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異世界生活編

129.相性ばっちり!?

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 翌日の練習のとき、弓を持ってくるとヴァンが驚いていた。

「え、なに、なんで? どうしたの?」
「村長が弓を貸してくれたんだよ」
「そうじゃなくて……え、弓?」

 ヴァンが俺の周りをぐるぐるしている。ルイもなんなんだ? と俺と並んでヴァンを見ていた。

「どうしたっていうんだ。説明しなきゃわからない」
「だってぇ……イクミの魔力」
「魔力?」
「量は変わってないけど、なんか……すごく反響してるよ?」
「どういうこと?」

 ヴァンが言うには、いつもはみんなと同じように静まり返った湖面のようなのに、今日の俺はまるで洞窟の中で声を出したみたいに、魔力の動くような音が跳ね返ってるんだって。ちなみにルイにはさっぱりわからないらしい。

 でも俺は別に魔力を集めたりもしてないし、食後でお腹が熱くなってるわけでもない。だからヴァンの言ってることが全然ピンとこないや。

「弓が身体の一部みたいに吸いつく感じはするんだけどねぇ……」
「そ、れのせい? ……なのかな?」
「さあ……」

 3人で首をひねるけどさっぱりわからないから、とりあえず練習を開始することにした。

 いやね……この弓すごい。俺の思うままに動かせる感じっていうのかな。もちろん、俺が集中力欠いて変なとこにやっちゃったらしょうがないけど、きちんと狙いを定めるとまるで『指を対象に向けてアレって示す』ような感じでできちゃう。ブレないっていうのかな。

「えー、段違いの命中率……やばぁ」
「確かにすごいな」
「自分でもそう思う……」
「動き自体は前とそんなに変わらないもんねぇ……。そんなに相性いい武器に出会うことなんてめったにないよ?」

 なんなんだろうね、これ。的をどんどん射抜けるのはかなり楽しい。でもこの状況に甘えたらだめな気もしちゃうし……。

 で、ヴァンの言ってた反響というのが少しわかったかもしれない。
 俺が弓を左手で握ってると、なんか俺の中の魔力がなんていうか……弓に引き寄せられるようでいて、波紋が広がるような……不思議な感じがする。でも、矢を右手に持って構えるとそれが急にシンと静まり返るような、すぅーっと集中するような感覚なんだ。

「この弓矢、生きてるのかなぁ?」
「それはないだろ?」
「古代の魔導って本気で意味分かんないよね。それが面白いとも言えるんだけどさ」

 そういえばって思い出して、俺が昨日村長から聞いた話を2人にもした。
 この弓矢は『水の力』が宿っているアーティファクトなんだって。水の魔力とはまた違うらしいんだけど、俺にはなんのこっちゃで違いがわからない。

「ああ……水の守護者関係ってことか。神殿が関係してるならそういうこともありそうだな。俺が使ってたときにはそんなこと言ってなかったが。ガキだったから説明しなかったのか……」
「イクミはやっぱ水と相性がいいってことかぁ。変なの」
「なんでだろ。俺、特別に水が好きとかもないのに。あ、そういえば俺の国って海に囲まれた島国で、山が多くて水が豊富なほうらしいけど……そんなの関係ないよねぇ?」
「「さあ……」」

 そりゃそうだ。誰もわかるわけないよな。俺からしたら水系の心当たりなんて、そんなもんくらいなんだけど。

「とにかく、イクミのマイナスにはなってないし、いいんじゃない?」
「使いこなせる武器があるのはいいことだ」

 そうかもねなんてルイと話していたら、ヴァンが突然「あっ!」って大きな声を上げるからびっくりした……。

「な、なんなの?」
「弓! 弓をさ! 魔導士のロッド的に使ってみなよ!」
「何が言いたいのかわかんないよ?」
「だーかーらー! すごくイクミの魔力を反響させてるってことは、活性化されてるんだと思うんだよ! 普段より魔力が扱いやすくなるかもしれないってこと。魔導士でもすごく合うロッド持つと難易度高い魔法を使いこなせちゃうことがあるんだ」

 ゲームで、魔法使いが武器の杖を装備したら『MP』とか『知力』なんかが増える……的なやつ? ちょっと違うか。俺の魔力量は変わらないって言ってたもんな。

 ていうか、弓を持ちながら魔法使うってこと? 水出すのに? 変じゃない?

「俺みたいな初歩の初歩でワタワタしてる人にそれ必要?」
「いや……だからでしょ? せっかく外部からいい感じに刺激があるんだから使えるもんは使わないと。感覚を身に着けちゃえばこっちのもんなんだから」
「まあ……やってみたらどうだ?」
「ルイが言うなら……うん」

 ヴァンが「扱いの差!」ってわめいてた……ごめんって。
 でも弓を持って魔法ってイメージがつかないっていうかね。ロッドよりももっと長いし不便じゃないかなとか思っちゃう。

「いや、イクミの身体に触れてればいいんだと思うよ。オレのロッドだっていつも大体腰に下げたままだし。ほら、この小さいやつ!」
「えっ、えぇぇ……ロマンがない」
「ロマンってなに……」

 俺の思う魔法使い像を話せばヴァンは苦笑する。なんかほら、上側がぐるぐるのコブみたいになってるでかい杖とかで、もしゃもしゃの長い髪と髭のおじいさんみたいな。
 でもヴァンの師匠は俺のロマンの魔導士像……そんな感じだったらしい。魔法全振りの魔導士だとそんな感じかもねなんて言ってた。

「オレは使えるもんは使う派!」
「まあ……うん。ヴァンぽいっちゃぁ、ぽいね」
「それほどでも? じゃなくて、だからさ、こんな感じで間に身体通して両手空けるんでもいいと思うし、座ってるときに膝に置くんでもいいと思う」
「あー、こういうことか」

 四分の一の魔力量でなんか1回試してみろってヴァンがうるさいから、手のひらの上に水を出してみようと思う。
 これは最近できるようになったんだ。前は下向きに手がシャワーとか蛇口みたいなイメージでしか出せなかったんだけど、両手を合わせてすくうような形にしたところに水を湧き出させるような感じ。

 目を開けたまま、身体の中の魔力に集中する。なんか波紋が広がるような、それでいて俺という枠の中で端まで広がった波紋が跳ね返ってるような感じがあるから魔力を捉えやすいかも。

 そうして、いつもより早く水として現象化することができたから俺もびっくりした。

「た、確かに少しやりやすい、かも?」
「いやー、すごいなぁ……武器としてもロッド風としても優秀なのか。なんでコレそんなに村でも知られてないんだろ」
「そこまで相性いいやつがいないんだろ」
「ああ……村長管理だし見た目もシンプルすぎるし、弓だし……そもそも持つ人がいないのか」

 ヴァンは久々に弓を持つ人がきて、このアーティファクトも喜んでるのかもねなんて言ってた。

 そういうことなのかなぁ……でもありがたいからこの弓とは仲良くしたいな。
 
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