霧の向こう ~ 水の低きに就くが如し ~

隅枝 輝羽

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異世界生活編

133.ジャガイモっていうか、デンプンのね

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「これは種イモにも使えないような小さいジャガイモをサディさんにもらったから作ったデンプン。水飴にしなかった分です。水飴もそこまで多くないから少しハチミツも使わせてもらっちゃいますけど」
 
 そこで俺は水溶きデンプンを作る。まあ、これはちょっと面倒くさいんだけど、こういうのもできるよっていう……これも言わばデモンストレーションだ。
 
「さっきジャガイモを茹でたお湯を捨てなかったのはここで再利用しちゃおうかなって思ったからなんですけどね。この金属製のトレイに水溶きデンプンをよくかき混ぜてから薄く流してすぐにお湯の中に入れます」
 
 傾くとデンプンが偏っちゃうから平らにね。下に少し火が入ったらトレイ全体を湯に沈める。
 
「白いのなくなっちゃったよ?」
「うん、これでいいんです。消えたようで消えてないんで」
 
 そしてトレイを引き上げて今度は冷水につけながらトレイの底を端からめくりつつ揺すって水を入れて剥がすと……できた!
 
「と、透明の……膜?」
「これはデンプンに火が通って固まったもの。水飴を作るときは分量が違うからドロっとしたものになったけど、こういうふうにもできます。これを沢山……と言っても少ないんだけど、作ります」
 
 そう、量は本当に少ない。申し訳ないけどオマケだから許してもらおう。
 何枚か作ってから、それを細切りにして小鉢に一口ずつ乗せていく。あっちならここに黒蜜をかけるところだけどね。
 
「今日はジャガイモ水飴とハチミツと保管してあったベリーを使います。この3つを全部混ぜて少し加熱して……ベリーは潰したほうがいいかな、と思います。で、味ととろみを見ながら水で調整してシロップを作ります」
「ベリーの色を見ると反射で口がキュッとなるけど、水飴とハチミツが入るなら甘酸っぱくなるのね」
「つぶつぶの種は濾せば口当たりが良くなります」
 
 小鍋の底を冷水で冷やしてシロップを完成させると、さっきのやつに垂らしていく。透明のきらきらしたところに赤いシロップが流れていってきれいだ。これはこれでアリだな。
 
「俺の世界ではジャガイモじゃなくて、葛という植物の根から取ったデンプンの『葛粉』を使って、これを作るのでクズキリと呼ばれている甘味です。これはなんて呼んだらいいのかわからないけど……まあ、いいよね。どうぞー!」
「「「やったぁ」」」
 
 小鉢を持ってチュルンと一口で食べちゃう人もいれば、1本ずつ食べる人もいて性格出るよね。俺とサディさんは、剥がすのに失敗した破れたところをもらったから、クズキリっぽくはないけど……味は一緒だから。
 
「「しあわせ……」」
「ジャガイモが今度はまた別物に変わった」
「食感が初めてだよ。透明なのになんかムチムチくにゅくにゅしてて、噛んでると口の中で消える感じ? 元に味がない分かけるやつでいろんなのを楽しめそう」
 
 ラキさんは相変わらず分析傾向だなぁ……でも楽しんでくれてるのはわかる。ドマノンさんなんて何が起こったかわからないって、目を白黒させてたけどね。
 
「イクミくん、今日はまたジャガイモの可能性を見せつけてきたわねぇ……」
 
 サディさんが頬に手を当てて困ったわと首を傾けていた。
 
「え、困っちゃうの? え、どうしよう……」
「そうよ。こんなにジャガイモが使いたいのに自由に使えるだけ量がないんだもの、困っちゃうわよ」
「「確かにー!」」
 
 あははと奥様たちも笑っていた。そりゃそうか……俺がいなくなる前にって思って詰め込んでるからなぁ。
 
「こいういうの記録しておきたいっすね……石板や皮紙は無理でも粘土板ならなんとかなるんじゃ?」
「それはわかってるのよ。でも掘るのは大変でしょう? 覚えたほうが早いわ」
「じゃあ、自分が掘るんで! 全部は無理でも大事なやつだけでも……」
「「おおー」」
 
 奥様方がパチパチと拍手をしている。最初、料理を面倒って言ってたドマノンさんが、面倒くさそうなことを自ら引き受けていて俺がびっくりだよ。
 
「いや、な……自分はみんなと違って、毎日料理するわけじゃないから忘れそうでよ。それに土魔法は得意なんで粘土板ならいけそうだしな」
 
 なるほどね。でも俺は文字がわからないから、掘ってるのを見ても多分直してあげられないって思ってたら、そのへんはみんなが監修してくれるらしい。頼もしいね!
 
 そんな感じで今日の料理教室は終了した。
 みんなが帰ったあともドマノンさんだけはまだ残っていて、サディさんとラキさんといろいろ話していた。
 
「ドマノンさん、どうだった?」
「いや、なんつーか、すげぇな……料理やばい」
「料理好きになれそうですか? 粘土板に書くなんて引き受けていたけど、それって他にもできます? 例えば、私たちの実験の……」
「こら、ラキ。ドマノンは自警団がメインなんだから迷惑かけないの」
 
 ラキさんは相変わらず実験のこととかに夢中で突っ走ってるなぁ。さすが真面目。俺はそういうところ嫌いじゃない。こんな感じだからラキさんには最初からそんなに緊張しなかったってのもあるしな。
 
「イクミ君、あのニンニクとトウガラシ最高だった! あれ増えたら絶対自警団にほしい。でもトウガラシを自分で育てるのは無理そうだな……絶対向いてないし枯らす自信がある」
「ぶはっ! なんの自信」
「私とラキは薬の実験も兼ねて沢山育てる予定だから分けてあげるわよ。自警団になら協力するわ」
「助かります!」
 
 取引が進んでるなぁ。俺としては嬉しいことだけどね。
 
 とりあえず、今日のドマノンさんに料理の基礎を教える計画と、デモンストレーションは大成功かな。ドマノンさんも楽しそうにしてたし、これから少しずつチャレンジしてみたいって言ってたからね。
 
「とりあえず、自分は浅い鍋を注文しようと思う。焼くのにも1人分のスープにも使えそうだからな」
「あと……じょ、丈夫な……くくっ……まな板を……」
 
 ラキさんの思い出し笑いが始まって、俺がまた釣られそうになった。ちょっとぉ……やめてよ!
 ドマノンさんは、いつも外で魔物肉とかを骨ごと断ち切る勢いでぶつ切りにしてたのもあって、力加減がおかしかったんだよね。でも今日いろいろ教えたし、ちゃんと出来てたからもう大丈夫だろ。
 
「料理教室はいつもいつも自分に合わせなくていいんで。自分が予定合うときは参加します! また誘って下さい」
「もちろんよ、待ってるわね」
 
 ドマノンさんは爽やかな笑顔で帰っていった。
 
 はぁ、楽しかったな。デモンストレーションはオマケみたいなもんだったんだけど、みんなで協力してワイワイやるのっていいよな。
 あと、笑顔が見られるのが最高。喜んでもらえるのってめっちゃ嬉しい。
 
 よし、このあとは鍛錬だ。気分もいいし頑張るぞぉ!
 
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