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異世界生活編
112.見張り
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見張りって言っても魔物や危険な野生動物、あとはやばい人間をいち早く察知して休んでる人を起こすってのが仕事で何かをしていなきゃいけないってわけじゃない。いや、まあ、それが一番大変なんだろうけどさ。
しかも俺は魔力察知ができないからペアのヴァンには申し訳ないよね……。
「そんなのわかってるから大丈夫だよ。だから近接も魔法もいけるオレがペアになってるんだからさ」
「夜に何か来るかな?」
「デカい魔物は来ないんじゃないかなぁ。デカいのは魔力が大きいから結構わかるんだけど、そういう魔力は感じない」
ルイとドマノンさんが休んでいるから小さな声でヒソヒソと喋る。思えばヴァンとだけでじっくり話すのって初めてかもしれない。いつも大体ルイがいるし、鍛錬のときは鍛錬の話がメインだし。
「じゃあそこまで緊張してなくてもいい?」
「弱い魔物とか夜行性の動物は来るかもしれないけど、そのときも近づいてくれば弱い魔力は感じるからね」
「そっか。そのときは教えてね。俺、射るから」
「いい心構え」
ヴァンが『お兄さん』みたいな顔で俺を見てくる。なんだ、こういう顔もできるんだな。いつも俺をおちょくるからこんな顔見たことなかった。でもその顔を見て、本当に心配されてるのがわかっちゃった。
「ヴァン……ありがと……」
「ん。えっとさ……イクミは、本当に帰るの?」
「え」
「なんでもない。あ、大きくないけどあっちに動く魔力感じる」
動く魔力と聞いて俺はさっと弓を構えた。まだ弦は引かないけど右手に矢ももう持ってる。弱い魔力ってことはまた動物かな……。さすがに俺の夜目は昼よりももっと利かないからドキドキしながら立ってそっちを見ていた。
「イクミ! 構えて。サポートする」
「っ! うん!」
少しだけピリッとした雰囲気になった。ドキドキしていると急に先の方に現れた動物。アレは!
素早く構えて1射。続けて4本の矢を放って、突き刺さったのは2本。クソッて思ったところでヴァンが風の刃? で走り回るそいつの首をはねてくれてホッとする。そのときには俺の背後にルイとドマノンさんが立っててびっくりした。
これは前に俺が仕留めたことのあるイノシシみたいな動物。前のより小型。それでも俺からしたら大きいし、すごいスピードで走ってくるしでめっちゃドキドキした。
「おー、あれか。肉ゲットだなー。じゃあ、寝る」
「よくやったな、イクミ」
ルイは俺の頭をポンポンしてドマノンさんとまた毛皮の上に戻っていった。切り替えはやっ!
ヴァンは俺を手招きして、一緒に捌こうと言った。確かに前にルイに捌き方を習ったのはコイツのでかいやつだったから復習にはいいかもな。
俺の水魔法は数口分しかでないから、俺がこうだっけ? って言うのに合わせてヴァンが答え合わせしながら作業してくれる感じ。雪のなかを更に掘って深いところい内臓は埋める。小型と言えど、結構いい量の肉が確保できた。
「気温も低いし肉は晒しておこうかー」
「変なの呼び寄せない?」
「大丈夫でしょ。それにしてもさっきの動きは良かったよ。冷静にアイツの進行方向見極めてたね」
「でも外して2本しか刺さらなかったし急所には当たらなかった」
「今はまだいいんだって。結果的に倒せたんだからさ。なんのためにオレらがいるんだよ」
矢は別に変な方に飛んでいったわけじゃなくて角度の問題っていうのかな、弾かれたんだよね。ヴァンはこういうのは慣れだからって慰めてくれた。
「コイツって冬眠しないんだね」
