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情報収集の旅へ
146.旅立ち
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「イクミくん、身体に気をつけるのよ? 無理はしないで、ちゃんと2人に話すこと。それから……」
「サディ、イクミ君はそんなに子どもじゃない。信頼してあげないと」
「わかってるわよ。でもうちの子だもの……心配になるわ」
サディさんが一番ソワソワしている。
しっかりした旅用の装備を身に着けて、今までで一番格好いいだろう俺は……泣かないように必死だ。
「サディさん。俺がここに来てから……いっぱいいっぱいありがとう。サディさんはこの世界の俺のお母さんだと思ってる。いつも助けられてたし、毎日楽しかった。俺、帰れても絶対忘れない……でも、もし帰れなかったら、ここに戻ってくる」
「私もイクミくんがいて毎日楽しかったわ。ずっといてほしいけど、イクミくんの希望が叶うよう祈ってるわね」
「ありがとう……。あ、息子さん、レーメルさんだっけ? 会えたら伝えることとかある?」
「あの子は冒険者だから、1か所にいないでしょうしね。元気でやってるならいいわよ」
そういうもの? 俺にはこんなに心配してくれるのに。でも、そっと村長が教えてくれた。レーメルさんが旅立つときもこんな感じだったんだって。
旅立ったらなかなか連絡も取れないから、だんだん言わなくなっちゃったみたいなんだ。
ただ、サディさんも冒険者として自分の生まれ育ったところを出て、あまり連絡も取らずに結婚して、あげくこんな秘密の村にいるからなんとも言えないんだって。それが冒険者だからって。
なんかそれって寂しいし、手紙みたいなのがもう少し流行るといいよね。魔法でなんとかできるのが一番いいけど、きっとできないか開発されてないってことなんだろう。だとしたら、アナログな手段だよな。
ドマノンさんがよく使う粘土板はかさばるし重いか……ていうか本なんかにするんじゃなきゃ何に書いてもいいんじゃない?
俺は少し離れたところに転がっていた折れた棒を拾ってきた。アウトドアナイフで割るようにして焚きつけに使うような細くて小さな板を4枚作る。
「ルイ、これ、燃えないように表面だけほんのり焦がせる?」
「うーん……ヴァン?」
「いいよー」
ルイは水魔法とか風魔法ならまあまあ使いこなせるけど、ほんのり焦がすとかの火魔法はやっぱり苦手なんだって言って、ヴァンにやらせてた。
「これどうするの?」
「ここにサディさんの言葉を彫って! もし会えたら渡すんだ」
紙は高級品で、書くのに向いてるような皮紙もそこそこ貴重っていうなら、それこそ竹簡みたいなのを使いたい。でも墨とかインクがそもそも普及してないっていうなら彫るのがいいよね。
ここの文字は見た感じ楔文字みたいな感じだから、彫りやすそうだし。
「焦がした木に彫るのか?」
「あ! なるほどー! そういうことか」
ヴァンはわかってくれたみたいで、手にした木に何かを削り込んでくれた。
「すごいね。削ると元の木の色が出て読みやすい」
「これなら渡せるし、見たら嬉しいでしょ? 小さな木片なら軽いし。まあ、こすれると汚れるけど」
サディさんはちょっとびっくりしつつも、自分で彫るわとナイフを器用に使っていた。
「まったく、最後まで不思議なことをして驚かせるのね。でも、ルイもそんなにあの子の顔を覚えていないでしょ? 渡そうと必死にならなくていいからね」
「粘土板や石碑なんかは見なれていたけど、木片を焦がしてから彫ろうなんて誰も思わなかったな……」
「細かい字を木に彫っても、とにかく読みにくいだろうって思ってたけど、こんな方法で解決できるんだね」
