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情報収集の旅へ

147.神殿の外

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 ぎゅっと目をつぶったままだったんだけど、トントンと肩を叩かれて目を開ける。
 
「イクミ、大丈夫?」
「気持ち悪いのか?」
 
 2人が心配そうな顔をしていた。
 あれ? と思って辺りを見回せば、もう村長はいなくて、でも小部屋の作り自体はほとんど同じで戸惑う。
 
「転移……したの?」
「そうだよ。ここは上の神殿内」
 
 とうとう本格的に村を出てしまった……。急に実感がわいて緊張してきてしまう。
 村長の家で借りていた部屋で荷物をまとめていたときだって、それこそ魔法陣の上に立ったときだって、ここまで実感できてなかったんだよな。
 
「神殿ってこんな小さいの?」
「いや、ここは神殿の地下の転移の間だな。扉から出て階段を登ると一部壊れた神殿だってのがわかるぞ」
「古くて管理が行き届いてないんだよね。昔はこの神殿の周りに集落があったはずなのにね。でも、これでもかなりアルさんがきれいにしたらしいよ」
 
 少しくらっとしたけど、大丈夫そうだったから2人と一緒に階段を上る。ライトはないけど、あの魔法陣の光と同じような青白い線が足元に書かれていてちゃんと周りがわかる。
 
 ほとんど管理してなくても、こんな不思議な力が維持されてるんだからすごいよな……。繁栄してたときはどれだけすごかったんだろう。今は上から下に行けなくなっちゃったのかもしれないけど、こういう転移のシステムがあるとするなら、日本に帰るような転移だってできるのかもしれない。
 
 今、あの日この世界に迷い込んで、しばらくクラクラしていたのと同じようなめまいがしてる。だから、転移って似てるんじゃないかなって思ったんだ。あのときは魔力なんて注いでないけどな。
 
 階段を登りきれば、美しい彫刻がなされた大きな柱が何本も立っている。天井は一部崩落していて、ちょっともったいない。遺跡って呼ばれちゃうくらいなんだからしょうがないんだろうけどね。でもそれなりに残ってるから、神殿なんだなってのは見てすぐわかる。
 
「創世神さまを祀ってるんだよね?」
「そうだったんだろうし、あとは守護者だな」
「エリアで守護が違うんだよ。だから両方に祈りを捧げることが多いんだ」
「大神殿っていうのは?」
「そっちは創世神と4守護者と光と闇の守護者全部だな」
 
 一神教っぽいけど、守護者も祀ってるってことは、偶像崇拝禁止みたいなやつとは違うんだな。俺は日本人だから普通に「へー」って感じなだけだけど。
 
「イクミ、無理しないで座りな?」
「え?」
 
 ヴァンに言われてびっくりした。俺が大丈夫って言ったのに見抜いてたんだ……。
 
「で、でも、動けるよ? 階段も上れたし」
「外に出たら魔物が出るかもしれないんだから、万全じゃないなら休むべきでしょ」
「そこは無理するところじゃないぞ」
「あ……ごめん」
 
 椅子だったんだろう石に腰掛けて、グローブを外すと手のひらに出したお水を少し飲んだ。自分で出した水はなんとなく浸透が早い気がする。
 
 ほっと息をつくと、ヴァンが外を見てくると出ていった。神殿内は安全だというけど、ルイは俺のそばにいてくれる。
 
「初めてだと、そうなるよな。俺もガキのころ吐きそうになった。だからイクミは俺より対応できてるってことだ」
「それ、あんまり褒められてないような?」
「そうか?」
 
 少し座っていたらかなり普段どおりになってきた。なんとなく神殿を観察してみるけど、文様の意味とか文字とかわからないからさっぱりだ。
 歩いても大丈夫そうかなって思ったところで、小さな出入り口からヴァンが戻ってくる。
 
「あれ? 回復早いね。周囲は特に何もなし。普通の魔物はまあ、いるっちゃいるけど多くないし」
「変な人間がいなきゃいいだろ」
「それは大丈夫だった」
「ヴァン、ありがとう。クラクラ治ったから歩けるよ。行こう」
 
 ヴァンが俺をじっと見てから頷く。あれは嘘じゃないかを見られてたなーなんて思ったよ……。
 俺ですら頭を下げないと通れない小さな出入り口。壊れたから小さくなっちゃったのかと思ったけど、そうじゃないんだって。え、日本の茶室的な? なんて思ったけど、それとも少し違うらしい。
 
「大神殿は神官たちが集まってて、創世神の力が溢れてるけど、こういう小さいところのは違うんだよ。だから少しでも内部に創世神や守護者の力を留めるようにできてるの。まあ、ここは打ち捨てられて崩落してるから意味があまりなくなっちゃってるんだけどね。でも、魔法陣が生きてるから、なんらかの力が働いてるんだろうねぇ」
「え、じゃあ、魔法陣いきなり動かなくなるかもなの?」
「それもみんなわかってる。あの降りてくる道を登るのはキツいけどな」
 
 神殿を出て少し歩いたところで空気が変わった。俺がきょろきょろしていると、ルイが安全なエリアの外に出たことを教えてくれる。
 
「イクミ、そういうのなんとなくわかるようになったんだねぇ」
 
 あ、そういえばそうか。はっきりとはわからないけど、なんか変だなくらいは感じるようになったのかも。
 ここは下と違って虹色の霧がなくてなんとなく寂しい。でも、木々の様子は日本と似ていてちょっと懐かしくもある。
 
 霧が漂っている森の中を歩いていくけど、先導してくれているヴァンが黒い鳥を飛ばしてくれた。それは前に俺が見てみたいって言ってたやつだ。
 
「ヴァン、本当は飛ばさなくてもいいのに、俺のために出してくれたんでしょ」
「あれー? バレちゃった?」
「だって、さっき、周辺問題ないって言ってたじゃん」
 
 きっと俺が村を出たばかりで不安だろうと、気を紛らわせようとしてくれたんだろう。ホントみんなさ……。
 
「あの鳥って偵察するんでしょ? ヴァンに伝えてくるの?」
「そう。あれはオレの第二の目だよ。見えるというよりほぼ感知だけどね。でも魔物も人間もわかるし、土地の変わってるところとかもわかるんだ。すごいでしょ」
「めっちゃすごい!」
 
 魔力探知プラス超音波探知みたいな感じなのかなって思ったけど、そこは口にしなかった。でもきっと近いと思うんだ。
 ヴァンが言うには結構高度を上げると広範囲をざっくり知る感じで、より詳しく知りたいときは知りたい場所に近づけるんだって。
 
「闇魔法が使えれば誰でも使えるってわけじゃないんだ。オレは闇魔法と相性がいいのと、いろんな魔法を組み合わせて術式を組んでるからね」
 
 鳥を飛ばした方向に向かって歩いていくヴァンにルイが声をかけると、頷いたヴァンが鳥を高く飛ばして方向を変えた。
 
「どうしたの?」
「ちょっと見てもらいたい方向に飛ばしてもらった」
「変な感じはしないねぇ。でもルイの言う通りまずそっちに行こうか」
 
 そう言った2人の後ろを歩きながら、途中魔物も倒しつつ霧の森の中を進む。
 今回は演習じゃないけど、それでも前回の演習のときの戦闘が役に立ってる。ルイやヴァンが前衛で魔物と戦っていても、俺は2人を信用して矢を放って大丈夫なんだよね。とはいえ……というところもあるけど……。
 
 そうして、さすがに1日目だからって今日は早めの野営をすることになった。
 
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