「しないよ。冬場に木の皮を結構食べちゃうヤツ。春になると新芽とかも食べるから嫌がられる」
「じゃあある意味害獣?」
「まあ、そんな感じー」
意外と長生きでどんどんデカくなるんだって。そうすると弱い魔物よりは強くなっちゃうこともあるらしい。いやいや、魔物より強い動物とか怖いからやめて。
それにしてもあの2人は戻ったら速攻寝てたな。俺が射ってるときには起きて見守っててくれてたのがすごいし、いきなり背後にいてびっくりしたけど。
「まあ、変な魔力の流れですぐ目が覚めるようになってるからね。あとはやっぱ体力のためにすぐ寝られるってのは大事」
「理屈はわかる……んだけどさ」
「長年のクセみたいなもんだよ。イクミができなくても誰も責めない」
やっぱこっちの人の常識は俺の常識じゃないんだなーって改めて思う。あ、でもあっちでも戦場にいる人とかは違うのかな……命の危機とか俺わかんないもん。
だいたい、旅だって自動車とか電車とか飛行機があるから徒歩とか未知なんだよな。それを考えたら昔の人ってすげぇな。日本全国徒歩で廻った伊能忠敬とかさ、ただ歩くだけじゃなくて地図まで作っちゃってるし。
「俺、また不安になってきたー」
「なんでさ。ちゃんとやれてるよ?」
「歩いて遠くに行ったことないんだもん。しかもこっちは魔物も出るし」
「イクミは自分の村から出たことなかったの?」
「あー、そうじゃないんだけど。乗り物が発達しててさ……お金払えば誰でも乗れるからね」
乗り物に興味を持ったヴァンは目を輝かせていた。ムル村にはそういうの一切ないけど、町レベルのところに行くと馬車みたいなのがあるとか、大陸の下の方に行くとワイバーンに乗って海を越えた大陸に行けるらしいとかそういう話を楽しそうにしていた。いやいや、ワイバーンに乗るってなんだよ……。
あ、海は超巨大魔物がいて船が出せないからか。納得はするけど、なんでそうなったって思っちゃう。
それから見張りの交代までは特に何かが出てくることもなくて、ヴァンとヒソヒソと俺の世界の話とかをずっとしていた。
ヴァンはルイとはまた違った反応してくるのが面白い。好奇心旺盛でなんでも細かく知りたがるところはサディさんに近いかもな。
しかも俺は魔力察知ができないからペアのヴァンには申し訳ないよね……。
「そんなのわかってるから大丈夫だよ。だから近接も魔法もいけるオレがペアになってるんだからさ」
「夜に何か来るかな?」
「デカい魔物は来ないんじゃないかなぁ。デカいのは魔力が大きいから結構わかるんだけど、そういう魔力は感じない」
ルイとドマノンさんが休んでいるから小さな声でヒソヒソと喋る。思えばヴァンとだけでじっくり話すのって初めてかもしれない。いつも大体ルイがいるし、鍛錬のときは鍛錬の話がメインだし。
「じゃあそこまで緊張してなくてもいい?」
「弱い魔物とか夜行性の動物は来るかもしれないけど、そのときも近づいてくれば弱い魔力は感じるからね」
「そっか。そのときは教えてね。俺、射るから」
「いい心構え」
ヴァンが『お兄さん』みたいな顔で俺を見てくる。なんだ、こういう顔もできるんだな。いつも俺をおちょくるからこんな顔見たことなかった。でもその顔を見て、本当に心配されてるのがわかっちゃった。
「ヴァン……ありがと……」
「ん。えっとさ……イクミは、本当に帰るの?」
「え」
「なんでもない。あ、大きくないけどあっちに動く魔力感じる」
動く魔力と聞いて俺はさっと弓を構えた。まだ弦は引かないけど右手に矢ももう持ってる。弱い魔力ってことはまた動物かな……。さすがに俺の夜目は昼よりももっと利かないからドキドキしながら立ってそっちを見ていた。
「イクミ! 構えて。サポートする」
「っ! うん!」
少しだけピリッとした雰囲気になった。ドキドキしていると急に先の方に現れた動物。アレは!
