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異世界生活編
144.準備に大忙しの日々
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それからはほんとうに目まぐるしい毎日だった。今までだってそれなりに早く感じてたんだけど、そんなの比じゃないくらいバタバタして、1週間1週間がいつの間にか終わってるんだ。
頼んでいた俺の装備ができあがって、それの微調整をしたり、ルイからアドバイスが入って急いで作り直しになったり。
それから、サディさんのとっておきの薬も、ルイが旅するときよりも多く渡された。
「イクミくん、これマジックバッグよりも全然量は入らないんだけど、薬を入れる分には困らないから使って?」
「これは?」
「そうねぇ、あえて言うならマジックポーチかしらね……若い時買ったものでずっと使っていなかったのよ。ちょっとボロボロだけど」
見た目は小さな巾着だったんだけど、空間魔法が施してあるものだった。
サディさんはボロボロと言っているけど、刺繍で縁取りとか入ってて全然そんなことないように見える。コンビニおにぎり一個くらいの大きさで、こんな小さいのに薬の小瓶が20本は余裕で入るというからびっくり。
マジックバッグは魔力認証された個人専用が多い――そうじゃないものあるらしい――けど、このポーチはちょっとしたものを入れる日用品だから誰でも使えるんだって。小さいから魔力もほとんど使わないっていうありがたい魔導具だ。
「サディさん、ありがとう! 薬は各自でいくつか持ってたほうが安心だもんね」
「ポーチをどこにしまったかしらって探していたから、ちゃんと見つかってよかったわ。それは返さなくていいわよ。イクミくんの世界に持っていったら使えなくなってしまうのかもしれないけど……」
「いいの……?」
「むしろそんなものしかあげられなくて悪いのだけど……」
そんなことないって俺はサディさんに抱きついた。本当の母親でも祖母でもないけど、でもここでの俺の親みたいなもんだ……。しかも、日本で暮らしていたときには周りにいなかった『俺の甘えやすい人』。
「俺、一生大事にする。ありがとう」
「私もイクミくんとのお料理レシピはずっと大切にするわ」
◇◇◇
そうやって俺の身の回りが騒がしくなってくると、子どもたちもなんとなく察したのか俺から離れようとしなくなってきた。
俺はあまり上手になだめられなくて、ルイなんかもっとできなくて、2人してワタワタしちゃうことが多い。ママさんが来ると助けてくれるんだけどね。
俺のほうも、料理教室で伝えきれなかったことをドマノンさんに頼んで粘土板に彫ってもらうとかしてたかな。
デンプンがいっぱい取れるようになったら、スープやソースのとろみ付けにも使えるし、衣にしたら竜田揚げみたいのができるからそれは伝えておきたかったんだよね。
ニンニクとトウガラシをビネガーに漬け込むと酸っぱ辛い調味料になるよーとかもね。
ところでさ。最近、ドマノンさんとラキさんが、なんかいい感じなのを俺は見逃していない。まだラブじゃないんだろうけど、2人が近い距離で話してること多い気がするんだよ。
するどい俺の目はごまかせない! ああああ、行く末を見たかったなぁ……。
なんか、1年近くここにいて、いろんなことをしてきたはずなのに、今となったらみんなとしたいことをする時間が足りない。違うか……。長くいたから、みんなと仲良くなっちゃったんだよな。それでやりたいことが増えちゃったのかもしれない。
2回目の演習に行く前から畑仕事も忙しくなってきていたのに、こんなときに俺が準備にばかり動いていて申し訳ない。もちろん、まるっきり行かないってわけじゃないし、畑仕事も手伝ってるんだけどさ。
春のジャガイモの植え付けは手伝ったよ。収穫は見れないけどたくさん増えますようにって祈りながら種芋を埋めていったんだ。
そして、今日はルイとヴァンと一緒に、例の魔物研究の獣人さんに会ってきたんだけど……なんていうか、うん。
「説明されてもイメージ掴みにくかったけど、会ってみてもやっぱりなんか不思議な人だったねぇ」
「言った通りだったでしょ?」
「昼に行ったのがいけなかったのかなぁ……最初、ぬぼーっとしてたけど」
「あれが戦ってないときの通常だな」
ヴァンは1人で話を聞きに行くつもりだったみたいなんだけど、俺に関することなんだからって着いていったんだよ。でも、その人は魔物の話をしだすまではめっちゃ眠そうだったんだ。髪もボッサボサで、シワシワの服……寝てたんだろうね。夜行性バリバリの獣人だって言ってたし。