すっごくいい加減にやった方法なのに驚かれて俺がびっくりだよ……。なんで石碑があってやらないんだって思ってたけど、石碑は大きいものに大きく彫るからいいんだって。
あと中途半端に皮紙本があるせいで、書き付けて残すなら皮紙ってイメージが強すぎたみたい? でもさぁ、子どもたちだって文字を覚えるのに地面に書いてたんだし、誰かがやってても良さそうなのにね。
「イクミ、預かった木片は俺のマジックバッグに入れたぞ」
「うん。ありがとう。俺のザックも入れてもらっちゃってごめんね。スペース圧迫してない?」
「あれ1つくらいはなんてことない。まあ、前に村に帰るときは仕入れたものでいっぱいで、イクミの荷物を入れてやれなかったからな……悪かった」
「なんで謝るんだよ。悪くないよ」
「今回はオレもいるから荷物は余裕だよ、イクミ。食材もたくさん持ったし、狩っても入るし安心して」
なんで食材……確かに俺は食にこだわるほうだけど、今それはおかしくない? 俺、チベスナみたいな顔になっちゃったけど、サディさんもちょっと呆れた顔してて笑っちゃった。そんな顔するんだね。
料理教室のメンバーには、これからも美味しい料理作ってねって言ったし、来れなかった人にもお礼を伝えてってお願いした。
ガルフさんやドマノンさんたちは当番だから門から離れられないって聞いて、朝方に挨拶しに行ったんだけどね。自警団の人たちにも揉みくちゃにされた……。
後ろの方で固まって、ママさんにしがみついてグスグスしてる子どもたちのところに行ってしゃがみこむと、とうとう泣かれた……。でも必死で『行かないで』って言わないようにしてる感じで、それがすごくいじらしくて可愛い。
「これ、みんなに作ったんだ。みんながいい子で強くなれるようにってお守りだよ」
俺は暇を見つけては作っていた布製のお守りを渡した。俺の破れたパーカーを分解して作った布と霧蜘蛛の布や糸を合わせて作ったやつ。日本語で御守りって文字と、こっちの文字はよくわからないけど、サディさんに聞きながら一応ひとりひとりの名前を縫ったつもり。
大きい子は欲しいかわからないけど、一応作ったんだ。差別は良くないよね。いらなかったら捨ててもらっていいし。
そしたら、あの俺より大きい子が俺のそばに来て「ん」と何かをくれた。この子は後半の鍛錬では時々俺とも組手をしてくれたんだよなぁ。すごく強くて無口でルイみたいだなって思ってた。
「これは?」
「安全の願いを込めて編む武器の飾り紐だな」
ルイが補足してくれた。
「みんなで必ずひと目は結ったから。ここの子どもたち全員がイクミを応援してる、から」
その子が俯いたまま言う。ずっと我慢してた俺の涙腺が崩壊したのは言うまでもない……。ねぇ、なんでみんなこんないい人たちばかりなんだよ。
俺は我慢できなくて1人ずつハグをしてしまった。
これ以上いたら、目が腫れて開かなくなりそうだったから、もう行こうってルイとヴァンに言うと、2人がめっちゃ優しい目で俺を見てた。絶対に泣かないって決めてたのに……無理だった……。
この先は村から出ていい人しか入れないエリア。奥に魔法陣のある祠みたいなのがあるんだって。サディさんも入れるはずだけど、サディさんとは村のみんなと一緒にお別れをした……つらい。
村長が俺の肩を叩いて言う。
「ヴァンが魔力を注ぎ込むから魔法陣がちゃんと反応するはずだ。ただ、初めてだからめまいがあるかもしれない。そのときは神殿の遺跡内で少し休みなさい。いつも通り無理せず、だよ」
「はい。村長もいつも影からサポートしてくれてありがとうございました。大きな視野で見ててくれるっていうか……安心感がすごかったです。俺を優しく迎え入れてくれて……嬉しかったし、本当にお世話になりました。あ! 弓は大事にするしちゃんと返します!」
「ここでサディと無事を祈ってるよ」
