152 / 226
情報収集の旅へ
152.ひとつ増えた
しおりを挟む
昨日は先の見張りだったから、朝はいつもどおりにルイに起こされた……。いまだにルイに起こされる前に起きれないのが悔しい。寝起きでぶーたれてたら、ルイに膨らませたほっぺたをぐにっと掴まれた。
「俺はイクミにはしっかり休んでほしい。多分……起こす前に起きてられたら心配しちまう」
「ううう……」
そんなふうに言われたら、何も言えないし早起きもできないじゃん。俺は魔力8分の1量の水を出して口に含みつつ、手に残った水で顔を拭う。
ここにはルイもヴァンもいるから浄化も頼めるんだけど、朝は最近いつもこんな感じ。8分の1だと負担がほぼないのと、新鮮な魔物肉を食べれば翌日には満タンに戻るんだよね。
かまどにはもう火が強く起こしてあって、カロイモを焼き始めているみたいだ。
「昨日のスープ、温めないと……」
「あ、鍋はマジックバッグに入れちゃったんだ。出すねぇ」
ヴァンは夜に魔物とか動物がきて、ひっくり返したら困るからって、自主的に収納していたらしい。ありがたいっちゃ、ありがたい……かな。
鍋をかまどで温めながら、魔物肉も焼いていく。焚き火じゃなくてかまどをぱっと作ってくれちゃうのって、改めて感謝だなぁとか思ってた。
「イ……イクミイクミ!」
「んー?」
「出してたイクミの荷物がガサガサしてる! なんかいる!」
ヴァンが魔力を感じないのに動いてるとか言いながら、尻尾をもふっとさせてた。あんなふうになることあるんだな。
ていうか……。
「あー、スマホ? なんで鳴ったんだろ……」
「イクミの魔導具か?」
「そうみたい。おかしいなぁ」
「あ……あの、シャシンってやつの……?」
ヴァンの尻尾が元に戻っていく……面白い。
昼間ソーラーバッテリーをぶら下げて歩いて、充電したバッテリーを夜スマホに繋いでおいたわけ。でも、鳴ってるっていっても、圏外だからどこかから連絡が来るわけでもないしなって思って画面をのぞき込んだ。
そこには、ポップアップで『Happy Birthday』とカレンダーアラームが表示されていた。
「あ……」
「どうした?」
「やばいこと?」
一緒になってスマホをのぞき込んだ2人だったけど、文字がわからないから俺の顔をずっと見てる。
「えっと……俺の誕生日。19歳になった」
「そうなんだ!」
「イクミの世界では生まれた日を細かく設定してるのか」
「どういう意味?」
聞いてみたら、こっちでは自分の生まれた日から最初に訪れた昼と夜が半々の日が起点となって、そこから1年毎で年を取るんだそうだ。つまり、みんなあっちでいう春分の日か秋分の日が誕生日ってことか……。
「お祝いとかしないの?」
「なんの?」
「生まれた日の」
「なんで?」
こっちでも、産まれたこと自体はおめでたいことなんだけど、誕生日のお祝いっていう概念はないみたい。みんな当たり前に年を取っていくからとかなんとか。もちろん節目のお祝いはあるそうで、6歳と16歳がそれにあたるんだって。
「まあ、ムル村はそういうのあまり関係ない。どっちかというと、村を出られるようになったら祝われるな。あと、子が産まれたその日はさすがに祝う」
「何かのときに面倒くさいから、一応本人とか親が年は覚えてるよ」
「そ……そうなんだ……」
誕生日イコールお祝いみたいなイメージだった俺からすると、少し不思議な気分になるな。でもそうか……カレンダーとかないんだもんな。同じ日に大半の人がひとつずつ年を取るのかぁ。
なんか、俺が自分の誕生日を登録してて、通知来たのが少し恥ずかしく感じるな……。
「イクミの世界では、個別に祝うってことなのか?」
「さっきの質問からするとそうなんでしょ?」
「え……あ……そ、うだね」
「じゃあ、せっかくだからお祝いしようよ!」
ヴァンが楽しそうに言ってるけど、お祝いって言ったってねぇ?
