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異世界生活編
142.夜光花
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今日は早咲きの夜光花が咲く範囲から少し離れたところで野営すると言っていた。
近いとダメだというわけではないらしいんだけど、意外と動物や魔物が夜中に寄ってきやすいらしい。
「ここで野営しよう。まあまあ開けてる」
「ちょっと前までと雰囲気違うから怖いね」
「そんなに違うかなぁ?」
「霧が濃く感じるもん」
濃霧ってほどじゃないんだけど、前よりももっと手前までしか見えないんだよなぁ。溜まってるっていうのかな。
でも、じっとりした感じはないんだよね。あっちだったらこの濃さならむわっと身体にまとわりつく湿度だと思うんだ。やっぱりここの霧は特別なんだな。
「まあ、場所によってこういう差があるから魔物が発生しちゃうんだよねぇ」
「霧のせいで魔物が出るの?」
「そういうわけじゃない。ただ、霧が流れないところは魔力も溜まりやすいんだ。それだけじゃなくて、この渓谷は地表がえぐれてて魔力が絶えず湧き出ているようなポイントもあるから」
野営地を整えながら魔物化の話を聞いていると、ここは大丈夫なのかなってちょっとドキドキするよ。ルイがここにしようと言ったんだから平気なんだろうけど。
しっかりと支度をして、夕食の下味の準備まで終わらせてから、夜行花のところまで連れて行ってくれるってことになった。
俺が3人で行かない? って聞いたんだけど、ヴァンがにこっと笑って言った。
「オレがちゃんと留守番してるから、イクミは楽しんでおいで」
「もう……」
ヴァンってば「オレにはなんの変哲もない花だけど、イクミにはうってつけのデートでしょ?」って耳打ちするんだもん。でも、そんな風に言われちゃうとちょっと意識しちゃう。
「イクミ?」
「あ、今行くー」
「気をつけてねぇ」
花を見に行くっていうのが目的ではあるけど、弓はしっかり持っていく。ここが村の外だってことは忘れちゃだめだよね。なにかが寄ってきているかもしれないんだし……。
「近い?」
「遠くはない」
「なんだよ、それ。あはっ」
ヴァンもいないから少しは緊張感持たなきゃいけないのに、ルイと並んでのんびり歩いているとちょっと浮足立ってしまう。だって、光る花だよ? 異世界って感じするじゃん。
俺がわくわくしているのが声の調子でわかるのか、ルイがくすりと笑う。
「あっちだ」
「あ、もしかしてあのうっすら光ってるのって」
ルイが頷く。前に見たときより群生しているのかぽつぽつじゃなくて地面の一帯がぼわっと光っている。そこに近づくにつれて、霧のせいでぼわっとしていた光が一輪ずつ見えてきた。
花の蕊が光るんだって前に聞いたけど、確かによく見れば雄しべが発光している……雄しべというか花粉かな?
母親みたいにガーデニングが趣味とかそういうわけじゃないけど、それでもこの夜行花には心をつかまれるほどだ。花は白くて丸い5枚の花びらで、そんなに大きくもなくてかわいい。ちょっと甘い香りもほんのりと香っている。
「きれい、だね」
ふわふわと光る花から目を離せずにぽつりと呟くと、ルイが「見てろ」と言って手を前に伸ばした。
ゆっくりと指をくるりと回すのに合わせて、柔らかな風が地面から渦を巻いてのぼっていく。すると、夜光花の花粉が巻き上がったのかチラチラした光の粒がのぼっては降ってきた。
「わっ、わぁ……」
すごい! 冬のイルミネーションなんかより光は弱いし規模は小さいけど、それでもロマンチックって言葉がこのためにあるんじゃないかって思うくらいきれいだ。
ヴァンが俺にとってデートだって言ったのが……わかるよ。これをルイと2人で見てるんだなって思うと、ちょっとだけ変な気持ちになるもん。
「ルイ、その、見せてくれてありがとう。すごく、嬉しい」
「前、見たいの我慢してただろ。だから時期が合うなら見せてやりたかったんだ」
「そんなバレバレだった?」
「ああ、まあな」
バレバレといっても、きっと無理して歩く俺の様子をルイがすごく気にしてくれたからなんだろうって思う。拾ったばかりの俺のことをそんなに見ててくれてありがたいよな。
しばらくそうやって2人並んで夜行花を見ていた。すごくいい思い出ができたよ……胸がきゅってする。ヴァンにも感謝しなきゃ。
「そろそろ戻らないとだね」
「そうだな。俺も腹減った」
「あは。じゃあ戻ってご飯にしよ」
魔物とかが出なくてよかったねって話しながらルイと歩く。俺はどこに野営地を作ったかわからないけど、ルイはすいすいと進んでいった。
「おっかえりー。もっとゆっくりしててもよかったのに」
「でもお腹すいたよね?」
「そのくらい我慢できるし」
「ルイもお腹すいたって言ってたから」
「え!? なにそれ……空気読めって言いたい」
ヴァンがよくわからないことをぶつぶつ呟いていた。
そして俺たちを見ると、花粉がついてるからと風で飛ばしてくれる。別に花に突っ込んだわけじゃないんでしょって笑いながらね。
俺は下味をつけていた魔物肉を拍子木切りにしたカロイモと炒めて夕飯を作った。2人は相変わらずあっという間に食べちゃうんだよなぁ。
ヴァンの胃袋はどうなってるんだろう……。ヴァンと比べるとルイが少食に見えるんだからおかしいんだって!
