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異世界生活編
128.不思議な弓
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なんとなくあの黒い木のやつかななんて気分のまま、次の弓を見る。
これはあまり特徴のないものすごくシンプルな見た目をしている。金属と木が融合しているような感じはちょっとめずらしいけど。他のよりも装飾がなくて村長のだって聞いてなかったらきっと練習用かもって思うようなやつ。なのに、これと次のは矢筒がセットで置いてある。
多分、見た目に反して良いものなんだろうな……って思いながら手を伸ばした瞬間、手に吸い付くような感覚と身体の中の何かが繋がるような感じがしてしばらく呆けてしまった。
「イクミ君?」
「……あ、すいません」
村長に声をかけられて我にかえるとセットの矢筒から矢を取り出して構えてみる。っていうか、もう他のと全然違うのは手にしたときからわかってた。これは俺の身体の一部だっていうような感じ。狙いをつけるのもピタッと決まる。
「村長……」
「最後の見るかい?」
「いえ、これです。次の持たなくてもわかる……他のとも全然違う。なんだこれ……」
「選ばれたのか」
どういうことって思って村長を見ると、ニッコリ笑って「それを貸してあげよう」と言った。俺は俺であんなに遠慮したい気分だったのに、それはどこかに行ってしまった感じ。
「その弓は見た目の単純さからか、本質を見抜けない者は選ぶことがないんだよ。でもイクミ君はわかっているだろう? ただの弓ではないことを」
俺はコクンと頷いた。だって、こんな感覚知らない。今も俺の手から離れない感じがするんだ。
「それはね、実はアーティファクト……古代からの遺物でもあると先代が言っていた。この霧の渓谷の神殿にまつわるものらしい」
「えっ! そんな大事なものだったら借りられませんっ!」
「いや。価値のわかる者が使わなければ意味がない。それに、イクミ君はおそらく選ばれたんだ」
「意味が……わかりません」
村の大事なものを俺が旅で持ち出すなんてそんなことあっていいのか? って思って、何度も借りられないと言ったけど村長は受け取ろうとしなかった。
村長が言うには……普通であれば身体にしっくりくる武器というのは、武器屋と相談しながら作った特注品がほとんどだっていう。でもこういったアーティファクトはその持ち主をアーティファクト側が望むときがあって、選ばれると大体が自分の身体の一部であるような感覚になるんだそうだ。
「なんで……俺? 俺、魔力もほとんどなくて、この世界の人間じゃないのに……」
「それは私にもわからんよ。アーティファクトに聞けたら聞いてみたいね。そういえば昔一瞬だけルイもその弓にそんな感覚を持っていたみたいだよ。途中でその感覚がなくなったと言っていたけどね」
「ルイが? 本当に弓に意思があってルイから離れたんですか?」
「さあどうだろうね。ルイに聞いてみたらどうかな。私もその弓は気に入っていたけど、そういう感覚は持ったことがないんだ。私の場合はやはり槍なんかのほうが腕の延長のような感じがしたしね。でもきっとアーティファクトに望まれた感覚とはまた違うものだろう」
俺は口では借りられないなんて言いながら、俺はこの弓をデスクに置こうなんて気が起こらずに、ずっと持ったままでいる。村長もそんな俺を優しい笑顔で見ながら、大事に使ってあげなさいと言うだけだ。
「その矢筒の矢も特別なものなんだよ。使いこなすには魔力が必要なんだけどね」
「魔力……かぁ。じゃあ無理ですかね」
「そこまで多く必要じゃないよ。矢筒と矢がリンクしているんだ。ほら、これ、わかるかい? 同じ魔法陣と魔石が入っているんだ」
「なにこの埋込! 矢のほうヤバい……持ったのに気づかなかった……」
「これはね、矢筒に魔力を流すと矢が回収できる。戻ってくるんだ」
なにそれってびっくりした。これは弓・矢・矢筒のセットのアーティファクトなんだっていうのがハッキリわかったよね……。こんなすごいもの選んじゃったのか俺。いや、村長の言い方からしたら選ばれた?