「19になったんだよな?」
「うん。みんなからしたら、まだまだ見た目ガキなんだろうけど……一応19だよ」
「ねぇねぇ、イクミの世界ではどうやってお祝いするの?」
「うーん、みんなでケーキ食べたり、本人が喜びそうな贈り物をしたり……かな」
「ケーキ?」
ないよねぇ、ケーキ。ってことで、説明したけど、あまり伝わらなかったみたい。
「つまり、甘いものに火をつけて消す?」
「だいぶ違う」
「まあ、甘いものは高価だから祝いには向いてるだろうな。今は難しいが」
「気にしなくていいんだよ。今はこっちの世界にいるんだし」
俺がそう言っても、2人は何か考えているみたいだった。俺はというと、朝食の支度の続きに戻る。昨日の残りのスープに焼きカロイモと串焼き。代わり映えはあまりないけど、微妙に味付けを工夫して飽きないようには気をつけてるんだ。
「よし、朝ごはんにしよ?」
「あ、ああ」
「……甘いもの、喜びそうなもの……」
ヴァンはまだ気にしてるのかな。旅の途中でそんなこと気にしなくていいのにね。
「あー、やっぱり朝のスープはいいね。俺、残しておいて良かった」
「確かに」
「2人に合わせといて良かった……」
ヴァンは昨夜の自分の決断を褒めているようだ。そこまで? とか思っちゃうけど。俺たちはあっという間に完食して、荷物を片付けていく。
そしたら、ルイが俺のところに来て、サブの長剣につけていた飾り紐を外して俺に渡してきた。
「え? なに……?」
「贈り物、だ」
「で、も」
「護符にもなっているからもらってほしい」
ルイの大事なものなんじゃないのかなって不安になる。けど、受け取らないとルイの気が済まなさそう……。ちらっとヴァンを見て助けを求めるけど、もらっとけみたいな顔してた。
「ありがとう……大事にする」
「たいしたもんじゃない。生まれた日を毎年祝うなんて知らなかったから、何も用意してなかったしな」
「だから、それは文化が違うんだから、気にしなくていいのに……」
俺だって村にいる間、そんなこと誰にも聞かなかったしさ。ルイは拾われたとかのこともあったから、誕生日とか聞きづらかったのもあるし。
「オレはそのうちなんかあげるから待っててね」
「いや、だから……」
「俺たちがしてやりたいんだ。イクミこそ気にするな」
そう言われちゃうとな……。
ルイにもらった飾り紐を見ると、紐の中央に細い金属が編み込まれたみたいな部分があって、複雑な模様になっててすごくきれいだ……宝石とかは使われてないけど高そう。
「2人の気持ちが一番の贈り物だよ。ありがとう……」
泣かない!
「俺はイクミにはしっかり休んでほしい。多分……起こす前に起きてられたら心配しちまう」
「ううう……」
そんなふうに言われたら、何も言えないし早起きもできないじゃん。俺は魔力8分の1量の水を出して口に含みつつ、手に残った水で顔を拭う。
ここにはルイもヴァンもいるから浄化も頼めるんだけど、朝は最近いつもこんな感じ。8分の1だと負担がほぼないのと、新鮮な魔物肉を食べれば翌日には満タンに戻るんだよね。
かまどにはもう火が強く起こしてあって、カロイモを焼き始めているみたいだ。
「昨日のスープ、温めないと……」
「あ、鍋はマジックバッグに入れちゃったんだ。出すねぇ」
ヴァンは夜に魔物とか動物がきて、ひっくり返したら困るからって、自主的に収納していたらしい。ありがたいっちゃ、ありがたい……かな。
鍋をかまどで温めながら、魔物肉も焼いていく。焚き火じゃなくてかまどをぱっと作ってくれちゃうのって、改めて感謝だなぁとか思ってた。
「イ……イクミイクミ!」
「んー?」
「出してたイクミの荷物がガサガサしてる! なんかいる!」
ヴァンが魔力を感じないのに動いてるとか言いながら、尻尾をもふっとさせてた。あんなふうになることあるんだな。
ていうか……。
「あー、スマホ? なんで鳴ったんだろ……」
「イクミの魔導具か?」
「そうみたい。おかしいなぁ」
「あ……あの、シャシンってやつの……?」
ヴァンの尻尾が元に戻っていく……面白い。
昼間ソーラーバッテリーをぶら下げて歩いて、充電したバッテリーを夜スマホに繋いでおいたわけ。でも、鳴ってるっていっても、圏外だからどこかから連絡が来るわけでもないしなって思って画面をのぞき込んだ。
そこには、ポップアップで『Happy Birthday』とカレンダーアラームが表示されていた。
「あ……」
「どうした?」
「やばいこと?」
