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異世界生活編

111.野営料理

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 俺はまずルイが捌いて肉にしてくれていたものを金串に刺して、薬草パウダーと塩をすり込んでいく。下味兼臭み取りね。これをするのとしないのじゃ野生動物を美味しく食べられるかに差が出てくるはずだ。

 それを少し置いている間にシャロをざく切りに。加熱したら溶けちゃうからそのままでも良さそうだけど、なんとなく? そしてカロイモをそのまま鍋の中でコロコロと焼いていく。少し肉の脂身を入れたからいい感じにきつね色になってる部分もある。

「カロイモ、生なのに周りだけ焼いてどうするんだ?」

 俺の料理に興味津々なのはドマノンさんだけ。ルイとヴァンは俺が作るものは間違いないと思ってるのか見もしない。最初の頃はルイは俺が料理するところよく見てたのになぁ……信頼されてるのは嬉しいけどね。

「んと、こうやって周りを揚げ焼き風にしておけば煮崩れないかなってね」
「ほー。ってことはこれを煮るのか。焼いてから煮るのか……ほー」

 鍋をかまどから下ろすと、次は串に刺した下味をつけた肉を炙っていく。これも臭み取りと余分な脂を落とすため。滴った脂が火に落ちてパチパチはねる。それがいい感じに煙になって燻製っぽい独特の匂いを漂わせていた。

「自分はその肉……そのままでもいつもより美味うまそうに見えるけど」
「でも温まる食事にしたいじゃないですか」

 表面がカリッとした肉を串から外しながらカロイモの入った鍋に入れて、お水を加えてもらうとまたかまどに乗せた。火が強めだったから少し炭を崩して弱めにする。消えちゃってもすぐ火をつけてくれる人たちが3人もいるから気にしないでやれるのがキャンプと違っていいよな。

 シャロも加えて少し味見をして塩と薬草パウダーをもう少しだけ加えた。煮詰まることを考えて少し薄味にね。コトコトと火を入れているうちにまたみんなと話す。

「イクミ君はああいうのいつも作ってるわけ?」
「え、いや、あれは初めてかな」
「はい?」
「こう、なんていうか、どう工夫したら美味しいかなーって考えてるっていうか。きっとこうしたらこんな感じに仕上がってこんな味になるだろうなーって」
「大丈夫だ。毎日食べてる俺が保証する。何作ってもばか美味うまい」

 おお、ルイが珍しく力説してる! ヴァンも「いいよねー。ずるい」って言いながら頷いててちょっと照れるな。
 鍋はあまりかき混ぜると崩れちゃうだろうからと時々様子を見るくらい。でもいい感じにシャロが溶けてスープも黄金色になってきている。肉の旨味が溶け出してきたのかな。予想ではあと少しって感じ。

「それにしても野営でこんなスープとか初めてだよ。イクミがいなかったら絶対ないよね、あはは」
「スープとか自分もびっくりだ」
「俺は出会ったときから野営でイクミにすごい飯作ってもらってるから……」
「ねえ、ルイはそうやってちょいちょい自慢挟まないでくれる?」

 あは……ヴァンとドマノンさんの呆れ顔が。いや、でもさ、今俺が作ってるスープだってそんな難しいものじゃないじゃん。大勢いるなら作ればいいのに……ってポツリと呟くと3人揃って「面倒」って言った。ルイだってイモの粉と干し肉ばかりだと飽きるって言ってたのに作らないとか意味わかんない。

 鍋を見ていた俺は少しだけすくって味見をしてから肉とカロイモも半分にしてみる。ちゃんと中まで火が通ってさすがに短時間だから肉はホロホロではないけどカチカチ過ぎでもないくらい。いいんじゃないかな。
 みんなの器によそって渡すと、ぱっと顔が明るくなった。

「こういう時ってお祈りは誰がしてるの?」
「野営のときはあまりしてないなぁ」
「あ、そうなんだ」
「各自簡易的にって感じ」

 なるほどねと食べ始めると、俺以外の3人の食べるスピードがヤバかった。熱くないわけ?

「これは……やばい。何がっていうか、やばい」
「温まるねぇ。カロイモに味が染みてる」
「いつも通り美味い」

 まあ、俺としても自画自賛レベルだな。ウサギとか鳥とかいろんな肉が混じってたからどうだろうと思ってたけど、むしろそれがいい感じに複雑な味になってくれたというか。たぶんそれをまとめてくれたのが薬草パウダー。ジベラ多めの薬草パウダーは臭みを消して身体を心からポカポカにしてくれた。シャロの控えめなとろみも良かったね。

「煮崩れしないってこういうことだったのか……」
「計算通りだよ!」
「というか、この、カロイモの脂で焼かれた部分が美味い。スープを吸って不思議な食感」
「それは想定外」

 面倒って言ってたのはどこへやらドマノンさんの感想が止まらない。でも少しでも料理に興味持ってもらえたらいいなぁ。そんで自警団名物料理とか作って欲しい。日本の海軍カレーみたいな感じで。

「材料は少ないのに、こんな美味いもんが……」
「薬草パウダーはサディさんに聞いてね。ブレンド次第でだいぶ味の印象違うんだ。今回持ってきたのは俺が野生動物を気にして臭み取りメインでブレンドしてもらったやつ」
「お、おぅ……そんなことが。肉は魔物に限ると思ってたけど」

 確かにねぇ……魔物肉美味しいもんな。最初にドン引きした俺どこいったんだってくらいには好きになった。干し肉にしてもあれだけ美味しいんだから参っちゃうよな。
 なんて話してたらあっという間に鍋がからっぽになってた。浄化魔法ですぐキレイにしてくれてマジックバッグに収納される鍋。あー、便利。いいな、浄化魔法……。

 食後は今日の反省会。俺の焦り過ぎ問題とかね。落ち着けばもっと当たったはずってヴァンに言われちゃった。確かになぁ……初めて外に出たのが意外と俺のメンタルに響いたみたい。明日はもう少し落ち着いてやろう。
 他にも小さな指摘とかを受けたけど、やっぱ村の中での練習だけじゃわかんないことってあるんだなって勉強になったよね。あと、やっぱ雪が厄介。

 見張りは前半後半どっちがいいって聞かれて前半にしてもらった。なかなか寝付けなさそうだったのと、それでやっと寝たら今度は起きるの大変そうだったからね。2泊目の明日は見張りの順番が逆になって、それで3日目には村に帰る。

 防壁が見える範囲とか言ってたけど、正直言って俺には防壁が見えない。でも3人には見えてるっぽいよ。視力の差、なのかねぇ……それか、防壁の魔力が見えるとかもありそう。不思議だ。
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