上 下
141 / 202
異世界生活編

141.俺のレベルって

しおりを挟む
 日中歩いているうちに出会うのはやっぱり虫魔物が多かった。……そして、アレが出たんだよ。アレ。
 
「いやー、あそこまでイクミが動けなくなるとはねぇ。ぶふ……」
「無理なんだって……ごめんなさいだけど、本当に」
 
 俺は弓だからアレの近くにはいなかったんだけど、もう、なんていうか、見ただけでゾワゾワして弓を構えるのも無理だったんだ。
 結局ルイが前みたいに土魔法なんかを使って倒してくれて、竦んでる俺の周囲はヴァンが警戒していてくれた。
 
「ああいうのって上のほうにしか出ないんじゃなかったの?」
「うーん、出ないってことはないねぇ。でも、ああいうのは上よりはこっちのほうがかなり少ないよ」
「出ないと思って油断してた……」
 
 涙目でいたらルイが俺のところに来て頭をポンポンしてくれた。この演習で何回ポンポンされるんだろう。嫌じゃないからいいんだけどさ。
 
「前のとちょっと種類は違ったぞ?」
「そういう問題じゃないんだよ……幼虫型ってのがもうだめなのっ」
 
 過剰な魔力とやら、お願いだから幼虫なんかには当たらないでよ。小さくても嫌なのに、あんなデカくなられたら本気で無理なんだからさ。
 前と同じでルイが埋めて倒してくれたから見なくて済んだのがせめてもの救いだよ。
 
 俺はもう、さっさとここから離れたくてしょうがなくて、2人に先に進もうと促して歩いてもらった。野生動物にも遭遇したんだけど、春だからか子連れも多くてさ。さすがにそれを仕留めるのはなって思って見逃したよね。
 
「昨日のデカい魔物の肉たっぷりあったし、動物は倒さなくていいや」
「その気持はわかるよー。でも熊なら危険だから親子共々仕留める。魔物化すると美味しいとはいえ……」
「そ……そっか、冬眠明けはヤバそうだね」
 
 弓の練習には食べられない魔物でもいいし、食料はあるし。アレさえ出なければもうなんでもいいや。
 2人にどの方角に魔物がいるかを教えてもらっては弓を構える。俺が攻撃するには目視が必要だけど、遠くでも見えればこの弓のおかげで意外と当たる。
 
 村での練習でも『すごいすごい』と可愛がっていたけど、本当にこの子は優秀だ。俺が信頼すればするほど使いやすくなってきてるのも余計に愛おしい。
 
「にしても、かなり度胸もついたねぇ。特定の魔物以外」
「言わないで」
「こういうのは慣れだ。本当に苦手なのはわかるが、動けなくなるのだけは心配だ……せめて逃げられるようになってくれ」
 
 確かに。そっか……逃げる、ね。俺はルイの目を見て首がもげそうなほど頷く。
 ルイはアレ系の魔物のパターンを何個か教えてくれて、逃げたりやり過ごしたりするならこうすると良いんじゃないかって考えてくれたんだ。
 
「基本はオレたちがついてるとはいえ、何があるかわからないもんねぇ」
 
 ヴァンもなんだかんだ本気で俺のことを心配してくれてるんだよな。いつもはからかわれることが多いけど、言葉の端々に気持ちが感じられるから許せちゃうんだよな。

 この演習だって、俺にどんな強みと弱みがあるのかを2人が知るためってのも大きいんだ。もちろん、俺が自分の課題を知るためでもあるし、旅について実感するって目的もあるんだけど。
 
「うん……2人の負担にならない、とまでは言えないけど、迷惑を少しでもかけないようにはなりたい」
「そんなに悪く考えなくていい」
「そうだよ。イクミ忘れてそうだけど、この辺の魔物強いからね? そこでオレたちについてきてるんだよ」
 
 あ、そうだったよな……。一応は魔物を仕留められてるのか。絶対俺だけじゃ無理だけど。
 それにこうやって歩きながら話す余裕もある。
 
「俺……ちゃんとできてる?」
「ああ。最初と全然違うの自分でもわかるだろ?」
「わかんないよ……だってあのときは混乱してて必死で。記憶がまだらなんだ」
「んっとねー、最初は村の中を走るだけでも倒れてたじゃん。あれだとそもそも戦えないね」
 
 ぐはぁっとみぞおちを押さえちゃったけど、言われればそうだよね。自分だと変化がわからなかったし、何度自信持てって言われてもいつまでもできてないって気分だったけど。
 
「じゃあ、できてるって思っていいんだ……」
「当たり前だよ。オレたちがつきっきりで教えてきたんだよ? できてなかったら困る」
「演習の許可が出てる時点でできてるだろ」
 
 しかも、2人が言うには海辺の街なんかに行けば俺よりもっともっと戦えない人がたくさんいるって!
 さすがにムル村はこんなところにあるから村人みんなが強いけど、一生を大きな街から出ずに暮らす人なんかは戦闘技術は持ってないそうだ。
 
「え? 俺って……世界的に見たら戦える人?」
「ああ。魔力も少ないのによくやってる」
「オレが言うのもなんだけど、村の人がおかしいから感覚狂うのもしょうがないよねぇ。村を出る許可ない人ですら強いから。とは言っても、上を見たらキリがないんだけどさ」
 
 魔力がこっちの成人並みにあればもっと強くなれただろうなとルイが頭に手を置いた。それでも変な特性のおかげで成長が早かったんだろうし、そこは感謝しておくべきか。
 
 海辺の街の周辺は魔物も弱めだし、こっちに比べて大きさも少し小型らしい。だから、この霧の渓谷エリアを出るまでが俺にとっての最初の難関だったらしいんだ。でもソロで行ける2人が着いてきてくれるわけで、俺も少し強くなったんだからきっと大丈夫。
 
「今の調子なら街に行ける、かな?」
「ああ。ただ、魔核持ちが出たら話は別だ。察知したらなるべく避けて行くのがいいだろうな。あとは、俺もヴァンもここと海辺の街くらいまでしか詳しくないんだ。だから、イクミが帰る手がかりを探すために違うエリアに行く場合、魔物が強いところとかは、わからないから聞き込みと現地調査になる」
「あー……そっか。この世界の中でここだけが強い魔物が出るってことじゃないんだもんね」
「土地ごとの特殊なのが出ることも考慮しなきゃだよね。アイツにも聞いといてみるけど、アイツも外のことをそんなに知ってるわけでもないからなぁ」
 
 全員が初見のところに行くのはドキドキしそうだ。だからといって、誰かを雇うとかにしても、よく知らない現地の人をどのくらい信用していいのかは俺には判断がつかない。だって村と違って、悪い人も中にはいるみたいだし……。
 
「まあ、だから、イクミは『春になったら出る』って思ってたかもしれないけど、もう少し準備が整うまで待ってね」
「待たせて悪いな」
「そんなの当たり前だよ……悪くなんかないよ」
 
 そもそもまだ俺がこんな状態なのに、なんで2人が俺に対して申し訳なくなってるのかがわからないよね。
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。 ※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。 ※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

処理中です...