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異世界生活編

123.春になってきてるのに難しすぎる浄化

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 最近すごいんだよ。村の外の雪が減ってきてるの目に見えてわかるんだ。木から雫がポタポタしてて、虹色の霧があって、空気が柔らかくってね。もちろん急に寒くなる日もまだあるけど、これはもう春だよね。
 つまり、演習行ってから結構日数が経っているってこと。

 でも、まだ2回目の演習は行かないし、チャレンジを重ねている俺の浄化魔法は……まだできてない。ヴァンが難易度上がるよって言ってたからわかってたけどヘコむよねぇ。
 いやいや、でも水を初めて出したときだってものすごく時間かかったんだししょうがないよな。

「最近どんなもん?」
「変わりないっていうのかな、つまり……できてない」
「弓の方はグングン当たるようになってるのにねぇ」
「そっちは俺にもわかりやすいもん……魔法はわかりにくいもん……」

 理屈はわかってる。でもそれをどう自分の魔力で再現したらいいのかがつかめてない。前に考えた発汗的な出し方は悪くないと思ってるんだけど、水を出すときは一点に魔力を集中させてたわけで……そうじゃない方法がわからない。

 でも失敗してても手から水を出すみたいに、こぼしちゃうわけじゃないから魔力は減ってないっぽいんだよね。まあ、つまり、いい線どころか「完全に失敗してる」っていうわけだけど。

「魔力がこっちの人並みにあればイクミなら力技でいけるだろうにね……がんばれ」
「どういうこと?」
「ん? 先に身体の表面を厚めに魔力で覆っちゃってそれを変換するほうが子どもたちはわかりやすいんだよ。でもイクミだと……ギリギリかなぁ。ちょっと難しいかもね」

 そんな裏技が……ずるい。厚めに覆うってどんだけ魔力があればできるんだ?

「でも少ない魔力で運用できたほうが魔力操作の腕があがるし、絶対にいいと思うよ。あとイクミの発想力に期待してるから」

 うぐぐと唸ってしまった。
 ちょっと方向転換というか、前みたいに気楽に遊びでいろいろやってみるか……。ガチャカプセルみたいに変な発想からうまくいくかもしれないもんな。ヴァンも俺の発想力に期待って言ってるし。

 ──ズズズズッ

 ヴァンと話していたら変な地響きを感じた。

「え、何? 魔力噴出?」
「なんだと思――」
「雪崩だな」

 ルイがもったいぶろうとしたヴァンを遮って答えてくれた。ヴァンが口を尖らせてルイにまとわりついてる……こういうときはお兄ちゃんには思えない……。

「雪崩かぁ……暖かくなってきたからだね」
「そうだな。あと、凍ってた滝が流れ出して氷が割れ落ちると同じように響いたりすることもある」
「え……すごいね」

 あの上から見たときに下が霧みたいになっちゃってた滝も? 上の方は一応水がちゃんと流れてたもんな。なんか壮大すぎて想像つかないや。
 こういうのが繰り返されて道が凍ることがほとんどなくなったら、やっと上に行ってた人たちが帰ってきて、それで村としては本格的に春なんだって。

「ガルフさんやサグさんたち元気かなぁ」
「大丈夫だよ。暑苦しいに決まってるよ」
「あ、はは……」

 俺の2回目の演習は雪崩がかなり落ち着いてから。なんだかんだ言って、ここは渓谷の谷間だから予期しない雪が上からどかっと落ちてくることがあるんだって。こっわ!

 日本だって2階の屋根から落ちてきた雪で潰されて死んじゃう人いるってのに、どんだけ高いところから落ちてくるんだよ……。待てよ? 高すぎて落ちてくる間に分裂したりとか……ないな、どかっとって言ってたわ。

「魔物より怖かったり」
「そうとも言えるな。雪崩には殺意がないから気づかない」
「ひぇ……」

 俺が例の『叫び』みたいな顔をしたら、ルイがククッと笑った。
 ねぇ……最近ルイの感情表現豊かになってない? 演習のときも思ったけどさ。いや、俺は大歓迎だけど! もっと見たいけど!

「まあ、春は意外と危険だってことだ」
「俺……冬が一番危険かと思ってたよ」

 演習から戻ってきてすぐくらいのとき、結界があるから村の中なら雪はまず降らないって聞いてたのに雪降ったんだよ。で、もちろん雪に慣れてない普通の村民はワタワタしてたわけなんだけど。そこはほら、ヴァンたち魔導士さんたちの出番。必要なところは溶かして周ってたよね。除雪車より高性能だった!
 やっぱ春前に急に冷え込んだときとかのほうが雪って降る気がするよな。

 そして不思議な渓谷の霧。この霧、普通の霧と不思議な力が働いている霧のブレンドだな、きっと。普通、寒すぎたらこうならないはずなんだよ。温度差や湿度とかいろんなものが影響し合って霧が出たり消えたりするはずだから。

 最初は『ほぇーすごいー』で終わってたものが少しずつ冷静に見られるようになってきてるのは、いい人たちに囲まれて安全に日々を過ごさせてもらってるからだよな。

 いやいや、まあそれは置いといて……。
 あの演習のときに使ったブーツは村の中の人みんなが使えるようなものじゃなかったんだよ。そこそこ貴重品の部類らしくてさ。そんなのを俺のためにこさえてくれちゃって、なにやってんのって今更思うよね。もし俺が使わなくなったら――つまり帰るときは――靴底のあの素材は職人さんが分解して保管しておくからいいんだとか言われたけど。そういう問題じゃなくない?

「イクミの希望が早く叶うといいとは俺も思っているが、どのくらいかかるかわからないんだから、一年を通した装備の準備は必要だろ? 高山に行くとかそういうのもあるかもしれないし俺にも予測がつかないんだ」
「それは……そう、だ、よね……」

 相変わらず俺より何歩も先を考えてるんだな。俺のためにいっぱい考えて準備を進めてくれてるルイなのに、俺の希望が早く叶うといいって言われて少しヘコむ自分が嫌だ。

 帰りたいって言ってるのは俺で……ルイはそんな俺に協力してくれてるだけなのに。でもだからって、俺はルイが好きだからここに残るって言えないんだよな……。俺って嫌なやつだ。
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