素早く構えて1射。続けて4本の矢を放って、突き刺さったのは2本。クソッて思ったところでヴァンが風の刃? で走り回るそいつの首をはねてくれてホッとする。そのときには俺の背後にルイとドマノンさんが立っててびっくりした。
これは前に俺が仕留めたことのあるイノシシみたいな動物。前のより小型。それでも俺からしたら大きいし、すごいスピードで走ってくるしでめっちゃドキドキした。
「おー、あれか。肉ゲットだなー。じゃあ、寝る」
「よくやったな、イクミ」
ルイは俺の頭をポンポンしてドマノンさんとまた毛皮の上に戻っていった。切り替えはやっ!
ヴァンは俺を手招きして、一緒に捌こうと言った。確かに前にルイに捌き方を習ったのはコイツのでかいやつだったから復習にはいいかもな。
俺の水魔法は数口分しかでないから、俺がこうだっけ? って言うのに合わせてヴァンが答え合わせしながら作業してくれる感じ。雪のなかを更に掘って深いところい内臓は埋める。小型と言えど、結構いい量の肉が確保できた。
「気温も低いし肉は晒しておこうかー」
「変なの呼び寄せない?」
「大丈夫でしょ。それにしてもさっきの動きは良かったよ。冷静にアイツの進行方向見極めてたね」
「でも外して2本しか刺さらなかったし急所には当たらなかった」
「今はまだいいんだって。結果的に倒せたんだからさ。なんのためにオレらがいるんだよ」
矢は別に変な方に飛んでいったわけじゃなくて角度の問題っていうのかな、弾かれたんだよね。ヴァンはこういうのは慣れだからって慰めてくれた。
「コイツって冬眠しないんだね」
「しないよ。冬場に木の皮を結構食べちゃうヤツ。春になると新芽とかも食べるから嫌がられる」
「じゃあある意味害獣?」
「まあ、そんな感じー」
意外と長生きでどんどんデカくなるんだって。そうすると弱い魔物よりは強くなっちゃうこともあるらしい。いやいや、魔物より強い動物とか怖いからやめて。
それにしてもあの2人は戻ったら速攻寝てたな。俺が射ってるときには起きて見守っててくれてたのがすごいし、いきなり背後にいてびっくりしたけど。
「まあ、変な魔力の流れですぐ目が覚めるようになってるからね。あとはやっぱ体力のためにすぐ寝られるってのは大事」
「理屈はわかる……んだけどさ」
「長年のクセみたいなもんだよ。イクミができなくても誰も責めない」
やっぱこっちの人の常識は俺の常識じゃないんだなーって改めて思う。あ、でもあっちでも戦場にいる人とかは違うのかな……命の危機とか俺わかんないもん。
だいたい、旅だって自動車とか電車とか飛行機があるから徒歩とか未知なんだよな。それを考えたら昔の人ってすげぇな。日本全国徒歩で廻った伊能忠敬とかさ、ただ歩くだけじゃなくて地図まで作っちゃってるし。
「俺、また不安になってきたー」
「なんでさ。ちゃんとやれてるよ?」
「歩いて遠くに行ったことないんだもん。しかもこっちは魔物も出るし」
「イクミは自分の村から出たことなかったの?」
「あー、そうじゃないんだけど。乗り物が発達しててさ……お金払えば誰でも乗れるからね」
乗り物に興味を持ったヴァンは目を輝かせていた。ムル村にはそういうの一切ないけど、町レベルのところに行くと馬車みたいなのがあるとか、大陸の下の方に行くとワイバーンに乗って海を越えた大陸に行けるらしいとかそういう話を楽しそうにしていた。いやいや、ワイバーンに乗るってなんだよ……。
あ、海は超巨大魔物がいて船が出せないからか。納得はするけど、なんでそうなったって思っちゃう。
それから見張りの交代までは特に何かが出てくることもなくて、ヴァンとヒソヒソと俺の世界の話とかをずっとしていた。
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