131 / 226
異世界生活編
131.ドマノンさんに料理の基礎を教えよう!
しおりを挟む
今日はドマノンさんの予定に合わせた料理教室の日。
実は意外にも俺以外のみんながものすごくやる気満々だ。
不思議に思ってたら、「男性にも料理が流行って、女性じゃ思いつかないレシピを考えてほしい」だとか「最低限の料理もしない男性に、大変さもわかってほしい」だとかの、あっちでも聞くような私怨込みの意見もあった……。
「料理は薬の実験と同じ。正しい手順でやればちゃんと結果が得られる。でも実験よりは曖昧さが許される……面白いよね。ついでに美味しいし」
「そ、そう……ついで……?」
ラキさんはちょっと他の人と捉え方が違うな。まあ、言ってることは俺も概ね同意だ……俺は自分好みの美味しいもの食べたいっていうほうが大きいけどさ。
ドマノンさんはどうだろな……俺の料理してるところを楽しそうに見てたし、料理をやりたがったのは少しの手間で美味しくなるんだなって実感したからだろうし、俺に近いかなとは思う。
とはいえ、みんなが揃っているのに当のドマノンさんが来ない……。
え、大丈夫? って思ったところでドアがノックされた。サディさんが見に行って、ドマノンさんとキッチンに戻ってくる。
「ドマノンさん! いらっしゃい」
「す、すんません……夜番終わって仮眠したら少し寝過ごしたみたい……で」
「「お疲れ様、いつもありがとう」」
みんなニコニコだ。自警団って大切だから、当たり前だけど誰も責めないよね。
「あ、えっと、顔と名前は知っててもあまり話したことねぇ、ない、人もいると思うんで……ので、よろしくお願いします。ドマノンです」
ぶふっ!
ドマノンさんが硬い。めっちゃ面白い。ガッチガチじゃん。最初のころの俺じゃん……泣ける。
「ドマノンさん、普通でいいと思うよ? みんな何も言わない」
「楽にしないと続かないよ」
ドマノンさんは周りをキョロキョロ見回したあと、頭をかきながら「すんません」と照れ笑いしてた。
とりあえず、みんなで手を洗ったりエプロンをして準備をする。エプロンを初めてするドマノンさんが、みんなにお世話されてて面白すぎる。
「じゃあ、まずは基本の切り方からやって、下処理とかその辺も覚えられるといいかなって思います!」
サディさんが用意してくれた野菜とか肉とかを何種類か使って、切り方を見せてからドマノンさんにもやってもらう。
やっぱり細かいことはわかってなかったから、奥様たちに囲まれて必死になってた。
力加減はいまだにちょっとおかしいから、最初まな板がちょっとえぐれたんだけど、それにラキさんがツボっちゃってそれ見て俺も釣られちゃって大変だよ!
でも一生懸命だからみんなも微笑ましく思ってるみたい。
興味を持ったことには知識欲がかなりあるみたいで、どうしてこうするのかとか、なんでこれがいいのかっていう質問も出てくるから、きっとドマノンさんは頭がいい人なんだなって。
「イクミくんが言うとおり筋が良さそうね」
「でしょ。ただやらされるっていうより、ちゃんと理由を知りたがるところもいいよね。そういうのがわかってると応用できるもん」
最初は緊張してたドマノンさんも、今は奥様たちやラキさんに指導されつつ、切った食材で楽しそうに簡単な料理を作ってた。
「イクミ君! 自分が作ったやつ食べてみてくれ。ただ焼いただけじゃないぞ」
「見てたからわかってますって。それにドマノンさんは柑橘ソースのミュードステーキと、それのアレンジだって作れたじゃん」
「なにそれっ!?」
俺に皿を渡すとまた奥様たちに囲まれるドマノンさんは、演習のときの料理のことを身振り手振りと大げさな表情で説明していた。初日だってのにすっかり溶け込んでて笑う。
ミュード肉はさすがにもうないけど、似たようなものが作れないかって聞かれたから、鳥系使ってバターなんかでコクを足すのはどうかなって提案してみた。
俺は料理教室の前は、なるべく朝にミルクを時間停止箱に入れておいて、いつ乳製品が必要になってもいいようにしてる。だからドマノンさんにバターを作るのも勧めてみた。シャカシャカ振るのなんてお茶の子サイサイってやつだろ?
