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異世界生活編

139.2日目朝は採れたての

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 ヴァンに言われてルイを起こそうとしたんだけど、少し近づいただけですぐルイは起き上がった。

「えー、起こす前に起きないでよ」
「そう言われてもな」

 俺だけじゃなくて、近づいてくる人がいたらわかるって言うんだもん。俺はルイに起こされてるのに。ずるい……ルイの寝顔、俺だってもっと見たいのに。

「特に変わりなかったか?」
「うん、穏やかだね……初めての演習のときのほうがざわざわしてた感じがするよ」

 そう伝えれば、ルイに頭をポンポンされた。なんで?
 ルイはもっと細かいことをヴァンに聞きにいったみたい。そりゃ俺には魔力的な察知はできないし、しょうがないもんなぁ。

「イクミは先に横になってていいよー!」
「うん。ありがとう。先に休むね」

 俺には聞かせられない話ってわけじゃないのはわかるけど、聞いても俺に理解できるかはわからないから素直に従う。
 ズレないようにキチッと締めていた防具を緩めると、ふかふかの魔物の毛皮マットに横になった。

「はぁ……この毛皮不思議だ……この感覚は低反発マットレスの毛皮版? 地面に敷いてるとは思えない……」

 前回も思ったことをつい口に出して、毛皮をなでなでしていると睡魔がやってくる。猫ヴァンを抱っこするほうが癒やし効果は高かったけど、あれを思い出せば、この毛皮も少しは代わりになる。

「俺……ちゃんとできてるのかな……ふあぁ」

 ずっと歩いているし魔物と戦うしで、当たり前だけど疲労がたまってるのかあくびが止まらない。初回演習のあのピリピリして眠れなかったのはなんだったんだってくらい眠いよ。

 そんなことを考えていたはずだったのに、気づいたら朝でルイに起こされた……。

「うう、俺は起こされないと起きれない」
「疲れてるんだろ? 慣れてないんだからしょうがない」

 防具を締めながら愚痴るけど、その愚痴全部にルイがフォローをいれてくる。だからさぁ、過保護なんだってば。別に怒られたいわけじゃないけど、フォローしまくる必要ないのに。

「朝食どうしようかな」
「簡単でいいだろ」
「そう? まあ……朝こそ身体を温めるスープ飲みたいのに2人が昨日平らげちゃうんだもんな」
「すまない……美味くて」

 俺は笑いながらかまどのそばに行く。やっぱ定番の焼きカロイモと串焼きかな。朝はこれが楽だよね。
 つまり、余裕があるときは夕食に串焼きを選ばなければ、調理がかぶらないのか……気をつけよう。いや、これは自己満足なんだけどね。

 串に刺した肉を時々回転させながら焼いていると、姿を消していたヴァンが戻ってきた。

「どこ行ってたの?」
「えへへー! この時期は芽を出したばかりの美味しいものもあるんだよ。こういうのイクミも好きだよね?」

 そう言ってヴァンが見せてくれたのは、あっちでいう山菜系かな。フキノトウとか根曲がり竹のタケノコみたいな見た目の、黄緑色の柔らかそうな芽が摘んであった。

「これ、どんなやつ? 少し苦味というかえぐ味があるとか?」
「んーん。ないない。さっと茹でて食べるだけでも美味しいんだ」

 ちらっとルイを見たけど、ルイも頷いていたから美味しいのは確かみたい。村の中とは違ってこういうのが食べられるのは嬉しい。

「ありがとう! じゃあ軽く茹でて食べよう」
「オレも手伝うね」

 ヴァンがいそいそと鍋を用意し始めた。なるほど。これは酸っぱい食べ物以外のヴァンの好物なのか。

 ルイはほんのちょっと口の端が上がっていて、『あ、楽しんでるな』って思った。もうさ……2人とも可愛いんだよ。反撃されるから口には出さないけど、俺はニヤニヤしながら串焼きを作っていた。

「薬草茶も作ったから嫌じゃない人は飲んでね」
「オレはいいや……」
「貰おう」

 これはサディさんブレンドの薬草茶。薬に精製するほど質がいいわけじゃない薬草を、ただ布袋に入れたやつ。でも身体にいいみたいだよ。村長の家でもよく出るんだ。
 だから、俺やルイは慣れてるんだよね。

「あ、このヴァンの茹でたやつ、美味しいね」
「でしょ!」
「なんだろう……見た目は新芽なのに、これはホクホク? こっちはシャクシャク?」

 不思議な食感と、噛んでいると感じる甘み。これはマヨネーズも合いそうだなって思うけど、さすがにマヨを外で作る気はない。

 もっと食べたい気もするし、サディさんにもお土産にしたいと思ったけど、新芽ってことは採り過ぎにも注意したほうがいいのかなって気もして、この演習で食べるだけにした。

「そういうとこ、イクミって偉いよね」
「何が?」
「こないだのドマノンは果実をかなり採って帰ったでしょ」
「いや、あれは実だからいいんじゃない? でも芽はこれから育つやつじゃん」

 ヴァンは、「それはそうかもしれないけど、人によっては自分がよければって、根こそぎ採ろうとする人もいるんだよ」って眉をひそめて言った。

 それは俺の世界だって一緒だ。でも俺は義務教育やら受験やらで勉強して、テレビとかでも見て、自然破壊が今後にどんな影響を及ぼすかなんとなく知ってるもん。

 この世界は、自然とその魔力と共存する世界なんだから、それを壊すような行為は絶対だめだろ?

「イクミって改めていい人間だよね」
「別に、いい人間なわけじゃない。俺の世界で1歩先の自然破壊を見てるからなだけ」

 ちょっとしょんぼりした気持ちになった俺の頭にルイの手が乗る。撫でるわけでもポンポンするわけでもなく、そっと。

「でも、それを知って、ここを守ろうとしてくれるのが嬉しいよ」

 にぱっとヴァンが笑って言ってくれた。
 なのになんだろう、俺は自分の世界つまり地球を、大事にできていたのかって言われると……。それを棚に上げて、何を言ってるんだって感じなんだよな。

 俺たちは食べ終わって少ししたら、野営地の片付けも始めていく。今日はそこの坑道から少しだけ調査をするんだよね。

 いるのかなぁ、スライム。いないといいなって気持ちがかなり大きいんだけど、ヴァンが見たがってるから大きな声で言えないんだ。
 俺がこっちに転移してしまってから、血が出るような攻撃を受けたのはスライムだけだ。だからといってはなんだけど、ものすごーく会いたくないんだよね。トラウマってやつ?

 あと、あのキモい巨大ヌードマウスみたいなやつ。アイツもあんまり見たいやつじゃないんだよね。食べられないってルイも言ってたしさ。虫系よりも見た目が気持ち悪い……とはいえ、幼虫よりはマシなんだけど。
 襲ってこないならこっちだって何もしないのに、なんなんだろうね、魔物って。

 せめて食べて美味しい魔物にしてほしいよ……。
 
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