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異世界生活編

138.班分けってそういうことだったのか

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 ひとまず坑道の近くまで来て、野営地を整えることになった。ここは崖もあるし、そこそこ開けているから結構安全なように見える。俺が崖の下で少し開けた辺りを指してあそことか良さそうって言ったら、2人ともそう思ってたって言ってくれて嬉しくなった。
 
「天気はいいし、もう雪もないけど、やっぱタープみたいのは作る?」
「風よけになるし、突然雨降るかもだからあったほうがいい」
「なるほど」
 
 前にドマノンさんがやったみたいに、ルイが丈夫そうなまっすぐの枝を何本か切り出してきて地面に突き刺した。うーん、やっぱり俺からするとハンマーとかで打ち込むんじゃなくて腕力? で突き刺すのは豪快に思える……。つーか、なんで刺さるん?
 
「身体強化の問題なのかなぁ」
「イクミイクミ、土魔法の存在忘れてるでしょ?」
「え……」
 
 打ち込むものの先端を刺さりやすい形にしておいて、突き刺すと同時に土魔法で地面の一部を柔らかくすると簡単に刺さるんだって。加減は必要らしいけど。
 
「ほんと、魔法はズルいなぁ」
「何言ってんの。イクミだって魔法使えてるんだよ?」
「なんか違うんだよ……」
「おい、かまどは前より休むところの近くになるが大丈夫か?」
 
 何が大丈夫かなんだろうって思ったら、寝ているとき気配とかで気にならないかってことらしい。いや、この間はむしろちょっと離れすぎじゃないかなって気もしたしいいんじゃない? でも、言われれば夜中にヴァンと話す時に声を抑えるのは気になったか。
 
「2人がいいならいいと思う」
「大丈夫でしょ。ルイ、どのへんに作る?」
 
 ルイとヴァンで位置を相談しながら決めているのを眺めていた。やっぱ2人は呼吸が合うなって思う。会話が多いわけじゃないけど、お互いをわかってるっていう感じかな。ちょっと羨ましい。

 ヴァンのマントは俺らのより少し短くて、俺は端から覗くぴこぴこしてる尻尾の先を目で追っていた。そしたらそれに気がついたヴァンが俺を見てニヤリと笑った。
 
「イクミやーらしー」
「なっ……なんでだよっ!」
「ヴァン……」
「ちょ、ちょ、ルイ、なんでそうやって本気で怒るんだよぉ」
 
 はは……俺としてもルイは過保護だなぁとは思うけど、確かにゆらっと怖い気配が漂ってるな。
 近づいてつんつんと突っついてルイを呼ぶと、ふわっと空気が緩んだ。俺がルイはどんなものが食べたいか尋ねると少し考えたあとポツリと言う。
 
「イクミが作るのはなんでも美味いから悩むな……」
「そう? さっきのやつの肉は魔力抜きしてないけど、みんなも食べる?」
「食べるよっ! 美味しいのお願い!」
「イクミに任せる」
 
 あっさり目のスープと串焼きがいいかな。余れば朝食にもできるもんね。ってことで、俺はスープだけは早めにかまどにかけて時間をかけて煮込んで、いい感じになってきたら串焼きを作った。残りの肉は干しておくことで魔力抜きもする。

 いつもいつも手をかけたものばかり作るわけじゃないのを、ヴァンにもわかってもらわないとね。でもよく煮込んだからお肉はホロホロっとできてる。
 俺としては肉ばっかの簡単料理だったけど、2人は満足げに平らげちゃったんだ。
 
 夜の見張りは今回も俺とヴァンがペア。ルイと俺だと何か不都合があるのかなって少し思ったけど、不都合ってほどでもなくてより安全を考慮した班分けだって。別にルイも強いから問題はないんだけどねってヴァンは言っていた。

「ルイも強くて問題ないのに、それでもヴァンと俺の組み合わせになってる理由を聞いてもいい?」
「もちろん。安全のためってのは何度も言ってるけど詳しく教えてあげるね。まず、オレはルイほどじゃなくても近距離もできて、遠距離や範囲の魔法もできる。それと、察知能力がかなり高い。つまりイクミを守りやすい。あと、オレは夜目もかなり利くから、察知だけじゃなくてイクミに攻撃の指示を出すのも正確にできる。この辺がルイよりオレと組んでる理由」
「お、おぉー……すごいね」

 もっと簡単な感じかと思ってたけど、かなりしっかりした理由だった。少しだけ……面白がって俺をルイから離そうとしてるのかな、なんて思ったのが申し訳なくなる。
 
「と、そんな感じで……いろんなことを総合的に判断して、こういう割当になってるんだけど、意見があるなら聞くよ?」
「ううん。俺にはそういうのわかんないし、安全のためだから任せる。単に聞いてみたかっただけだもん」
「そう?」
 
 ちょっとつまらなそうにしてるのはなんでなんだよ。自分で俺を守るためって理由をいっぱい言ってくれたんだろ?
 それに、俺とルイはそういうんじゃないんだから、わけのわからない期待はしないでほしい。俺がこっそり好きなだけなんだよ……。
 
「ところで今夜は魔物とか出そう?」
「さあねぇ……やばいのは近くにいなそうだけど」
「わかってたら交代で見張りすることないか。そりゃそうだ……」
 
 自分で聞いといて何を言ってるんだかって感じだけどね。やっぱ不安からついつい聞いちゃうんだ。
 でも前よりは寝てるルイが近いからおしゃべりは少なめで、時々ヒソヒソと話してる。ていうか、ルイなら聞こえてるんじゃ?って気にもなってくる。

 普段は1人ずつで見張りを交代してるらしくて──大人数の時は別としてね──こうやって見張りのときに話す相手がいるってのが珍しいらしい。
 
「前回は2人ずつだったじゃん」
「これからの旅を想定してるから、2交替と考えて分けただけだよ」
「あー、そういうことかぁ」
「まだイクミに1人でやらせるのはちょっとね」
「確かに……」
 
 ヴァンに納得するなと笑われた。本当は俺には見張りさせないって案もあったらしいんだけど、俺はそれを気にするだろうってことで一応見張り当番も割当られたんだって。
 
 よくわかってるね……絶対気にすると思う。役立たずだとしても、1人ぐーすか寝てるよりいいもんな。そして、そんな俺のために安全をめっちゃ2人で話し合ってくれて、この分け方なんだって心底わかったよね。
 
 改めて2人には感謝だよなって思う。もう何度も思ってるけど。
 特にヴァンがついてきてくれるっていうのがさ……こうやっていろんな話を聞けば聞くほど心強いなって身にしみる。
 
「正直さ……1人で見張りができる日がくるとは思えないんだよね」
「魔力察知次第なんだろうけどね。戦うのはできてきてるし、オレ達を起こせばいいだけなんだからさ」
「魔力はねぇ……少ないからなぁ」

 ヴァンが、魔力が少なくても察知するのは訓練次第でできるようになるはずだって言ってた。でもそれってこっちの人だからだろ?
 
「2人の気配ならなんとなーくわかるんだけどね。あ、気配消そうとされてたら絶対わかんないけど」
「魔物が魔力の大きさでわかるように、本来は人もわかるもんなんだよ。でもそれだと狙われたりするから、内側から漏れ出ないようにするもんなんだ」
「俺、それ知らない」
「イクミは漏れ出るほどないから……」
 
 ですよねー!
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