村長ともハグをして、俺は2人と一緒に祠の中の魔法陣の中央に立った。初めてでよくわからないから、俺は2人の指示に従うだけだ。でも、ちょっと怖いからこっそりルイのマントをつまんでいるんだけど……。
「じゃあ、やるよ」
ヴァンが言うと、魔法陣が青白く輝き出す。ぐにゃりと視界がゆがむ感覚だ。確かにちょっと気持ち悪いかも……と、ぎゅっと目をつぶった。
「サディ、イクミ君はそんなに子どもじゃない。信頼してあげないと」
「わかってるわよ。でもうちの子だもの……心配になるわ」
サディさんが一番ソワソワしている。
しっかりした旅用の装備を身に着けて、今までで一番格好いいだろう俺は……泣かないように必死だ。
「サディさん。俺がここに来てから……いっぱいいっぱいありがとう。サディさんはこの世界の俺のお母さんだと思ってる。いつも助けられてたし、毎日楽しかった。俺、帰れても絶対忘れない……でも、もし帰れなかったら、ここに戻ってくる」
「私もイクミくんがいて毎日楽しかったわ。ずっといてほしいけど、イクミくんの希望が叶うよう祈ってるわね」
「ありがとう……。あ、息子さん、レーメルさんだっけ? 会えたら伝えることとかある?」
「あの子は冒険者だから、1か所にいないでしょうしね。元気でやってるならいいわよ」
そういうもの? 俺にはこんなに心配してくれるのに。でも、そっと村長が教えてくれた。レーメルさんが旅立つときもこんな感じだったんだって。
旅立ったらなかなか連絡も取れないから、だんだん言わなくなっちゃったみたいなんだ。
ただ、サディさんも冒険者として自分の生まれ育ったところを出て、あまり連絡も取らずに結婚して、あげくこんな秘密の村にいるからなんとも言えないんだって。それが冒険者だからって。
なんかそれって寂しいし、手紙みたいなのがもう少し流行るといいよね。魔法でなんとかできるのが一番いいけど、きっとできないか開発されてないってことなんだろう。だとしたら、アナログな手段だよな。
ドマノンさんがよく使う粘土板はかさばるし重いか……ていうか本なんかにするんじゃなきゃ何に書いてもいいんじゃない?
俺は少し離れたところに転がっていた折れた棒を拾ってきた。アウトドアナイフで割るようにして焚きつけに使うような細くて小さな板を4枚作る。
「ルイ、これ、燃えないように表面だけほんのり焦がせる?」
「うーん……ヴァン?」
「いいよー」
ルイは水魔法とか風魔法ならまあまあ使いこなせるけど、ほんのり焦がすとかの火魔法はやっぱり苦手なんだって言って、ヴァンにやらせてた。
「これどうするの?」
「ここにサディさんの言葉を彫って! もし会えたら渡すんだ」
紙は高級品で、書くのに向いてるような皮紙もそこそこ貴重っていうなら、それこそ竹簡みたいなのを使いたい。でも墨とかインクがそもそも普及してないっていうなら彫るのがいいよね。
ここの文字は見た感じ楔文字みたいな感じだから、彫りやすそうだし。
「焦がした木に彫るのか?」
「あ! なるほどー! そういうことか」
ヴァンはわかってくれたみたいで、手にした木に何かを削り込んでくれた。
「すごいね。削ると元の木の色が出て読みやすい」
「これなら渡せるし、見たら嬉しいでしょ? 小さな木片なら軽いし。まあ、こすれると汚れるけど」
サディさんはちょっとびっくりしつつも、自分で彫るわとナイフを器用に使っていた。
「まったく、最後まで不思議なことをして驚かせるのね。でも、ルイもそんなにあの子の顔を覚えていないでしょ? 渡そうと必死にならなくていいからね」
「粘土板や石碑なんかは見なれていたけど、木片を焦がしてから彫ろうなんて誰も思わなかったな……」
「細かい字を木に彫っても、とにかく読みにくいだろうって思ってたけど、こんな方法で解決できるんだね」
すっごくいい加減にやった方法なのに驚かれて俺がびっくりだよ……。なんで石碑があってやらないんだって思ってたけど、石碑は大きいものに大きく彫るからいいんだって。
