霧の向こう ~ 水の低きに就くが如し ~

隅枝 輝羽

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異世界生活編

120.ステップアップ、できるのか?

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 村に戻ってきてからの鍛錬もずっと頑張っている。

 あと魔法ね。魔力がいきなり増えたりするわけじゃないからできることなんて限られてるんだけど、ヴァンからの許可が出たらすぐやることにしてるんだ。魔力の回復のためによく食べてよく休むのも頑張ってる。ほんのりだけど水の量が増えてる気がするのが嬉しいんだよね。

 水以外の魔法はやっぱりあまりやってない。やっぱりなんか水魔法よりやりにくいし、俺は早くルイに頼らないでも浄化を使えるようになりたいんだもん。

 夏なら汲んである水とかそれこそ川の水でも身体をキレイにできるけど、この時期は本気で無理だからね。お湯を沸かしてもそれに浸かるような設備はないからさ。

「目を開けたままやるのはできた?」
「移動させるとこまではなんとか。でも水に変換しようとするときはどうしても閉じちゃうんだ。難しいよ……」
「いやいや、移動させるのできるならすぐでしょ。ていうか、今四分の一でやってるんだよね。次やるときは半分にして浄化の練習してみよっか」
「本当にっ!?」

 嬉しすぎて大声を上げてしまった。ヴァン的には今の俺の魔力半分でなんとか浄化一回できるかなって予想なんだって。すっごいワクワクする。

 ヴァンからはさすがに浄化についての説明があった。前にルイからなんとなく聞いた、『水の粒子をとても細かくして霧状にして体表の汚れを落とす』ってやつの、もう少し細かい解説っていうかね。

「説明わかりにくいよね? この感覚はこっちの子たちに教えるときもいつも困るんだよ」
「いや。だいたいわかるよ?」
「へ?」
「ん?」

 ヴァンと無言で見つめ合ってしまった……。
 え、なになに? 俺もしかして根本が間違った捉え方してるのかって思って、ヴァンに俺の理解している方法を聞いてみたら大丈夫だった。

「そっか……イクミの世界ではわかりにくいイメージじゃないんだ……なら言わないで自分でやらせればよかった」
「え、意地悪しないでよ」
「オレの基本方針は、なるべく自分で考えさせてやらせる、なの!」

 まあ、そうだろうね。それは知ってたけどさ。
 でもそんなヴァンが細かく説明しちゃうくらい、こっちの人にとっては細かい水粒子を振動させて汚れを取るなんていうのは、難しいイメージなのかもしれない。俺の頭の中は、前と同じで超音波洗浄とかナノバブルでいっぱいだけどな。

「これは水を出すというより、水のコントロールだから難易度はかなり上がるよ。でも、イクミはやるでしょ?」
「当たり前じゃん。初めてやってもらったときからこれが出来たらなって思ってたんだから」
「いい練習になると思うよ。魔力を操らないといけないからね。ヒント言っとくけど、今のイクミの水を出すやり方だと、気を抜いたら魔力半分の量の水をこぼして終わり。またしばらくできないからね」
「うお! そうか……」

 ヴァンは練習の仕方は任せるねって丸投げして帰っていった。くそ、わかるとか言わなきゃ良かった。

 水粒子をとどまらせる……とどまらせる、か。ヴァンのヒントからすると、水を出してからそれを使って身体を覆うんじゃないってことだよな。

「ぶあぁー、難しいっ」
「イクミ、ゆっくりでいいんだぞ」
「うん……あ。ルイ、俺に浄化かけてみて!」

 感覚からヒントを得られないかな。今まではただやってもらうだけだったけど、ちょっと意識を集中させてかけられてみたい。

 そしたらルイが俺の頭に手を置いて「やるぞ」と言うと浄化をしてくれた。体表にざわざわとした感覚があって、波打つように頭の方に流れていって……全身がスッキリしている。

「こう、頭に向かっていくのは何かあるのかな……」
「それは、俺が頭に手を置いてるからだな。イクミにというか、自分以外にやるときは引き寄せて一気に放出するほうが俺は楽なんだ。でも自分にやるときはその場で散らしてる、か」
「へ……へぇ」

 そりゃそうか……子育て経験者は他者に浄化をかけることもあるらしいけど、こっちの人は自分の浄化は自分でやるんだろうし。

 なるほど? そしたら、いつも水を出す時は手に一点集中させてたけど、そうじゃなくて全身から出すようなイメージがいいってことなのかな。皮膚呼吸的な……いや、汗が吹き出るみたいな感じっていうか。

 ――うん、汗が出る感じはいいかもしれないな。あれは気化熱で体温を下げる役割だけど、全身をしっとりさせるっていう意味では浄化で体表を魔力の水で覆うのと同じ感じもする。それをもっと小さな水分子で考えればいいんだろ? その水分子を細かく震わせて汚れを剥いでいく……いや、勝手に取れるのかな、どうだろ。いや、待てよ……水分子を震わせるってマイクロウェーブじゃん。電子レンジみたいになっちゃう? え、熱くなる? 訳わかんなくなってきた……。

「イクミ?」
「あ、ごめん。自分の世界に入っちゃってた。何か話しかけてた?」
「いや。いきなり動かなくなったから声をかけた。すまない」

 俺が変な想像を繰り広げていたのをずっと見られてたのか。恥ずかしい。

「ヴァンは魔力半分って言ってたが……」
「ん?」
「少ない量で手だけとか、顔だけとかで練習するってのはどうだ?」
「できるの?」
「やったことはないんだが……」

 そっか。あくまでも全身の浄化に必要そうな魔力が俺の半分ってことと考えれば、場所を限定したら少ない量でもいけるかもしれないのか。でもヴァンもそんなこと言ってなかったけど。

「できるなら、それなら回数試せるし助かるね。できるならだけど」
「保証はしない。こっちの誰もそんなこと考えたことないからな。俺も、イクミを見てなかったら思いもしなかった」
「俺のためにいっぱい考えてくれてありがとうね、ルイ」

 照れくさいのか俺の頭を少し強くわしゃっとする。

 そう言えば、俺の髪かなり伸びたな……前は中途半端な長さすぎて布を手ぬぐいみたいにして巻いてたけど、今は上半分を結ぶことも増えた。毛先はパーマとカラーした部分が傷んでパサパサの茶色だけど、地毛の黒がかなり増えた感じする。これはそろそろ切ってもらってもいいのかもしれない……。
 
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