「うん、いいんじゃないかな。イクミ君に向いてると思うよ」
「すいません、ありがとうございます。大事に使わせてもらいます! 帰れるときはちゃんとルイに渡します」
俺は深々とお辞儀をした。村長はそんな俺の肩をポンと叩く。気にするなと言わんばかりだ。なんでここまでしてくれるんだろう。意味がわからないよ……むしろ怖いくらいだ。
村長の後ろを弓を持って歩いてリビングに戻ると、ルイとサディさんが待っていた。
ルイは俺の持ってる弓を見ると少しびっくりしてて、サディさんはいつもどおりニコニコしてる。
「ソレ、にしたのか」
「イクミ君は選ばれたようだよ」
「手に……くっつくみたい……なんだ」
「いいのがあって良かったじゃない! 明日からそれで練習ね」
村長とサディさんはさほど気にしてない感じ。俺は本当に借りちゃっていいのかなぁって気持ちがまだ少しあるけどね。
部屋に戻るとき、ルイになんとなく聞いてみた。
「ルイは……この弓……」
「少し驚いた。懐かしいのもあって、な。ガキの頃、村長に渡されたソレが妙にしっくりきてソレ使って弓の練習してたからな」
「そうなんだね。なんでやめちゃったの?」
「突然しっくりこなくなったんだ。あんなに俺のだって思ってたのが」
「急に……そんなことになるんだね」
旅の途中でそんなことになったらちょっと怖いなって思ってしまう。それってアーティファクトの気分次第とかそういう感じなのかな……。だとしたらやだなぁ。
「まあ、予備の弓は必要だろうな。念のためだが」
「そっちを使うことにならないといいけどね」
武器が変わればそのクセをつかむのに少し時間がかかりそうだし、今持ってるこの弓を知ってしまったら他のとどうしても比べてしまいそうだ。
明日からはこれで練習するのか……少しワクワクするかも。アーティファクトだし、なんか必殺技とか出ないのかな。
「イクミ……なんか変な期待してないか?」
「え?」
「それを持ったからといって、特殊効果とかはなかった。でも、つながってる感じがあるときはやたら使いやすい」
「なーんだ」
アーティファクトってそういうもんじゃないの? っていうのが顔に出てたのか、俺の頭をわしゃっとしてルイが笑う。
「そういうアーティファクトも中にはあるかもしれないが、ソレはただ受け継がれてきた古代の弓ってだけだと思うぞ。でも、矢が戻ってくるのは便利だろ?」
「何度も同じ矢を使えるのはめっちゃいいよね!」
普通、矢って消耗品だからな。
回収に使う魔力も俺が水を出すのなんかよりよっぽど少なくて済むらしい。とはいえ、回数重ねたら結構減るだろうけど。
必殺技なんてやっぱ一般人の俺には向いてないのかも。だから魔法の練習と矢を放つ練習を欠かすなよってこの弓が俺を選んだのかもな……。わかったよ、頑張るってば。
これはあまり特徴のないものすごくシンプルな見た目をしている。金属と木が融合しているような感じはちょっとめずらしいけど。他のよりも装飾がなくて村長のだって聞いてなかったらきっと練習用かもって思うようなやつ。なのに、これと次のは矢筒がセットで置いてある。
多分、見た目に反して良いものなんだろうな……って思いながら手を伸ばした瞬間、手に吸い付くような感覚と身体の中の何かが繋がるような感じがしてしばらく呆けてしまった。
「イクミ君?」
「……あ、すいません」
村長に声をかけられて我にかえるとセットの矢筒から矢を取り出して構えてみる。っていうか、もう他のと全然違うのは手にしたときからわかってた。これは俺の身体の一部だっていうような感じ。狙いをつけるのもピタッと決まる。
「村長……」
「最後の見るかい?」
「いえ、これです。次の持たなくてもわかる……他のとも全然違う。なんだこれ……」
「選ばれたのか」
どういうことって思って村長を見ると、ニッコリ笑って「それを貸してあげよう」と言った。俺は俺であんなに遠慮したい気分だったのに、それはどこかに行ってしまった感じ。
「その弓は見た目の単純さからか、本質を見抜けない者は選ぶことがないんだよ。でもイクミ君はわかっているだろう? ただの弓ではないことを」
俺はコクンと頷いた。だって、こんな感覚知らない。今も俺の手から離れない感じがするんだ。
「それはね、実はアーティファクト……古代からの遺物でもあると先代が言っていた。この霧の渓谷の神殿にまつわるものらしい」
「えっ! そんな大事なものだったら借りられませんっ!」
「いや。価値のわかる者が使わなければ意味がない。それに、イクミ君はおそらく選ばれたんだ」
「意味が……わかりません」
村の大事なものを俺が旅で持ち出すなんてそんなことあっていいのか? って思って、何度も借りられないと言ったけど村長は受け取ろうとしなかった。
村長が言うには……普通であれば身体にしっくりくる武器というのは、武器屋と相談しながら作った特注品がほとんどだっていう。でもこういったアーティファクトはその持ち主をアーティファクト側が望むときがあって、選ばれると大体が自分の身体の一部であるような感覚になるんだそうだ。
「なんで……俺? 俺、魔力もほとんどなくて、この世界の人間じゃないのに……」
「それは私にもわからんよ。アーティファクトに聞けたら聞いてみたいね。そういえば昔一瞬だけルイもその弓にそんな感覚を持っていたみたいだよ。途中でその感覚がなくなったと言っていたけどね」
「ルイが? 本当に弓に意思があってルイから離れたんですか?」
「さあどうだろうね。ルイに聞いてみたらどうかな。私もその弓は気に入っていたけど、そういう感覚は持ったことがないんだ。私の場合はやはり槍なんかのほうが腕の延長のような感じがしたしね。でもきっとアーティファクトに望まれた感覚とはまた違うものだろう」
俺は口では借りられないなんて言いながら、俺はこの弓をデスクに置こうなんて気が起こらずに、ずっと持ったままでいる。村長もそんな俺を優しい笑顔で見ながら、大事に使ってあげなさいと言うだけだ。
「その矢筒の矢も特別なものなんだよ。使いこなすには魔力が必要なんだけどね」
「魔力……かぁ。じゃあ無理ですかね」
「そこまで多く必要じゃないよ。矢筒と矢がリンクしているんだ。ほら、これ、わかるかい? 同じ魔法陣と魔石が入っているんだ」
「なにこの埋込! 矢のほうヤバい……持ったのに気づかなかった……」
「これはね、矢筒に魔力を流すと矢が回収できる。戻ってくるんだ」
なにそれってびっくりした。これは弓・矢・矢筒のセットのアーティファクトなんだっていうのがハッキリわかったよね……。こんなすごいもの選んじゃったのか俺。いや、村長の言い方からしたら選ばれた?
「うん、いいんじゃないかな。イクミ君に向いてると思うよ」
「すいません、ありがとうございます。大事に使わせてもらいます! 帰れるときはちゃんとルイに渡します」
俺は深々とお辞儀をした。村長はそんな俺の肩をポンと叩く。気にするなと言わんばかりだ。なんでここまでしてくれるんだろう。意味がわからないよ……むしろ怖いくらいだ。
村長の後ろを弓を持って歩いてリビングに戻ると、ルイとサディさんが待っていた。
ルイは俺の持ってる弓を見ると少しびっくりしてて、サディさんはいつもどおりニコニコしてる。
「ソレ、にしたのか」
「イクミ君は選ばれたようだよ」
「手に……くっつくみたい……なんだ」
「いいのがあって良かったじゃない! 明日からそれで練習ね」
村長とサディさんはさほど気にしてない感じ。俺は本当に借りちゃっていいのかなぁって気持ちがまだ少しあるけどね。
部屋に戻るとき、ルイになんとなく聞いてみた。
「ルイは……この弓……」
「少し驚いた。懐かしいのもあって、な。ガキの頃、村長に渡されたソレが妙にしっくりきてソレ使って弓の練習してたからな」
「そうなんだね。なんでやめちゃったの?」
「突然しっくりこなくなったんだ。あんなに俺のだって思ってたのが」
「急に……そんなことになるんだね」
旅の途中でそんなことになったらちょっと怖いなって思ってしまう。それってアーティファクトの気分次第とかそういう感じなのかな……。だとしたらやだなぁ。
「まあ、予備の弓は必要だろうな。念のためだが」
「そっちを使うことにならないといいけどね」
武器が変わればそのクセをつかむのに少し時間がかかりそうだし、今持ってるこの弓を知ってしまったら他のとどうしても比べてしまいそうだ。
明日からはこれで練習するのか……少しワクワクするかも。アーティファクトだし、なんか必殺技とか出ないのかな。
「イクミ……なんか変な期待してないか?」
「え?」
「それを持ったからといって、特殊効果とかはなかった。でも、つながってる感じがあるときはやたら使いやすい」
「なーんだ」
アーティファクトってそういうもんじゃないの? っていうのが顔に出てたのか、俺の頭をわしゃっとしてルイが笑う。
「そういうアーティファクトも中にはあるかもしれないが、ソレはただ受け継がれてきた古代の弓ってだけだと思うぞ。でも、矢が戻ってくるのは便利だろ?」
「何度も同じ矢を使えるのはめっちゃいいよね!」
普通、矢って消耗品だからな。
回収に使う魔力も俺が水を出すのなんかよりよっぽど少なくて済むらしい。とはいえ、回数重ねたら結構減るだろうけど。
必殺技なんてやっぱ一般人の俺には向いてないのかも。だから魔法の練習と矢を放つ練習を欠かすなよってこの弓が俺を選んだのかもな……。わかったよ、頑張るってば。
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