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異世界生活編

124.沼への招待……になるのか?

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 料理に畑仕事に基礎トレに弓矢の練習、あと浄化の練習して、子どもたちと遊んで……。俺って結構忙しくしてるよな。いや、たぶんこのくらいで忙しいとか言ったら怒られるんだろうけど。

「ルイ、見晴らし台での練習行こうよ」
「イクミから言うなんて珍しいな」
「んーとね、料理教室のことでドマノンさんに予定聞きたいんだよね」

 一緒に歩きながらルイと弓の話をした。俺が今使ってるのはあくまでも練習用の弓だから、もっとちゃんとしたのを使ってもいいかもしれないって言うんだ。

 でも、そんなこと言われても武器のことは俺には全然わからないしな。っていうか、今更だけど俺っていつの間にかこの弓使いこなしてたんだな。重すぎて持ってられなくて子ども用から始めたのに今じゃ軽々扱えてる。

「もっとちゃんとしたのって更に重いとかあるの?」
「いや、大体そんなもんだな。素材が変わってもその辺は同じくらいだと記憶してる」
「それならちょっと安心だよ……」
「まあ、注文つけて自分用のを作ってるってヤツは特殊なの持ってるのもいるだろうが……俺の剣も街の職人に頼んだやつだしな。ただ弓は、俺はあまり知らないな」
「そういえばあまり使ってる人いないんだもんね」

 もっとちゃんとしたのって自警団詰め所なんかにあったようなやつかな。なんかつやつやしてキレイな弓があったんだよな。村の中だとやっぱあのオヤジさんに頼む感じ? 俺としては使い慣れたこの弓も好きなんだけどね。

「練習用は練習用だからな。耐久性とかが変わってくる」
「そっかぁ。確かに途中で壊れちゃったりしたら困るもんね……」
「弓は村長がいくつか持ってたから相談してみよう」
「えっ!? それはちょっと」
「なんでだ?」

 だって、村長の私物なんて考えなくても高価そうなんだもん。そんなのを俺みたいな初心者が借りられるわけないじゃん。
 そんなことをしどろもどろになりながら説明したけど、やっぱりルイは首を捻っていた。

「村長は今はもうアックスと剣と槍以外ほとんど手を出さないし、どうせ持ち腐れなんだから使えばいいじゃないか。俺もガキのころ使わせてもらったぞ」
「ええっ!?」

 村長の『イイものであろう弓』を子どものルイが使ったのかよ……才能って時に非情だよな……。
 いや、子どもって言っても今の俺と同じくらいデカい子どもだったかもしれない、か? あ、でもヴァンがルイは子どものころ小さかったって……うう。

 防壁の門のところに着くと、脇の詰め所をノックしてから入った。
 今はみんなが警戒中なのか詰め所には1人だけ。ドマノンさんは今日当番ではあるけど、ちょっとすぐには会えないらしい。見晴らし台で練習してたら戻ってくるかな、なんてルイと話してたら呼子を鳴らすって言われて、呼子? って思って自警団の人を見た。

「ここで、このロープを引っ張ると、防壁の間にある各詰め所で音が鳴る。ドマノンがいるのは3番だからこれだ。まあ呼び出し用ってだけでな……本当は内容まで伝達できればいいんだが」
「あー、電話とかないですもんねぇ」
「デンワとは……」
「イクミの世界の便利な魔導具みたいなもんだ。遠くにいる人と話せるらしい」
「そんな便利なものが……」

 電話の仕組みとかは俺にはわからないから聞かないでよねってちょっとヒヤヒヤしてたけど、さすがにそこまでは聞かれなかった。ていうか、通訳の魔導具とか作れるなら電話みたいなのなんてできると思うんだけど、それはまた別問題なのかねぇ……魔法技術よくわからん。

「よし。待ってる間練習しよー。ルイ、行こ行こ」
「ああ」
「お前らが見晴らし台にいる間は、今いるやつこっちに下ろしてくれ。やること溜まってんだ」
「言っておきまーす」

 俺は自警団ではないけど、俺の練習中はすっかり団員扱いになってるの笑っちゃう。まあ、それもちょいちょい自警団の手伝いをしているルイがいるからだよね。

 防壁の上に出て、更に上の見晴らし台にひょこっと顔を出せば団員さんが「おっ」という顔をした。

「練習させてもらいに来ました。下で詰め所に来てほしいって言ってましたよ」
「そっか、わりぃな。春でバタバタしてんだ。ルイ、お前も頼んだぞ」
「ああ」
「っていうか、俺のほうがオマケですよね……」
「なーに言ってんだ。お前ら2人でセットだろ。じゃ、任せたぞ」

 セット……。い、いつも一緒にいるからってことだよね。俺はまだ1人じゃ魔力察知できないし、視力もみんなに敵わないし、そ、そういう意味で。
 俺の頭の中は大忙しだし、ちょっと顔が熱いけど……大丈夫、平常心平常心……。

「ルイ、春って自警団の人、忙しいの?」
「冬眠から目覚める動物もいるし、雪解けで魔物の動きも広範囲になりやすい。あとこないだ言った雪崩とか落氷とか」
「言われてみたらそうか」
「村の中で手が回らないときはそっちのこともやるしな」

 自給自足の大変なとこだね。でもみんな嫌がってないし、この村が大好きなんだろうなってのがわかる。俺もこの村が好きだ。

 確かに前より動物を見る気がするなって思うし。だからこそ、そこまで食べるところのない動物なんかは狙わなくなった。狙わないのとはちょっと違うか……前の演習のときに言われたみたいな、鼻先に矢を放って逃げさせるってのはやってる。いかにスレスレにできるかもコントロールになるからね。

 評価はルイがしてくれるんだけど、俺としてはいいとこいったんじゃって思っても前後の距離が全然違うこともあって、視力……ぇ……ってなるときがあるんだよ。いや、前から思ってたけど、ちょっとレベルが違うっていうか。

「よぉ」

 練習に夢中になっていたら下からドマノンさんが顔を出した。

「あ、なんか呼び出しちゃってすいません。別に日を改めるんでもいいって言ったのに呼子? 鳴らされちゃって」
「気にしなくていいって。で、どうした?」
「料理教室を10日後くらいでやりたいんだけど、一番忙しいのはドマノンさんだろうから合わせようってなって」

 ルイに見張りをしてもらいつつ、俺はドマノンさんと予定を合わせて一応3日くらい候補日を決めた。あとはサディさんに伝えて決定してもらう感じかな。

 ドマノンさんが本当に楽しみにしてくれてるみたいなの、見ててニヤニヤしちゃう。

「その日はね、ドマノンさん向けの料理の基礎をやるのと、俺の世界の作物だけを使ったデモをやるつもりです」
「基礎! それは助かるな。なんかやってみたくても訳わかんなくてよ……。あと、デモってのは?」
「実はね、俺がこの世界に迷い込んじゃったときに持ってた作物があったんだけど、それをサディさんが増やしてて。まだ量が少ないからみんなに行き渡らないんだけど、こんな味でこんな風に使えるよってのを実演してみせる、みたいな」
「くっそ面白そうじゃねぇか」

 そう言ってもらえたら俺もやりがいがあるよね。パスタ以外を使ったペペロンチーノなんて俺も作るの初めてだけど、まあ、ジャガイモだし合わないことはないだろ。火を加える加減を間違えたら崩れてボソボソにはなりそうだけど、味は間違いないと思ってる。
 ドマノンさんを料理沼に引き込むためにがんばろっと。
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