ルイもいつもより食べるのが早いのは、ヴァンに釣られてなのか対抗してるのか。俺はいつも通り、よく噛んで食べてるから2人のペースには巻き込まれないけどね。
2泊目だから今日は先に休む順番。横になって目をつぶると、さっき見た夜光花の幻想的でロマンチックな光景がまぶたの裏に広がる。
ほんとにすごかった……。も、もし、ルイが恋人だったら、あれは絶対にちゅーするとこだろ。そんなことを考えて顔がぽっぽとしてくる。
だめだめ、これじゃ寝られない。
でも実は、俺は寝るためにいい方法を習得してるんだ。だから、早速そっちに意識を切り替えた。
1つのことを考えると、どんどんそれに集中してしまって頭が冴えちゃうから、それはだめなんだよね。
かといって、何も考えないっていうのはすごく難しいんだ。それをしようとすると、『何も考えない』っていう1つのことに集中しちゃうからね。
で、俺があみだしたのは、目を閉じて広がる暗闇の1か所をぼーっと見て、ふわふわと闇の中を漂いながら、心に浮かんでくるいろんな考え事をやり過ごす感じ。
何かが浮かんできても、それを深く考えようとせず『あー、それね』みたいに軽く流して追わない。考えちゃダメとは思わないで、それはまた明日考えるねって感じで、いろいろ浮かんでくることは否定しない。
そうすると、脈絡無いことがたくさん自分を素通りしていって、いつの間にか寝てるんだよ。
まあ……たぶん気になって気になってしょうがないこととか、流せないくらいのことがあったら効かない方法だとは思うけど。
なんてことも頭の中で流していたら、いつの間にか寝てたよね。
近いとダメだというわけではないらしいんだけど、意外と動物や魔物が夜中に寄ってきやすいらしい。
「ここで野営しよう。まあまあ開けてる」
「ちょっと前までと雰囲気違うから怖いね」
「そんなに違うかなぁ?」
「霧が濃く感じるもん」
濃霧ってほどじゃないんだけど、前よりももっと手前までしか見えないんだよなぁ。溜まってるっていうのかな。
でも、じっとりした感じはないんだよね。あっちだったらこの濃さならむわっと身体にまとわりつく湿度だと思うんだ。やっぱりここの霧は特別なんだな。
「まあ、場所によってこういう差があるから魔物が発生しちゃうんだよねぇ」
「霧のせいで魔物が出るの?」
「そういうわけじゃない。ただ、霧が流れないところは魔力も溜まりやすいんだ。それだけじゃなくて、この渓谷は地表がえぐれてて魔力が絶えず湧き出ているようなポイントもあるから」
野営地を整えながら魔物化の話を聞いていると、ここは大丈夫なのかなってちょっとドキドキするよ。ルイがここにしようと言ったんだから平気なんだろうけど。
しっかりと支度をして、夕食の下味の準備まで終わらせてから、夜行花のところまで連れて行ってくれるってことになった。
俺が3人で行かない? って聞いたんだけど、ヴァンがにこっと笑って言った。
「オレがちゃんと留守番してるから、イクミは楽しんでおいで」
「もう……」
ヴァンってば「オレにはなんの変哲もない花だけど、イクミにはうってつけのデートでしょ?」って耳打ちするんだもん。でも、そんな風に言われちゃうとちょっと意識しちゃう。
「イクミ?」
「あ、今行くー」
「気をつけてねぇ」
花を見に行くっていうのが目的ではあるけど、弓はしっかり持っていく。ここが村の外だってことは忘れちゃだめだよね。なにかが寄ってきているかもしれないんだし……。
「近い?」
「遠くはない」
「なんだよ、それ。あはっ」
ヴァンもいないから少しは緊張感持たなきゃいけないのに、ルイと並んでのんびり歩いているとちょっと浮足立ってしまう。だって、光る花だよ? 異世界って感じするじゃん。
俺がわくわくしているのが声の調子でわかるのか、ルイがくすりと笑う。
「あっちだ」
「あ、もしかしてあのうっすら光ってるのって」
ルイが頷く。前に見たときより群生しているのかぽつぽつじゃなくて地面の一帯がぼわっと光っている。そこに近づくにつれて、霧のせいでぼわっとしていた光が一輪ずつ見えてきた。
花の蕊が光るんだって前に聞いたけど、確かによく見れば雄しべが発光している……雄しべというか花粉かな?
