霧の向こう ~ 水の低きに就くが如し ~

隅枝 輝羽

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情報収集の旅へ

152.ひとつ増えた

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 昨日は先の見張りだったから、朝はいつもどおりにルイに起こされた……。いまだにルイに起こされる前に起きれないのが悔しい。寝起きでぶーたれてたら、ルイに膨らませたほっぺたをぐにっと掴まれた。

「俺はイクミにはしっかり休んでほしい。多分……起こす前に起きてられたら心配しちまう」
「ううう……」

 そんなふうに言われたら、何も言えないし早起きもできないじゃん。俺は魔力8分の1量の水を出して口に含みつつ、手に残った水で顔を拭う。
 ここにはルイもヴァンもいるから浄化も頼めるんだけど、朝は最近いつもこんな感じ。8分の1だと負担がほぼないのと、新鮮な魔物肉を食べれば翌日には満タンに戻るんだよね。

 かまどにはもう火が強く起こしてあって、カロイモを焼き始めているみたいだ。

「昨日のスープ、温めないと……」
「あ、鍋はマジックバッグに入れちゃったんだ。出すねぇ」

 ヴァンは夜に魔物とか動物がきて、ひっくり返したら困るからって、自主的に収納していたらしい。ありがたいっちゃ、ありがたい……かな。

 鍋をかまどで温めながら、魔物肉も焼いていく。焚き火じゃなくてかまどをぱっと作ってくれちゃうのって、改めて感謝だなぁとか思ってた。

「イ……イクミイクミ!」
「んー?」
「出してたイクミの荷物がガサガサしてる! なんかいる!」

 ヴァンが魔力を感じないのに動いてるとか言いながら、尻尾をもふっとさせてた。あんなふうになることあるんだな。
 ていうか……。

「あー、スマホ? なんで鳴ったんだろ……」
「イクミの魔導具か?」
「そうみたい。おかしいなぁ」
「あ……あの、シャシンってやつの……?」

 ヴァンの尻尾が元に戻っていく……面白い。

 昼間ソーラーバッテリーをぶら下げて歩いて、充電したバッテリーを夜スマホに繋いでおいたわけ。でも、鳴ってるっていっても、圏外だからどこかから連絡が来るわけでもないしなって思って画面をのぞき込んだ。

 そこには、ポップアップで『Happy Birthday』とカレンダーアラームが表示されていた。

「あ……」
「どうした?」
「やばいこと?」

 一緒になってスマホをのぞき込んだ2人だったけど、文字がわからないから俺の顔をずっと見てる。

「えっと……俺の誕生日。19歳になった」
「そうなんだ!」
「イクミの世界では生まれた日を細かく設定してるのか」
「どういう意味?」

 聞いてみたら、こっちでは自分の生まれた日から最初に訪れた昼と夜が半々の日が起点となって、そこから1年毎で年を取るんだそうだ。つまり、みんなあっちでいう春分の日か秋分の日が誕生日ってことか……。

「お祝いとかしないの?」
「なんの?」
「生まれた日の」
「なんで?」

 こっちでも、産まれたこと自体はおめでたいことなんだけど、誕生日のお祝いっていう概念はないみたい。みんな当たり前に年を取っていくからとかなんとか。もちろん節目のお祝いはあるそうで、6歳と16歳がそれにあたるんだって。

「まあ、ムル村はそういうのあまり関係ない。どっちかというと、村を出られるようになったら祝われるな。あと、子が産まれたその日はさすがに祝う」
「何かのときに面倒くさいから、一応本人とか親が年は覚えてるよ」
「そ……そうなんだ……」

 誕生日イコールお祝いみたいなイメージだった俺からすると、少し不思議な気分になるな。でもそうか……カレンダーとかないんだもんな。同じ日に大半の人がひとつずつ年を取るのかぁ。
 なんか、俺が自分の誕生日を登録してて、通知来たのが少し恥ずかしく感じるな……。

「イクミの世界では、個別に祝うってことなのか?」
「さっきの質問からするとそうなんでしょ?」
「え……あ……そ、うだね」
「じゃあ、せっかくだからお祝いしようよ!」

 ヴァンが楽しそうに言ってるけど、お祝いって言ったってねぇ?

「19になったんだよな?」
「うん。みんなからしたら、まだまだ見た目ガキなんだろうけど……一応19だよ」
「ねぇねぇ、イクミの世界ではどうやってお祝いするの?」
「うーん、みんなでケーキ食べたり、本人が喜びそうな贈り物をしたり……かな」
「ケーキ?」

 ないよねぇ、ケーキ。ってことで、説明したけど、あまり伝わらなかったみたい。

「つまり、甘いものに火をつけて消す?」
「だいぶ違う」
「まあ、甘いものは高価だから祝いには向いてるだろうな。今は難しいが」
「気にしなくていいんだよ。今はこっちの世界にいるんだし」

 俺がそう言っても、2人は何か考えているみたいだった。俺はというと、朝食の支度の続きに戻る。昨日の残りのスープに焼きカロイモと串焼き。代わり映えはあまりないけど、微妙に味付けを工夫して飽きないようには気をつけてるんだ。

「よし、朝ごはんにしよ?」
「あ、ああ」
「……甘いもの、喜びそうなもの……」

 ヴァンはまだ気にしてるのかな。旅の途中でそんなこと気にしなくていいのにね。

「あー、やっぱり朝のスープはいいね。俺、残しておいて良かった」
「確かに」
「2人に合わせといて良かった……」

 ヴァンは昨夜の自分の決断を褒めているようだ。そこまで? とか思っちゃうけど。俺たちはあっという間に完食して、荷物を片付けていく。
 そしたら、ルイが俺のところに来て、サブの長剣につけていた飾り紐を外して俺に渡してきた。

「え? なに……?」
「贈り物、だ」
「で、も」
「護符にもなっているからもらってほしい」

 ルイの大事なものなんじゃないのかなって不安になる。けど、受け取らないとルイの気が済まなさそう……。ちらっとヴァンを見て助けを求めるけど、もらっとけみたいな顔してた。

「ありがとう……大事にする」
「たいしたもんじゃない。生まれた日を毎年祝うなんて知らなかったから、何も用意してなかったしな」
「だから、それは文化が違うんだから、気にしなくていいのに……」

 俺だって村にいる間、そんなこと誰にも聞かなかったしさ。ルイは拾われたとかのこともあったから、誕生日とか聞きづらかったのもあるし。

「オレはそのうちなんかあげるから待っててね」
「いや、だから……」
「俺たちがしてやりたいんだ。イクミこそ気にするな」

 そう言われちゃうとな……。
 ルイにもらった飾り紐を見ると、紐の中央に細い金属が編み込まれたみたいな部分があって、複雑な模様になっててすごくきれいだ……宝石とかは使われてないけど高そう。

「2人の気持ちが一番の贈り物だよ。ありがとう……」

 泣かない!
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