それで俺がたまに口を出しつつ、あの柑橘はほとんどないから今ある柑橘を数種類混ぜて使ってもらった。こういう応用もやりながら覚えてほしいよね。ドマノンさんてセンスは悪くないから『ダークマター』は作り出さなそうだしさ。
「こうやって上から圧をかけて、皮を全面カリッと……」
「そうそう! ちゃんと覚えてますねぇ」
「あれは衝撃的で……なぁ。ところでさっき作ったバターとやらはまだ使わないのか?」
「焦げやすいからね。風味とかコク出しで終盤に使うつもりだよ」
サディさんは本物を食べたことがあるから、アレンジ版との食べ比べになるよな。あまり変なものは作りたくないって感じ。
「ここで、柑橘の果汁を入れ……ていいよな?」
「いいですよ。少し全体に絡んできたらバターを加えて」
「全部?」
「いや、それは多いって……こんくらいかな。で、溶けたら混ぜながら皮目にもかけて」
ドマノンさんはよくわからないって顔をしてたから、匙ですくってはかけるってのを繰り返して見せた。
「あ、じゃあ、ドマノンさんは皮を千切りしましょうか。覚えてます?」
「覚えては……いる。でもアレ難しいよな」
苦いフカフカ部分を削り取るのが難しいとボヤくドマノンさんに、奥様方が応援の声をかけて、めっちゃ頑張ってた。
最後の盛り付けはもちろんドマノンさんにやらせる。俺が手を出したのはバターを入れたあとの少しだけだもん。
「で、できた!」
「「「わー!」」」
みんな大喜び。今日は教えるつもりで来てて、最後の俺のデモンストレーションしか食べるものないかもって思ってたんだろうな。
「あ、全部絞っちゃったから味変のがないな……イクミ君、どうしたら」
「別になくてもいいんじゃない?」
「でもアレがあると得した気分になるだろ」
「いいわよ、倉庫から持ってきてあげるわ。あの酸っぱーいのじゃないけどね」
サディさん優しいな。最近は教室用に用意した食材しか使わなかったのに。ドマノンさんの出鼻をくじかないためかもしれないなって思って、ちょっと口元緩んじゃう。
新鮮な柑橘も串切りにして添えて、みんなの前に胸を張ってどうぞと出すドマノンさんが可愛くてしょうがないよ……。
でも初めて食べる奥様方にも好評で、サディさんから素材を変えたことによる味の違いとか、いろいろ評価もらって照れ笑いしてるし、もうドマノンさんは料理沼から抜けられないだろ。
「自分はこれしかイクミ君に教わってないんで……でもこれで料理に興味出たんすよ。今日来てみて、やっぱ面白いかもって」
「いいね、ドマノンくんも仲間だよ」
「一緒に美味しいもの作ろう。イクミさんが張り切ってたんだから」
「そういえば! 自分、デモンストレーションってやつ楽しみにしてきたんだった。イクミ君いつやるんだ?」
今からやるつもりだよって思ってサディさんを見ると、サディさんもニコッと笑って「準備しなきゃね」とキッチンを出ていった。
実は意外にも俺以外のみんながものすごくやる気満々だ。
不思議に思ってたら、「男性にも料理が流行って、女性じゃ思いつかないレシピを考えてほしい」だとか「最低限の料理もしない男性に、大変さもわかってほしい」だとかの、あっちでも聞くような私怨込みの意見もあった……。
「料理は薬の実験と同じ。正しい手順でやればちゃんと結果が得られる。でも実験よりは曖昧さが許される……面白いよね。ついでに美味しいし」
「そ、そう……ついで……?」
ラキさんはちょっと他の人と捉え方が違うな。まあ、言ってることは俺も概ね同意だ……俺は自分好みの美味しいもの食べたいっていうほうが大きいけどさ。
ドマノンさんはどうだろな……俺の料理してるところを楽しそうに見てたし、料理をやりたがったのは少しの手間で美味しくなるんだなって実感したからだろうし、俺に近いかなとは思う。
とはいえ、みんなが揃っているのに当のドマノンさんが来ない……。
え、大丈夫? って思ったところでドアがノックされた。サディさんが見に行って、ドマノンさんとキッチンに戻ってくる。
「ドマノンさん! いらっしゃい」
「す、すんません……夜番終わって仮眠したら少し寝過ごしたみたい……で」
「「お疲れ様、いつもありがとう」」
みんなニコニコだ。自警団って大切だから、当たり前だけど誰も責めないよね。
「あ、えっと、顔と名前は知っててもあまり話したことねぇ、ない、人もいると思うんで……ので、よろしくお願いします。ドマノンです」
ぶふっ!
ドマノンさんが硬い。めっちゃ面白い。ガッチガチじゃん。最初のころの俺じゃん……泣ける。
「ドマノンさん、普通でいいと思うよ? みんな何も言わない」
「楽にしないと続かないよ」
ドマノンさんは周りをキョロキョロ見回したあと、頭をかきながら「すんません」と照れ笑いしてた。
とりあえず、みんなで手を洗ったりエプロンをして準備をする。エプロンを初めてするドマノンさんが、みんなにお世話されてて面白すぎる。
「じゃあ、まずは基本の切り方からやって、下処理とかその辺も覚えられるといいかなって思います!」
サディさんが用意してくれた野菜とか肉とかを何種類か使って、切り方を見せてからドマノンさんにもやってもらう。
やっぱり細かいことはわかってなかったから、奥様たちに囲まれて必死になってた。
力加減はいまだにちょっとおかしいから、最初まな板がちょっとえぐれたんだけど、それにラキさんがツボっちゃってそれ見て俺も釣られちゃって大変だよ!