母親みたいにガーデニングが趣味とかそういうわけじゃないけど、それでもこの夜行花には心をつかまれるほどだ。花は白くて丸い5枚の花びらで、そんなに大きくもなくてかわいい。ちょっと甘い香りもほんのりと香っている。
「きれい、だね」
ふわふわと光る花から目を離せずにぽつりと呟くと、ルイが「見てろ」と言って手を前に伸ばした。
ゆっくりと指をくるりと回すのに合わせて、柔らかな風が地面から渦を巻いてのぼっていく。すると、夜光花の花粉が巻き上がったのかチラチラした光の粒がのぼっては降ってきた。
「わっ、わぁ……」
すごい! 冬のイルミネーションなんかより光は弱いし規模は小さいけど、それでもロマンチックって言葉がこのためにあるんじゃないかって思うくらいきれいだ。
ヴァンが俺にとってデートだって言ったのが……わかるよ。これをルイと2人で見てるんだなって思うと、ちょっとだけ変な気持ちになるもん。
「ルイ、その、見せてくれてありがとう。すごく、嬉しい」
「前、見たいの我慢してただろ。だから時期が合うなら見せてやりたかったんだ」
「そんなバレバレだった?」
「ああ、まあな」
バレバレといっても、きっと無理して歩く俺の様子をルイがすごく気にしてくれたからなんだろうって思う。拾ったばかりの俺のことをそんなに見ててくれてありがたいよな。
しばらくそうやって2人並んで夜行花を見ていた。すごくいい思い出ができたよ……胸がきゅってする。ヴァンにも感謝しなきゃ。
「そろそろ戻らないとだね」
「そうだな。俺も腹減った」
「あは。じゃあ戻ってご飯にしよ」
魔物とかが出なくてよかったねって話しながらルイと歩く。俺はどこに野営地を作ったかわからないけど、ルイはすいすいと進んでいった。
「おっかえりー。もっとゆっくりしててもよかったのに」
「でもお腹すいたよね?」
「そのくらい我慢できるし」
「ルイもお腹すいたって言ってたから」
「え!? なにそれ……空気読めって言いたい」
ヴァンがよくわからないことをぶつぶつ呟いていた。
そして俺たちを見ると、花粉がついてるからと風で飛ばしてくれる。別に花に突っ込んだわけじゃないんでしょって笑いながらね。
俺は下味をつけていた魔物肉を拍子木切りにしたカロイモと炒めて夕飯を作った。2人は相変わらずあっという間に食べちゃうんだよなぁ。
ヴァンの胃袋はどうなってるんだろう……。ヴァンと比べるとルイが少食に見えるんだからおかしいんだって!
ルイもいつもより食べるのが早いのは、ヴァンに釣られてなのか対抗してるのか。俺はいつも通り、よく噛んで食べてるから2人のペースには巻き込まれないけどね。
2泊目だから今日は先に休む順番。横になって目をつぶると、さっき見た夜光花の幻想的でロマンチックな光景がまぶたの裏に広がる。
ほんとにすごかった……。も、もし、ルイが恋人だったら、あれは絶対にちゅーするとこだろ。そんなことを考えて顔がぽっぽとしてくる。
だめだめ、これじゃ寝られない。
でも実は、俺は寝るためにいい方法を習得してるんだ。だから、早速そっちに意識を切り替えた。
1つのことを考えると、どんどんそれに集中してしまって頭が冴えちゃうから、それはだめなんだよね。
かといって、何も考えないっていうのはすごく難しいんだ。それをしようとすると、『何も考えない』っていう1つのことに集中しちゃうからね。
で、俺があみだしたのは、目を閉じて広がる暗闇の1か所をぼーっと見て、ふわふわと闇の中を漂いながら、心に浮かんでくるいろんな考え事をやり過ごす感じ。
何かが浮かんできても、それを深く考えようとせず『あー、それね』みたいに軽く流して追わない。考えちゃダメとは思わないで、それはまた明日考えるねって感じで、いろいろ浮かんでくることは否定しない。
そうすると、脈絡無いことがたくさん自分を素通りしていって、いつの間にか寝てるんだよ。
まあ……たぶん気になって気になってしょうがないこととか、流せないくらいのことがあったら効かない方法だとは思うけど。
なんてことも頭の中で流していたら、いつの間にか寝てたよね。
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