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異世界生活編

143.村長のお話

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 3日目も魔物を倒しながら歩いて夕方に村に戻った。

 相変わらず虫魔物が多かったけど、虫じゃない魔物も出て、持ってるのとは別のお肉もゲットできたんだよね。この魔物肉の料理も食べたいってヴァンが言うから、珍しく昼過ぎの変な時間に料理することになったんだ。そのせいで帰りが遅くなったわけ。

「予定より遅いから少し心配したじゃねぇか」
「あ! ドマノンさん、ただいま」
「元気そうで安心した……っていうか、いい匂いするな」

 防壁の門のところで俺たちはドマノンさんに匂いを嗅がれてしまった。ルイとヴァンは浄化してくるべきだったかなんて言ってる。

「バレてるから言うけど、さっき倒した魔物を料理してってヴァンに言われてね……」
「ずりぃ」
「ズルくないよ。演習の一環なんだからさぁ」

 ふふんと得意気なヴァンだけど、作らされるのは俺なんだよなぁ。料理嫌いじゃないからいいんだけど。

 ドマノンさんは当番だったからちょうど門のところにいただけで、さすがに初回とは違ってサディさんが来ることはなかった。だけど、遅くなったからきっと心配してると思う。

「ルイたちは村長に報告?」
「こんなに日が傾いてたら、村長探して捕まえるより家に帰ったほうが早いだろ」
「じゃあ、ヴァンも一緒に帰ろう」

 3人揃って玄関を開ければ、サディさんがニコニコと迎えてくれた。夕飯は煮込みにしたらしいけど、俺はそこまでお腹が減ってない。

「俺は少しでいいや」
「2人とも変な時間にイクミくんに作らせないの。あなたたちと違って食べる量が違うのよ?」
「だってぇ……この肉ならどんな料理にしてくれるのかなって思っちゃうじゃんー」

 サディさんは料理が気になるのはわかるけど……なんて言いながら笑っていたから、怒ってるわけではないんだよね。

「今回仕留めた魔物のお肉で余ったやつは自警団に預けてあるよ。サディさんももらいに行ってね」
「あら、結構たくさん余ったの?」
「意外と余った、かな。魔物も大きかったし」

 今日は村長が戻ってきたらテーブルを囲んで報告兼振り返り。みんなはまだモリモリ食べてるんだけどね……。前回のときは俺が疲れて寝ちゃってたから、村長への報告は聞いてなかったし、立ち会うのは初めてなんだよね。

「……という感じで」
「じゃあ、問題は少なそうだね」
「と思う。一部の魔物はかなり苦手なようだが、そこはカバーできる」
「村長の貸した弓のおかげもあって、かなりイクミの能力が底上げされてる感じ。前回よりも不安感が全然なかったよ」

 ダメ出しはそんなにないみたいで安心した。ううん、ここの人たちはいつも否定はしてこないよな。こうしたほうが良いよってアドバイスはあっても、俺自身を否定されたことは一回もない。

 みんな通ってきた道だからって、俺がつまづきやすいところも見てすぐにわかってくれるんだ。アドバイスも的確で、訳がわからなくても言うとおりにしていくと、いつの間にかできるようになってる。

 難しいこともたくさんあったけど、どうしたら俺がわかりやすいかって考えてくれてるのがわかるんだ。 
 だから、俺は頑張ろうって思えたし、信じてくれる気持ちに応えたいって思うんだよね。

「良さそうだね。あとは準備ができたらってところかな。イクミ君、旅立つ日は2人と相談して決めなさい」
「え?」
「寂しくなるわねぇ……」
「で、も……まだ魔物の情報とか集めるんだよね?」
「どこまでわかるかは予想がつかないけど、一応それはしたいね」

 いざとなったら尻込みしてしまうのは俺の悪いところなのか? 勢いで放り込まれるほうが、まだ覚悟が決まる気がするよ。

「嬉しい気持ちもあるんだけど、緊張がやばい……」
「確かに行き先がハッキリしてないのは怖いかもしれないが、やることはいつもと同じだよ。無事に歩いて、魔物を倒す。そこにイクミ君の目的が足されるだけだからね」

 うん……。村での鍛錬の時間が、旅に出たらひたすら歩く時間と遭遇した魔物の討伐に変わるんだよね。

 俺の目的かぁ。帰る手がかり見つけるってそんな簡単なことじゃないんだろうな……。そもそもこの世界に他の異世界人……地球人はいるのか?
 村長やサディさんが冒険者だったときは、そんな話は聞いたことがなかったんだろ?

「そういえば、冒険者だったときの村長の旅の目的は何だったんですか?」
「私の目的か……そうだね、強くなりたかったのと、ヒトのルーツ……つまり、古代のことを知りたかったのが目的だったかな。サディはそんなときに出会った同士でもあるんだよ。すぐ意気投合してね」
「おぉ……」

 2人の出会いはそんなだったのか。村長は考古学者みたいな感じなのかな……古代のことを知ることはできたのかな。志半ばで村長になったの?

「この地域はヒト族のルーツの場所だと言われているんだよ。水の守護者と縁が深いからね。だから上の遺跡に何度も行っているうちに、私は先代に気に入られてしまったんだ」
「そうだったんですね」
「でも無理やり押し付けられたわけではないよ。村長をしながら今も遺跡のことは調べているしね」

 笑った村長の渋い顔のなかに、チラッと好奇心旺盛な若い表情が見えた。そっか……まだ村長は目的を諦めてないし、ここに居ついてもワクワクを忘れてないんだな。

「へぇー、そうだったんだ」
「ヴァンも知らなかったの?」
「だって、こんなこと聞かないじゃん」

 ルイはきっとなんとなくは知ってるんだろうね。俺とヴァンだけがほぇぇって顔で聞いていた。

「あ、じゃあやっぱり弓は大事に使わないと! 村長の研究に必要かも……」
「いや。むしろイクミ君が持っているほうが、その弓も本来の力が出せるだろう。先代が言っていたからアーティファクトであることは確かなんだが、どういうものだったのかは不明なんだよ。だからこそ、使ってあげたほうがいいような気がするんだ」
「でも……」
「欲を言えば、一緒に着いていってその弓の効果なんかを直接見たいところだけど、それは無理だからね。そこはルイに頼むつもりだよ。イクミ君も思ったことがあったら、どういう状況だったのかをルイに伝えてくれないかな」

 それはもちろん構わないけどさ。
 どのくらいで俺が帰れるのか、もしくは……手がかりを探すのを諦めるのか、どうなるかはわからないからな……。でも、それでも村長みたいに目標を諦めないでいられるといいよな。

 弱気になるな、俺。やれるだけのことはやるんだ。
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