上 下
115 / 202
異世界生活編

115.ぐるぐる……?

しおりを挟む
 3人に俺のやる気スイッチが美味しいものだって完全に思われたらしく、食べられるけどそこまで美味しくない動物はみんながスルーするようになった……。

「なんで」
「いや、食材も今かなりあるしねぇ」
「イクミは無駄に生命は奪いたくないと言っていただろ」
「それはそう……なんだけど」

 でも、俺の狩りの練習だったと思うんだよね。まあ、いいか。狩りだけじゃなくて歩いたり野営したりも練習のうちだもんな。
 ていうか、俺からすると完全に「防壁なにそれ」くらい見えないしこんなに歩いてて大丈夫なのって思うんだけど。

「離れすぎてない? 村長に怒られない?」
「いや、離れてないぞ?」
「え……でも」
「んっとね、本当は似たようなところをぐるぐるしてるんだよ。イクミには不思議だろうけど歪められてるの」

 あ、そういえば前にルイがそんなこと言ってたかも。
 村の人はそれがわかるんだって。不思議すぎる。

「さすがにさっきの魔物が落ちた上の折れた枝とかしっかり覚えてたらアレ? って思うかもよ。大人の背丈くらいまでの認識がかなり変化するんだけど、あれって上の方折れてたでしょ」
「あ、そっか。俺、みんなに着いていくからって下ばっか見てたしなぁ」

 あと村の方の魔力とかも歪んで位置がわからなくなってるっていうんだから謎すぎる。

 あっちで言ったら磁場がおかしいみたいな感じなのかなぁ。コンパスを頼りにしても無駄、みたいな。でも目に入る景色まで歪めるってのはないよな。目の錯覚を利用したみたいなミステリースポットは観光地としてあるのは知ってるけど、それともちょっと違う気がする。

「じゃあ本当に離れてないんだ……」
「そりゃ、イクミ君に何かあったら村長にどやされんだろ」
「オレは他にも怒る人がいると思うよー」
「そうなの? もしかしてサディさん?」

 確かにサディさんは村長もルイも少し怖がってたもんな。俺を息子とか孫みたいに可愛がってくれてるし怪我したら怒ることもあるかもしれない。でも、正直言って、サディさんの薬を飲めばたいていのことはなんとかなるとは思ってるんだけどさ。

「あー……いや、はは……」

 ヴァンが変な笑いしてるけど、もしかしてヴァンもサディさんが怖いのか? 俺は優しいところしか知らないからなぁ。双剣持ったらすごいってことか……ドキドキしちゃうじゃん。

 俺が腕を組んでむむぅと唸っていると、ヴァンが「ま、それも間違っちゃいないか……もね」と言う。ちょっとさ、何なのこの子みたいな呆れた顔すんのなんでなんだよ……。意味わかんない。

 でも村からそこまで離れてないって聞いて安心した。ルイが防壁が豆粒ほどでも見える範囲ならみたいなことを言ってたからすごく近いわけでもないんだろうけどさ。

 きっとこの『見える』も村のみんなにとって『感知できる』ってことなんだろうなぁとやっと理解。
 通訳の魔導具が俺に解るように変換しちゃってるんだよね。このへんが俺の受け取ったイメージのまんまじゃないことがあるってこと。まあ反対に俺の伝えたいことも全部が全部正しく伝わってはいないのかもってことなんだけどさ。

 それでもルイは結構頻繁に俺に質問してくるからなにか違和感はあるんだろうなぁと。それだけ気にかけてくれてるみたいで嬉しいよな。

 そうそう、通訳の魔導具といえば、最近よほど俺を認識しないで話してる人たち以外の会話が解るんだよね。前にルイが目の前でガルフさんと話してるの理解できないときあったのに、そういうのがほとんどないんだ。

「あ、それは村のみんなが意識してるからだよ」
「へ?」
「イクミの姿が視界に入るときは問題ないならなるべく意識してあげてくれって村長が言ったからね。疎外感を持たせたくないってさ」

 村長……。だからってその通りにしてくれてるとかマジでみんないい人すぎんだろ。

「そういうのにちゃんと気がついて感謝できるイクミだからだぞ」
「そそ。村の人みんなイクミのこと好きだからね」
「えっえっ」

 やばい、照れる。俺はたいしたことしてないのに……。

 ひとしきり照れまくってアワアワしたあとはまた雪の中を歩く。同じあたりを歩いてるって聞いたあとは変な気分だ。でも俺からしたら全然同じに見えないんだよな。
 こういうので変な輩が村に来られないようになってるのかぁなんて感心もするけどさ。

 さすがに夜になって門がちゃんと目で見える範囲まで来ちゃえば篝火の灯りなんかがバレバレだそうだけど、そこまで来られたなら見えてもしょうがないって感じらしい。
 俺もあのとき明るいの見えたもんな……って懐かしくなる。アレで気が抜けそうになったんだ。結局村に踏み入れる前に倒れたけど……。

 うあー! なんかこうして村の外を歩くだけで、最初のいろんなことを思い出しちゃう!

「イクミ君が百面相してるな」
「面白いねぇ」
「っ! 見せ物じゃありませんっ!!」

 俺らより少し先を歩いていたルイが振り返って首を傾げた。

 ああ、好き! ……って違う。
 でもでもでも! 今の顔めっちゃ良かった……。なにあれ、カッコイイと可愛いのいいとこ取りしてた。

 ふわぁ……ってなってたら俺の真横にスススっと寄ってきたヴァンが耳元で囁く。

 ──そんなバレバレの顔してたらだめなんじゃない?

「っ!」

 ビックリしてヴァンを見ると、普通の顔して前を見ていた。わかってるよみたいな匂わせる言葉は何回も言われてたしからかわれてたけど、こんなに直接的なことを言われたのは初めてだと思う。

 ──隠しとおすならちゃんと気をつけなよ。
「だって……」

 ううん、ヴァンの言うとおりだ。

「まあ、オレはどっちでも楽しいからいいけどねぇ。それにアイツはこういうのには鈍いし。他にも鈍いのばっかだけど」
「楽しいって……」
「さっきから鈍感だのなんだのってまた自分の話か?」

 斜め後ろからドマノンさんが話に割り込んできた。別に怒ってるふうでもなくて、納得がいかないみたいな顔してる。俺としても今まで隠してたつもりだからドマノンさんが鈍いとか思わないけどな。

「オレは誰とか言ってないしぃ」
「大体、ヴァンを基準にして鈍いとか言わないでくれよ。お前が察し良すぎるだけなんだからさー」

 確かにドマノンさんの言葉は一理ある。ヴァンがすぐ気づくだけだよね。サディさんも言ってたし。

 でもルイのことで抱えきれなくなって困ったらヴァンに話を聞いてもらってもいいかな……。本当は誰にも言わないほうがいいのわかってるんだけど、どうしてものときだけ避難所にさせてね、ヴァン。
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

処理中です...