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異世界生活編
126.魔力回復実験
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「さ、イクミ。食べて食べて」
「もう……無理……」
「なんでそんなちょびっとで音を上げてんだよ。検証にならないじゃん」
「お、れは、ヴァンと違う……うっ……」
今俺は捌きたて魔物肉の串焼きを何本も食べさせられている。いや、本当に無理……リバースしそう。食べる量をヴァン基準にしないでほしい……。
「やめろ、ヴァン。これじゃ新手の拷問だ」
「こんな少しの量で……?」
「すこ、し……じゃない……」
串焼きって言ったってあっちの焼き鳥みたいなんじゃないからね。太い金串にこぶし大の肉が何個も刺さってるやつ……いくら美味しくても無理なもんは無理だ。
「しょうがないな。今のところなんもなさそうだよね」
「いつ、も、食べてから……少しして、お腹が」
「じゃあ少し待つかー」
「イクミ、横になるか?」
ルイが心配そうに見てくるけど、俺は首を振った。頭を上にしていないとやばい気がするんだもん。椅子にぐったりともたれかかって、無言の時間がすぎていく……すると徐々にお腹が温まってくる感じがしてきた。
「ヴァン、ほかほかしてきた」
「ほんと?」
ぴょこっと耳を動かしたヴァンが俺の頭に手を置いて……魔力を測っているようだ。いつもみたいにピリピリする。
「うーん。まだちょっとわかんないような」
「気のせいかな……」
「いやいや! まだわかんないじゃん」
くったくたのぬいぐるみみたいに椅子にでろんと座ったまましばらく目を閉じていると、お腹がカーッとしてきた。それをヴァンに言うともう一回測られる。
「あー……確かになんかぐるぐるしてるか、も? 不思議!」
「ぐるぐる?」
「うん。渦巻いてる感じ。えー、こんなんなるの?」
俺はいまだにオエッてなりそうなのと戦ってるんだけど、ヴァンは楽しそうだ。俺の頭から手を離してくれない。ルイは口を出してはこないけど俺をじっと見てる感じ。ちょっとでも調子悪そうな様子を見せたら寝かされてサディさんを呼ばれそうだ……。
「ぐるぐるして、増えてる?」
「今はそうでもないかなぁ……でもこれが変換回路みたいなので、めっちゃ動いてるってんならあとから増えるのかも」
「イクミ、つらくは……?」
「さっきよりは大丈夫。でも口をさっぱりさせたいかも」
ルイがめっちゃ聞いてくるから、俺は生のジベラとなんでもいいから柑橘類がほしいって頼んだ。俺が言った途端すぐにルイは倉庫に向かって持ってきてくれる。普段は料理なんて絶対しないのに、ルイがこれをどうするって聞いてきてびっくりした。でも嬉しいから甘えちゃおうかな。
すりおろしたジベラを少しと、絞った柑橘の汁を水で薄めてほしいって頼んだらルイは頑張ってやってくれた。
「ルイありがと。あ……ヴァン、ジベラって薬草だけど実験に影響するかな?」
「どうだろう。あまり関係ないんじゃないかな、多分だけど」
「じゃあ少し飲んでもいい? だめなら……うがいにしとく」
「いや、気にしないでいいよ。オレもイクミの食べられる量わかんなくて無理させたみたいだし……」
チラッとヴァンがルイの方を見ている。どうしたのかなって俺も見てみたけどわからなかった。
ルイが作ってくれた飲み物を口に含む。酸味と辛味のある水はお腹いっぱいでも飲み込める。喉を通るときピリピリする感じはやっぱりショウガと同じだ。魔物肉の脂をさっぱりさせてくれて、少しだけ気持ち悪いのが収まった。
「ルイ、少し楽になったかも」
「ん。俺でも何かを作って誰かの役に立つことができるんだな」
「何言ってるの。当たり前でしょ」
楽になったとはいえお腹は苦しくて、これから何かをするのはとても無理だけどね。夕飯だって俺はいらないくらいだな……。なんで走り込みとか鍛錬の前に食べさせられたかなぁって愚痴ると、ヴァンが耳を後ろに倒した。
「それは一応オレなりの気遣いだったんだよ。夕飯と近いと悪いかなーって。まさかこんなに食べられないと思わなかったしさぁ」
「そ……そうなんだ」
「今日は無理するな」
そんな話を3人でしていたらサディさんが帰ってきて、俺を見てびっくりしていた。俺の夕飯はいらないって伝えるとめちゃくちゃ心配されてしまったし。
薬はいるか聞かれたけど、さっきルイに作ってもらった飲み物がまだあるから大丈夫って答える。サディさんはそれにも驚いていてルイは耳が赤くなっていた。相変わらず……ツボが……。
「もし食事4人分作るならヴァンにあげて?」
「そうね。どうする、ヴァン?」
「え、いいなら……また来る」
「あなたがそんな遠慮するなんてどうしたの?」
「後ろに怖い人がいるから……」
視線の先にはルイ。なんで威圧してんの?
