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情報収集の旅へ

154.魔導士エグい……

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 ヴァンの連れてきてくれたところは誰かが掘ったわけではないんだろうけど、崖がせり出してるのかえぐれてるのかって感じになってて、雨宿りっていうか野営できそうだった。

 野営地を整えるのも、ヴァンが魔法でぱぱっとやっちゃってね。これがまたすごいんだ。洞窟とまではいかないけど、少し上がせり出してる崖の下部分に盛り土をして、休むところには水が流れて来ないようにしててね。さらにタープのかけ方が絶妙で、まるで店頭のひさしみたいになってるおかげで雨風をかなり防いでる。

「ヴァン、すごい……」
「褒めてくれるのは嬉しいけど、ほら、早くイクミはこっち」
「ちゃんと乾かしてもらえ。ブーツも防具も」
「あ、うん」

 晴れた日の野営と違って、随分油断してるような気もするけど……。

「ここまで土砂降りなら動物は動かないし、魔物は魔力の強さでわかる。人間は……やっぱり動かないだろう。だから大丈夫だ。ヴァンが警戒もしてるはずだしな」
「ありがとう」

 こんなに野営地を整えたり、火をおこしたりして、さらには俺を乾かすとかもしてるってヴァンはどうやってるんだろう。あと周りも警戒してるんだっけ……。
 俺が不思議すぎるって呟くと、ヴァンが生活魔法と上級魔法の差ではあるけど、さほど難しいことはしてないって言うんだ。

「整えるのは一瞬で終わるし、コントロール上手い人なら生活魔法レベルでできるよ。火をおこすのだってそうでしょ。ひとつずつやってるんだからみんなと変わらないよ」
「ええー、でも微妙にかぶってたじゃん……2つの魔法使ってた」

 俺の魔力じゃひとつでも使ったらしばらく使えないし、なんの参考にもならないけど、魔法が重なるってやばくない?

「実質、イクミを乾かすのだけ術式組んだから、ややかぶってるように見えただけだよ。同時に3つ以上の術式展開はかなり難しいんじゃないかな……オレには無理だよ」
「ヴァンが警戒してるってルイが……」
「警戒はルイだってしてるでしょ」

 俺の中でやたらヴァンすげぇになりつつあるのに、意外や意外、ヴァンがちゃんと否定してきた。

「でも、黒いの出してたの見たよ」
「あれは探知用というよりは、ここを少しわかりにくくするためだよ」
「何を言ってるのか……」
「ここはえぐれた崖下になってて、影になってる……つまり闇と相性がいいの。だから、外から見たときに見えにくくなるように闇魔法で覆ってる。これは術式展開してるほうの魔法」
 
 聞いてもピンとこないよ。闇魔法ってなんか意味がわからないなぁ。俺が変な顔してたからか、ヴァンがけらけら笑ってた。俺にかけてた魔法を解除したから、目隠し魔法を使ったってことみたい。
 
「こんなすごい魔法使えるなら、普段も目隠ししたら安全なんじゃないの?」
「夜になったら俺が活躍しやすいのは確かだけど、さすがにずっと術式展開してるのは負担がやばい」
「桁違いに多いとは言っても、ヴァンにも一応魔力の上限があるんだぞ」
「あ……そりゃそうか」
 
 今は、俺が何も気にせず休めるように、わざわざやってくれたってことだよね。

 でも、防具も外さないで全身を乾かしてくれたのは本当にすごかった。しかもバリバリの乾燥しすぎにはなってないんだ。全部が程よく乾いてる。布に薄いなめし革に防具みたいな特殊な魔物の革……って、身につけてるものの素材が全然違うのにだよ?
 
「俺……あの乾燥のやつ、めっちゃ気持ちよかった……ルイもやってもらえばよかったのに」
「俺は自分でできるから。ヴァンのとは違うが」
「おにーちゃんを頼ってくれてもいいんだよ、ルイ」
「俺は自分でできるから」

 ルイのやる乾燥は水分を蒸発させる感じなのかな。でもきっと、ルイは水魔法得意だし、バリバリにはならないんだろう。俺は水を出すのはできるけど、水を蒸発させるのはまだまだ狙ってできる気がしない。浄化とも違うしなぁ……。

「あ……ルイの髪の毛、毛先からまってる。少し切ったほうがいいよ」
「ほんとだー。随分放置してたんでしょ。相変わらずなんだから」
「髪とか別に……」
「お、俺が整えてもいい?」
「……まあ」

 どうせ、浄化魔法があるせいで、ほとんど髪を解くことがないんだから、結んだまま切ったほうがきれいかもしれない。ルイに座ってもらって、俺とヴァンがルイの背後にまわった。

「短剣で切っても大丈夫?」
「俺はいつもそんな感じだが」
「無頓着だよねぇ……オレは結構毛づやは気になるほうだからさぁ」

 村にいたときはサラッとしていたけど、それなりに傷んでいたのかな。この雨と急な乾燥で絡まったのかも……。そう思って、ルイの毛先を手のひらに乗せてみた。

「きれいな赤だなぁ」
「イクミってばルイのことならなんでも褒めちゃうじゃん」
「だ、だって……こんなにきれいなんだよ?」

 別にルイだから、じゃないもん……きれいだからきれいって言っただけで……。
 短剣を持ったけど、少しもったいないような気持ちにもなった。

「まだか?」
「あ……ごめんごめん。切るね」

 特注の短剣は、まだほとんど使ってないから切れ味は抜群で、当てて少し引いただけでルイの髪がはらはらと流れていく。俺が絡まってる部分を左手で掴んでいるから、それだけが残った。

「あ、思ったより真っ直ぐに切れてる」
「なんかルイ、可愛いじゃん。痛っ」
「ルイ……気に入らなかった?」
「いや、特に髪は気にしてないって言っただろ。イクミがちゃんと切れてると思ったならそれでいい」

 いい、のかなぁ? ……っていうか、この絡まってる毛先もらったらキモいよね? って手をじっと見てたら、ヴァンに呆れられてしまった。

「はいはい、それ貸してねぇ」
「あっ……」
「そんなオレが意地悪してるみたいな目で見ないでよ」

 ルイはオレが切ったところを手でスルンとひと撫でして、立ち上がると俺を振り返った。

「ヴァン、またイクミをからかってるんじゃ」
「えっ! 違うよ」
「ふぅん? というかイクミ、身体は大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫。たぶん……」

 実は少し身体の芯が冷えてるようなゾクゾクした感じがあったんだけど、ルイに聞かれて思わず大丈夫って言っちゃった。いや、大丈夫そうな気はしてるから嘘じゃない……はず。

 ヴァンはあの毛先をマジックバッグに入れちゃった。捨てるなら欲しかったのに、どうするっていうんだろう。あとでルイが寝たらこっそり交渉してみるとか? うう……でもからかわれそうだなぁ。

「とりあえず、イクミはかまどの近くで温まってろ。ヴァン、鍋」
「ほいほい。とりあえず一通り出すねぇ」
「あ、夕飯……」
「今はいいから」

 今も外は怖いくらいの土砂降りだ。ヴァンの魔法がなかったらこっちにも雨が流れ込んできて、どうにもならなかっただろうなって感じ。タープの端っこが土魔法で崖と一体化してるみたいになってるのがポイントみたい。

 それにしても、この雨いつ止むんだ?
 
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