ヴァンがスライムの話はもう伝えていて、そのスライムが攻撃してくるのが俺だってわかると、いきなり目をギラギラさせてきて怖かった。
「面白かったよね、イクミ、すすすっとルイの後ろに移動してさぁ」
「だって猛獣みたいな目に変わったから……」
今考えれば失礼な態度だったなとは思うんだけど、あのときは無意識にルイに守ってもらおうとしてたんだよな。男としてもちょっとダメだったと思う。
魔物の話については、いろんなタイプを聞けた気はする。さすがにこの村に住んでると知識に偏りは出ちゃうらしいんだけどね。でも各地に散って、たまに帰ってくる村人なんかからは情報収集してるらしくて、ルイたちも普段見ないような魔物の話を聞けたんだって。
「情報を網羅してなくても、聞けただけラッキーだったね」
「村長たちからも魔物の話を聞いてはいたが、視点が違うというかなんというか……」
「まあ、あとは戦いながら把握するしかないよね。基本はオレとルイでいけると思うんだけど」
「俺にもできることあったら言ってね……あんまないかもだけど」
なんとなくそう口を挟めば、2人して「怪我しないでくれ」みたいなこと言うんだもん。
サディさんの薬の効果はすっごいけど、確かに無駄遣いできるもんじゃないもんな。
「でも、俺、ラータナだったら野生で生えてても見分けられる自信あるよ」
ラータナってのは薬草の1種。薬に加工しなくてもかなり効果があるんだ。ただ、新鮮なものじゃないと意味がないから、持ち歩けないんだよね。
「それはいいね。サディさんの薬草畑の手伝いが役に立ってるじゃん」
「最初、手伝いを始めたときはそんなこと思ってもなかったけど……もしかして、サディさんそこまで読んでたのかな」
「どうだかなぁ。それもありそうだが、単に向いてそうだからって思っただけかもしれない」
サディさんの薬草の知識は少しは俺も覚えられたと思う。でも薬にするのは魔力がないからやったことないし、レシピも知らないけどね。ラータナの他にも見分けられるであろう薬草はあるんだけど、そのまま薬みたいに使えるのはそこまで多くないというか。
ジベラみたいに薬草であり料理にも使えるみたいなのはあるけど、俺的にはあれは食材なんだよなぁ。
まあ、いいか。なんていうか、やってきたすべてのことが無駄じゃないんだってことだよね。
そして……俺の旅立ちの日が10日後に決まった。
頼んでいた俺の装備ができあがって、それの微調整をしたり、ルイからアドバイスが入って急いで作り直しになったり。
それから、サディさんのとっておきの薬も、ルイが旅するときよりも多く渡された。
「イクミくん、これマジックバッグよりも全然量は入らないんだけど、薬を入れる分には困らないから使って?」
「これは?」
「そうねぇ、あえて言うならマジックポーチかしらね……若い時買ったものでずっと使っていなかったのよ。ちょっとボロボロだけど」
見た目は小さな巾着だったんだけど、空間魔法が施してあるものだった。
サディさんはボロボロと言っているけど、刺繍で縁取りとか入ってて全然そんなことないように見える。コンビニおにぎり一個くらいの大きさで、こんな小さいのに薬の小瓶が20本は余裕で入るというからびっくり。
マジックバッグは魔力認証された個人専用が多い――そうじゃないものあるらしい――けど、このポーチはちょっとしたものを入れる日用品だから誰でも使えるんだって。小さいから魔力もほとんど使わないっていうありがたい魔導具だ。
「サディさん、ありがとう! 薬は各自でいくつか持ってたほうが安心だもんね」
「ポーチをどこにしまったかしらって探していたから、ちゃんと見つかってよかったわ。それは返さなくていいわよ。イクミくんの世界に持っていったら使えなくなってしまうのかもしれないけど……」
「いいの……?」
「むしろそんなものしかあげられなくて悪いのだけど……」
そんなことないって俺はサディさんに抱きついた。本当の母親でも祖母でもないけど、でもここでの俺の親みたいなもんだ……。しかも、日本で暮らしていたときには周りにいなかった『俺の甘えやすい人』。
「俺、一生大事にする。ありがとう」
「私もイクミくんとのお料理レシピはずっと大切にするわ」
◇◇◇
そうやって俺の身の回りが騒がしくなってくると、子どもたちもなんとなく察したのか俺から離れようとしなくなってきた。
俺はあまり上手になだめられなくて、ルイなんかもっとできなくて、2人してワタワタしちゃうことが多い。ママさんが来ると助けてくれるんだけどね。
