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異世界生活編

136.スマホが久々に大活躍

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 意外や意外、スマホでの写真撮影はみんなが興味を示してくれた。
 
「こんな詳細な絵なんて見たことない。そっくり過ぎだし、ここの中で時が止まってるじゃねぇか。え、動くのもあんのか? なんだそれ……」
「イクミさんの世界ってすごい魔導具があるのねぇ」
 
 料理教室で撮影をしようとしたら、もともと好奇心の旺盛な人たちばかりだからあっという間に囲まれて、自分も自分もって感じになった。
 
「こんな動く絵の魔導具があったら記録に困らねぇな。すげぇ」
 
 ドマノンさんは、料理の記録を動画でできたら便利すぎるから羨ましいと連呼していた。いや、ヴァンより年上のはずなのに可愛いな。最初はちょっと怖い人かななんて思ったこともあったけど、今はルイやヴァンの次に仲の良い男の人だ。
 
 みんなでワイワイ料理してる風景とかめっちゃ良い! 楽しい雰囲気が伝わってくるのがたまんない。ひぃひぃしながらドマノンさんが野菜を切ってるところとか、後ろでラキさんや奥様方が笑っててさ。でも、当たり前だけど、バカにしてるんじゃなくて微笑ましく見てる感じがめっちゃいいんだ。ドマノンさん可愛い顔になってるし。

 あと、タイマー使ってみんなで集合写真撮ったやつもね。最初はガッチガチの表情で写ってたのが、回数重ねるごとに自由になってきてさ。本当にみんな楽しそう。
 
 ルイとツーショットしたやつはフォルダ分けして、みんなにはあまり見せていないんだ……。だって、俺の表情がやばいから。「もっと寄って」って言ったの自分なのに、顔が近すぎて俺が赤面しちゃったんだ。何枚か撮ってマシなやつをルイには見せてあげたけど、ルイもちょっと照れてたな……。
 
 ヴァンは言わなくてもわかるだろうけど、撮れ撮れうるさかった。魔法の様子とかいっぱい撮らせてくれたのはちょっとありがたかったけど、任せてたらいくら容量あっても足りなくなりそうだったから、適当に切り上げさせてもらったよね。
 
「最初の頃は、薬草を覚えるのだけに使ってたんだよなぁ……懐かしい」
「そうだったわね。イクミくんが言ってることが最初はわからなかったけど、面白いものがあるのねって思ったわ。でもすぐ薬草のことなんか覚えちゃったものね」
「さすがに毎日見て触ってって感じだったから。やっぱ繰り返し実践するって強いよね」
 
 今日も楽しく料理をして、ドマノンさんのレベルチェックをして、みんなでおしゃべりしてって感じ。
 
 奥様方とかラキさんが、ときどき空き時間にドマノンさんに教えているらしくて、ドマノンさんの料理の腕前はメキメキ上達してきている。そりゃこれだけの先生に囲まれたら、わからないときすぐ誰かしらには聞けるもんな。いい環境だ。
 
「もう力加減は間違えねぇぜ」
 
 そんなことをドマノンさんが言うから、みんなを見たら笑いをこらえながら首を振っていた。だ……だめみたいだよ?
 
「まあ、基本弱めにいけばいいんじゃないかな……うん」
「ハンバーグとかいうのの話を聞いたけど、そういう力がいるやつは自信があるんだけどなぁ」
「力……そうだね……そうかもね?」
 
 いや、こっちのご婦人も地球人よりかはよっぽど力あるからね。魔力での身体強化あるし……。だからドマノンさんだけが特別向いてるとかはないと思うんだ。やる気を削ぐ必要もないから言わないけど。

 って、薬草を漬け込んだビネガーなんかも仕込んで、今日の料理教室はお開き。みんなが帰ったあとは急に静かになるから、それがいつもちょっと寂しく感じる。俺って、こういう集会みたいなのそこまで得意じゃないと思ってたんだけどな。キャンプサークルだって、そこまで上下関係が厳しくないとか、私生活に踏み込んでこないからってことで入ったやつだったし。
 
「イクミくん、シャシンいっぱい集められて良かったわね」
「うん! これでいつでも見ることができるし、思い出せるから……」
 
 俺は、もちろん村長を交えた家族の写真も撮ってる。夕食の一場面とか4人で記念撮影とかもね。そういうのはやっぱりルイが少し視線を外しちゃうんだけど、嫌なんじゃなくて照れてるのはわかってるからしょうがない。俺とのツーショットはカメラ目線してくれたからね。
 
「現像……紙に記録できたらプレゼントするのにな……ごめんね?」
「大丈夫よ。ちゃんと心に留めておくから。あんな風にルイも寄ってくれたの見れて良かったわ」
 
 サディさんがうふふと嬉しそうに笑う。
 そっか、ルイって心の中では2人のこと感謝も尊敬もしているのに、当人には言えないタイプだろうしな。俺についていろいろ相談したり協力を仰いだりするくせに、なんで自分のことはできないかねぇ……いや、それって俺もだわ……。
 
 自分の親に改めて感謝を伝えられるかって聞かれたら、やっぱ恥ずかしい。俺の場合は特に父親な。苦手意識も少しだけあるし、あっちも俺のことどう思ってるのかなとか考えちゃうんだよ。全然嫌いってわけじゃないし、心の中では父親すごいって思ってるんだけどね。ただ、性格が正反対だからどう接していいかわかんないっていうか、向こうもそうなんじゃないかなと……思いたい。
 
 そういうのと似た感覚がルイにもあるのかな。ルイは子どものころ荒れてたとか言ってたし、そういう気恥ずかしさもあるのかも。俺には「村長はすごい」とかって普通に話すもんなぁ。
 
「へへっ。俺のスマホもちょっとは役に立ってるみたいで嬉しいかも」
「そうね。ルイだけじゃなくて、みんなの意外な面も見ることができてるわね」
 
 確かに!
 こんな得体の知れないもの向けられてるのに、みんなヒャッハーしすぎなんだよ。でも、そういうところが好きだ。
 
「村の人は中の人のことは基本的に信用しているし、イクミくんだからっていうのもあると思うわよ?」
「俺、だから?」
「みんなイクミくんのこと好きだし応援しているのよ。思い出に欲しいって言われたら協力したくなっちゃうわよ」
 
 うう……泣きそうになるからそういうの言わないでよ。
 
「俺、みんなのことホント大好き。……元の世界に帰れなかったら……ここに戻ってきていい?」
「当たり前じゃない。うちの子なんだから」
 
 あ、もうだめ。涙腺が……。サディさんしかいなくて良かった。
 旅立つのなんてまだもう少し先の話なのにな。でも、ここに来て生活してたら月日が経つのなんてあっという間だった。だからきっと『まだ少し先』なんて思ってたら、いつの間にかその時になっちゃってるんだ。
 
 自分の意思で居心地のいいところから出ていくのって、結構勇気がいるんだな。俺の場合、最初に「帰る手がかりを探しにいきたい」「村を出るには?」って言いまくってたからそうなってるわけだけど、ここにずっと住んでいたら、出ていくっていう選択肢あったかな?
 いや、俺の性格的に難しそう。嫌なことからは逃げたいし、危ないことには近寄りたくない。なんとなく周りの人と同じような流れに乗って、平凡な低リスク低リターン生活、それが日本での俺。なのに、なんでこんなことになってるんだろう。

 うう、不安しかない……。
 
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