ヴァンはまたひょいっと俺の側にきて頭の上に手を乗せてきた。ピリピリするのはなんでなんだろうな。
「少し回復してるかも? うーん、やっぱ少し回復早いのかな……」
ヴァンは首を捻って独り言を繰り返し、それを聞いたサディさんも興味深そうに見ていた。俺は俺で苦しくて今は何も考えたくない感じかな。動けないし考えたくもないとか……どしようもない。
「イクミくん、少し部屋で休みなさい。ヴァンはまた夕方来たときにイクミくんの様子を見る。自分のやることも残っているんでしょう? ルイは急ぎのことがないならイクミくんについてなさい」
「え、別にだいじょう……」
「イクミ、サディさんの言うことは聞いておきなよ。オレもまた来るから」
「でも」
「ほらほら。ルイ、よろしくねー」
ちょっとぉ……ヴァンはルイを引っ張って俺の横に立たせると走って出ていった。サディさんは本気で心配していてルイに一応胃腸に効く薬だと言って小瓶を渡している。これはもう何も言えない……こういうのが恥ずかしくて最初に我慢してたのに。
さすがにおんぶとかは恥ずかしくて、ルイに背中を押されるように部屋に行くとベッドに座らされた。
「横になるのはやっぱまだしんどそうだから身体起こしてたい……」
「寄っかかるか?」
「そのほうがいいかな?」
普通に『壁に』っていう意味だと思ってそう言うと、何故かルイが隣に座って俺を引き寄せた。
「へっ!?」
「つらかったら薬あるから言うんだぞ」
ち……違う意味でつらくなりそうデス。
俺、どうしたらいいの。食べ過ぎって方じゃなくて、心臓がバクバクして気持ち悪くなりそうなんだけど。
結局身体ガチガチにさせたままルイに寄りかかっていた。なんか嬉しいとか幸せだとかそういうの感じる余裕なんてこれっぽっちもない。頭真っ白でさ……。
しばらくそうしていて、ルイが村長に呼ばれて離れてくれるまで、俺はどうやって息をしていたのかもわからないくらいになっていた。
夕方にヴァンが来たときには俺も動けるようになっていたけど、食事はやっぱり食べたくはならなかったな。
あと、魔力は思ったより回復してきてるっぽいって。食べてすぐじゃないんだな……食べ物の消化と似たようなもんなのかも。そしたら明日はもっと変わるのかなぁ。
そういえば、ヴァンが家に戻ってきたときのニヤァっとした視線がちょっとイラッとしたよね。味方なのか敵なのかわかんねぇって思う時ある……くそ。
「もう……無理……」
「なんでそんなちょびっとで音を上げてんだよ。検証にならないじゃん」
「お、れは、ヴァンと違う……うっ……」
今俺は捌きたて魔物肉の串焼きを何本も食べさせられている。いや、本当に無理……リバースしそう。食べる量をヴァン基準にしないでほしい……。
「やめろ、ヴァン。これじゃ新手の拷問だ」
「こんな少しの量で……?」
「すこ、し……じゃない……」
串焼きって言ったってあっちの焼き鳥みたいなんじゃないからね。太い金串にこぶし大の肉が何個も刺さってるやつ……いくら美味しくても無理なもんは無理だ。
「しょうがないな。今のところなんもなさそうだよね」
「いつ、も、食べてから……少しして、お腹が」
「じゃあ少し待つかー」
「イクミ、横になるか?」
ルイが心配そうに見てくるけど、俺は首を振った。頭を上にしていないとやばい気がするんだもん。椅子にぐったりともたれかかって、無言の時間がすぎていく……すると徐々にお腹が温まってくる感じがしてきた。
「ヴァン、ほかほかしてきた」
「ほんと?」
ぴょこっと耳を動かしたヴァンが俺の頭に手を置いて……魔力を測っているようだ。いつもみたいにピリピリする。
「うーん。まだちょっとわかんないような」
「気のせいかな……」
「いやいや! まだわかんないじゃん」
くったくたのぬいぐるみみたいに椅子にでろんと座ったまましばらく目を閉じていると、お腹がカーッとしてきた。それをヴァンに言うともう一回測られる。
「あー……確かになんかぐるぐるしてるか、も? 不思議!」
「ぐるぐる?」
「うん。渦巻いてる感じ。えー、こんなんなるの?」
俺はいまだにオエッてなりそうなのと戦ってるんだけど、ヴァンは楽しそうだ。俺の頭から手を離してくれない。ルイは口を出してはこないけど俺をじっと見てる感じ。ちょっとでも調子悪そうな様子を見せたら寝かされてサディさんを呼ばれそうだ……。
「ぐるぐるして、増えてる?」
「今はそうでもないかなぁ……でもこれが変換回路みたいなので、めっちゃ動いてるってんならあとから増えるのかも」
「イクミ、つらくは……?」
「さっきよりは大丈夫。でも口をさっぱりさせたいかも」
