんの。変換能力が上がってるんだよ! すごいよ」
「でもまたしばらくできないもん」
「……イクミ、焦るな」

 刃を見ていたルイが俺に声をかけてきた。研ぎながらも様子を見ててくれたのかな。ルイの前の武器類は2つに分けられていて、終わったものとこれからのものってことみたい。俺が見てもどっちがどっちかわからないんだけどね。

「ううー、肉でも食べようかな……苦しいけど」
「イクミ」
「無理するな、でしょ? わかってるよ……」

 どうしようもなくて、とりあえず魔力を手の外に少し出してみては戻す、みたいな練習だけすることにした。変換するともっと魔力が減っちゃうからね。

「イクミイクミ。魔力の粘度を変えてみて」
「は?」
「なんていうか、イクミの魔力って透明感っていうか本当にさらっさらの水みたいだよね? それをこう……なんていうかさ」

 水ね……弓のせいってのもあるよな。確かに俺はそういうイメージで扱ってるもん。粘度ねぇ……餡かけみたいのとか? 水飴もいいかなぁ……うん、水飴可愛いかも。

「やってみる」

 食材店に売っているプラケースに入った透明の水飴を思いだして、想像でいじくり回す。こう……スプーンですくって、くるくるって巻きつける感じー?

「おおおっ!」
「できてる?」
「めっちゃできてる! つか、それ……粘度どころか固形じゃん!」
「いやいや、俺には見えないって……」
「俺にもわからん」

 俺とルイは、宙を見てケラケラ笑ってるヴァンをなんとも言えない感じで眺める。とりあえず、できてるっぽいからいいんだけどさ。ヴァンに言われてやってみたけど、これが何に役立つのかはさっぱりわからない。

「面白いよ、イクミ! そんなの村の人でもできない人多いと思う」
「別に出し物じゃないんだけど……」
「やだなぁ、別にからかってないし。こういう魔力コントロールは大事なんだ。モノや誰かに対して魔法を使うときとかはこうやって魔力を絡みつかせるほうがいいしね」

 なるほど? いや、俺には今ひとつよくわかってないけどね。ルイは武器の手入れを止めてこちらを見ている。でもヴァンみたいに感じ取れるわけでもないから、俺の手の辺りを眉間にしわを寄せて睨んでるように見えちゃう。

「コレのほうがいいの?」
「いや、さっきのでもいいんだけどさ。さらさらをコントロールするよりはやりやすいでしょ?」
「まあ、言われてみれば……」

 俺がよくわからないなりに、手に出しているであろう水飴状の魔力をくねくねさせていると、ヴァンはゲラゲラ笑いだした。俺の妄想はちゃんと形になってるっぽい。

「じゃあ、魔力量が回復したらまたここから水の微粒子に変換して振動させるってことだね……がんばろ」
「ヴァン、俺にも見えるようにならないのか?」
「こればかりは素質とかも関わるからルイには難しいかもね」
「ちっ……」
「なにその反応! ひどくない!?」

 確かにルイが俺の目の前で、あからさまな舌打ちなんてしたことなかったからびっくりだよ。思わずルイを見たら、目があってルイは咳払いしてたけど……。

 水飴みたいにした魔力は珍しいってヴァンも言ってたし、ルイも見たかったんだろうなぁ。ヴァンがゲラゲラ笑ってたから、きっと一緒に楽しみたかったのかも……悪いことしたかな……。

「ルイ、ルイ……俺もやってる本人なのにわからないんだ。ヴァンには何が見えてるんだろうね」
「ああ……ヴァンは本当に魔力系の実力があるからな。見た目と違って」
「見た目と違ってって! なんとなくそれはわかるけど、ヴァンがまた拗ねちゃうよ……。んー、俺はしばらくこの練習を続けてみる」

 ふっとルイの眼差しが優しくなって、油断してた俺は顔が熱くなった。村にいたときからだけど、こういうなんでもない瞬間に「好き」って感じちゃうんだよな。ホントにどうしよう……日に日に好きになっていってしまってる気がするんだけど。うう、苦しい。

 面白がりつつも指示を出してくるヴァンの言うとおりに、俺はしばらく魔力をコントロールする練習を続けた。思い通りにできるようになったら、魔力を無駄にすることが減るからってヴァンが言ってたからさ。

「あ、あっちの方、少し明るくなってきてるかな」
「そうだな」
「小降りにはなってくるだろうけど、もう1泊ここで過ごしてから出よう。イクミもきっとそのほうが楽だよ」
「うん……任せる」

 俺にだって、今から歩きだしてもすぐ夕方になっちゃうのはわかるからなぁ。暗いぬかるんだ道を歩くのはかなり大変そう。土砂崩れとかもあるかもしれないし、やっぱ明るくなってからだよな。

「雨が降ったら、イクミの世界の水を弾くやつとかも使ってみたらどうだ?」
「ううん。持ってきた雨具は耐水加工のしっかりしたやつじゃないし、テントは立体になってて扱いにくいから出さないほうがいいと思う。大丈夫、もう最初から体温調節の魔導具はつけておくし」
「オレたちはイクミに合わせるから無理はしないでよね」
「ありがと……二人とも」

 崖の下で雨がだんだんと弱くなっていくのを見ていた。雲の隙間からほんのりオレンジの光が筋になって差し込む様子は、ずっと雨でなんとなくどんよりしていた気持ちを少しだけ明るくしてくれる。

「雨が上がるねぇ」
「良かった……」
「明日しっかり歩けるようにしとくんだぞ」
「うん! 大丈夫だよ」

 弓を持った感じでもわかるんだ。この子も俺のために頑張ろうとしてるってね。だからありがとうねって撫でていた。

 今夜は雨が止んでるだろうから、魔物が出るかもしれないし見張りも頑張るつもり。昨日いっぱい寝させてもらったから、今の俺は元気いっぱいだ。弓ちゃんもやる気満々ぽいし、動物でも魔物でも現れたら仕留めてやる!
 といっても、探すのはヴァンの探知頼りだけどさ。……いいんだよ、できることを頑張ればいいって2人とも言ってくれてるんだから。

 
しおりを挟む
感想などいただけると励みになります。匿名メッセージはマシュマロへWaveBoxへどうぞ。
感想 6

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

処理中です...