霧の向こう ~ 水の低きに就くが如し ~

隅枝 輝羽

文字の大きさ
上 下
151 / 226
情報収集の旅へ

151.戦力……戦力ねぇ

しおりを挟む
ルヴァの手作り朝食のメニューは、「永遠の死の国の森のきのこのキッシュ」に「ルヴァの気紛れクレーム・ブリュレ苦しみの炉風」と「恋人たちのブリオッシュ~三種のコフィチュールを添えて~」っていう、料理自体は旨そうだし罪はないが聞いただけで胸やけと胃もたれがしそうな名前のものだった。
言っとくけど名前付けたの俺じゃないからな、ルヴァが自分でそう説明したんだからな。
せめて名前くらい統一感が欲しかった。ブリオッシュもうちょっと頑張れよ。
正直、徹夜明けの早朝にルヴァのキャラはきついです。
俺とエリアスは徹夜でセックスして疲れてるんだよ。
ユリゼンじゃなくても君の理性が限界きそう。

そして何故か卵をふんだんに使っていて窯で焼く料理ばかりだ。
ゾアの世界図でロスは卵型で描かれているから卵料理ばかりでもおかしくないんだが、それらがルヴァの死体を焼いたのと同じ階下の炉で焼かれたのでないことを祈りつつ、どこで焼かれたのか訊くに訊けないでいる。
だって、硝子のドームの真ん中の六分儀セキスタントの軸の部分が煙突になってたみたいで、今見たら煙が出てるんだよ。
夜は煙なんか出てなかったのに。

朝食はどれもすっごく旨いし、知らないままの方がいいかも知れない。

「ルヴァ、お前がナナセを呼びつけた目的は何だ」

朝食を食べながら早速エリアスが切り出した。
俺を呼んだのは正確にはルヴァじゃなくてルヴァの燃え滓の方で、ここにいるのは自分が焼かれた炉に固執している地縛霊みたいなもんなんじゃないのか。知らんけど。
でも時々宮廷吟遊詩人ミンネゼンガーの出張サービスもしてるみたいだから地縛霊ともちょっと違うか。

「おっと。単刀直入だね。まあ隠すことでもないから教えてあげるよ。簡潔に言うと『この世界の均衡を取り戻すため』かな」

この世界の均衡を取り戻すって言うけど、「黎明と黄昏」がこの世界に具体的にどのように作用するのかはまだ分からない。
それにもしかして、俺に「魔導書を編纂せよ」って課題を出したあしながおじさんもグルだったってことか?
そういえばあの獣人領の舞踏会にはあしながおじさんも来ていたはずだし、ルヴァも宮廷吟遊詩人ミンネゼンガーとして参加していた。

「最初から俺に魔導書グリモワールを編纂させるために呼んだってこと?」
「そうなるね。ヴェイラがその杖を渡してくれたから、君の心に直接話しかけられるようになったよ」

ていうか、この杖アンテナだったのかよ。
あの声が聞こえ始めたのって、そういえばこの杖貰ってからだったな。

「そんな遠回しなことをせずに舞踏会で会った時に直接言えばよかっただろう」

エリアスは最早食事どころではなく苛々しながら正しい突っ込みを入れる。
既に血管がブチギレそうだ。

「それでは駄目なんだよ。誰かに教えられて正解を書き写したような魔導書じゃ意味がないんだ。太古の昔、闇と契約を交わした一族の末裔たるナナセくんが自分自身の力で正解に辿り着いた末に編み上げた魔導書でなくちゃ意味がない。僕は君たちに付かず離れず見守りながら、最低限の手助けしか出来なかったのさ」

確かに「黎明と黄昏」は追い詰められた末の産物だ。
決して他の方法では編み出すことはできなかったし、ましてや教えられて出来るものでないだろう。
それは誰よりも俺が一番良く知っている。
訳知り顔でいいように誘導されていた事実は腹立たしいし悔しいが、説明されればいちいち納得してしまう理由がそこにあった。

だがルヴァの回答を受けて更にエリアスが問う。

「そもそもお前はゾアなのに世界の均衡くらい自分でどうにか出来なかったのか?」
「本当にそう思うよね。僕は良くも悪くも神でも悪魔でもない『愛の化身』だからね。役割を超越した力はないんだよ。ゾアは人ほど自由ではないってことさ」
しおりを挟む
感想などいただけると励みになります。匿名メッセージはマシュマロへWaveBoxへどうぞ。
感想 6

あなたにおすすめの小説

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騎士団長を咥えたドラゴンを団長の息子は追いかける!!

ミクリ21
BL
騎士団長がドラゴンに咥えられて、連れ拐われた! そして、団長の息子がそれを追いかけたーーー!! 「父上返せーーー!!」

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

処理中です...