ルイがめっちゃ聞いてくるから、俺は生のジベラとなんでもいいから柑橘類がほしいって頼んだ。俺が言った途端すぐにルイは倉庫に向かって持ってきてくれる。普段は料理なんて絶対しないのに、ルイがこれをどうするって聞いてきてびっくりした。でも嬉しいから甘えちゃおうかな。
すりおろしたジベラを少しと、絞った柑橘の汁を水で薄めてほしいって頼んだらルイは頑張ってやってくれた。
「ルイありがと。あ……ヴァン、ジベラって薬草だけど実験に影響するかな?」
「どうだろう。あまり関係ないんじゃないかな、多分だけど」
「じゃあ少し飲んでもいい? だめなら……うがいにしとく」
「いや、気にしないでいいよ。オレもイクミの食べられる量わかんなくて無理させたみたいだし……」
チラッとヴァンがルイの方を見ている。どうしたのかなって俺も見てみたけどわからなかった。
ルイが作ってくれた飲み物を口に含む。酸味と辛味のある水はお腹いっぱいでも飲み込める。喉を通るときピリピリする感じはやっぱりショウガと同じだ。魔物肉の脂をさっぱりさせてくれて、少しだけ気持ち悪いのが収まった。
「ルイ、少し楽になったかも」
「ん。俺でも何かを作って誰かの役に立つことができるんだな」
「何言ってるの。当たり前でしょ」
楽になったとはいえお腹は苦しくて、これから何かをするのはとても無理だけどね。夕飯だって俺はいらないくらいだな……。なんで走り込みとか鍛錬の前に食べさせられたかなぁって愚痴ると、ヴァンが耳を後ろに倒した。
「それは一応オレなりの気遣いだったんだよ。夕飯と近いと悪いかなーって。まさかこんなに食べられないと思わなかったしさぁ」
「そ……そうなんだ」
「今日は無理するな」
そんな話を3人でしていたらサディさんが帰ってきて、俺を見てびっくりしていた。俺の夕飯はいらないって伝えるとめちゃくちゃ心配されてしまったし。
薬はいるか聞かれたけど、さっきルイに作ってもらった飲み物がまだあるから大丈夫って答える。サディさんはそれにも驚いていてルイは耳が赤くなっていた。相変わらず……ツボが……。
「もし食事4人分作るならヴァンにあげて?」
「そうね。どうする、ヴァン?」
「え、いいなら……また来る」
「あなたがそんな遠慮するなんてどうしたの?」
「後ろに怖い人がいるから……」
視線の先にはルイ。なんで威圧してんの?
ヴァンはまたひょいっと俺の側にきて頭の上に手を乗せてきた。ピリピリするのはなんでなんだろうな。
「少し回復してるかも? うーん、やっぱ少し回復早いのかな……」
ヴァンは首を捻って独り言を繰り返し、それを聞いたサディさんも興味深そうに見ていた。俺は俺で苦しくて今は何も考えたくない感じかな。動けないし考えたくもないとか……どしようもない。
「イクミくん、少し部屋で休みなさい。ヴァンはまた夕方来たときにイクミくんの様子を見る。自分のやることも残っているんでしょう? ルイは急ぎのことがないならイクミくんについてなさい」
「え、別にだいじょう……」
「イクミ、サディさんの言うことは聞いておきなよ。オレもまた来るから」
「でも」
「ほらほら。ルイ、よろしくねー」
ちょっとぉ……ヴァンはルイを引っ張って俺の横に立たせると走って出ていった。サディさんは本気で心配していてルイに一応胃腸に効く薬だと言って小瓶を渡している。これはもう何も言えない……こういうのが恥ずかしくて最初に我慢してたのに。
さすがにおんぶとかは恥ずかしくて、ルイに背中を押されるように部屋に行くとベッドに座らされた。
「横になるのはやっぱまだしんどそうだから身体起こしてたい……」
「寄っかかるか?」
「そのほうがいいかな?」
普通に『壁に』っていう意味だと思ってそう言うと、何故かルイが隣に座って俺を引き寄せた。
「へっ!?」
「つらかったら薬あるから言うんだぞ」
ち……違う意味でつらくなりそうデス。
俺、どうしたらいいの。食べ過ぎって方じゃなくて、心臓がバクバクして気持ち悪くなりそうなんだけど。
結局身体ガチガチにさせたままルイに寄りかかっていた。なんか嬉しいとか幸せだとかそういうの感じる余裕なんてこれっぽっちもない。頭真っ白でさ……。
しばらくそうしていて、ルイが村長に呼ばれて離れてくれるまで、俺はどうやって息をしていたのかもわからないくらいになっていた。
夕方にヴァンが来たときには俺も動けるようになっていたけど、食事はやっぱり食べたくはならなかったな。
あと、魔力は思ったより回復してきてるっぽいって。食べてすぐじゃないんだな……食べ物の消化と似たようなもんなのかも。そしたら明日はもっと変わるのかなぁ。
そういえば、ヴァンが家に戻ってきたときのニヤァっとした視線がちょっとイラッとしたよね。味方なのか敵なのかわかんねぇって思う時ある……くそ。
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