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異世界生活編
118.2回目の見張り番は。
しおりを挟む「イクミと俺でもいいんじゃないか?」
「ルイ、安全のために一緒に決めた班分けを覆そうとするのはやめようよ」
「でも村の近くだし」
「ルイ」
ヴァンが腰に手を当ててルイに説教して……る? どうしたんだろ。
俺がドマノンさんに食材の切り方なんかを教えてたら、少し離れたところで2人がなんやかんやしてたんだよね。声は小さくてあまりよく聞き取れないけど、大丈夫かな?
「あ、気にしないでねぇ」
ヴァンがひらひら手を振っている。
俺とドマノンさんは2人で首を捻ると続きに戻った。ドマノンさんは、今までまったく興味のなかった料理に急に関心がでちゃったらしくて、質問が止まらない。
でもさ、村でも男の人にそういうの聞かれたことがなかった俺は、めっちゃ嬉しくていろいろ教えたくなっちゃう。
「ドマノンさん、俺がやってる料理教室参加できるか、サディさんに聞いてみてあげるよ。奥様が多いけど男の人も覚えるべきだと思うしさ」
「本当か! ありがてぇ」
「でもみんな基礎のできてる人ばかりだから……初心者向けではないかもなんだけど。なるべく解説は入れるからさ」
「いい、いい。それはあとから誰かに聞けばいいだろ? もっと見てみてぇんだ」
これで自警団の料理係ができそうだなって笑ってしまった。豪快なのもいいけど男の料理仲間嬉しい。
そろそろ見張りと休憩に別れる時間かなと思って、かまどの薪を均していく。炭火としては絶やさないようにしつつ、明々と火が燃えないようにね。
「今日は俺、休むの先だよね」
「そうだ」
「じゃあ、横になりまーす! 起こしてね」
うん、今日は寝られそうな気がする。みんなみたいには寝付き早くないだろうけど、昨日みたいにドキドキピリピリしちゃってって感じではないからな。
防具は緩めるだけで外さないから多少ゴワゴワするけど、これもきっと慣れだよな。敷いてる毛皮はふわふわだから痛くないし……。
……
…………
………………
「イクミ、起きろ。交代だ」
「……ふあ、ルイ、おはよー」
「まだ夜だが」
「あ、そっかぁ」
前半で何か出たか聞いたら動物は何度か見たとのこと。でも追い払うだけにしたって。俺たちの番では倒すんでも追い払うんでもいいって言われた。
「追い払うにしても矢を使ってできるだろ? 当てないけど、鼻先をかすめてやるとか」
「なるほど!」
それはいいことを聞いた。食材はかなりあるし仕留めるのもなって思ってたんだ。でも本番さながらに練習したいのにってジレンマだったから今のアドバイスはかなり助かる。むしろ、なぜ俺はそれを思いつかなかったって感じだよね。
「よし! 俺とヴァンでちゃんと見張るからルイはたっぷり寝てね」
俺がそう言えば、俺の頭をポンポンして「任せた」って言ってくれた。やる気出た! ルイの睡眠は邪魔させない!
かまどの前にはしゃがみこんだヴァンがいる。
「ヴァン、もう起きてたんだね」
「今日はさすがにルイとドマノンが近づいてきただけで目が覚めたからね」
「じゃあ昨日は本当にうっかりさんだったんだ」
「そう……ホントごめんね」
「え! いいよ、大丈夫!」
たぶん俺が寝付いてからも、しばらく猫の姿でいてくれようとずっと起きてたんじゃないのかな。気を抜いたら人型になるって朝言ってたもんな……。
「ルイとね、ヴァンのこと『お兄ちゃん』なんだねって話してたんだ」
ヴァンに感謝を伝えれば、すごく優しい目で見てくれる。
異世界にできた俺の大事な『お兄ちゃん』。お茶目でイタズラ好きでスパルタで自信家で……でも周りをよく見ててそっと寄り添ってくれる優しいヴァンが大好きだよ。ルイとは違う意味でね。
ヴァンは少し照れたみたいな顔してたけど、いつもの調子で「もっと褒めてくれていい」って言ってた。まったくもう。
この夜は静かだった。動物はほんっとうに小動物しか出なくて、追い払う矢を射るのもなんか違うだろって感じ。あと、夜行性の鳥なんかもいたけどさすがにね……。
ってことで、ヴァンとヒソヒソ話しながら夜明けを待つばかりの見張り番だったんだ。
話した内容は、魔法のこととルイの子どもの頃のこと。ルイはあまり子どもの頃のことを話されるの好きじゃなさそうだから聞くのどうかなって思ったけど、ヴァンが「それはカッコつけたいから恥ずかしいだけ」とか言うんだもん。
だから、ルイの過去の傷とかに触れるようなことじゃなくて、日常エピソードだけでねって言って聞かせてもらったんだ。
「意地っ張りだったんだねぇ、ルイ」
「まあ、甘えたいけど怖いとか、負けてたまるかみたいなのがあったんだろうね」
「深いところはそのうち本人から聞いてみたいけど……言いたくなさそ」
「どうだろうねぇ」
空がだんだんと白んできている。でも実はこの時間が一番寒いんだよね。魔導具があるから適度に保たれてるけど、ほんのり気温下がってる感じするもん。
「そろそろ火を大きくしてもいい?」
「いいよー」
小枝と薪を組んで炭を扇ぐ。小枝が燃え始めればあっという間に大きな薪にも火がついて燃え上がる。なんかいいな……雪景色の中で燃える炎はなんか不思議な感じだ。
もう昼には村に戻るんだけど、あっという間だったように感じる。
「イクミ君! 朝食なんだけどさ……」
ドマノンさんが肉とカロイモを前にしながら俺を呼んだ。
「ミュードとカロイモを一口大に切って、鍋で炒めるのどうかな? 昨日の柑橘も入れてさ……美味しくなるか?」
「いいですね! それ絶対美味しい! やろやろ!」
ドマノンさんは昨日残ったソースをカロイモにつけて食べたのが美味しかったんだって。だったら最初から一緒にしたらどうだろうと思ったみたい。そうそう、そういうのでいいんだよ!
「ドマノンさんメインでやってみる? ちゃんと見てて助言しますし」
ああ、だいぶ口調が……だって仲間意識……。
そうしてドマノンさんが作り上げた炒め物は少し焦げたけどとても美味しかった。
俺が「少し変えてみない?」って言って、柑橘は絞らないで皮を剥いて実を使ったんだよね。まあ、ドマノンさんのやった方はちょいちょい潰れたけど、形の残った実と潰れちゃったほうの果汁がいい感じに混ざった。
ルイもヴァンも食べて「なんでドマノンにこんなものが作れるんだ」ってびっくりしてた。言い方はひどいけど!
ドマノンさんは気を良くして柑橘をさらに採ってバッグに入れてたなぁ。家でも作るつもりなのかもしれない。なんか可愛い。
つーか、ミュード肉やばい……。俺的にはムシャーフの次くらいに美味しい。でもあまり見ないらしい。そんな魔物が俺の演習中に来るとかすごいよね。
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