あと中途半端に皮紙本があるせいで、書き付けて残すなら皮紙ってイメージが強すぎたみたい? でもさぁ、子どもたちだって文字を覚えるのに地面に書いてたんだし、誰かがやってても良さそうなのにね。
「イクミ、預かった木片は俺のマジックバッグに入れたぞ」
「うん。ありがとう。俺のザックも入れてもらっちゃってごめんね。スペース圧迫してない?」
「あれ1つくらいはなんてことない。まあ、前に村に帰るときは仕入れたものでいっぱいで、イクミの荷物を入れてやれなかったからな……悪かった」
「なんで謝るんだよ。悪くないよ」
「今回はオレもいるから荷物は余裕だよ、イクミ。食材もたくさん持ったし、狩っても入るし安心して」
なんで食材……確かに俺は食にこだわるほうだけど、今それはおかしくない? 俺、チベスナみたいな顔になっちゃったけど、サディさんもちょっと呆れた顔してて笑っちゃった。そんな顔するんだね。
料理教室のメンバーには、これからも美味しい料理作ってねって言ったし、来れなかった人にもお礼を伝えてってお願いした。
ガルフさんやドマノンさんたちは当番だから門から離れられないって聞いて、朝方に挨拶しに行ったんだけどね。自警団の人たちにも揉みくちゃにされた……。
後ろの方で固まって、ママさんにしがみついてグスグスしてる子どもたちのところに行ってしゃがみこむと、とうとう泣かれた……。でも必死で『行かないで』って言わないようにしてる感じで、それがすごくいじらしくて可愛い。
「これ、みんなに作ったんだ。みんながいい子で強くなれるようにってお守りだよ」
俺は暇を見つけては作っていた布製のお守りを渡した。俺の破れたパーカーを分解して作った布と霧蜘蛛の布や糸を合わせて作ったやつ。日本語で御守りって文字と、こっちの文字はよくわからないけど、サディさんに聞きながら一応ひとりひとりの名前を縫ったつもり。
大きい子は欲しいかわからないけど、一応作ったんだ。差別は良くないよね。いらなかったら捨ててもらっていいし。
そしたら、あの俺より大きい子が俺のそばに来て「ん」と何かをくれた。この子は後半の鍛錬では時々俺とも組手をしてくれたんだよなぁ。すごく強くて無口でルイみたいだなって思ってた。
「これは?」
「安全の願いを込めて編む武器の飾り紐だな」
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「みんなで必ずひと目は結ったから。ここの子どもたち全員がイクミを応援してる、から」
その子が俯いたまま言う。ずっと我慢してた俺の涙腺が崩壊したのは言うまでもない……。ねぇ、なんでみんなこんないい人たちばかりなんだよ。
俺は我慢できなくて1人ずつハグをしてしまった。
これ以上いたら、目が腫れて開かなくなりそうだったから、もう行こうってルイとヴァンに言うと、2人がめっちゃ優しい目で俺を見てた。絶対に泣かないって決めてたのに……無理だった……。
この先は村から出ていい人しか入れないエリア。奥に魔法陣のある祠みたいなのがあるんだって。サディさんも入れるはずだけど、サディさんとは村のみんなと一緒にお別れをした……つらい。
村長が俺の肩を叩いて言う。
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「はい。村長もいつも影からサポートしてくれてありがとうございました。大きな視野で見ててくれるっていうか……安心感がすごかったです。俺を優しく迎え入れてくれて……嬉しかったし、本当にお世話になりました。あ! 弓は大事にするしちゃんと返します!」
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