俺のほうも、料理教室で伝えきれなかったことをドマノンさんに頼んで粘土板に彫ってもらうとかしてたかな。
デンプンがいっぱい取れるようになったら、スープやソースのとろみ付けにも使えるし、衣にしたら竜田揚げみたいのができるからそれは伝えておきたかったんだよね。
ニンニクとトウガラシをビネガーに漬け込むと酸っぱ辛い調味料になるよーとかもね。
ところでさ。最近、ドマノンさんとラキさんが、なんかいい感じなのを俺は見逃していない。まだラブじゃないんだろうけど、2人が近い距離で話してること多い気がするんだよ。
するどい俺の目はごまかせない! ああああ、行く末を見たかったなぁ……。
なんか、1年近くここにいて、いろんなことをしてきたはずなのに、今となったらみんなとしたいことをする時間が足りない。違うか……。長くいたから、みんなと仲良くなっちゃったんだよな。それでやりたいことが増えちゃったのかもしれない。
2回目の演習に行く前から畑仕事も忙しくなってきていたのに、こんなときに俺が準備にばかり動いていて申し訳ない。もちろん、まるっきり行かないってわけじゃないし、畑仕事も手伝ってるんだけどさ。
春のジャガイモの植え付けは手伝ったよ。収穫は見れないけどたくさん増えますようにって祈りながら種芋を埋めていったんだ。
そして、今日はルイとヴァンと一緒に、例の魔物研究の獣人さんに会ってきたんだけど……なんていうか、うん。
「説明されてもイメージ掴みにくかったけど、会ってみてもやっぱりなんか不思議な人だったねぇ」
「言った通りだったでしょ?」
「昼に行ったのがいけなかったのかなぁ……最初、ぬぼーっとしてたけど」
「あれが戦ってないときの通常だな」
ヴァンは1人で話を聞きに行くつもりだったみたいなんだけど、俺に関することなんだからって着いていったんだよ。でも、その人は魔物の話をしだすまではめっちゃ眠そうだったんだ。髪もボッサボサで、シワシワの服……寝てたんだろうね。夜行性バリバリの獣人だって言ってたし。
ヴァンがスライムの話はもう伝えていて、そのスライムが攻撃してくるのが俺だってわかると、いきなり目をギラギラさせてきて怖かった。
「面白かったよね、イクミ、すすすっとルイの後ろに移動してさぁ」
「だって猛獣みたいな目に変わったから……」
今考えれば失礼な態度だったなとは思うんだけど、あのときは無意識にルイに守ってもらおうとしてたんだよな。男としてもちょっとダメだったと思う。
魔物の話については、いろんなタイプを聞けた気はする。さすがにこの村に住んでると知識に偏りは出ちゃうらしいんだけどね。でも各地に散って、たまに帰ってくる村人なんかからは情報収集してるらしくて、ルイたちも普段見ないような魔物の話を聞けたんだって。
「情報を網羅してなくても、聞けただけラッキーだったね」
「村長たちからも魔物の話を聞いてはいたが、視点が違うというかなんというか……」
「まあ、あとは戦いながら把握するしかないよね。基本はオレとルイでいけると思うんだけど」
「俺にもできることあったら言ってね……あんまないかもだけど」
なんとなくそう口を挟めば、2人して「怪我しないでくれ」みたいなこと言うんだもん。
サディさんの薬の効果はすっごいけど、確かに無駄遣いできるもんじゃないもんな。
「でも、俺、ラータナだったら野生で生えてても見分けられる自信あるよ」
ラータナってのは薬草の1種。薬に加工しなくてもかなり効果があるんだ。ただ、新鮮なものじゃないと意味がないから、持ち歩けないんだよね。
「それはいいね。サディさんの薬草畑の手伝いが役に立ってるじゃん」
「最初、手伝いを始めたときはそんなこと思ってもなかったけど……もしかして、サディさんそこまで読んでたのかな」
「どうだかなぁ。それもありそうだが、単に向いてそうだからって思っただけかもしれない」
サディさんの薬草の知識は少しは俺も覚えられたと思う。でも薬にするのは魔力がないからやったことないし、レシピも知らないけどね。ラータナの他にも見分けられるであろう薬草はあるんだけど、そのまま薬みたいに使えるのはそこまで多くないというか。
ジベラみたいに薬草であり料理にも使えるみたいなのはあるけど、俺的にはあれは食材なんだよなぁ。
まあ、いいか。なんていうか、やってきたすべてのことが無駄じゃないんだってことだよね。
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