でも一生懸命だからみんなも微笑ましく思ってるみたい。
興味を持ったことには知識欲がかなりあるみたいで、どうしてこうするのかとか、なんでこれがいいのかっていう質問も出てくるから、きっとドマノンさんは頭がいい人なんだなって。
「イクミくんが言うとおり筋が良さそうね」
「でしょ。ただやらされるっていうより、ちゃんと理由を知りたがるところもいいよね。そういうのがわかってると応用できるもん」
最初は緊張してたドマノンさんも、今は奥様たちやラキさんに指導されつつ、切った食材で楽しそうに簡単な料理を作ってた。
「イクミ君! 自分が作ったやつ食べてみてくれ。ただ焼いただけじゃないぞ」
「見てたからわかってますって。それにドマノンさんは柑橘ソースのミュードステーキと、それのアレンジだって作れたじゃん」
「なにそれっ!?」
俺に皿を渡すとまた奥様たちに囲まれるドマノンさんは、演習のときの料理のことを身振り手振りと大げさな表情で説明していた。初日だってのにすっかり溶け込んでて笑う。
ミュード肉はさすがにもうないけど、似たようなものが作れないかって聞かれたから、鳥系使ってバターなんかでコクを足すのはどうかなって提案してみた。
俺は料理教室の前は、なるべく朝にミルクを時間停止箱に入れておいて、いつ乳製品が必要になってもいいようにしてる。だからドマノンさんにバターを作るのも勧めてみた。シャカシャカ振るのなんてお茶の子サイサイってやつだろ?
それで俺がたまに口を出しつつ、あの柑橘はほとんどないから今ある柑橘を数種類混ぜて使ってもらった。こういう応用もやりながら覚えてほしいよね。ドマノンさんてセンスは悪くないから『ダークマター』は作り出さなそうだしさ。
「こうやって上から圧をかけて、皮を全面カリッと……」
「そうそう! ちゃんと覚えてますねぇ」
「あれは衝撃的で……なぁ。ところでさっき作ったバターとやらはまだ使わないのか?」
「焦げやすいからね。風味とかコク出しで終盤に使うつもりだよ」
サディさんは本物を食べたことがあるから、アレンジ版との食べ比べになるよな。あまり変なものは作りたくないって感じ。
「ここで、柑橘の果汁を入れ……ていいよな?」
「いいですよ。少し全体に絡んできたらバターを加えて」
「全部?」
「いや、それは多いって……こんくらいかな。で、溶けたら混ぜながら皮目にもかけて」
ドマノンさんはよくわからないって顔をしてたから、匙ですくってはかけるってのを繰り返して見せた。
「あ、じゃあ、ドマノンさんは皮を千切りしましょうか。覚えてます?」
「覚えては……いる。でもアレ難しいよな」
苦いフカフカ部分を削り取るのが難しいとボヤくドマノンさんに、奥様方が応援の声をかけて、めっちゃ頑張ってた。
最後の盛り付けはもちろんドマノンさんにやらせる。俺が手を出したのはバターを入れたあとの少しだけだもん。
「で、できた!」
「「「わー!」」」
みんな大喜び。今日は教えるつもりで来てて、最後の俺のデモンストレーションしか食べるものないかもって思ってたんだろうな。
「あ、全部絞っちゃったから味変のがないな……イクミ君、どうしたら」
「別になくてもいいんじゃない?」
「でもアレがあると得した気分になるだろ」
「いいわよ、倉庫から持ってきてあげるわ。あの酸っぱーいのじゃないけどね」
サディさん優しいな。最近は教室用に用意した食材しか使わなかったのに。ドマノンさんの出鼻をくじかないためかもしれないなって思って、ちょっと口元緩んじゃう。
新鮮な柑橘も串切りにして添えて、みんなの前に胸を張ってどうぞと出すドマノンさんが可愛くてしょうがないよ……。
でも初めて食べる奥様方にも好評で、サディさんから素材を変えたことによる味の違いとか、いろいろ評価もらって照れ笑いしてるし、もうドマノンさんは料理沼から抜けられないだろ。
「自分はこれしかイクミ君に教わってないんで……でもこれで料理に興味出たんすよ。今日来てみて、やっぱ面白いかもって」
「いいね、ドマノンくんも仲間だよ」
「一緒に美味しいもの作ろう。イクミさんが張り切ってたんだから」
「そういえば! 自分、デモンストレーションってやつ楽しみにしてきたんだった。イクミ君いつやるんだ?」
今からやるつもりだよって思ってサディさんを見ると、サディさんもニコッと笑って「準備しなきゃね」とキッチンを出ていった。
33
お気に入りに追加
116
あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

総長の彼氏が俺にだけ優しい
桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、
関東で最強の暴走族の総長。
みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。
そんな日常を描いた話である。

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。

α様に囲われて独立が出来ません!
翠 月華
BL
男女という性別に加え第二の性別アルファ、ベータ、オメガというモノがある世界。
そんな世界には愚かな過去がある。一昔前、オメガは疎まれ蔑まられていた。そんなオメガ達だがある日を境に数が減少した。その哀しき理由に気づかず、オメガを酷似した結果オメガは宇宙の人口の一割以下まで減った。そして、人々は焦りオメガを保護という名で囲っていった。
そんな世の中に一人の平凡で平穏な暮らしを望むベータ、那央がいた。
しかし、那央はベータではなく、オメガだった。
那央の運命はいかに…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる