上 下
127 / 202
異世界生活編

127.流される俺……(恒例)

しおりを挟む
 結局、翌日の鍛錬のときにヴァンに見てもらった結果、やっぱり新鮮な魔物肉を食べると俺の場合は魔力回復が少し早いらしいってことがわかった。

「不思議だけど、イクミの場合きっとまだ魔力の本来の上限量まで相当足りてないんだよ。だからオレたちみたいな魔力酔いの症状が出ないんだと思う。まあ、まだ仮説なんだけどさ」
「つまり?」
「イクミはできるだけ普段から魔力抜きしてない肉を食べたほうがいい、と思う」

 うーん、でも俺だけ材料を変えるってのはやっぱり面倒だな。料理ってまとめて量を作る方がなんか美味しいっていうのもあるしね。

「できるときはそうするよ……」
「いや、サディさんに言ってちゃんとそうしたらどうだ?」
「でもさぁ。料理って1人分を作るのが一番面倒くさいわけ。ルイたちは自分で作らないからわからないだろうけどね?」

 う……と言葉に詰まるルイと、実験して結果がほしいヴァンはむぅっと口を突き出していた。でも2人とも俺の言葉に強く反論はできないっぽいね。そう、食べるだけの人はそういうの言う権利ないんだよ。

 そんな話をしたはずだったのに、どっちがいつどう伝えたのか知らないけどサディさんがそのことを把握してたんだよね……。

「何言ってるのよ。スープとか煮込み料理じゃなきゃわけるくらいできるでしょ。同じお肉じゃないとっていうならイクミくんのだけ時間停止箱に入れておいて、私たちの分のお肉の魔力が抜けたときに一緒に作ればいいんだから」
「でも俺、いつものスープとか好きだしさ……」
「2食ともスープにすることは滅多にないんだからそれは一緒に食べればいいのよ。プラスでステーキを食べるんだってできるでしょ?」

 あー、これは俺の意見は通らなそうだな。別に俺だって嫌だって言ってるわけじゃないんだ。魔力の回復が早いほうが俺だって助かるしさ。……サディさんがいいって言うならしょうがない、か。
 ていうか、俺、以前から周りの人に強く言われると断れないんだよな……ちきしょー。

「じゃあメニューによって……。塊肉をグリルするとかのときはみんなと一緒のお肉にするからね」
「臨機応変にいきましょ!」

 その日の夕飯はすでにサディさんが俺用をメインにメニューを考えていて、ジベラ焼きに近いものにすると言っていた。
 新鮮な魔物肉ももう用意してあって、同じ種類の魔力抜き済の肉もあるんだそうだ。あと、前日の俺の食べ過ぎ事件のこともあってジベラがめっちゃ加えられていたっていう……。

「サディさん、俺、野菜もたくさん付け合せにほしいな」
「いいわね。何にする?」
「余分があるならシュラーダとかビーヌとか」

 サディさんは珍しいわなんて言いながら用意をしてくれた。ビーヌは塩ゆでが普通だっていうけど別に蒸してもいいじゃんね。カロイモと一緒に蒸しちゃえばいいんだしさ。シュラーダは生でおろしにしたら消化にも良さそうじゃないか?
 サディさんも面白いしさっぱりするって喜んでた。

 料理が出来てみんなで夕飯を囲む。どうやら村長まで俺が新鮮な魔物肉を食べるってことを知っていて、犯人はルイかなってちょっと思ったよね。

「イクミ君は遠慮しないで自分の能力の底上げを最優先に考えなさい。村の外に行くなら能力はありすぎて困ることはないのだからね」
「わ、かりました……」
「それはそうと、弓を見せてあげたいんだが」
「っ!」

 思わずルイを見るけど、こっちを見ないで黙々と肉を頬張ってる……。
 なんだかんだルイは村長にいろいろ細かく報告してるよな。親しいっちゃ親しいけど甘える感じではなくて、『尊敬』なのかなっていう感じだけど。

「あ……えっとぉ」
「なに、貸してあげるだけで、ちゃんと返してもらうんだから気にしなくていい。村を出るまでに慣れておかないといけないだろう? 街に行ってから作るのじゃ間に合わないし、この村で質のいい弓を作ろうとしたら時間がかかりすぎる」

 あ、これも丸め込まれるやつだ。またかよ、俺……。
 でも村長が言ってることも正しいんだよな。この村に弓使いがまずいないってことは材料なんかもあまりないってことだろうし。

 ルイは相変わらずもぐもぐしてこっちを見ないのがホントもうね。

「食事が終わったら部屋においで。いくつかあるから実際に持ってみてしっくりくるのを選ぶといい」
「そういうの、俺わかるかなぁ」
「直感を信じるのが一番だから、選ぶときは1人で来るようにね。他に人がいるとその人の顔色とかをつい見ちゃうものなんだよ」
「あうぅ……」

 俺がルイに頼り切りで、ルイが言うならって流されちゃいがちなのを見透かされてる気がする。自分で決めろってことか……うう。
 この時になってルイは俺を見てひとつ頷いたんだ。わかったよ、やればいいんでしょ!?

 そして後片付けはサディさんに任せて村長に着いていった。村長の部屋に行くのは実は初めて。
 足を踏み入れると部屋には大きなデスクがばーんとあって、何人も集まって会議できそうな感じで、貴重品であろうよくわからない地図とか革製の本とかもたくさんあった。

 ほえぇっと見渡していると、村長が俺を呼んでマジックバッグから何本も弓を取り出していく。
 わかってはいても小さなバッグの中からみにょーんと出てくるのは何度見ても面白い。

「今使っている弓とかなり違うものもあると思うから、持ったり矢を構えたりしてみなさい。弓によってはセットの矢があるものもあるんだよ」

 村長は最低限のことしか言わない。これもきっと俺の直感優先のためなんだろうな……。

 俺がまず持ったのは一番端に置かれた弓。
 左手で掴むところと弦のかかっている上下の先端部分に装飾があって上品な感じだ。重さは練習用のより少しだけ重いかな? でも大きな差ではないくらい。
 まあ、こんなもんかなって感じだし、いいなーとかそういうことを思うより『これいくらしたのかなー』なんて考えちゃった。

 それから順に手にしてみる。
 次のは全体が黒っぽい木製の弓なんだけど、装飾なんて何もないのにずっしりと重い。でも不思議な安定感があるし、重くて硬そうなのに弦を引けばよくしなる。ひとつめよりは『おっ』っという感覚があった。

 その次は全体が金属製っぽいんだけど、持つ部分以外は薄くて予想以上に軽い。ちょっと今の練習用に慣れた俺からすると軽すぎるような感じがする。軽いほうが疲れにくいのかな……なんでこれはこんなに軽いんだろう。きっと意味があるんだろうけどわらからないね。

 その隣のはまるで弓道の弓みたいにやたら長さがあるし、他のリカーブド・ボウとは違って反りも浅い。これはクセが強すぎる……俺が今までやってきた練習が活かせないと思うな。あと、これを持ち歩いて山を歩ける気はしない。
 見た目は日本人心を非常に揺さぶるんだけど、使いこなせなきゃ意味ないもんなぁ。

 あと2本あるけど、今のところあの黒い木のやつかなぁ……。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。 ※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。 ※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

処理中です...