一緒になってスマホをのぞき込んだ2人だったけど、文字がわからないから俺の顔をずっと見てる。
「えっと……俺の誕生日。19歳になった」
「そうなんだ!」
「イクミの世界では生まれた日を細かく設定してるのか」
「どういう意味?」
聞いてみたら、こっちでは自分の生まれた日から最初に訪れた昼と夜が半々の日が起点となって、そこから1年毎で年を取るんだそうだ。つまり、みんなあっちでいう春分の日か秋分の日が誕生日ってことか……。
「お祝いとかしないの?」
「なんの?」
「生まれた日の」
「なんで?」
こっちでも、産まれたこと自体はおめでたいことなんだけど、誕生日のお祝いっていう概念はないみたい。みんな当たり前に年を取っていくからとかなんとか。もちろん節目のお祝いはあるそうで、6歳と16歳がそれにあたるんだって。
「まあ、ムル村はそういうのあまり関係ない。どっちかというと、村を出られるようになったら祝われるな。あと、子が産まれたその日はさすがに祝う」
「何かのときに面倒くさいから、一応本人とか親が年は覚えてるよ」
「そ……そうなんだ……」
誕生日イコールお祝いみたいなイメージだった俺からすると、少し不思議な気分になるな。でもそうか……カレンダーとかないんだもんな。同じ日に大半の人がひとつずつ年を取るのかぁ。
なんか、俺が自分の誕生日を登録してて、通知来たのが少し恥ずかしく感じるな……。
「イクミの世界では、個別に祝うってことなのか?」
「さっきの質問からするとそうなんでしょ?」
「え……あ……そ、うだね」
「じゃあ、せっかくだからお祝いしようよ!」
ヴァンが楽しそうに言ってるけど、お祝いって言ったってねぇ?
「19になったんだよな?」
「うん。みんなからしたら、まだまだ見た目ガキなんだろうけど……一応19だよ」
「ねぇねぇ、イクミの世界ではどうやってお祝いするの?」
「うーん、みんなでケーキ食べたり、本人が喜びそうな贈り物をしたり……かな」
「ケーキ?」
ないよねぇ、ケーキ。ってことで、説明したけど、あまり伝わらなかったみたい。
「つまり、甘いものに火をつけて消す?」
「だいぶ違う」
「まあ、甘いものは高価だから祝いには向いてるだろうな。今は難しいが」
「気にしなくていいんだよ。今はこっちの世界にいるんだし」
俺がそう言っても、2人は何か考えているみたいだった。俺はというと、朝食の支度の続きに戻る。昨日の残りのスープに焼きカロイモと串焼き。代わり映えはあまりないけど、微妙に味付けを工夫して飽きないようには気をつけてるんだ。
「よし、朝ごはんにしよ?」
「あ、ああ」
「……甘いもの、喜びそうなもの……」
ヴァンはまだ気にしてるのかな。旅の途中でそんなこと気にしなくていいのにね。
「あー、やっぱり朝のスープはいいね。俺、残しておいて良かった」
「確かに」
「2人に合わせといて良かった……」
ヴァンは昨夜の自分の決断を褒めているようだ。そこまで? とか思っちゃうけど。俺たちはあっという間に完食して、荷物を片付けていく。
そしたら、ルイが俺のところに来て、サブの長剣につけていた飾り紐を外して俺に渡してきた。
「え? なに……?」
「贈り物、だ」
「で、も」
「護符にもなっているからもらってほしい」
ルイの大事なものなんじゃないのかなって不安になる。けど、受け取らないとルイの気が済まなさそう……。ちらっとヴァンを見て助けを求めるけど、もらっとけみたいな顔してた。
「ありがとう……大事にする」
「たいしたもんじゃない。生まれた日を毎年祝うなんて知らなかったから、何も用意してなかったしな」
「だから、それは文化が違うんだから、気にしなくていいのに……」
俺だって村にいる間、そんなこと誰にも聞かなかったしさ。ルイは拾われたとかのこともあったから、誕生日とか聞きづらかったのもあるし。
「オレはそのうちなんかあげるから待っててね」
「いや、だから……」
「俺たちがしてやりたいんだ。イクミこそ気にするな」
そう言われちゃうとな……。
ルイにもらった飾り紐を見ると、紐の中央に細い金属が編み込まれたみたいな部分があって、複雑な模様になっててすごくきれいだ……宝石とかは使われてないけど高そう。
「2人の気持ちが一番の贈り物だよ。ありがとう……」
泣かない!
13
お気に入りに追加
116
あなたにおすすめの小説

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる